FFPJ第5回連続講座は、時間を2時間に拡大して、オンライン・シンポジウム「若手農林漁業者の提案! ―日本から世界へ発信する持続可能な農と食––」として7月27日(火)17:00〜19:00にお届けました。後日配信の希望を含めて71人の申し込みがあり、当日の参加は約60人でした。
パネリストは、FFPJ会員の小川美農里さん(チャルジョウ西会津農場・福島県)、杵塚歩さん(ちぃっとらっつ農舎・静岡県)、天野圭介さん(ONE TREE・静岡県)、澤大輔さんと岡崎良平さん(いずれも千葉県沿岸小型漁協)の5人。シンポジウムの解題と総括報告はFFPJ常務理事の関根佳恵さん(愛知学院大学准教授)が行いました。
以下は、シンポジウムの発言要旨と資料です。
■解題 関根佳恵さん(資料はこちらから)
愛知学院大学の関根です。本シンポジウムの開催趣旨などをお話します。
まず、FFPJは国連「家族農業の10年」に賛同した有志によって設立された市民社会団体です。こちらがウェブサイトになります。私たちの活動の関連書籍も出版されていますので、よろしければお手に取ってみてください。
今回のシンポジウムを企画したきっかけは、今年10月にオンラインで開催される世界食料フォーラムに、本日のパネリストの皆さんが、FFPJの会員の若手農林漁業者として招待されたことです。このフォーラムは、世界の若者たちが集まって、持続可能な農と食について議論する場です。このフォーラムの前に、ぜひ国内向けのイベントも開催したいということで、今日の企画になりました。
世界食料フォーラムの背景にも、コロナであらわになった社会の危機、特に持続可能でない農と食のシステムに対する問題意識があります。また、実はコロナ以前から、日本の農林漁業の危機が叫ばれていました。こうした危機に対して、政府は一連の新自由主義的な改革によって対応しようとしてきましたが、その妥当性や有効性については多方面から疑問が寄せられています。
ただ、少し新しい動きも出てきています。昨年発表された「新たな食料・農業・農村基本計画」では、「中小規模の家族経営」が政策的支援の対象と位置づけられ、今年に入ると、小規模経営を想定して、37の複合経営モデルが発表されました。その中には、農業と林業の複合経営や「半農半X」も位置付けられました。また、「みどりの戦略」では、有機農業の拡大などが目指されています。しかし、「みどりの戦略」は先端技術偏重や当事者の意見が反映されていない等の批判も出ています。また、「森林・林業基本計画」では、小規模な自伐型林業が「育成すべき担い手」として位置づけられませんでした。来年発表される「水産基本計画」も注視する必要があります。
ここで、日本の農林漁業の状況について、簡単に触れておきます。まず、日本の農林漁業経営では、小規模な家族経営を意味する「個人経営体」が占める割合が圧倒的に高くなっています。こうした経営を営む人たちが、地域の資源を管理し、コミュニティの維持に大きく貢献していることが、これまでの産業政策に偏った農林漁業政策では見過ごされてきました。さらに、農業についてみると、2ha未満の小規模な経営が全体の8割近くを占めています。また、日本の農家の約4割が農産物の販売を目的としていない自給的農家で、この割合は、2005年には約3割でしたが、農家総数が減少する中で、年々高まっています。こちらは、新規就農者数の推移と49歳以下の割合を、就業形態別に示した図です。全体では、年間6万人前後で横ばい傾向ですが、親が農業をしていない新規参入者がこの間80%以上増えていて、49歳以下の人が占める割合も7割にまで増加しています。新規就農者全体では、49歳以下が3分の1を占めていて、農業就業者全体よりも高くなっています。
本シンポジウムのでは、こうした状況をふまえつつ、統計の数字には表れない生業、暮らし、課題などについて、パネリストの皆さんに語って頂きます。そうすることで、「農林漁業の危機を乗り切るために大規模化や法人化、スマート技術が必要だ」というような、これまでのステレオタイプ、紋切り型の思考や政策を再考することにつながるのではないかと思います。そして、そうした視点から、世界にむけて日本からどんなメッセージを発信できるのかを考えます。本日のパネリストはこちらの5名の方々です。それぞれ、農林漁業の若手実践者としてご発言頂きます。パネリストの皆さんには、事前にスピーチのテーマについて、このようにお願いしていました。それでは、さっそくスピーチをお願いしたいと思います。よろしくお願い致します。
■小川美農里さん(資料はこちらから)
1. 生業と暮らし
いまご紹介にあずかりました小川美農里です。チャルジョウ西会津農場とダーナビレッジという体験型宿泊施設を運営しています。若手農林漁業者からの提案ということで、今日はよろしくお願いいたします。
まずは自己紹介で、生業と暮らしということで紹介させていただきます。私たちは福島県西会津町、新潟との県境に住んでいまして、そこで元々小学校で使われていなかった施設をリノベーションしたところで、共同生活をしながら宿泊施設を運営しています。あとは有機認証農場であるチャルジョウ西会津農場という農場の運営をしています。
私は看護師として、以前、病院勤務をしていまして、よく「看護師を辞めて畑をしているの、農業をやっているの」と言われることがありますが、自分としては看護師を辞めて農業という二択のうちの一択ということではなくて、予防医療や健康増進という位置付けでの農的暮らしというのを実践しています。ホリスティックヘルスという「いのちまるごとの健康」という概念がありますが、そういった塾のインストラクターをやったりだとか、子どもの五感を養っていくような、色々なものの元から、食べ物だったら土づくりからタネを播いて収穫するとか、そういったことを体験するような一般社団法人「福のもと」というのを去年、友人と立ち上げまして、そちらの運営もしています。
コミュニティと先ほどお伝えしたように、学校だった建物のなかに私たち家族を含めたボランティア、いま日本人が多いのですが、海外からも以前はたくさん来ていまして、世界中から集まる色々な人と共同生活をしながら子育てや農的暮らし、そういった色々な発信だとか、そういったことをしています。この写真は4歳になる娘と、4カ月いまは5カ月ですね、息子の写真です。
