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【報告】FFPJオンライン連続講座 第6回 和歌山県・古座川流域での地域プラットフォームを拠点にした流域再生の取り組み

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家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)の第6回オンライン連続講座「和歌山県・古座川流域での地域プラットフォームを拠点にした流域再生の取り組み」が9月3日に行われました。講師はFFPJ常務理事で、紀ノ川農協組合長の宇田篤弘さん。以下は、講座での宇田さんの発言要旨になります。発言の中で言及されている資料はこちらからダウンロードしてください。

皆さん、こんばんは。ただいまご紹介いただきました宇田と言います。今日はよろしくお願いします。資料をたくさん作ってしまいましたので、50分の中で全部を詳しくというのは難しいかも分からないですが、そういう点では少し省略させていただきながら、話を進めていきたいと思います。

先ほど紹介していただいた肩書きのほかにも、NPO法人和歌山有機認証協会の副理事長や今日お話します農事組合法人古座川ゆず平井の里の代表、それから紀の川市では農業委員をずいぶん長くさせていただいています。地域とかかわりながら、紀ノ川農協の事業と運動を進めているところです。

今日のテーマは「和歌山県・古座川流域での地域プラットフォームを拠点にした流域再生の取り組み」ということでお話させていただきますが、実際にはコロナの関係で取り組みが十分進んでいるとは思っていません。ここへ行くまでの地域プラットフォーム作りだとか古座川流域での取り組み、そこに至るまでの取り組みをご紹介して、今日のお話とさせていただきたいなと思っています。

最初にですが、有機農業や環境保全型農業と言ったときに、その空間ですね、その地域の広がりをどんなふうに捉えていくのか、受けとめ方にいろいろな見方があるのではないかと思っています。特に環境保全型農業と考えたときに、自分の畑を見て、環境保全型農業と考えられる方もいらっしゃいますし、もっと広く地域を捉えて環境保全型農業と言われる方もいるのではないかと思います。2000年に有機農業研究会で有機農業の基礎基準というのが発表されて、その中にも「環境を守る」「自然との共生」「地域自給と循環」等々、食料の自給を基礎に据え、そして再生可能な資源・エネルギーの地域自給と循環を促し、地域の自立を図ると掲げていますが、このときの地域とはいったいどういう地域かということとか、それから「地産地消」や「地元の範囲」と言うとき、地域生産、地域消費の範囲というのはいったいどれくらいを考えているのか。昔は「三里四方の野菜を食べろ」と言われ、健康に良いと言われましたが、三里四方と言いますと、大体12キロ以内、東西南北に12キロぐらいの範囲、歩いて2時間くらいの範囲が昔の人の考えていた地域なのかと思ったりします。

明治になってから、合併で自然村(大字)から行政村(村)に変わっていきます。このときの村に変わる前の自然村、大字にあたるかもしれませんが、大体このあたりの集落が農業者の目線から見たとき、地域とか環境を考えるときに、非常に身近な地域、活動の範囲の地域ではないかと思います。それとその環境とか地域というのが、地球物理学的環境、生物学的環境、社会経済的環境というように、地球の歴史の中の発展というように見ることもできます。そんなふうに重層的に環境というのが成り立っているというところも見ていく必要があるのではないかと思います。

Think Globally、Act Locally

Think Globally、Act Locally(地球規模で考え、足元から行動せよ)という言葉は、環境問題を考える上で重要なフレーズとして世界中で使われています。先ほど見ましたように大字、集落というのが非常に大事だと思っていますが、この集落というのは、山林があり里山があり、ため池があって、水路があって、水田・田畑があるわけですけれども、共同体の共助によってずっと守られてきたと思います。

和歌山県の場合、この集落が1,597あると言われています。一級河川、二級河川が451本。それから紀の川、この川の河川が支流を含めて112本あると言われています。そして、ため池が県内に4,984あると言われていますが、集落の周りにこういう、ため池、水路、河川があって、その大きな水系でまとまって、右側の地図があります、そんなふうにつながっている。こういう共助の行動をしていくのは集落ですが、水系の広い範囲で流域のコミュニティーを再生していくということが大事なのではないかなと思っています。

