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【報告】FFPJオンライン連続講座第4回 日本の小規模沿岸漁業の現状と課題

· イベント,ニュース

家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)の第4回オンライン連続講座が、「日本の沿岸漁業の現状と課題」をテーマに6月25日に開催されました。講師はFFPJの二平章副代表(JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長)が務めました。以下は、講座での二平さんの発言の要旨になります。なお、講座の資料(更新版)はこちらからご覧ください。

皆さんこんばんは。いま紹介がありました二平(にひら)と言います。私はカツオの資源や食文化の研究を長くやってきており、カツオが私のライフワークになっています。現在は沿岸漁業者支援のことをやっており、5年前にJCFU(Japan Coastal Fisheries Union:全国沿岸漁民連絡協議会)という団体を立ち上げ、その事務局長をやっています。北海道から沖縄までの全国の漁業者の皆さんと連絡を取り合いながら、沿岸漁業が発展する方向をどうにかして作りたいということでやっています。今日は漁業以外の皆さんも多いということなので、日本の漁業、特に沿岸漁業について、できるだけやさしくお話をしたいと思い資料を用意しました。それではお話したいと思います。 

豊かな日本の海

 まず、日本の海と魚についてです。日本という国は世界でも有数のとても良い漁場に恵まれています。1つの国で流氷とサンゴ礁が見られる国は世界でも珍しく、海流や地形の好条件があって、日本の海は生物多様性に富み、豊かな資源に恵まれているのです。

小学校、中学校時代に学習したと思いますが、日本列島は南からの暖流と北からの寒流が交錯し、南の魚も北の魚も来る良い条件に恵まれた位置にあります。また、雨が多く、河川からはたくさんの栄養塩が海に流れ込んでいます。さらに、列島に沿って深い海溝が発達しています。その深海の底には栄養塩がたくさん溜まっています。それが湧昇流と呼ばれる上昇流となって、海水が底から湧き上がり、栄養塩が表層に供給されて小魚の餌となるプランクトンが増える構造になっています。

世界中では海産魚は1万5千種ほどいます。その4分の1に当たる約3千7百種が日本近海には棲息しています。日本の排他的経済水域、2百海里(1海里:1,852m)を合わせた海の面積(領海と排他的経済水域の合計:約447万㎢)は世界6位の広さで、たいへん広い2百海里水域を持っています。また、北西太平洋にあたる北海道や東北沖合の海には、サンマやイワシ、サバ、いまの時期からはカツオも北上してきます。世界の大洋には深層海流という深海の底をゆっくりと流れる海流があります。北西太平洋はその深層海流が千5百年とか2千年を経て表層に浮き上がってくる海にあたります。そのために、栄養塩を多く含んだ水となり生物生産性が高いのです。北西太平洋が世界の三大漁場の一つになっている理由です。

漁業の話ではノルウェーが日本との比較対象としてよく出てきます。全漁獲量の8割を占める魚種数を日本とノルウェーで比較してみると、ノルウェーが6魚種なのに対して、日本は24種類もあります。ノルウェーはニシンやタラの仲間が多いのですが、日本はイカとか貝類を含めて非常にバラエティーがあり、それだけ多様性に富んでいます。 

経営体の94%は沿岸漁業

次に日本の漁業の話に入ります。漁業区分のひとつとして、どれくらいの時間で漁をしてくるか、また岸から漁場までの距離で分けられます。日帰りの漁を行う沿岸漁業。それから少し沖の方へ行って、数日から1週間以内の漁を行う沖合漁業。それから1か月とか1年かけて世界の海に出かけて行って行う遠洋漁業。この3つに分かれます。

経営体数からすれば、あとからも詳しくお話しますけれども、日帰り操業を行う沿岸漁業が圧倒的に多くて、日本全体の経営体の94%を占めます。日本では沿岸漁業という言葉を使っていますが、国連の家族農業の定義に含まれている小規模漁業のことです。沿岸漁業と小規模漁業というのは大体同じ言葉だと考えて良いと思います。