ダーナビレッジという名前をお伝えしましたが、ダーナ(Dana)というのはサンスクリット語から来ていまして、ギフトとか贈りものという意味があります。ダーナビレッジを立ち上げる前に2年ほどインドに住んでいまして、そこで色々なエコビレッジだとか、色々な持続可能なコミュニティを見たりしていて、日本でも同じようなコミュニティ、そして震災があった、原発事故があった福島県だからこそ持続可能な暮らしの実践というものをしてみようということで、2016年に帰ってきて始めました。それでダーナビレッジが目指すものというのが有機農業、今日、主に紹介するのはこの件ですけれども、有機農業の実践と体験ということと健康回復食、あとヨガやセラピーなどのヒーリング、これらを合わせて本来の自分らしさを取り戻そうと。先ほどお伝えしました健康だとか色々な命のつながりを感じられるような、そういう機会を提供したいなと思って運営しています。
有機農業の実践と体験と提案ということですけれども、先ほど関根さんのご紹介でもあったような自給的な農業の営みというのも大きくやっています。水稲はほぼ販売ではなく自給用で、メロンやミニトマトを中心とした無潅水ハウスの栽培というのは有機認証を取っていますが、こちらは主に販売用。そのほかに雑穀や葉野菜、ハーブなどを作っています。私の父が元々農業の試験場で働いていた研究者でして、チャルジョウ農場という名前では30年以上、農薬や化学肥料に頼らず実践しています。いまこの栽培しているもので共通していることは、有機認証を取っていない畑においても、農薬や化学肥料、慣行の動物性堆肥は一切使用していないことと、あと種子も自家育種、自分たちでタネを採って育てているものや在来種・有機種子を使っています。
2. 農林水産業を次世代につなぐために
時間が限られているので、さっそく私が過去5年間、農業を細々とやっている中で課題と感じている事や、農林水産業を次世代につなぐために何が必要かということをお話したいと思います。
課題として、まず有機農産物の販路拡大が簡単ではないということがあります。世界中でもそうですし、日本でもオーガニックや有機農産物の需要が高まっているというデータはもちろんありますが、一小規模農家としてはやはり販路、きちんと適正な価格で販売していくということがすごく難しいです。理由を考えてみたら、収穫期が集中する。例えばミニトマトが採れる8月というのはどこでも採れるんです。そういったことだとか、価格競争だとか、あと自分が農業をやっていて、マーケティングの知識不足というところもありまして、大きい企業だとか、そういうところに乗っかるのが難しいというようなこともあります。では、それを解決するためには何が必要かというところで、国や自治体が中心になって、地元の学校や企業と連携した買取強化支援というのが出来ればすごく良いのではないかと思っています。
というのは、販路拡大が容易ではないと言いましたが、もちろんまったくないわけではありません。例えば家でしたら、イオングループで有機認証を取っている農産物をいくらでも売りたいだけ売れるということはあります。ただその価格が1年中、有機農産物を栽培するのに必要な労働を考えると、ちょっと安いのではないかと思ったりだとか、やっぱりスーパーに卸すとなると、フードロスのことがすごく大きいと思います。流通の過程できっと捨てられている廃棄量というのがあるというのを考えると、すごく愛情を持って一生懸命育てたものを捨てられたら嫌だなあというところもあるので、地元の学校とか顔が見えるフェイス・トゥ・フェイスの関係性を作って、フードロスも少ないし、受け取る相手も持続可能な農業の支援にもなる、健康にもつながるというところのシステムができるのが一番ではないかなというふうに思っています。
どのようにというところでは、価格差を考慮した費用の負担を自治体が例えばしたりだとか、オーガニックで採れた農産物は栄養価が高いことが多いので、栄養士にそういったことの研修を受けてもらったりだとか、企業支援、オーガニックの農産物を購入する企業への資金的なサポートだとか、そういったものを国が主導でやっていただいたらいいのではないかなというふうに考えました。
販路というところでは規格外が多いという点があります。これは有機だけではなくて、ほかの農産物もそうですけれども、規格外というものが農家としてはすごく出るんですね。ただその規格というのは何かというと、あくまで流通をする上で、扱いやすいまっすぐなキュウリだとか、そういった厳しい規格があるということがあります。それで消費者に安全性の理解ということを深めていただいて、形やキズのこだわりを変えたりだとか、もちろん流通の問題があると思うので、流通の多様化、消費者に直接販売するだとか、そういったものを増やしたり、情報伝達をしたりということがすごく重要ではないかというふうに考えています。
課題の2つ目に持続可能な農業の指導者不足というのを挙げました。私の場合には父が有機農法を何十年もやっていますので、父から教わることができますが、ウチに来る若者を見ていると、有機農業をしたくても教えてくれる人がいないということを言っています。それで情報不足というのも挙げました。もちろんYouTubeとか開けると、色々な情報があるけれども、体系的に教わるというのはなかなか普通の農業大学校だとか、JA主催のものとかでは難しいことが多い。それで国・県や民間も含めてですね、指導体系の整備だとかネットワークというのを進めていけたらいいのではないかと思っています。
どのようにというところでは、有機農業、持続可能な農業を指導する指導者の研修費用の助成だとか、今も農の雇用事業だとか、そういった助成事業がありますが、それを指導者側が使いやすいように柔軟にしていただいたり、書類の簡易化だとか、そういったこともしてもらえたらいいなというふうに思っています。ネットワークづくりとしてはクラウドファンディングなどを使って、持続可能な農業をやっている人たちのオンラインのネットワークなどがあったらいいのではないかと考えています。
課題の3つ目として、画一的な支援金というのを挙げました。これは実際につい最近、家の農場で研修してくれている大学生に起きたことですけれども、農業次世代人材投資基金という新規就農の人に向けた5年間までもらえる助成金があります。それを有機で受けたいというふうに2つの自治体の農林課に行ったところ、有機での新規就農は成功例の事例がないから難しいということで、すごく後ろ向きの対応をされまして、この次世代人材投資基金を申請する時点でほぼ断られたような扱いを受けてしまいました。これはすごく残念というか、もったいないというふうに思っています。国も2050年までに有機農産物を25%まで伸ばすということを言っていますので、経営規模の有無だとか、どれだけ収益を上げるとか、大規模化しない場合でも、有機をやりたいという若者に対して、柔軟に給付できるようにするだとか、研修終了後にも続けられるサポートというのができたらいいなと思っています。というのは、せっかく新規就農しても農業は離農率、離職率がすごく高い分野というふうにも言われていますので、それができたらいいのではないかと思っています。