和歌山県の農林水産業の状態・従事者

和歌山の農林水産業の状態です。特に従事者のところは、おそらく全国同じような傾向ですが、グラフの通り、担い手はいずれも減少しています。ただ林業就業者のところが2020年と2015年で変わっていないのが何故か分からなかったのですが、基幹的農業従事者のところ、それから漁業者のところも大体80%台まで5年間で下がっています。特にこの2015年以前の10年間の減り方と、2015年から20年までの5年間の減り方がほぼ同じくらいの数になっていますので、加速していると見ることができるのではないかと思っています。もう少し見ますと、2015年段階のところで29歳以下の担い手が470人、これは農業ですけれども、3万2千5百人に対して470人ですので、2%未満、1.45%です。この傾向は今も続いていると思います。なので、これからのところは深刻な、危機的な状態にあるという見方をすることが必要ではないかと思っています。

和歌山県の農業集落の特徴

先ほどからの集落の特徴です。これは元和歌山大学の大西敏夫先生が2017年にまとめられた資料です。左の方の区分ですけれども、和歌山の場合、ほぼほぼ中山間地域です。中間地域と山間地域で大体60%を超えます。平坦な地域が16%と、少ないのが和歌山の特徴と思います。

それから和歌山は果樹が中心で61%を占めている。近畿では17.6%、全国で8.9%に対して、多いという傾向、特徴があります。それで右側のグラフは資源のある集落、農地それから森林、ため池・湖沼、河川水路、農業用排水路というのが資源ですけれども、この資源を保全している集落がいくつあるかということを示しています。農地の場合は、475ですから大体52%、森林が13%くらい、ため池・湖沼が66%、河川水路が37%、用水路が75%ということで、森林とか河川・水路を保全している集落が少ないというのが、深刻な問題ではないかなと思っています。このように担い手が減少し、高齢化していくことで集落の地域資源を保全していくという機能も後退する。農業生産や林業や漁業もそうですが集落の機能が、担い手の減少と高齢化とあわせて後退しているということ。それから当然、そういうこととあわせて、生態系も大きく変化しているし、農村環境の絶滅危惧種が多いと言われたりもしています。これが集落の特徴です。 

*水源地の村、奈良県川上村

この写真は奈良県の川上村の水源近くになります。和歌山県の紀の川を遡って行きますと五條市に入ります。この五條市からずっとさらに遡って行きますとこの川上村に着きます。この川上村からさらに車で1時間、あるいは歩いて半日くらいかけてずっと入って行きますと「最初の一滴が生まれる場所」、紀の川・吉野川の源流があります。綺麗なところになります。紀の川の水は、吉野川を通じて和歌山県の紀の川になって、流れてきています。私が流域を意識し始めたのがこの川上村の源流です。2006年に温暖化防止イベントとして「紀の川環境フォーラム」が開催されました。わかやま環境ネットワークというところに所属していまして、いろいろな環境問題、温暖化防止の取り組みに参加させていただきました。

奈良県川上村「川上宣言」との出会い

このイベントが開催されたとき、実行委員会のメンバーで、公益財団法人吉野川・紀の川源流物語「森と水の源流館」の尾上事務局長とお会いしました。この方から川上宣言のお話を聞かせていただきました。『わたしたち川上は、かけがえのない水がつくられる場に暮らすものとして、下流にはいつもきれいな水を流します』。これは川上宣言の一文ですが、ある意味、非常に衝撃を受けました。そういう川上村、源流の村で暮らす人たちがこんな思いを宣言してくれていたことを知らなかった、ショックでもありました。

その後、何か行動をしていかなければいけないと、尾上さんともお付き合いが始まりましたし、毎年開かれる川上村のイベントに参加をさせていただきました。一方で環境ネットワークの関係ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のコミュニケーターにもなりましたが、十分な活動をできていなかったので、現在ではホームページから名前が消されています。また和歌山県立自然博物館というのは、実は私は単なる水族館だと思っていたのですが、実は自然博物館だったということも知りました。そこの方ともお知り合いになり、またその関係でSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定高校の研究発表の場にも参加させてもらって、つながりが広がっていきました。また川上村との関係では、食品メーカー、漁協、そういった人たちとの源流ツアーもして、徐々に流域につながる人が増えていきました。

奈良県川上村「川上宣言」

これが川上村の川上宣言です(下表)。またじっくり読んでいただければなあと思いますが、最初のところは先ほど読ませていただいたことです。それから2つ目が「自然と一体となった産業を育んで山と水を守り、都市にはない豊かな生活を築きます」。最後は「川上における自然とのつきあいが、地球環境に対する人類の働きかけの、すばらしい見本になるよう努めます」と宣言をされて源流で頑張られていることに非常に感銘を受けました。

