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【報告】FFPJ連続講座 第1回「家族農業とタネ――種苗法改定の狙いを暴く&3.11と原発問題」 村上真平

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国連「家族農業の10年」と家族農業にかかわる様々なテーマについて学び合うことを目的にFFPJオンライン連続講座が始まりました。第1回は村上真平FFPJ代表(全国愛農会会長)が講師を務め、「家族農業とタネ――種苗法改定の狙いを暴く&3.11と原発問題」をテーマに3月21日に実施され、60人が参加しました。

「パラダイス」で「生きられない」

 村上さんは1982年にインドでガンジー・アシュラム(ガンジーが独立運動の拠点にした場所)を訪れたのをきっかけに海外協力の道に進み、バングラデシュに6年、タイに5年滞在し、自然農法の普及と持続可能な農村社会開発に従事したのち、2002年に帰国しました。この時の経験から、「貧困は経済システムの中で作られていて、途上国の人が働かないというレベルの問題ではない」「人間がこのままの生き方をしていたら、絶滅種になる」と痛切に感じるようになったと振り返りました。

 自然を収奪しない農のあり方、途上国の人たちを搾取しない生活のあり方を模索し、帰国後、福島県飯舘村に住み、自然農法と自給自足を基本とした暮らしを始めました。20年間耕作放棄となっていた農場には人間が生きるために必要な6つが揃っていました。①きれいな空気、②きれいな水、③安全、健康な食べ物、④着るもの、⑤シックハウスにならない家、⑥エネルギー、です。荒涼とした風景が続き水を汲みにいくのに30分から3時間かかるエチオピアの人なら「パラダイス」と言う、と村上さんは思いました。「だけど今の日本では、経済的に生きられないということでどんどん(農民が)去っていく」。生きるために必要なものがすべてそろった「パラダイス」を「生きられない」と放棄せざるを得ない日本社会の矛盾に光を当てました。

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森の機能を農業に取り戻す

 飯舘村で村上さんは、自然の循環、多様性、多層性を含む自然の森の持っていた機能を農業に乗り戻す、自然農業を行い、野菜、作物、ハーブなど60種類以上を育てていました。さらに、梅干しなどの加工品を30種類ほど作り、自分でレストランを建て、石窯をつくり、穀物菜食のレストランをやり、週に250個のパンを焼き、海外から研修生を受け入れていました。学びの場でもある農園の名は「なな色の空」です。

 3.11の大地震と原発事故はそこに襲いかかりました。海外からの研修生に日本の伝統的な家づくりを教え、棟上げを終え、小槌で叩いてチェックしている時でした。村上さんと家族はその日のうちに飯舘村を脱出し、愛農学園のある三重県に避難し、耕作放棄地を開墾し、今に至ります。2013年から「なな色の空」を再開することができました。

責めるのではなく喜びをシェア

 大震災と原発事故から10年。村上さんは事故発生後1〜2年、これを契機に原発を止められると思っていましたが、「“原発村”と呼ばれる、原発を守る人々、大企業が必死になって原発を守った」と振り返ります。

 大切なことなのに、それに気づいて関わっていく人たちが非常に少ないのはなぜか。脱原発運動をすればするほど人は集まらなくなるのはなぜか。講座の前日に反原発のイベントでスピーチした時にも、「みんな怒りはあるけれども未来が見えなくなっている」と感じました。「正論だけれども、大変そうで、関わると暗くなっちゃうみたいなものに(人)はやってこない」

 そうした自問から村上さんは今、東京電力も含め、相手を悪だと言って責めるのではなく、相手の立場を否定せずに認め、その上で、原発ではない方向が「本当に豊かで、一人一人が大事にされ、多様性が大事にされ、未来は楽しい」と知ってもらうことを大事だと考えています。「人々に対して正しさを押し付けるのではなくて、愛と喜びをシェアできるならば、この地球に未来はある」。原発問題の解決の方向もここにあると考えているといいます。

タネは育種者のもの?