いま言った離農が多いという原因の一つとして次の課題、4つ目に挙げた収入が不安定になりやすいというものもあると思っています。これはみなさんご存じのように、天候や市場の影響を受けやすいということがあります。それで国として持続可能な農業を増やしていきたいという思いがあり、環境破壊をできるだけ抑えるという意味でも、国レベルで一次産業、農業だけでなくて林業、漁業もそうだと思うんですけれども、インフラとして一定の経済的な補償をするということが何でないんだろうと逆に思っているんですね。ほかのビジネスと同じように競争社会であること自体がおかしいなと思っていますが、その一つとして例えば、ベーシックインカムのような仕組みの導入を一次産業について考えるのが大事かなと思います。
5つ目に耕作放棄地の増加ということで、私たちが住んでいる西会津町も、もう本当に過疎化・少子化に伴って農業者も高齢で続けられない、また獣害といってイノシシやサルの影響でもう食べ物を作れないと言って辞めてしまった方が多いんですね。あとは田舎の地域社会の期待値が高いというふうに書きましたが、例えば畑として作っていない場所であっても、畑をいざ借りてやろうとすると、雑草が生えているものは、あまり喜ばれないというか、むしろ嫌がられて、翌年には貸さないと言われたりするんですね。
耕作放棄地を減らすためには、獣害と言っていますが、森が整備されていないことも原因なので、今日は林業の話もありますけれども、森の整備をもっと進めるということだとか、あと防御柵、畑を防御するための柔軟な助成だとか、あと地域住民の意識改革と書きましたが、耕作放棄地になってまったく手をつけないか、除草剤をバンバン使うという、その二択ではなくて、畑を使うことを良しとしてもらえるように、何かできたらいいなというふうに思っています。その方法としては、森の整備ができる個人・団体の育成に対する補助だとか、十分な検証と評価、防御柵とか住民への説明と合意形成、こういうのができたらいいなと思っています。
3.日本から世界に向けてメッセージ
最後ですけれども、日本から世界に向けてメッセージということで、10月にもこういったお話をしたいと思っていますが、それは〝Mottainai(もったいない)〟という日本語です。ケニアのマータイさんが流行らせてくれた言葉をもう一回、再流行させたいなというふうに思っています。いま世界全体の食料自体は飢餓をなくすくらい生産量としてはあるはずなのに、食料分配の不公平によって、飢餓だとか貧困拡大というのが起こっています。それをなくすために、国際機関からの発信だとか、フードロスをなくすために消費者意識を変えていく。それから地域内でできるだけ資源が流通するような技術開発の普及。あとは国際的な企業の乱獲だとか、そういったことへの規制が必要ではないかと思っています。
次にお金の流れを変えようということです。儲かる、お金になるからという理由だけで、食料の不公平な分配だとか、家畜の餌を育てるためにアマゾンの森を切り払うだとか、大量に魚が獲られて捨てられて廃棄されて、あと温暖化の影響もありますけれども、サンゴが失われたり、日本だとか先進国には魚は送られているけれども、現地の伝統的な漁業をやっている方は飢えてしまっていたりだとか、そういうことはすごく残念だなと思います。それで国際的な規制だとか、そちらの消費者の意識改革、教育的なことだとか、地域通貨やギフトエコノミーの流通などで、お金の流れがもっと人や地球環境に貢献できるような形で、変わっていく仕組みができたらいいなとすごく思っています。
そして国境を越えてつながろうということで、現在の状況は一国だけでは変えられないので、国際的に連帯を強化していって、大規模でスピード感のある規制だとか、システムづくりの実現を可能にしていくことが必要ではないかと思っています。方法としては横断的な、農業だったら農業だけではなく、農林漁業だとか健康医療、色々なことへの影響も含めた横断的な調査研究だとか、あと教育ですね。持続可能な暮らし、社会の実現のための教育費をしっかりと予算化してほしいなという思いもあります。あとは地域の知恵、伝統的に伝わってきた方法というのは自然の恵みを搾取するのではなくて、持続可能な形のものがすごくたくさん眠っていると思うので、そういったものを共有したりだとか、ほかのところとつながる、国際的なネットワークを作ってつながっていくということが世界に向けてのメッセージというか、これからみんなでやっていけたらいいなと思っていることです。ちょっと早口になってしまいましたが、以上でおしまいです。ありがとうございました。
■杵塚歩さん(資料はこちらから)
1. 私の生業と暮らし
みなさん、初めましてとこんにちは。お久しぶりの方もいらっしゃると思いますが。
杵塚歩と申します。いまご覧になっていただいているように、「ちいっとらっつ農舎」という屋号でいま現在、活動しています。
いま見ていただいている写真は新茶の頃の手摘みをしているところの写真です。ほとんどの人というか、私以外は全員、お茶農家ではない人たちが来て、お茶摘みをしている様子です。そんなこともおいおい何故かということもお話したいと思いますが、簡単に自己紹介をさせてください。私自身はもともと静岡県北部の藤枝市の出身でしたが、大学で一度、海外に出ていて、それからまた帰ってきて、2003年から農業をしています。最初の頃は父親のもとで一緒にやっていましたが、2019年に独立して、ちいっとらっつ農舎という屋号で農業を始めました。ちいっとらっつ農舎代表と言っても、1人しかいないので特にそれが代表だからと言ってすごいというわけではありません。
「ちいっとらっつ」とは実はこの地域の方言で、少しずつという意味なんですね。なぜこの言葉を農舎に使ったかというところに、私自身が2年前に独立したときの思いが込められています。2003年に就農した当時、父親がやっているのは主に無農薬で、お茶づくりを中心に農業をしていましたが、やっていた中で色々と疑問に思うところがありました。それは有機農業と言っても、その農業で使う資材、有機肥料の中身を見てみると、必ずしもすべてがその地域から来ているものではなかったり、あとは生産規模がだんだん大きくなっていくと、その工場もそうですし、使う機械もそうですし、その規模もだんだん大きくなっていくんですね。1つの作物に集中していけば、そういうことになると思いますが、それがはたして自分の住んでいる地域の豊かさというものを表現しているのかどうなのかというところに疑問をすごく抱くようになりました。それで自分の思っている農のあり方というか、それを作る生産物であったり、自分の取り組む活動を通して表現したいということで、2年前に思い切って独立をしたという経緯があります。