後から知りましたが、早稲田大学名誉教授の宮口侗廸(としみち)さんがこの川上宣言の生みの親と言われているそうです。

奈良県川上村「川上宣言」

  • 私たち川上は、かけがえのない水がつくられる場に暮らす者として、下流にはいつもきれいな水を流します。
  • 私たち川上は、自然と一体となった産業を育んで山と水を守り、都市にはない豊かな生活を築きます。
  • 私たち川上は、都市や平野部の人たちにも、川上の豊かな自然の価値に触れ合ってもらえるような仕組みづくりに励みます。
  • 私たち川上は、これから育つ子ども達が、自然の生命の躍動にすなおに感動できるような場をつくります。
  • 私たち川上は、川上における自然とのつきあいが、地球環境に対する人類の働きかけの、すばらしい見本になるよう努めます。

川上村や漁協との交流

流域での交流ということで、左上の写真は川上村のイベントに参加して物販をしているところです。それから右側の写真は、紀の川の下流、河口にある和歌浦漁協の横田副組合長のところへ、紀ノ川農協の女性部が研修に行き、シラス漁の話を聞かせてもらっているところです。実はシラスがどんどん少なくなり、これは温暖化で海水温が上がっていることによるそうですが、そういう環境の問題もあわせて女性部の研修をしていただきました。それから左下、これは川上村の栗山村長さんと一緒に撮った写真です。イベントに参加させていただいて、村長さんも親しくしていただいています。それから右側の下の方は、「やまいき市」と言いまして、川上村の地域おこし協力隊の方が、地元の高齢者の方がつくる野菜を市で販売したり、この地域にない果物とかイチゴとか、そういったものを紀ノ川農協の直売所「ふうの丘」から、またシラスを和歌浦漁協さんから運んで販売したりしている取り組みです。

「紀の川じるし」

そういった取り組みの中で「紀の川じるし」というのが作られていきました「紀の川じるし」というのはいったい何だろうかということになりますが、流域で一所懸命頑張っている人たちの商品や取り組みを都市部に向けて発信していこうよということで、ロゴを作り、「紀の川じるし」という名前にしました。「2県にわたる1本の川による森・里・海のつながりを“見える化”し、地域ぐるみの地産地消を進めるため、136㎞の川を一つの商店街に見立てました」ということです。

それで、一所懸命という言葉ですね。調べてみると、鎌倉時代にできた言葉らしいですが、武士が預かった土地を命懸けで守っていくということです。いまどき古いと言われればそうですが、でも土地、農地、海、山を守っていくという意味では一所懸命って大事な言葉ではないかなと思っています。そういう人たちを励ましていくような取り組みとして、「紀の川じるし」というのをつくってきました。2016年に環境省の第4回『グッドライフアワード』で環境大臣賞を受賞しました。これは先ほどの源流館が受賞したということになるわけです。この取り組みはYouTubeでも見ていただければ紹介されています。

「紀の川じるし見本市」

この流域の中間地の「ふうの丘」、紀ノ川農協の直売所で「紀の川じるし見本市」を開催しました。毎年、続けたかったのですが、いまはコロナで川上村は外に行ってはいけないということで開催されていません。この流域の農産物・加工品、川上村からは醤油だとか割りばし、こういった物のコーナーをつくって販売しました。真ん中の写真がここに関わっていただいた食品メーカー、生産者、牧場の方もいらっしゃいますし、漁協の方、学生、川上村の協力隊員も来ていただきました。右側は栗山村長さんと川上村のメーカーさんの写真です。

森と水の源流館15周年記念日

2006年から10年経ったときに「森と水の源流館」の15周年が行われました。左側の写真は源流館のホールでお話をさせてもらったときの風景です。右の下の右側の方が尾上さん、10年前にお会いした方です。一緒にこの間の取り組みをお話しているところです。上のお弁当の写真は「紀の川じるしの御弁当」ということで作っていただきました。和歌浦のしらす、加太のひじき、紀ノ川農協の新たまねぎ、流域のこんにゃくなどを入れて作っていただいた弁当です。こんな取り組みをしてきました。

「紀ノ川農協の基本的課題および概況」

ここで少し紀ノ川農協のことを紹介させてもらいたいと思います。紀ノ川農協は和歌山県全域を地区とする、生協産直を中心とした販売の専門農協です。金融とか共済はしない、農家の方が自分たちで40年前に作ってきた農協であります。