日本の海岸線沿いには6千を超える漁村集落が浦々にあり、至るところで大なり小なり沿岸漁業が営まれています。沿岸域や内湾ではヒラメ、カレイ、シラス、タイなどの魚が獲れますし、カキやホタテ、ワカメやノリなどの養殖業や、アワビやサザエなどの潜水漁業も沿岸漁業に含まれています。沿岸漁民の皆さんは小規模な漁船と漁具を使って、自分たちの資源を大切に守りながら持続的な漁業を続けています。

この沿岸漁業の経営体は、この25年間の統計で見ると、半分以下に減少をしています。その要因については、水産物の輸入が安易に行われて魚の値段が上がらなくなり採算がとれなくなったことや、海岸線の埋め立てや河口堰、ダムの建設で水域環境が破壊されたことが沿岸漁業を衰退に導いていると言われています。

規模別の漁業経営体を少し細かく見てみましょう。2018年に漁業センサス統計が出ています。それによれば日本の漁業経営体全体では7万9千経営体あります。経営体の規模区分は漁業の場合は非常に単純で、使っている船の総トン数、大きさで10トン未満の経営体を沿岸漁業と区分をします。それにあとで出てきます定置網漁業や養殖漁業の経営体、これらも岸近くでやる漁業なので、これらを合計すると7万4千経営体で93.8%になります。

もう少し細かく中を見ると、小型漁船を動かして魚を獲る経営体が5万7千程度。定置網は3千少し。それから養殖業が1万4千程度ということになります。10トン以上の船の中小漁業は4千8百。千トン以上の船の大規模漁業はわずか54経営体、0.1%です。圧倒的に多いのは小規模沿岸漁業なのです。 

多彩な幸を提供する沿岸漁業

どのような漁法で漁業をやっているかを見てみましょう。沿岸漁業はだいたい漁村の地先が漁場です。他県の沖に行って漁をして他県の港に入って休むことをやる「旅漁」という形態もありますが、基本的にはほかの県へ行っても、地先が漁場の日帰り操業が基本です。10トン未満の船で行なう沿岸漁業は、だいたいが1人か2人乗りで、2人の場合は親子か兄弟、まれに夫婦で操業を行う船もいます。沿岸漁業の種類はたくさんあって、獲っている魚の種類も多彩です。いろいろな魚を皆さんに提供しているということですね。

沖合漁業はもっと大きな船ですけれども、だいたい1週間以内の操業範囲の中小漁業で、会社経営とか共同経営が大半です。イワシやサバを大きな網で巻くまき網漁業、集魚灯でサンマを集める棒受け網漁業、カツオ・マグロの一本釣り漁業やヒラメやカレイなどの底魚をねらう底びき網漁業というのがあります。漁獲量全体からみると、船は少ないですけれども、漁獲量の約6割を沖合漁業が獲っています。

遠洋漁業はもっと大きな船ですが、昔、遠洋漁業が盛んだったころは、ほかの国の2百海里の中に入って操業していたのです。でも、2百海里を排他的経済水域にする時代に入って追い出されるような形で縮小してしまい、現在は非常に少なくなっています。現在はマグロはえ縄漁業が主で、マグロを追って世界中の海に出漁しています。

海の漁業とは違いますが、大事な漁業として、内水面漁業と呼ばれる河川や湖沼で行う漁業があります。特にシジミは多数の漁業者が従事しています。高度経済成長期に河口堰建設をまぬがれ、汽水域が残った島根県の宍道湖,青森県の十三湖や小川原湖、それから茨城県の涸沼(ひぬま)などがシジミの一大産業地域になっています。河川では観光漁業として全国各地でアユ漁が盛んです。 

磯は地付き、沖は入会い

漁業による海の利用という場合、農業と根本的に違うのは、海の中には農業のような個人所有の農地がない点です。自分の土地はなく、海は共有です。漁民が共同で地先の海を管理して、そこでいろいろな取り決めを作って魚を獲っています。ある人間だけが勝手に獲りやすい漁具を作ってたくさん魚を獲るというようなことは、認められない仕組みになっています。規則で決められた大きさの船で、共同で地先の漁場を管理して漁獲しているのです。