いま現在は農薬・化学肥料を使わないお茶の生産。お茶もいろいろな種類があって、先ほどの新茶の手摘みをやったりだとか、あとは一般的な煎茶だったり、紅茶も手摘みの紅茶と機械摘みの紅茶を作ったり、三年番茶といわれる耕作放棄地の茶木を伐採して作るお茶があって、そういうものに取り組んだりしています。あとはミカンや梅を生産したり、冬の間は糀を加工したり味噌を加工したりということもしています。
パートナーはポラーノ農園という屋号でやっていて、夫婦ですけれど別々の屋号というか農園でやっていて、米と大豆と養鶏を中心に、小麦もやっていますし、色々なものを2人で併せて、さまざまなものを「ちいっとらっつ」作っています。少しずつと言っても、それなりに家族の生計が立つ規模だとは思っているんですけれども、そういうことをやっています。
いま子どもが2人いまして、家もオフグリッドにしてできるだけ、自分たちが信じないもの、例えば原発であったり、そういうものに依存しない暮らしを目指して今の形に至っているところです。
2.農林水産業を次世代につなぐために
農林水産業を次世代につなぐためにということで、いくつか取り組みを紹介します。まず持続可能な生産です。一括りで有機農業であったり、オーガニックという言葉で括られる農業の中には、本当に色々な多様な形があると思っています。特に海外の現場では、いまオーガニックという言葉が大きな企業に乗っ取られようとしているという危機感を抱いています。そのオーガニックに代わる概念というか、言葉としてアグロエコロジーという言葉が紹介されたり、使われ始めていたりというように、有機農家として取り組む中で、何が持続可能なのか、自分たちが目指すところなのかというところは、明確にしなければいけないと思っています。
それで私自身の農業としては、できるかぎり地域にあるものを、地域の資源を循環させるということで、いまご覧いただいている写真はお茶畑ですけれども、お米を作っているので、お茶畑に田んぼから刈り取った稲を敷き込んでいるところですね。あとは麦も作っているので、麦わらであったりだとか、ニワトリを飼っているので、鶏糞を入れたりという、そういうできるだけ地域にある資源、あとは地域に酒蔵があったり醤油蔵もあるので、そういうところから、普段であれば産業廃棄物として棄てられてしまうような醤油粕や酒粕というものも畑に戻すという、そういう取り組みをしています。
やはり何を土に還すかということが循環する農業、持続可能、将来的にも続けていける形の生産という中では避けて通れない道だと思っています。これは今ある形が最終的な形とは思っていなくて、ずっと模索していくものだというように考えています。
次の取り組みとして、農家だけではなくて、いかに周りを巻き込んでいくかということも大切にしていて、色々な交流会であったり、ワークショップであったり、体験のようなものも企画しています。いまご覧いただいているのは味噌作りですけれども、この味噌作りというのも単発のものではなくて、実は米作りから始まって、田植えがあって、田んぼの中で稲が育っていく経過も見ていただいて、稲刈りをやって、そこで採れたお米を糀にして、お味噌にします。そういう一連の流れを大人も子どもも体験を通して、体で感じてもらう。あとは舌、食べて感じてもらう、手を動かして感じてもらう。そういうことを例えば今の大豆の自給率の話であったり、だんだん米生産が地域の中で難しくなっているという、そういうことと絡めながら、知識と一緒に併せて、体験を提供する場所というのも、実は農業を続けていく上でとても大切にしていることの1つです。
次に里山・コミュニティをどう維持していくのか。私の地域もそうですけれども、だんだん過疎化が進んでいます。どんどん都市部に流れていったり、農家の高齢化もそうですよね。そういう問題が大きくなっていく中で、若い世代で農業をやっていくことは、毎日、ヒリヒリと感じる痛みに近いような感覚を伴ってくるものです。それで里山というものが何なのかというのをみんながまず理解するという、この前の段階ですね。実際に来てもらって、色々な人が農作業を体験したり、食文化を感じていく中で、一緒にコミュニティをみんなでどう維持していくのかを考える場作りということもやっています。
2年前からパートナーのボラーノ農園で、田んぼ講座というのを始めました。いままでは農家が農地を守るということが当たり前のように行われていたわけですけれども、それがここに来て、農家の高齢化であったり、過疎化であったり、そもそも農業を続けていくことが難しくなってきている状況の中で、農家が例えばお米作りに興味がある人に、田んぼの作り方、トラクターの運転の仕方、草刈り機の使い方というのを、本当に基礎の基礎から教えて、今は一緒に田んぼを守っていくという取り組みもしているところです。
3.日本から世界にむけて
それで左側の図が今、私たちが取り組んでいる農園の形というか、理想だと思っていることです。多品目を少量で作るということは、実は豊かさを農園の中に留めておくということです。例えばニワトリを飼っているので鶏糞が出ます。それを畑に入れて土を豊かにして、そこで採った草を今度はニワトリに食べさせたり、稲わらだったり、大豆わらだったり、そういったものをまた土に還していくという、農園の中に循環が起こっているんです。私たち自身、人間もその循環の中にいるので、この中ではまったくゴミも出ないですし、必要ないものというか、不要なものがいない。
生き物だとか小さな虫なんかもそうです。今までは虫嫌いだった人たちが茶畑の中にいる虫だとかの役割を知ることで、気持ちの中で生き物たちとの距離が縮まるというか、実は彼らの役割だったり、そういったものを理解していく中で、自分たちの役割ということも考えるようになる。この自然界の中で人間がどう行動することが環境に負荷を掛けないか。そういうことを考えるきっかけになると思っています。
もう1つの点ですね。ジェンダーのことは、私は必ず、こういった場があれば発言させていただいています。日本が世界的にみても、ジェンダーギャップが大きな国というのは、やはり農業の現場でも深刻な問題だと思っています。農業というのは男性的なイメージがあるのかもしれないですけれども、なかなか女性だと手伝いにしか見られないというか、そういう立ち位置にどうしても置かれてしまうんですね。でも実は女性がもっと入って活躍することで、食の多様性とか食文化の点まで行なって、作ったものをさらに加工して、その地域ならではの保存食であったり、そういったものを守っていくという、そういう活動も盛んになってくると思っています。