今後、担い手の問題だとかを解決していくために、基本的な課題を2016年に定めました。理念ももう一度ここで見直しました。3つの基本的な課題を推進しているところです。一つは有機農業、環境保全型農業、GAPを推進していく環境保全型農業推進委員会を設けています。各専門委員会の責任者が、副組合長で3名います。2つ目は地産・地消型・交流・農商工連携・農福連携を推進していく交流委員会があります。3つ目に新規就農・担い手育成、生産力向上を推進する生産力向上委員会を設けています。この3つが現在の基本的な考えで、このことを進めることで持続可能な農業、地域に貢献していこうと取り組んでいます。下の方はいまの事業概況になります。理事15名、監事3名、職員40名で頑張っています。

地域づくり・担い手づくり

紀ノ川農協は先ほどの3つの課題を推進するとともに、地域づくり・担い手づくりにも取り組んでいます。流域の取り組みのことでもあり、このあとのお話の古座川町での取り組みでもあります。紀の川市のところでは「おうづ」と読みますが、麻生津地区の取り組み、ここで副組合長が頑張ってくれています。

それから中山地区、ここは最近立ち上がりました。いわゆる多面的機能直接支払制度による「中山保全会」というのを作りました。耕作放棄地が増えてきていますので、そこを解消して、多面的機能直接支払制度では耕作放棄地は再生できないのですが、別の支援策を受けながら再生し、保全していこうという取り組みがいま始まったところです。

それから古座川町の七川地域「七川ふるさとづくり協議会」と「古座川流域連携プラットフォーム」の立ち上げの取り組みを紹介していきたいと思います。紀ノ川農協の設立当初から「地域の発展のなかでしか紀ノ川農協の発展はない」という考え方で進めてきました。紀ノ川農協だけが前進していくようなことはありえないというような考え方です。協同組合でありますので、協同組合の第7原則のコミュニティーの関与。ここが非常に大事だと思っています。「協同組合は、組合員によって承認された政策を通じてコミュニティーの持続可能な発展のために活動する」という協同組合の原則であります。協同組合の存在理由というのがこういうところにもあると思って活動を進めています。

和歌山大学提携・課題解決型インターンシップ

この3つの課題と、地域づくり・担い手づくりを進めるにあたっては、和歌山大学と提携し、課題解決型のインターシップの学生さんにも参加していただいています。2016年から2019年までに7回開催しています。春と夏に開催して、延べ20人に参加していただきました。和歌山大学以外は県の経営者協会からのインターシップになります。この中から2人を職員として採用しました。2016年から農業の担い手の育成もありますが、役員の若返り、職員の若返りを進めてきました。職員を5名くらい採用していこうということで、このインターシップを進めてきました。

みんなで描こう地域農業の未来予想図

地域づくり・担い手づくりを進めようとしてもなかなか進まない。どうしても農家の方、全体もそうだと思いますが、行政に対しては、してくれない、やってくれないという不満があって進まないということで、2018年にシンポジウムを開きました。2016年から取り組みを始めて2年経った夏ですが、「みんなで描こう地域農業の未来予想図」というのをテーマにして、紀ノ川農協と農民連が共催で開催し、80名くらいの方が参加されました。

この左の写真の手前の方は、紀の川市・岩出市の有機農業推進協議会の代表です。それから参議院議員の紙さん、農民連の笹渡さん、それから和歌山大学の、当時ですけれども湯崎先生。私が司会進行ということでやりました。こういうシンポジウムでは左側のパネリストが一通りお話をして、右側の会場の方にどうでしょうかというようなことでお話を聞き、まあ意見があっていろいろな答えのお話をして終わっていくというのが普通かと思います。けれどもこのときは、先に右側のフロアの参加者の方に5年後、10年後にどういう農業をしていきたいですかとか、どうあってほしいですかという問いかけをしました。そこで発言された中身に対して左側のパネリストの方から、そういったことを実現していくためにどういうことをしたらいいかというふうなお話をしていただくようにしました。

参議院の紙さんにはたくさんの資料を用意していただいていたのですが、ほとんど無駄になったというのを後でお聞きしました。主体形成、当事者になるということが大事だと思います。未来予想図というのは設計図ですよね。自分たちの将来の農業をどんなふうにしていきたいか。こんなふうにしたいって考えることが、できなくなっていると思います。本人の責任ではないと思いますが。