江戸時代から「磯は地付き、沖は入会い(いりあい)」という制度があります。地付きというのは目の前の浅い海は地元の村の人たちの専用漁場で、その沖の海は、隣りの村からも来られるような、入会い(共同利用)の漁場になっていて回遊する魚などを自由に獲っても良いという仕組みです。地先の浅海に勝手気ままにほかの村から船が入ってきて荒らされたのでは地元漁民は生活できませんので、地元漁民に獲る権利、漁業権というのが認められているのです。全国的には、一般的に岸から3から5キロの範囲内に漁業権漁場が作られています。

どこの地域でも漁業者全員が組合員として加盟する漁業協同組合というのが組織されています。この漁協に地先の漁業権漁場の管理が任され、所属する組合員らがルールの下に皆で海を管理しながら魚を獲って生活をしています。排他的権利のもとで、地域の資源と漁業が守られてきたのです。 

操業する権利、漁業権

漁業権には共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権という漁業権があります。

共同漁業権は、漁場を共同利用する漁民たちに与えられる権利です。一般的には湾内や距岸3~5キロの範囲内に共同漁業権が設定されています。

定置漁業権は、岸近くのところに魚を誘い込んで獲る大型の網を設置して、泳いでくるマグロやサケを獲る漁業権です。やりたいという申請が出た場合には、これまでの漁業法では、個人よりは団体、よそ者よりは地元漁民を優先する優先順位が決められていました。東京の資本家が岩手県へ行き、ここで定置漁業をやりたいと言っても勝手にやることはできなかったのです。もし岩手県の中にやりたい漁民がいれば、岩手県在住者が優先され、利益を地元の漁村や漁民に還元させる仕組みでした。これは戦後の民主化政策の成果として、漁業法のなかに結実されたルールでした。

区画漁業権というのは、養殖を行う漁業権です。これも狭い海のところにたくさんの漁民たちが養殖施設を持つので、漁協に対して知事がいったん団体漁業権の免許を与えて、漁協が希望する組合員みんなの合意の下で、養殖施設の台数や設置場所を決めて、トラブルが起きないよう共同で海を上手に使っていく制度です。

共有の海のもとで、漁協に集まる人たちは、海を綺麗にするときには共同で作業をし、災害があったときには皆で助け合う、いわゆる「相互扶助」「村落共同体」の中で昔から生活してきた人々なのです。

共同漁業権の外側で漁をするのが許可漁業で、これには県知事許可と大臣許可があります。イワシを巻くまき網や、カツオ一本釣、まぐろはえ縄、底びき網漁業など、様々な漁業が沖合漁場では許可漁業として行われています。これらの漁業は広い範囲を操業できる許可をもっています。 

漁獲量の推移から見えるもの

日本の漁獲量の推移を見てみると、1980年代から沿岸・沖合・遠洋漁業とも減少をしています。よく1980年代に非常にたくさん獲れたのに、いまは減少の一途をたどっているというように言われますが、よく見るとマイワシが80年代に一時的に非常に増えているのです。この時、沖合漁業でのマイワシ漁獲により、全体の漁獲量も増加し、マイワシ減少と共に全体漁獲量も減少しています。マイワシを除くと、沖合漁業の漁獲量は、急激に変化しているわけではなく、ゆっくりと減少しています。ただし、遠洋漁業は国際的に2百海里制度が定着するなかで、他国の2百海里内へ入れなくなったので漁獲量は大きく減少しています。沿岸漁業の漁獲量も少しずつ減ってきています。

近年、サンマやスルメイカ資源は減少傾向にあり、サバやマイワシは増加傾向にあります。これは海洋環境の自然変動に応答して魚の生残率が変化している影響であるとみています。よく、乱獲で魚が減っているという本が出たりしますが、そう単純なものではありません。マイワシやサンマ、サバなどの場合、資源のダイナミックな変動は、乱獲が主因ではなく、海洋環境の20年や50年規模の自然変動にともなう海の寒暖変動に関係していると考えられています。そのような変動にあわせて魚の数量変動、優占する魚種が交替していくという現象があるのです。もちろん、中国船などによる近年の過剰漁獲の影響も無視はできません。魚類資源の変動には自然変動と過剰漁獲の影響が重なりあいながら起きているのです。 