先ほど新規就農の話を小川さんがされましたが、私も同じような苦い経験をしたことがあります。友人で農業を始めようとしていた女性ですけれども、その方も新規就農の補助金を受けようとして、申請するときに、県の職員の方から「あなたは5年以内に結婚したり、子どもを出産するという予定はないんですか。もし予定があるとしたら、この計画は実行できるんですか」というようなことを言われてしまったんですね。まだまだ実際に農業の現場というか、社会全体がそうなのかもしれないですけれども、そういうことがまかり通っているという、残念な状況にあります。それを、小川さんを含めて私自身もそうだと思っているんですけれども、こういった形で女性が農業の現場に入って、主体的に取り組んでいくということを見せていくということが社会を変えることでもあり、今後何か自分でやりたいと思っている女性に対しての刺激になればというような思いで続けています。
あとは日本に求めることとして、そういったジェンダーのことだったり、地域に根差した農業を守ってほしいということはありますが、まずは小農の権利宣言の批准を日本が拒否しているという、とても残念な状況にあるので、そこを批准してほしいということ。競争だとか、大量生産とか、そういう方向に有機農業を推進しながら持っていくのではなくて、どうやったらもっと地域を守っていけるのか。必ずしも規模が大きければ、地域の豊かさであったり、持続可能性が守られるのではなくて、今私がお話したような小規模であればこそできるというか、そういったことにもしっかり目を向けて、将来的なプランを作ってもらいたいと思います。以上です、私の発言は。ありがとうございました。
■天野圭介さん
1.私の生業と暮らし
よろしくお願いします。静岡県浜松市の春野町というところに住んでおります、天野圭介と申します。今日は皆さん、すごく素敵な背景で、自然の中でヒグラシの声が聞こえたりしていいなあという感じだったんですけれども、私は家のネット環境が不安定ですので、今日はネットカフェからです。
私も小農ということで、自家用の農を、百姓をやりながら暮らし、そして林業をやっております。色々と世の中には問題がたくさんありますが、まず暮らしからだろうということで、循環する暮らし作りというのを主軸において、暮らしから様々な発信をして生業につなげていくということを行なっております。今日は林業の方をメインでお話させていただきたいと思っておりますので、詳しいことはホームページ「ONE TREE・循環する暮らし」を見ていただければと思います。
こういうふうに木に登っていたり、循環する暮らしを行なっていく上での周りの環境ですね、小さな林業だけではなくて、小さな土木だとか、小さな造園だとか、小さな農とかいう、色々なことを小さくやっていって、トータル的に循環した環境を作っていくという、そういったことを生業にしております。また、これは「あうんユニット」という複合発酵技術という微生物技術を使ったトイレですけれども、汚泥がまったく出なくて、すべて分解消失して、それで出来た水を畑や田んぼに使って非常に良い土や作物を育ててくれる、そういったトイレの普及ということも行なっております。
そんな中で仲間と一緒に小さな林業ということで「天竜小さな林業春野研究組合」というものを立ち上げて、春野地域を中心に小さくて持続可能で環境保全型の林業手法というものを実践しています。奈良の吉野林業で長い間、山の中に作業道という道をつけて、そこで山づくりを実践されてきた野村先生という師匠に習いながら林業を進めています。皆さんは林業にどれだけ知識があるか分からないところがあるので、最初に簡単にお話しようと思います。
林業というのは人が人為的に植えて、山で作物を育てる場所ですね。スギやヒノキというのが林業で一番代表的な樹木になりますが、山にあった木を切って、そこにスギやヒノキを植えて、そこに生えてくる草を刈りながら材木を育てていく。林産物はまだ色々ありますが、そういった林産物を育てていくことが林業というふうに言われています。
私たちは主に作業道を使って、色々と木を使うために、山に生えている木を出さないといけないわけです。それではどうやって出すんだという話ですが、色々な方法がありますが、いま一番一般的な方法というのはバックホーとかユンボと呼ばれる機械で道を作っていって、そこに車両が入って、人が入って、作業をして、トラックだとか車両に材木を載せて出すという方法です。私たちもそういったことをやっていますが、道を山につけていくという作業はたいへん便利で経済的で効率的な一方で、ちょっと危ういところもあって、へんなところに道をつけてしまうと、雨で土砂がザーっと流れていったりだとか、ひどい場合には下の集落に土石流が流れていくというようなことも起こってしまう危険性を持っています。そうしたことから私たちが作っている道というのは、どんなに雨が降っても壊れにくい道をつけていくことを一番の念頭に置いています。そして自然に逆らわないこと。自然には法則というのがあって、やってはいけないことはやってはいけないんですね。やってはいけないことは何なのかというのをちゃんと理解して、それに経済性とか効率性とかいうのは、その点では度外視しないといけない。まず自然の法則を優先するということを一番大事にしております。
これは地図ですが、まず道を作る前に地図を見て、どこに道をつければいいかというだいだい検討をつけます。それでこの赤いところというのは、道をつけるのが危険な場所。緑のところは山の尾根にあたる部分で安全なところ。黄色のところは現地を見てみないと分からないちょっと怪しいところ。こういった形で地図を見て、山の地形を見て、だいたいここに道をつけられればいいとあたりをつけておきます。それで今、青い線で出てきたような、それではここに作業道を作っていこうというように計画を作っていきます。
一番最初にメインの道を通して、そこからは収穫用の枝道とか支線と呼ばれるものをいくつも作っていって、最終的に路網(ろもう)という網目のように張り巡らされた道を山につけていきます。これによって人が入れるようになって、材木をすぐに出せるようになって、かつこの路網が農村でみる棚田のように、その山に棚地形を作っていくことになるので、山の保水力が上がるということが起こります。材木の成長がよくなったりだとか、土砂が流出するのを抑えてくれるというような働きを持つようにもなります。これが実際の作業道で、こういうふうに山の中に道をつけていくんですが、道幅は2.5メートル、これ以上はぜったいにつけないというやり方でやっています。通常ですと4メートルとかもっと幅広い道がつけられることもあります。我々が2.5メートルにこだわってやっているというのは、この法面(のりめん)と呼ばれる斜面の部分があるんですが、道幅が2.5メートルより広がれば広がるほど、斜面をもっと高く切っていかないといけないので、道が崩れやすくなるからで、そういったことはしない。さらに道をつけていくには立っている木を切りますので、空がパカンと空くんですよね。この道幅が広ければ広いほど、空が空くのが広くなりますので、そうするとそこから風がザーッと林内に入って、残している木がブラブラ揺れて、タテ断裂といって繊維の断裂を起こしたりとか、ひどいときにはザーッとなぎ倒されてしまったりだとか、山を荒らしてしまう結果になります。それで可能な限り自然の許してくれる最小限の幅で2.5メートル、これは長年の実践の中から編み出された道幅で、それを守ってやっています。