みんなで考えて、自分の思いを形にしていくということが大事と思います。思い続けたら何かしら行動はできるし、形ができあがっていくのでないかなと思います。当事者となることが大事です。協同組合では、出資する、利用する、参加することが原則とされています。お客さんになってはいけないと思っています。あくまでも組合員さんが主人公、当事者になって、自分たちでお金を出し、事業を作り、それを利用し、決定に参加していくということが大事だと思っています。それは地域の中でも同じだと思います。

創立40周年をめざす事業と運動計画づくり学習会

紀ノ川農協は2023年で創立40周年を迎えます。この前に農民組合の時代がありますが。それで2019年に、先ほどのシンポジウムの次の年でが、40周年に向けての事業計画を作っていこうということで、学習会講演会を開催しました。講師には、今は退官されていますが、京都大学大学院の岡田知弘先生。それから和歌山大学の湯崎真梨子先生、今は和歌山大学の食農総合研究所になります。紀ノ川農協の監事もしていただいております。古座川流域の取り組みのところも研究者として随分以前から関わっていただいている先生です。

ちょうど2023年というのは、家族農業の10年の折り返し地点になりますし、2030年がSDGsの終了になります。こういうことを意識しながら岡田先生からは「一人ひとりが輝く地域再生」、湯崎先生からは「いま求められる地域の内発的発展」ということでお話をいただいて、2023年に向けて先ほどの2016年からの3つの課題をさらに発展させる計画を立てていこうと進めています。2016年から5か年、2020年はもともと東京オリンピックの年で、2016年当時の事業規模で通過していこうということを決めていて、ちょっと足らなかったのですが、ほぼ達成できたと思っています。また今後さらにこれを維持していく取り組みが求められる中で、こういう勉強会をしました。紀ノ川農協内部の取り組みとして、農民組合の方も参加して行いました。

家族農林漁業プラットフォーム・和歌山の設立

紀ノ川農協の40周年向けての計画を立てるときに、家族農業の10年のお話が始まりました。この家族農業の10年は、私たちにとっては非常に励みになりました。国連がそういう動きをされているということで、期待もし、頑張っていこうという気持ちも出てきました。その家族農業の10年を推進していく全国のプラットフォームもでき、和歌山でもつくっていこうよということで、愛知学院大学の、FFPJの常務理事でもあります関根先生に来ていただいて、「持続可能な農と食をめざす学習講演会~アグロエコロジーへの転換」というお話をしていただきました。この呼びかけは和歌山県橋本市の橋本自然農苑、和歌山有機認証協会、わかやま環境ネットワーク、農民連、紀ノ川農協ということで開催をしました。

「家族農林漁業プラットフォーム和歌山」設立宣言

和歌山のプラットフォームでは、ここに書いていますように、家族農林漁業が持つ高い持続可能性を広め、家族農林漁業を最も大切にする地域にしていきましょうとか、この間、自然災害が多いですけれども、自然災害や地球温暖化に適応する施策をつくり、家族農林漁業を次世代へと引き継ぎましょう。今は、県内の有機農産物を使った学校給食を実現していこうと取り組んでいます。

第1回目の設立総会のところでは、FFPJ代表の村上さんに来ていただいて、「期待される家族農林漁業~平和で持続可能な社会を築くために」というご講演をいただきました。第2回目、コロナでなかなか活動ができなかった時期ですが、リモートで印鑰(いんやく)さんから「食の力を知ろう~ポスト・コロナの時代のために」というご講演をいただきました。それと数少ない取り組みではありますが、和歌山県の広川町に山林を持っている東濱植林(株)さんが、100年前に会社を設立したときに植林したヒノキの山を見学しました。そこへ行って子どもさんなんかに環境教育をされていることを、実際に実践していただきました。それから第3回目の総会では記念講演として安井孝さん、今治市の取り組みです。実際に取り組まれている事例ですね。生産者、栄養士、JA、行政との連携やチームづくり、学校給食から始める食の大切さ、有機農業の地産地消の施策などの展開をお話していただきました。学校給食というのは、学校給食だけでなくて、地域の食と農を変えていくと思いました。コロナで活動がしづらいですが、総会を開いて、学習をしていくというのが今の取り組みです。

古座川流域での持続可能な地域づくり

ここから「古座川流域での持続可能な地域づくり」ということで、紀ノ川農協として取り組んでいる1つの取り組みをご紹介したいと思います。古座川町をこの地図で見ていただきましたら、南に串本というのがあります。そこから40分から1時間くらい山の中へ入っていきます。そこに平井という集落があります。この写真の集落ですけれども、古座川町の高齢人口比率というのが52.6%。和歌山県が32.4%で、古座川町の75歳以上は32.0%になっています。平井というところがある七川地区は71.5%の高齢化率になります。和歌山県全体でも高齢化と過疎も進んでいますけれども、この地域というのはさらに関西の中でも非常に高齢化率の高い地域になります。