 講座のもう1つのテーマである種苗法の改定について村上さんは、“登録品種について農民は全て許諾料を支払い、育種者から許可をもらわなければならなくなる”“一度買ったタネで作物を育て、タネを採っても許可が求められ、お金を払わなければならなくなる”“違反すれば罰金刑を科せられる”と解説。「タネは育種者のもので、農民のものではないと言い切ったのが種苗法改定」であり、歴史的な改悪だと強調しました。

 国の機関が農民のために作ったタネについても、許諾をえる必要がでてくるといいます。種苗法改定の前に、主要作物種子法が廃止され、さらには、公共機関が持つ種子に関する知的財産を民間に移行することも決められていました。

 一方で、外国と比べると日本では良質のタネが安く手に入るため、ほとんどの農民はタネを採ることを忘れてしまい、国連小農権利宣言でも認められるタネの権利が自らにあることを意識していないと村上さんは言います。無警戒の中で、種苗法改定を受けて、企業がタネを一気に支配するようになれば、「大変なことになる」と危惧しました。

タネの多様性が失われれば…

 村上さんは、さらに重大な問題として、タネへの企業支配が強まり、自家採種が困難になることで、タネの多様性が奪われることに警鐘を鳴らしました。タネの多様性の喪失が招いた悲劇の例として18世紀のアイルランドで起きたジャガイモ大飢饉を挙げました。寒冷地で栽培できるということで単一品種を拡大していったところに、ベト病と言われる疫病が発生し、100万人以上が餓死しました。こうしたことが起こらないように、ペルーなどのジャガイモの原産地では常時100種類以上を育てているといいます。

 村上さんは、多様性について、いろいろな意味で安定の源となっていると指摘し、農民がタネ採りを忘れ、企業に任せていけば、「大きな問題が将来必ず起こる」と警告しました。

タネ採りは豊かで面白い

 タネ採りについて、愛農会が3月に開いたワークショップに触れながら村上さんは、手間がかかるけれども、「ものすごく豊か」で、やっている人は「言葉が止まらないほど楽しそうに語る」と紹介。「タネは見ているだけでもいろいろあって面白い」と述べ、そういう喜びと楽しみを農民が失い、「面倒」だと思っていたりする現状に懸念を表明しました。種苗法改定でも、タネの権利を奪うことは問題であるけれども、農民自身がそれを許してしまっていることにも目を向ける必要があると言います。

 村上さんは、「農民が自分たちの食料主権や生きる権利を取り戻すためには、タネの問題を本気になってきちんと伝えていく」ことが大事だとし、自分たちでタネをとって、その面白さを伝えていくことが大切だとの考えを示しました。

大きいことは効率的か?

 種苗法改定と原発推進政策の共通点について聞かれ、村上さんは、原発の背景には、巨大企業が電力生産を独占することが効率的だという考えがあり、他方、種苗法改定の背景にも、種子企業が種子生産を独占し、農民はそれを買う方が効率的だという考え方があり、それらが共通していると指摘しました。

世界は「オーガニック3.0」

 また、農水省による「みどりの食料システム戦略」の「中間取りまとめ」が2050年までに有機農地を25%にすることを掲げていることについて問われると、「農薬、化学肥料を使わないだけのモノカルチャーを進めようとしている」とし、「今までの枠組みと変わらない」と強調。すでに国際有機農業運動連盟(IFOAM)が、「オーガニック3.0」という方針を出し、大規模農場や企業に有利に作用してしまったこれまでの有機農業のやり方を改めて、生物多様性や循環を重視したものを打ち出していることを紹介し、日本政府の提案が時代遅れになっていることを指摘しました。

 オーガニック3.0のような新たな有機農業を日本で進めていく上で、有機農業者と地域の消費者、学者などがグループを形成し、有機栽培だけでなく、多様性や循環性を含めよりよい方向にみんなで変えていく参加型認証システム(PGS)の取り組みがすでに始まっていることを挙げ、今後さらに広がっていくことに期待しました。