それで道は2トンダンプ、こういった車両が入って、切った木を積んで出荷します。僕たちはとにかく楽しく山をやろうということで、色々な政策とか経済的な制約とか色々あるんですけれども、山をやっている今のメンバーはみんな百姓をやりながらとか、生業を持ちながら、副業で林業をやっています。この木も市場へ持っていくというのが一般的ですが、僕たちは直接、消費者とつながりたいというので、仲間の知り合いの大工さんが一戸新築を建てるので、山から木を買わせてくれと言ってくれて、この木をそのまま地元の家族で製材を営んでいる小さなところにお願いして、木を挽いてもらって、乾かして、家を建てるというプロジェクトに今取り組んでいます。こういった小さなやり方というのは非常に自然の理にかなっていまして、小さなやり方というのは多様性を生み出すんですよね。自然の環境の中にある様々なニーズとか様々な変化を小さなやり方であれば、それに対応できるんですが、大きくて画一的なやり方というのは、そういったものに対応できないので、自然を壊したりだとか、破壊の方にエネルギーを使ってしまうようなんです。
この写真にあるように、やはり道というのも農業や漁業と同じように今、大規模化していますので、大きな機械が入って、たくさん木を取って、その結果、道が崩れる、山が崩れる、土砂が出る。山にはいっぱい砂防ダムというのもあって、コンクリート構造物を作ってありますが、この砂防ダムが山から本来流れるべきだった砂や泥を水に溜め込んで、抱えきれなくなったときに一気にザーッと流れてしまうというようなことも起こってしまっているのが現状です。これは私が住んでいる目の前を流れている気田川(けたがわ)という川ですけれども、1日でもちょっと強めの雨が降ると、もうこんなに泥濁りになってしまう。川幅が一気にダーッと増えて水が濁って、この水がダーッと下流まで海まで流れていく。この間の海のオンライン・シンポジウムのときに、登壇者の二平さんという方に教わったんですが、川が海に注ぐところに小魚だとか小さな貝がたくさん棲んでいる。そこは非常にミネラル豊富で豊かな環境なんだそうです。そういうところに泥が被るともう、そこの生物は減ってしまう。生息環境が奪われてしまう。そういったことが起きています。
2. これからの山づくり(次世代につなぐために)
ハッキリ言って、国の政策だとか県の政策だとかは滅茶苦茶なんですよね。何が滅茶苦茶かというと、全体的なビジョンがない。山というのは国土そのものですから、どういうふうに山・国土を保全していくのかというビジョンも方向性も、しっかりしたものがないんです。
そういった中でやっていくにはどうしたらいいかと自分なりに考えると、この道をつけるやり方でやっていく場合には、人が自然に道を入れることを許してもらえる範囲、この道を入れられる場所、そういった山を特定していくことができますので、必然的に里山の範囲を決めていくことができるんですよね。それ以上で入れないところはもう、奥山自然林という形で人は手を出さないという形にすれば良いなと思っています。また所有制というのも、非常にもう限界が来ていまして、山の所有者はもう高齢化していますし、境界も分からないし、私の持っている土地は何処だと分からない人がたくさんいます。先ほどベーシックインカムという話が小川さんからもありましたけれども、私は本当に農林漁業者というのは、ベーシックインカム、公務員にしてしまう。ここの生業を営むこと自体の価値というのが今何もかえりみられていないですよね。でも、その生業を営むこと自体に価値があるので、それをしっかりと認めていただくということが重要ではないかなと思っています。
木材の生産というのは、畑の作物と一緒で、色々な技術が発達しているので、ここの山ではどれだけ成長して、どれだけの木が採れるかというのがもうパソコンで弾けば出る時代なんです。それをちゃんと出して検討をつけて、それに見合った消費をしていくということにすれば良いと思うんですよね。それを市場経済に任せて、もう好きなだけ、売れるだけバンバン売ってしまえということをやっていると、山がハゲになってしまう。そういう市場経済というのは本当にもう限界に来ているというか、これからの時代にはまったく機能しない仕組みになってくると思うんです。
これは私の仲間の大石さんという方が書いてくれたイラストですけれども、山と海と農地というのは、こういった形でつながっています。山でやったことは里に影響を及ぼすし、里で行なったことは川に影響を及ぼして、そして海につながっていくという、これは当たり前のことですよね。でも、この当たり前のことが、各分野で切られてしまって今、見えづらくなっている。昔の人たちは川によく竜という名前を付けたりしています。竜が登る天竜川なんてまさにそういった名前ですけれども、このつながりが、川のつながり、水の流れ、そして竜の動きのようにつながりとして見えていた。そういったことが今の世の中はできなくなってしまっているというのは非常に大きな問題だろうと思います。
3. 日本から世界に向けて
最後に、日本から世界に向けてということで、1つ言わせていただきます。私は小さな農業、小さな林業、土木業とか造園業とか、建築も自分で線引きとかして色々やってきた中で、自然というのはすでに我々が生きていくのに必要なものを十分なほどに与えてくれているんですよね。それに気づけるかどうか。そして、それを公平に分けられるかどうかというのが私は問題だなって、そこが大事なところだなと思っています。すでに与えられているものに感謝して、それをみんなで分け与える気持ちになれば、今世の中で抱えている問題だとか林業が抱えている問題、農業・漁業が抱えている問題というのは、もう何だったんだろうこれって思うくらい、スーッと晴れていくと思いますね。そういったビジョンが見えているんですけれども、現実に変えていくためには、1つひとつ変えていかなくてはいけない。そういった中で、私は何が一番、最初になるかなと思ったら、やはり健康な食と水、これをみんながしっかり食べて飲んで、自分の意識を変化させていくということが一番大事なことなのではないかというふうに思っております。
駆け足になりましたが、林業の現場はこういった形ということでネットカフェからお送りいたしました。
■澤大輔さん、岡崎良平さん(資料はこちらから)
1.私の生業と暮らし(澤)