農事組合法人 古座川ゆず平井の里

古座川での地域づくりの取り組みのきっかけですが、先ほどもご紹介させていただきましたように、私はこの「古座川ゆず平井の里」の現在、代表になっていますが、ちょうど10年前に理事を引き受けて関わるようになりました。ただ紀ノ川農協との関係は1986年まで遡ります。当時から柚子の生果を出していただいて、生協と産直をするというような取り組みをずっとやってきました。実はこの柚子がですね、1987年、95年、99年、2000年と価格が暴落をして、販売に苦戦をしました。

元々は柚子の生産組合というのが1976年に結成され、その柚子を生果で出すというのと、絞って果汁を販売するというような取り組みもしていたようです。その搾りかすがたくさん田んぼに積み上がっていく様子を見て、婦人部を結成し、婦人部の方たちによって柚子の商品づくりが始まったと聞いています。サンマ寿司の酢に使うのに家の近くに植えてたのが柚子の栽培の始まりのようです。2004年に「古座川ゆず平井の里」が設立されます。婦人部、生産組合等が1つにまとまって、過疎を防いでいこうという取り組みとして平井の里が設立されています。当時62名いました。この中に紀ノ川農協の組合員も42名いました。後にこの紀ノ川農協の組合を個人は脱退をしていただいて、法人が団体加盟をしていただくという形を取りました。

七川ふるさとづくり協議会設立

私が理事になった2012年に、高齢組合員の聞き取り調査を行ないました。事業はどんどん伸びているんですが、現実には生産者の高齢化がどんどん進んでいく、地域が良くなっていかないと法人も発展できないということで、地域づくりをして行こうよということを役員会の中で話をし、「七川ふるさとづくり協議会」が設立され、「地域おこし協力隊」の事業も始まりました。

この写真は七川ふるさとづくり協議会の設立です。県の方、役場の方と相談しながら、16年の11月に設立に至りました。ここに「七川生活圏過疎集落支援総合対策事業」と書かれていますが、県の方もこの事業を進めたいと思っていたようです。この七川地区には7つの自治会があって、区長さんに集まっていただいて、お話をしましたが、このときは既に遅いと言われました。もっと若い人に言ってくれと言われました。諦めているような状態であったと思います。

聞き取り調査、分析、報告、合意形成による地域づくり

この地域づくりを進めていくために、聞き取り調査を2017年の6月から8月にかけて行ないました。ここには先ほどの湯崎先生や平井の里の理事、和歌山大学の学生、紀ノ川農協にインターシップで来られた学生さんですが、それから紀ノ川農協の職員も入り、47戸を回って280くらいの意見、声を集めました。

その声を分析したのが左の図で、拾ってきた声を左は行政、右は個人、上は3年後までに、下はいますぐにという区分をして、どう取り組めばということを示したわけです。ピンク色、ちょっと分かりにくいですが、桜に関すること、仕事に関すること、あと災害、買い物、移住・定住、それから環境、思いなどを色分けして分析をしました。この分析に基づいて課題を整理して、報告会を2017年に行なっています。左上のメンバーは紀ノ川農協の役職員や学生さん、平井の里の役員のメンバーの写真です。右側は報告会に来ていただいた方の写真でが、高齢者が多いというのが分かると思います。

「つながり・ふれあい・助け合う」集落づくり

これをポンチ絵にまとめたのがこういう形です。現況、課題、対策、目指すべき姿というふうにして、特に課題と対策のところの「クマノザクラ」については、ヤマザクラより少し早く咲く新しい種であるということが報告されたこともあり、そのクマノザクラを取り組みに取り入れました。それから買い物弱者の増加ということで、買い物支援バス。人口減少・高齢化ということで、若者の移住・定住を呼び込むような環境整備を進めてきました。

目指すべき姿としては、クマノザクラを新たな地域資源、シンボルとして名所化し、活性化していこうということ。桜を活かした新たな産業を生み出していくことも掲げました。それから、地域に最適な買い物支援バスの運用方法を確立し、地域の高齢者を支えていくこと。地域内外交流や移住者の受入を促進し、地域コミュニティーを活性化させ、地域の担い手を育成していくことを掲げました。

