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【報告】オンライン・シンポジウム 国連「家族農業の10年」と持続可能な森林・林業

オンライン・シンポジウム「国連『家族農業の10年』と持続可能な未来」を2021年1月24日に開催し、約100人が参加しました。自伐型林業推進協会と共催。森林・林業の現在と過去を見つめ直すとともに、未来への希望、そのための課題、そして活動の方向性について共有することができました。

オンライン・シンポジウム「国連『家族農業の10年』と持続可能な未来」

【日時】2021年1月24日(日)13:00~15:40

【共催】家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)、自伐型林業推進協会(自伐協)

【映画鑑賞】壊れゆく森から、持続する森へ(制作:アジア太平洋資料センターPARC)

【トークイベント】

司会:上垣喜寛(FFPJ副代表、自伐協事務局長)

パネリスト:佐藤宣子(九州大学大学院教授)、金子勝(立教大学特任教授)、天野圭介(農園ONE-TREE代表)、関根佳恵(愛知学院大学准教授・FFPJ常務理事)、宇田篤弘(紀ノ川農協組合長・FFPJ常務理事)

冒頭にFFPJの村上真平代表が挨拶し、続いて映画「壊れゆく森から、持続する森へ」を鑑賞しました。

村上代表は、経済偏重の社会の中で、小さな家族農林漁業者が軽んじられ数も減少しているのに対し、世界的には国連家族農業の10年やSDGsの下で、地球環境や経済のあり方、貧困問題の解決を進めていこうという流れが常識になっていると指摘。日本でそうした動きがあまりみられないことに危機感を表明しつつ、こうした現状を変革し、地球環境を破壊しない産業、貧富の差をもたらさない経済を模索していくことを呼びかけました。

壊れゆく森から、持続する森へ

「壊れゆく森から、持続する森へ」では、山林「所有者」と「施業者」を分離し、地域を森林・林業から遠ざけ、大規模化・集約化・皆伐が進み、森が失われた結果、土砂崩れなど災害が激化している様子が映し出されました。他方で、持続可能な林業として、自伐型林業を核とした地域づくりの取り組みが紹介されました(映画のDVD、オンライン配信などはPARCのサイトから)。

規模拡大は持続不可能

映画鑑賞の後に行われたトークイベントの中で、経済学者の金子勝氏は、規模拡大政策がコスト競争を引き起こし、短期的利益が追求される一方で、コストに合わない儲からないところでは林業からの撤退が起こり、環境問題も引き起こされているとし、規模拡大・コスト競争林業は持続不可能になっていると強調しました。これに対して、持続可能な林業のための現実的な所得の源泉として、6次産業、ソーラーシェアリング、農業以外の収入など、兼業や多就業、多角経営が望ましいとの見方を示しました。

悪循環

森林・林業が専門の佐藤宣子氏は、大規模林業のための大型機械が初期費用だけでも6000万円に達するなど高額で、その返済のためや、木材価格の低下のため利益を出そうと大量生産が強いられ、「悪循環に陥っている」と指摘しました。

また、九州、東北、北海道、千葉などに皆伐が集中する一方、皆伐ができない地域では、放置され、光が入らないために下層植生、生物多様性が失われ、これらが土砂流出につながり、河川の川底をあげてしまうという問題も起こっていると警告しました。

暮らしのための林業は地域を支える力

愛知学院大学の関根佳恵氏(FFPJ常務理事)は、農業と林業について、農地を作るために森林を伐採する、または、農業ができなくなって棚田が森に戻る、など二律背反の関係として描かれることがあるが、生業・暮らしのための林業は、農業を含めた他の産業とともに地域経済として循環していくとし、暮らしのための林業や農業は対立するのではなく、補いながら地域を支える力になるとの考えを示しました。

関根氏は、国連「家族農業の10年」(2019〜28年)と「生態系回復の10年」(2021年〜30年)が小規模林業を含む家族農林漁業の価値を再評価していることを紹介し、生態系回復のためにも、持続可能な社会を作るためにも、「小規模家族林業への政策的支援を強化しなければならないという声を日本でも上げていく必要がある」と訴えました。