海と資源を守ってきた自主的なルール

沿岸漁業の中では昔から、漁船規模や漁具制限、禁漁期や操業時間規制が作られてきました。厳しい規制の下で魚類資源を枯渇させない形で漁民たちは操業をしています。日本の特徴は漁業協同組合が非常に発達をしていて、どこの地域にも漁協があり、地先の漁業と資源、そして海を守っていく、その主体の役割を果たしていることです。

日本ではそれを当たり前と感じているかも知れませんが、外国から見れば、このような日本の漁村社会における共同体としての自主的な資源管理のあり方が高く評価されています。日本の漁村社会で行っている漁協を中心にした漁民の資源管理システムの素晴らしさを日本人は再認識しなくてはいけないと思います。 

白書に書かれない減少理由

沿岸漁業の衰退要因について私もいくつか論文を書きました。開発に伴って海岸線や護岸をコンクリート化する、埋め立てする、ダムを作る、河口堰を作るという、そのようなことが高度成長期に行われました。この時期以降、沿岸の海が変化し多くの沿岸魚が減少し、漁業者も減少したことを見ておかなくてはいけません。たとえば、東京湾では高度成長期に海面埋め立てが進みました。昔の東京湾はアサリが大量発生して、アサリ漁業が非常に盛んだったのです。しかし、いまやそのような地域はほとんど姿を消してしまいました。

詳しくは触れませんが、よくウナギ問題が騒がれます。私は茨城に住んでいますが、利根川に河口堰ができた影響で利根川や霞ケ浦のウナギは姿を消してしてしまいました。ウナギを増やしたいと思うならば、河口堰を開けてウナギが上流に上って行けるようにしてあげればよいだけです。そうしないところに問題があります。

宮崎県や茨城県の外海性ハマグリの減少も同様です。外海の砂浜に港湾建設を進めた結果、砂が動きだし砂浜がなくなり、ハマグリの発生場がなくなっていきました。かつて茨城県のハマグリ漁業では小型船で2時間操業すると30万円も稼げた時代がありました。当然ですが、若者たちは漁業後継者になりました。けれども、いまでは港湾建設影響で砂浜がなくなり、ハマグリが産まれなくなり、漁業も衰退していっています。

高度成長期に瀬戸内海では海砂利を採取した影響で、海の底に砂利を採った穴がいっぱい空いています。イカナゴは砂利場に卵を産みますので、産卵場がなくなっていきました。成長期以降、このような開発行為がずっと続きました。このような開発行為、自然破壊が沿岸漁業を衰退させた大きな要因になっているのです。でも、このような話は水産白書にはあまり出てきません。国土交通省の行う政策に対して農水省は文句を言えない、触れないということになっています。自然破壊を進める国土開発政策にものをいえない農水行政、水産政策では沿岸漁業の発展は見込めないのです。 

漁業の多面的価値

日本周辺の海には、たくさんの魚が棲んでいて多様性があることは先ほど触れました。魚には栄養学的にとても良い特徴があります。陸域の動物や植物にはほとんど含まれない、DHAやEPAという健康物質が含まれているのです。それらの物質には脳の働きを活性化させ、血液をサラサラにする物質が含まれていて、魚食が日本人の健康を支えてきたといわれています。魚はそういう点で非常に大切な食料資源なのだということを知っておいていただければと思います。

つぎに小規模漁業、沿岸漁業があることで、多彩な魚を消費者へ提供する役割のほかにどのような良いことがあるのかについてお話します。

日本の海岸線は、交通不便な離島や半島部を含めて、3万5千キロほどの総延長距離があります。その海岸線に平均で5.6キロごとに1つの漁村集落があります。交通不便な下北半島や津軽半島、壱岐や対馬の離島に行っても、海岸線にはたくさんの漁村集落があり、そこで漁業を営む人たちがいます。交通不便な離島や半島部の地域の雇用を支えているのが、小規模沿岸漁業だということが全国を歩いてみるとよく分かります。