七川桜植樹、お試し住宅、買い物支援バス、地域おこし協力隊

2018年、19年、20年と、3年間の支援事業を受け、この3月に3年間の事業が終わりました。クマノザクラ、ヤマザクラを含めて七川桜と呼ぶようにし、地域の60人の方に約250本の桜を植えていただきました。

それから、空き家を改修して2戸、長期と短期に分けてお試し住宅を作りました。また協議会の事務所を無償で貸していただいて、整備して拠点を作ることができました。買い物支援バスも取り組みました。とても好評で、この右上の写真を見ていただきますと、小さなバスでの買い物バスにはなるんですが、地区ごとに分かれて取り組んでいます。12月とか買い物をたくさんしたい時期にあわせて取り組みました。実績としては3年間で143人の方が参加しました。この後は、町が運営している福祉号というのがありますが、これを休みの日に活用できないかということで今、区長会と相談しているところです。

この中の写真はですね、「100まで生きよら七川桜」と書いていますが、上の7名が区長さんで、左下が代表と平井の里の前の代表です。幟旗を持っているのが地域おこし協力隊員です。「県民の友」という県の広報に載せていただきました。左上の写真が今現在、活動中の協力隊員3名です。これまでに5名の協力隊員が来ていただきました。1名は県外の方へ移られたんですが、1名は今、同じ地区内で頑張ってくれています。現在、3名の協力隊員です。

防災を軸にした「七川地域づくり」

3年間の事業を終わって、2021年からは、防災を軸にした地域づくりをしていこうということで、進めているところです。この写真は各地区の区長さんとか、代表の方に集まっていただいて、防災マップを作る作業をしているところです。居住者とその状況、それから連絡先、1人暮らしの方もいらっしゃいますし、どこへ連絡しますかとか、避難場所の状態、それから空き家がありますかとかいう話を確認してきました。相当、空き家があります。

この協議会を設立したとき、先ほどの声をまとめたところの左下の方にありますが、災害に対する不安というのが多くありました。7つの地区で状況が違いますが、皆さんが一致して一緒に頑張っていけるところではないかということで、この防災の取り組みを進めました。この7つのうちの1つの集落は、自主防災組織を作っています。まだ十分に機能しているとは言えないと思いますが、3年後には7つの自治会、地区で自主防災組織を作り、あわせて自治を共同してやっていけないかという話し合いを進めています。7つの地区の中には、もう次の区長さんを選ぶのがしんどいという状態のところもあります。

自主防災組織、自治の共同

この七川ふるさとづくり協議会が自治の運営をサポートしていく。そういうふうに発展させていきたいと取り組んでいます。これまでは割と事務局サイドで取り組みを進めてきました。もっと参加していただこうということで、課題を4つに分けてそれぞれのチームを作り、みんなで取り組んでいこうということになってきています。

桜チーム、空き家チーム、防災チーム、それから生活支援に分け、生活チームの方は事務所のカフェを地域のカフェに発展させていこうと話し合っています。防災チームには、議員さんも入っていただいています。空き家チームでは、行政が空き家の調査をしますが、なかなか進んでいないのが全体的な状態です。積極的に空き家の調査を進めています。移住者が来たときに住んでいただけるように、リホームしたりしているところです。

桜はやはりシンボルです。最初に、区長さんに集まっていただいたときにもう遅いと言われたんですが、先ほど言いましたように60人の方に植えていただいた。ちゃんと花が咲くまでに10年かかる、10年後はどうなっているか、非常に厳しい状況かも分かりませんが、将来、桜の花が咲くことを思い浮かべながら植えていただいた。やはり気持ちがそこに出ていると思います。1つの大きなシンボルとして、これからも植えていこうと取り組んでいきます。

古座川流域連携プラットフォ―ム

七川ふるさとづくり協議会を立ち上げるとき、本当はこの古座川流域の地域を含めて取り組みたかったんですが、補助事業の関係で広すぎると言われて、できなかったんです。そこで事業を取り組んでいる方たちが集まって、「古座川流域連携プラットフォーム」を立ち上げました。

この写真は2020年の8月です。お話をしていただいているのは、和歌山大学観光学部の大浦由美先生で、「持続可能な地域へ~森林資源の活用を考える」というお話をしていただきました。このときに森林組合、漁業組合、観光協会、新規就農者にも参加していただきました。平井の里、旅館、それから道の駅カフェ、古座川らんどというのは河川の清掃などに取り組んでいる任意の団体です。漁協の関係者、内水面漁協の関係者も参加していただきました。行政の方も来賓として参加していただきました。大浦先生のお話は、特に林業のところで伐採、素材生産のところが確かに増えているけれど、このあと和歌山の山林をどんなふうにしていくのかというところのビジョンが弱い、夢がないと言っていいのか、そんな状況であるという話をしていただきました。