国際的な動きに関連して佐藤氏は、ゴムやアブラヤシの単一プランテーションが進む一方で、キノコなどの森林で採れる多様な食物や薬といった非木材林産物の重要性やコミュニティ林業が大切にされ、小規模林業の研究も膨大にあることを挙げつつ、日本でこうした認識が広まっていないことに懸念を示しました。

自治を通じて生産守る

和歌山県・紀ノ川農協組合長の宇田篤弘氏(FFPJ常務理事)は、古座川流域連携プラットフォームを設立した経験を報告。森林組合、漁業組合、観光協会、自治体、農協などが連携し、アユやユズなど地元の生産物を利用した商品の販売や交流につなげていこうとしていると報告しました。

宇田氏はまた、地元の人たちの徹底した聞き取りに基づき、桜の植林、買い物バス、移住の促進、防災の取り組みを、自治体を巻き込みながら進めてきた様子についても語りました。高齢化で若い人がいなくなる中、集落の共同作業が危機にあるとし、自治を通じて共同作業による生産を守っていくことが大切との考えを示しました。

実態から得られる感覚を学ぶ

人口4200人ほどが暮らす静岡県浜松市春野町で自伐型林業を実践する天野圭介氏は、わずか1日雨が降っただけで、土砂が流されて川が泥で濁るなど、「人間の体で言えば皮膚がえぐれて血がどろどろ流れ出しているような状態」と森林破壊の現状に警鐘を鳴らしました。その上で「必要なのは、大規模・集約化の林業政策ではなく、「その場その場にあったやり方を、人が実際に土を触って、木を植えてという実態から得られる感覚を学ぶこと」だと述べました。

天野氏が所属する林業チームの6人の仲間は、木工作家兼アーチスト、便利屋、塗装屋な大学生など全員が副業を持っているため、利益を出すために伐採を強いられる専業と異なり、「自然のペースと人の都合を合わせたところで仕事ができる」「別の稼ぎを持っていることで、自然を搾取しない、ブレーキをかけることができる」と述べ、副業の役割を強調しました。

春野モデル

さらに天野氏は、永続可能な地域づくりの「春野モデル」として、①食の自給②水の自給、③エネルギーの自給、④生態系の回復、⑤地域通貨、を挙げ、これらをビジョンとして地域作りに取り組んでいると語りました。

討論の中で、金子氏が、環境の守り手を補助する環境支払いの重要性を指摘し、こうした声が近年増えていると発言しました。これについて、宇田氏が「地域全体を支えていこうと思ったら環境支払いがないと大変」と述べ、賛意を表明しました。

天野氏は、本当に山や自然、生態系を豊かにしていく個人とか団体などに基本的な生活保障をするなど、「現場の自然を良くしていこうという人の価値や取り組みが認められる社会や政策のあり方になれば新しい時代に入っていくのではないか」と話しました。

近畿大学名誉教授の池上甲一氏(FFPJ常務理事)が閉会挨拶し、相次いで誕生している木質バイオマス発電の燃料に、輸入木質ペレットがされ、森林破壊を引き起こしていることを指摘し、「緑の成長論の限界」を強調。「暮らしと結びついた自伐型林業や農業を買う側と結びつけつつ、新しい経済、暮らし、自立の仕方を考えていくことが重要だ」と語りました。

池上氏は、家族農業の10年の日本の国内行動計画を作成するためのアンケートを実施することを案内し、その一部を今年5月以降に閣議決定される予定の「森林・林業基本計画」に反映させていくと述べました(アンケートにご協力ください)。

シンポジウムで出た主な質問と答え(要旨)

Q 皆伐が行われている地域の危険性は理解できたが、皆伐が行われず、放置されている山林はどの程度危険性があり、何をしたらよいでしょうか。

A 自伐型林業のやり方である、長伐期多間伐といって、2割ほどの間伐を繰り返し、150年生以上の木を育てていくやり方は、先祖が植えてくれた材を無駄にすることなく、自然も豊かにするよいやり方です。また、良い道をつけて人が入れるようにしていくことは、将来の財産となり人工林生態系も大幅に改善できます。

Q 農業をやりながら兼業で自伐型林業に関わっていくのは可能ですか?