こんにちは。澤大輔と言います。千葉県の夷隅郡御宿町の代々漁業者の家に生まれました。一度は会社員として2年ほど勤めましたが、昔から漁師をやりたいという気持ちが強く、親の後を継ぐことにしました。現在は御宿岩和田漁業協同組合に所属し、親が所有している吉野丸の船頭をして、主にキンメダイ漁で生計を立てています。千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合では、キンメ部会の副部会長を担当しています。
年間の仕事についてです。キンメ漁期以外には、海士漁(あまりょう)でアワビやサザエを採ったり、イセエビの刺し網漁をしています。キンメダイ漁が7月から9月は禁漁期間になっていますので、その間は海士漁とイセエビ漁をやっています。キンメ漁の漁期は10月から6月と決まっていて、日の出とともに漁を開始し、操業時間は4時間と決まっています。日の出前に約2時間くらいかけて漁場に向かい、漁を終えると港へ帰港して、魚を組合のセリ場へ運び、水揚げをします。その後、翌日の仕込みを終えると、キンメ漁の1日の終了です。定休日は毎週土曜日で、ここ1年くらいはコロナの関係もあり、豊洲市場の定休日の前日も休みになっています。
2.農林水産業を次世代につなぐために(澤)
親の代の頃は、カツオ漁やイカ漁で主に生計を立てていましたが、15年から20年くらい前から、カツオやイカの資源が激減し、そしてカツオの相場の下落などで、生計が苦しくなっていき、この時期から相場、漁獲の安定していたキンメダイ漁に移行するようになりました。
勝浦沖の漁場は、今のところ健全で、資源も安定していると、自分は思っています。これは当地区で1977年から実に45年間もSDGs(持続可能な漁業)を実施しており、厳しい漁獲規制のお陰だと思っています。あとからキンメダイ漁を始めた私が、キンメダイ漁で生計を立てていけるのも、これまでの漁獲規制や資源管理のお陰だと思っています。
このキンメダイ漁場では現在、16船団に所属するうちの計209隻の船が操業をしています。自主的に操業規制などを設けて、資源の保護を行なっています。資源の状況をつかむために、県の水産研究センターや水産事務所と連携して、漁業者自ら放流調査なども行なっています。放流調査は1984年から始まり、勝浦沖ではこれまでに23,724尾のキンメダイに標識を付けて放流しました。その結果、勝浦沖のキンメダイは最南端ではマリアナ海嶺にまで回遊しているということも分かりました。現在も水産研究センターでこれまでの放流結果や漁獲量のデータなどを基にして、キンメの生産、産卵状況、資源量などについて、解析してくれています。
持続可能な漁業への取り組みとしては、科学的根拠とすり合わせた資源管理も必要で、これからも研究機関に負うことが大きいと思っています。産卵期を保護するために、7月から9月までの3か月間を禁漁にしていて、また25センチ以下のキンメダイは、その場で再放流するように決まっています。1歳魚を保護するために、300メートルより浅い場所でのキンメダイ漁を自粛しています。禁漁期や漁獲サイズは、現在もみんなで厳重に守っています。漁獲量の制限をするために、主に操業時間や使用漁具、餌の申し合わせなども行なっています。キンメダイ漁の漁場の保護のために、自主的に監視を行なっており、いろいろな問題・課題に対処するために、県内や1都3県のキンメ漁業者と定期的に協議も行なっています。
一方ではキンメの付加価値をつけるために、4年ほど前から11月以降に漁獲される脂の乗った700グラム以上のキンメダイを「外房つりきんめ鯛」として、行政や市町村と一緒になってブランド化を始めました。釣った後の処理を徹底して、品質保持改良に努めています。地区のイベントと絡めてブランドの宣伝を行なったり、資料作成なども現在、行なっています。
3.日本から世界にむけて(岡崎)
千葉県鴨川で同じくキンメ漁をしています岡崎と言います。私が現在、一番気にかけていることを話してみたいと思います。
2030年までに持続可能な水産業を構築するために、一番重要なことは我々が現在漁獲している魚類や貝類の資源を今後もどう維持していくかではないかと思います。資源は科学的なデータに基づいて管理していくことが求められますが、資源が減っているか増えているかということを一番知っているのは、我々漁業者しかいません。研究者の判断とは別に、我々沿岸漁民でも出来る資源管理を自主的に行なっていくことが大切ではないかと考えています。漁業者の1人が自主規制しても効果はないので、漁業者の組織化が必要です。しかも水産資源、特に魚類は回遊しているので、全国規模で資源管理する必要があるかと思います。
我々は現在、次のような問題があると考えています。日本の漁業は大型船で大量に獲る漁業だと思われているかもしれませんが、9割が小規模家族漁業の漁船漁業や養殖漁業です。千葉の小規模漁業者たちは昔から、協同組合に結集して、沿岸の魚資源を守るために厳しい規則を作りながら操業する、持続的な漁業をして沿岸漁村を守っています。近年、熱帯域での大規模巻き網によるカツオの過剰漁獲で、日本に北上しているカツオが激減してしまったと言われています。その結果、日本の小型船のカツオ漁が不漁となり、経営不振になっています。熱帯域での大型巻き網のカツオ漁獲量を減らしてほしいのが我々日本の沿岸小規模漁業者の願いです。またスルメイカはこれまで安定した収入源でしたが、近年さっぱり獲れなくなってしまいました。南下するスルメイカを大型漁船が大量に漁獲するようになり、乱獲で獲れなくなったのではないかと考えています。沿岸での小規模漁業は地場産業として、地域の食文化の維持、そして健康維持のためにも、農業生産者との連携が重要と考えています。沿岸小規模漁業を維持していくために、世界規模の施策が必要ではないでしょうか。
資源の増減に大きく関係しているのではないかと思われることに、近年の温暖化の問題があります。アワビやサザエの餌になるカジメやアラメなどの海草が減ってきています。これは水温が高くなってきたためと考えています。海草が育たないと磯焼けといって、磯の魚介類が激減してしまいます。またこの辺では馴染みのなかった南方系のブダイやアイゴが増えています。彼らは海草類を食べるので、磯焼けに関係していると思います。海草の成長は山からの栄養分が影響しています。農薬が使われれば沿岸にも影響し、我々の磯根資源にも関係してきます。私はキンメ漁以外に親から引き継いだサバ漁もやっていますが、北からのサバの南下が近年、遅くなってきています。通年ならば12月頃からサバ漁が始まるのですが、この10年、15年は2月上旬から南下するようになってきています。この影響で漁期が短くなり、また価格が安くなり、収入が減っています。温暖化は我々沿岸漁業者にとっても、大きな問題になってきています。温暖化によってブダイやアイゴが増え、沿岸の魚種が多様化してきていますが、これらの魚はこちらでは馴染みがなく、市場価値はありません。これらの魚の商品化も将来、重要になってくると考えていますが、漁業者としては大変難しい問題です。