地域の漁民の皆さんは海の環境や漁村の文化を守っています。浜を綺麗にしたり、豊かな海を守るため山に木を植えて森づくりをしたりしています。最近、尖閣問題が言われていますが、海上保安庁の船だけで、日本周辺すべての不審船の監視をすることはできません。日本の周辺に沿岸漁業の皆さんが多数操業していることで、「変な船がいるよ、密輸船がいるよ、何か侵入してきた船がいるよ」と、漁船から連絡が行くことで、日本の海の国境が守られているのです。また、海での遭難事故がおきれば、真っ先にボランティアで、海難救助のために漁船が出動します。油の流出事故があれば、海を守るため漁民総出で油を回収します。このように沿岸漁民がいるからこそ日本の海の環境も国境も守られているのです。皆さんには、沿岸漁業は魚を獲ること以外にも、社会に貢献している価値を知っていただきたいと思います。

海の文化についてももっと注目して良いのではないかと思います。漁村の中にはたいへんユニークな漁村文化というのがあって、海と親しんできた日本民族の文化が残っています。沿岸漁民は、魚食文化とともに海の伝統を守り、後世に伝えていく役割も担っているということができます。 

小規模漁業に配慮するのが世界の潮流

次に小規模漁業による国際的動向と日本の漁業政策ということを話します。

実は2017年から19年の3年間に、日本の沿岸漁業の未来を左右するような出来事があったと私は整理をしました。第1は、国内法の改悪問題です。民主的な漁業法と言われた戦後漁業法が2018年に70年ぶりで改定されたことです。第2は、皆さんご存じの国連の農業関係の宣言・決議が続いたということです。

国連では「家族農業の10年」決議や「農民の権利宣言」が採択されて、家族農業の10年がスタートしました。私も読んでみましたが、FAOの憲章上、「漁業」というのは国連食糧農業機関の「農業」というカテゴリーの中に位置付けられています。「家族農業」には、農業・林業ばかりではなくて、漁業・養殖も含まれると書いてあります。国連ではそのような位置付けの中で議論がされているということです。小規模家族農業が大切だというのは、関根さんなどの論文にたくさん書かれていますので、ここでは触れませんが、家族農業に対する見直しが、国連を中心に行われ、「家族農業の10年」の運動がいま進められています。そこで、私は国連文書の中で、小規模漁業を大切にするべきであるとする文書がどこにあるのかを調べてみました。すると、やはりきちんと小規模漁民の生活権や生存権に配慮して政策実施をしなさいという記載がありました。

漁業の世界では有名な文書ですが、1995年に「責任ある漁業のための行動規範」(Code of Conduct for Responsible Fisheries)というのが出ています。「責任ある漁業」というのは、環境とか次の世代の人類に配慮した水産資源の持続的利用を実現するための漁業ということです。その行動規範の中に小規模漁業の重要性を考えて政策をやらなくてはいけない、その人たちの権利を保護しなくてはいけないということがきちんと書かれています。

そのあと出された、まぐろ類の漁業管理のための各地域の国際条約文や、2014年国際家族農業年、それからCFS国連の世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネル報告にも小規模漁業の大切さを評価すべきという文言が出てきます。そして小規模漁業者を保護するために、国の政策法規を作成しなければならないということも書かれています。さらに、小規模漁業保護については、SDGsにも、家族農業の10年の決議の中にも、それから農民の権利宣言の中にも書かれています。

農民の権利宣言には、政策策定に関わる意思決定のプロセスに、小規模漁業者に情報提供をして参加を保障すること、また、自然資源を持続可能な方法で利用する権利や管理に参加する権利があると書かれています。これらの内容は、日本の沿岸漁業政策の中の問題としても重要な課題であると考えます。いまの国際的な潮流は、日本の沿岸漁業の進むべき方向を指し示しているといえます。 

EUに学ぶ農漁業政策

日本では、①安易な水産物の輸入施策、②所得保障・価格保障政策がきちっと備わっていないこと、③稚幼魚の棲息環境をこれまでの開発行政の中で破壊し続けてきた、これらのことが沿岸漁業を衰退させた直接的な原因だと私は考えています。