A 農業と林業はとても相性が良いです。基本的に木を切る適期は9~2月くらいなので、農閑期に当たります。春野町では3~10月頃までお茶を栽培し、冬は山仕事というのが江戸以前より続く伝統的な暮らし方でした。

Q 材価が低い、という問題を解決している地域やブランドの事例などはありますか?

A 伝統的に施業してきた林業家の山の材はまだまだ材価格が高いケースも見られます。つまり、良い材、良い施業のような真の価値を生み出す営みは、いつの時代も価値あるものなのだと思います。これからは、森林生態系を回復する林業のスタンダードを構築し、そのスタンダードを満たす施業をする林業家や団体に対して、基本的生活保障を与えていくというのも非常に面白いやり方だと思います。個々のブランド化などは、市場経済主義的色が強いので、これからは付加価値ではなく本来の本物の価値を見直すことが必要だと感じます。

Q 林業と里(農村)と川・海との連関に注目する視点も必要では?「森は海の恋人」運動に学ぶような視点の運動も求められるのではないでしょうか?

A 指摘の通りで、自治体の垣根を超えて、流域単位で環境も暮らしも成り立つ方向を考え行動しなければなりません。

Q 途上国、先進国という言葉への認識も持続的な社会を考えるうえで問題なのではないかと思うのですがどうでしょう?「経済的な豊かさ=社会の先進性」と考えている日本人がまだ多いのではないでしょうか?日本の地方で第一次産業に従事しながら生活している人の生き方の中に経済的な指標に代わる豊かさを示していけないでしょうか?

A 日本政府や多くの日本人の中では経済的指標で「先進国」「途上国」と線引きをしてしまっています。そうした価値観の中で、「国連の家族農業の10年は途上国の問題である(先進国の日本には関係ない)」という認識が生まれているように思います。日本でも豊さの物差しを見直し、「途上国」といわれる国・地域の方々の暮らしや知恵に学ぶ姿勢が必要ですね。『本当の豊かさはブッシュマンが知っている』などの視点も重要だと思います。

Q. 古座川流域での自伐型林業の可能性を、どうお考えでしょうか。架線集材が中心になる急傾斜地域ですので、道づくりが難しいように思いますが。

A 道づくりは大変だと思います。自治区の山林の権利を譲っていただく必要があります。高齢化していて、山林の境界がこの先分からなくなりそうです。若い方が関わっていただくこと求められていると思います。

Q 地域社会再生に資する持続可能な農林水産業の在り方の指針というような実践的なガイドを作成し、(必要に応じて、農業、林業、水産業別にブレークダウンしたものを作成する)それを、農林水産省の政策提言に提案する、国連にも提案し、世界版を作成する。仮にそうした指針が出来れば、全国にこうした考えた方、取り組みが共有できる、活用できるようになる。その上で、必要に応じて、国の予算でその活用推進を進めるようなやり方は考えられないのでしょうか?

A ご提案をありがとうございます。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンでは、農政への政策提言を昨年行いました(提言はこちらから)。今年は林政への政策提言を行い、来年は漁業への政策提言を予定しています。国連では家族農業の10年の行動計画ができており、日本でも日本の行動計画の策定を国に求めています。同時に、プラットフォームでも行動計画案の策定を予定しています。そのためにアンケート調査を実施しますので、ぜひご協力ください。

Q 家族農業の10年の国際行動計画と併せて考えると、Pillar 2の「次世代への継承」に対する行動計画の制定と併せて自伐型林業を位置付ける必要があるように思います。

A 次世代への継承について、自伐型林業を位置付けること、同様に農業や漁業でも自営の兼業経営を含む生産者を位置付けることが必要ですね。