もう一つの大きな問題に後継者問題があります。漁業者が高齢化してきていますが、なかなか若い世代が入ってきてくれません。親としても現状を考えると、はたして後を継がせていいものかどうか迷っています。漁業者を確保するには、やはり豊かな海にしていくことが重要かと思います。キンメに関しては漁獲制限を続けていけば、後継者が維持できると思います。
最後に教訓として、回遊魚資源は変動が大きく、漁業経営は安定しないので、回遊魚に頼る漁業は従として、地元の資源を守りながら持続する沿岸漁業を主とすれば、漁村だけでなく、街も活性化すると考えています。以上です。ありがとうございました。
■総括 関根佳恵さん(資料はこちらから)
非常に充実をしたお話をしていただいていますので、これをまとめるというのはすごく難しい仕事ではありますけれども、総括の試みということで、パネリストの方がたには事前にリハーサル、打ち合わせというようなこともしていただきましたので、それも踏まえながらいくつかの点をまとめてみたいと思います。
事前にお願いしたスピーチの内容というのは、こういう内容(注)だったわけですけれども、その中から、いま実際に若い世代で、日本で農林漁業を営んでいるみなさんが感じられている持続可能性ということ。SDGsに関する本なんかもだいぶ出て、私たちで理解したような気持ちになっていますが、実践している方々からみた持続可能性ということで、こういう点が出てきたのではないかと思っています。
持続可能性とは、地球が悠久の時間の中で形成してきた資源を減らさずに、次の世代に手渡していくこと。それを実現するためには循環する仕組みを、地域の資源を使いながら作っていく。それから住み続けられる地域社会、コミュニティを次の世代に残していくこと。農林漁業は規模を拡大すれば担い手は減っていき、地域社会は衰退するんだという、そういうメッセージも今日あったと思います。
また多様なつながり、関係を育てる、多様性を認め合うということも、共通して出てきたように思います。その中では私たちは農林漁業の持続可能性、食の持続可能性ということをテーマにしているわけですが、依頼したわけではないんですけれども、自然に医療とか福祉、エネルギー、教育とか、土木、造園、建築など、すごく幅広いところにつながっていくものだということを改めて確認できたと思います。またジェンダーの平等を実現することとか、都市農村の交流、世代間の交流。こういったことが重要だということも共通して見えていたと思います。
それから、持続可能性のための実践として、皆さんが実践していることは、本当にディープなと言いますか、オフグリッドの家とかですね。オフグリッドというのは、電気・水道・ガス、そういうインフラとつながっていない家、循環する家ということですよね。それから鉱物資源、原発に依存しないような自然の余剰で生きるということ。それから、地域に住んで流域単位で循環する仕組みを作っていくとか、有機農業、無農薬・無化学肥料の農業、アグロエコロジーとか、自伐型林業、沿岸小型漁船による漁業とか。それから手作り、手作業を大切にする。それらが生物多様性とか生態系の維持にもつながるというような話ですとか、それから都市農村交流を通じて、共感とか体感とかで、頭で理解するのではなくて本当に体で理解する、肌感覚で理解するような、そういうものが重要だということも教えていただきました。また海の資源管理については、特にニュースにもなっている大変に切迫した問題でもありますけれども、そういう中で色々な禁漁とか、そういう自主規制をされているというお話も出てきました。
そして持続可能性を何が阻害しているのだろうかということを考えたときに、気候変動、これは私たちの活動に由来する人的要因によるものですけれども、質疑の中ではプラスチックの問題も出てきました。それから誤った効率性・合理性の追求ということで、「合理性の非合理」という言葉もあるわけですけれども、農業でも林業でも漁業でも、やっぱり大規模で人件費を節約することが効率的な経営だということがずっと言われてきて、政策もそれを支持してきたわけですけれども、やはり、それによって持続可能性がかえって掘り崩されている。私たちの生存の基盤が掘り崩されているということも見えてきたように思います。それから持続可能な農林漁業に移行するための支援体制、政策的な支援、それも決定的に足りない。欠如している。むしろ逆行しているところもあるかもしれない。そういうことも出てきたと思います。
その上で、持続可能性のために必要なことということで色々なキーワードが出てきたと思います。まず健康的な水と食に変えていくことで、私たちの意識や価値観が変わっていく。持続可能な暮らしや社会が実現できるということ。そして、自然はすでに生きるために十分なものを与えてくれているので、それをいかに公平に分け合えるかという社会のデザインであったり、私たちの暮らしを変えるということが必要だというお話もありました。それから農林漁業者、非農林漁業者という壁を越えて、みんなが関わっていく、学んでいくということも重要です。
それから気候変動対策として、2050年のカーボン・ニュートラルということがようやく共有された段階ではありますけれども、やはりそれを待ってはいられない。すぐに実質的な変革をしなければいけないということ。また誤った効率性・合理性を見直していく。市場経済の見直しという、そういうことも出てきました。そして政策のあり方としては、所得保障、ベーシックインカム、農林漁業者を公務員にするとか、ジェンダーの問題など、それから大規模な資源開発を規制したり、資金の流れを変える、小農の権利宣言の批准をというような、そういう具体的なお話もたくさん出てきたと思います。ほかにも特に、小川さんなどからは、具体的な政策提言も色々出ていたところですけれども、ちょっと繰り返す時間がありませんので、これで全体の総括の試みとさせていただけたらと思います。ありがとうございました。
(注)パネリストにお願いしているスピーチ
1. 私の生業と暮らし:ご自身の活動(農林水産業など)、家族と暮らし、今の暮らしを選んだ理由について、持続可能性とのつながりを軸にご紹介ください。
2. 農林水産業と次世代につなぐために:今、日本では農林水産業の生産者が減少し、高齢化しています。若手の皆さんからみて、若い人が農林水産業を始め、継続するために、どのようなことが必要でしょうか。
3. 日本から世界にむけて:2030年までに持続可能な農林水産業・食料システムを構築するために、どのような情報を発信したいと思いますか。