私は1996年に「責任ある漁業のための行動規範」ができた頃、EUの共通漁業政策の勉強のためにヨーロッパに行きました。そのときのEU文書から学んだことは、EUの共通農業政策・共通漁業政策の根幹にあるのは、①家族農漁業を守るために食料の安全保障をしっかりとやること、②持続的な発展の保障のために所得保障や価格保障をしっかりやること、そして③環境を保全するという3本柱を政策の基本に据えているということでした。

日本の農漁業政策には、この3本柱が備わっていないために、日本では食料自給率が低下していること、後継者が育たないこと、自然環境の破壊が進んでいることがよく理解できました。この3つの基本目標に照らすと高度成長期に日本が行ってきた農漁業政策や開発政策は真逆の方向であったことが分かると思います。 

漁獲規制から見える政策の正体

最近ですが、小規模漁業に配慮を欠いた2つの制度改悪が行われました。1つはクロマグロの漁獲規制問題。これは太平洋のクロマグロが減ってきているので、漁獲管理をしなくてはいけないということで、トータルの漁獲量を半分にするということをWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)という国際漁業管理委員会が決めたことが発端です。そこまでは良いとしても、国内配分をどうするかといったときに、日本の水産庁は企業の少数の大規模まき網漁業の方に有利に漁獲枠を配分してしまいました。

大規模まき網漁業は登録上48隻ですが、マグロを獲る船はもっと少なく30隻以下の船しかいません。それに対して沿岸小規模漁業には全国で2万隻の漁業者がいます。そういう経営体構成や地域性を考慮せずに、水産庁はパブリックコメントの期間を短縮し、沿岸漁民の声を無視し、企業まき網に有利に漁獲配分をやったものですから、私たちは農水省を取り囲んで、反対集会をやりました。しかし国は沿岸漁民の要請を無視して強引にクロマグロの漁獲制度改悪を推し進めました。そのため、北海道の沿岸漁民は6年間、30キロ未満のクロマグロの漁獲割当がゼロになってしまいました。いま、この問題では沿岸漁民は北海道でクロマグロ訴訟を起こしています。 

新漁業法は改悪オンパレード

これまでは養殖の漁業権免許というのは、地元漁協に団体漁業免許がおりて、漁協がきちんと組合内漁民に個別免許を与え地先水面の管理をしていました。しかし、漁業法改悪で、今度は知事が企業に直接免許できるようにしたのです。定置網も知事が県外企業資本などに直接免許できます。つまり旧漁業法では地元の漁民や漁協を優先し、地元にお金が落ちるようにしていたのを、戦前の網元制度のように都会の資本家が地元漁協には無関係に地方に養殖場や定置網を設置することを可能にしてしまいました。

企業は知事から直接免許を与えられれば、地元漁協には所属せずに、共同漁業権の海の一部を占有して、地元漁民を排除しながら定置網も養殖施設も設置できるようになりました。沿岸漁業の皆さんは、漁業権の行使料を漁協に収めます。そのお金で漁協が全体の管理運営をやりますが、企業は支払う必要がなくなり、勝手に独立でやれるということです。

さらには、養殖をする漁業権や定置網の漁業権免許に抵当権設定ができるようになってくるので、免許が権利化して売買可能となります。お金儲けのためにそれを企業は売り払うとか、企業が各地の漁業権を買いあさるというように、沿岸漁場にも企業支配が進むことが懸念されているのです。

また、企業の漁船規模の大型化が自由にできるようにしました。大型化すれば当然漁獲圧力は強くなります。一方で小規模沿岸漁業にまで漁獲割当を国が決めて、それをオーバーしたならば、罰則を与えるという制度を作りました。さらに船ごとに割当を決めてしまう個別漁獲割当(IQ:Individual Quota)を進めるということです。これは資源を大切にすることを謳い文句にしていますが、大型船はまだしも、沿岸で多様な魚種を生産する小規模漁業にまでこのルールを押し付けることは無理があるだけでなく弊害問題です。

さらに、海の県議会議員と言われる海区漁業調整委員会の委員を、いままでは漁業者の選挙で選ぶことになっていましたが、漁業法改悪で知事が任命する方式に変えてしまいました。この4月に任命制が初めて実施されましたけれども、案の定、国にいろいろと物を言う人々は任命しない事態が起こっています。

このような漁業法改悪の一番の狙いは、企業が自由に海面を利用して利潤追求の場にできる制度作りです。安倍前総理は「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指して聖域なき規制改革を進めて企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消する」ことを国会で演説しています。企業利益優先の規制改革、新自由主義路線がこの漁業法改悪の根幹にあることをみておかなければなりません。 

現場と矛盾する霞が関思考

小規模沿岸漁船にまで漁獲量が規制配分されるとどういうことが起きるでしょう。いまのクロマグロもそうですが、過去3年の平均漁獲実績に基づいて個別に漁獲量割当がされます。もともと眼前の各地の沿岸漁場へマグロが毎年回遊してくるなどと予測できる人間などはいません。来遊量変動が大きい魚では、「今年は地先にたくさん魚が来た!」と漁民が船を出しても、事前に決められている過去の実績を基にした配分漁獲量のために、獲ることができないのです。来遊量が少ない不漁年にはもちろん努力しても獲れませんので、小規模の漁業者にはうまみがなく、結果的に経営が困難になっていきます。

いまもクロマグロが増えて、目の前にたくさん飛び跳ねていても、獲ることができません。沿岸まぐろ漁ではもともと、たくさん来遊してきたときに獲って貯金にまわし、翌年の不漁年を乗り越え、次の年にまた期待をして待つというのが特徴なのです。豊漁年に沿岸漁船が釣り漁業で一本一本頑張って漁獲したところで、資源に影響するものではありません。

実績を持っていない若手の漁業者が新しくやろうとしても、新規参入者はもともとの漁獲割当量を持っていませんから、その芽を摘んでしまうということで、結局、地域漁業は衰退することになっていくだろうと思います。

新しい漁業法ができて、いま水産庁は着々とその具体的準備を進めています。けれども、具体的になればなるほど、沿岸の漁業者と水産庁の間では矛盾が明らかになってきて、問題が起きてくるだろうと思います。 

沿岸漁業が輝く未来を

2014年の国際家族農業年、この国連決議がされた内容を私も読んで、たいへん刺激を受けました。それで翌年の2015年に漁業分野でも家族漁業、小規模漁業の人たちの団体を作り、運動を起こし沿岸漁業の未来づくりをしようと、全国の皆さんと組織を立ち上げました。掲げた目標は別表に示しました。

スタートするときは1500名でしたが、5年で1万2千人の構成メンバーになりました。こんなになるとは私も予想していなかったのですが、それだけ沿岸漁業者の皆さんは各地で課題を抱えているということでもあります。全国漁民の要望を聞きとり、毎年1回、統一要望書をまとめて、衆・参議員会館の各議員や水産庁長官と面会して要望を届けています。

私も全国の漁村を歩くことが多いのですが、沿岸漁業はたしかに経営体は減っていますけれども、全国には元気な若い人たちがまだまだいます。日本の海と漁業資源を守って頑張ろうという人たちがいます。JCFUの運動で、そういう全国の若い人たちにぜひ勉強をしてもらいながら、将来の地域のリーダーに育って欲しいというのが1つの願いです。そういう皆さんが国際的な家族農業の幅広い運動も知ることによって、改悪漁業法に負けない日本漁業の未来を、これからの世代の皆さんの力でぜひ作っていってくれることを願って、いま活動をしています。以上です。

JCFU 全国沿岸漁民連絡協議会の活動方針

  1. 家族漁業の生活と権利を守るために活動する。
  2. 水産資源を保護し、その持続的利用をめざす。
  3. 消費者と連携しながら日本の魚食文化・漁業産業を守るための活動をする。
  4. 食糧産業を国の基幹産業として位置づけさせる活動をおこなう。
  5. 組合員が主人公の漁協運動を支え、日本の協同組合運動の発展へ貢献する。
  6. 科学者・研究者の協力を得て科学的な知見を身につける活動をおこなう。
  7. 沿岸漁業の発展を願うあらゆる組織・個人と協力共同して活動する。
  8. 水産資源を大切にし、家族漁業経営を守るため世界の家族漁業組織などと連帯して活動する。