この古座川流域連携プラットフォームの規約の目的で書いていますが、林業、農業、観光業、漁業、こういう流域で事業を営まれている方たちの情報とか課題を共有することで、地域や都市に向けて情報を発信していこうと。いわゆる関係人口と言いますか、広めていこうとい取り組みです。暮らしていける状態を作っていこうと話し合いながら設立してきました。

「地域」「地域づくり」とは…

ここで、私自身がこういう地域づくりに関わるにあたって参考にしてきたことですが、研究者やジャーナリストの方のお話をしておきたいと思います。

1つは内橋克人さんの「FEC自給圏」というのを聞かれた方もあるかと思いますが、内橋さんの話は5回、6回とご講演を聞かせていただきました。食料、再生可能エネルギー、それから介護医療のコミュニティーの3つをFEC自給圏ということで言われています。こういったものを目指していく「使命共同体」というような言い方をされています。人々の連帯と参加によって自給圏を形成していく。そのような共通の理解や使命感を持って、人々が立ち上がっていく時代に入った、消費者、生協の方に向けてお話をされたときに、自覚的消費者になりましょう、商品の価値の分かる消費者になりましょう、という話をしていただきました。

それから右側は内山節さん、哲学者です、「地域とは何か」「地域づくりとは何か」ということを書かれた文献があります。地域とは何か、『ソーシャルビジネスは、地域とのつながりとしての経済である。持続可能な形としてのビジネス化であり、どのような経済をつくっていけばどのようなつながりが回復するのか、みんなが生きていける経済、共に生きる経済をめざすものであるというのがこの地域である。行政は、コミュニティーの形をつくっていく支援はできても、主体にはなれない。これから地域とは何かを検討しなければならない時期に来ている。今の体制では世界は持続できない。いつまた、経済崩壊が生じるかもわからない。地域に生きる基盤がある、その「地域とは何か」をとらえなおさなければならない、そんな時代にきている。』地域づくりとは何かについては、非常にシンプルに、『みんなが幸せになること、誰一人不幸にさせないこと』というようなことを言われています。

地域づくりのフレームワーク

これは明治大学の小田切徳美先生の「地域づくりのフレームワーク」で、先生の話も何回か聞かせていただきました。本も読ませてもらいました。左のフレームワークですが、1つは暮らしのものさしづくり、主体づくりですね。2つ目は暮らしの仕組みづくり、コミュニティー、生活諸条件をつくるということですね。3つ目にカネとその循環づくり、持続条件をつくっていこうということ。こういう話をされています。その右側の方に、消費者があって交流していく。交流の鏡効果だとか交流産業、これは産直だとかそういうことになるかと思います。こういう関係を全体でつくっていくことが地域づくりだというのが小田切先生のお話しです。この図は先生の図にちょっと手を加えてあります。

「農村政策を蘇らせる」

それから同じく小田切先生ですけれども、「農村政策を蘇らせる」ということです。結論から言いますと、今の農村政策というのは、「産業政策」と「地域政策」というのが両輪とも脱輪状態で、官邸農政と言われていますけれども、機能していないという捉え方をしています。どうしていくかということで、体系的な農村政策が求められているということで、自治農政による「総合化」、しごとづくり・くらしづくり・活力づくりを3要素(3本の柱)とする体系化が必要であると言われています。全体的なプロジェクト化がされているのではないかという小田切先生の指摘です。

最後に

最後に、流域連携のプラットフォームを立ち上げて、この間、それぞれの事業の状態などのお話を聞いているところです。先ほどの小田切先生の地域づくりのフレームワークのような感じでまとめてみました。「場づくり」、これには七川ふるさとづくり協議会があります。それから「条件づくり」、これは事業をしているところですが、平井の里、それから森林組合、漁業組合、それから観光協会、それと平井の里や紀ノ川農協と関わる食品メーカーや生協、農作業のボランティアのお願いをしています。それから研究機関として、和歌山大学、平井の里のとなりにある北海道大学和歌山研究林、それから玉川大学観光学部、大谷大学、地元の串本古座高校、農村資源研究所、こういう研究や教育の機関と連携しながら、全体がバラバラではなくて、まとめていこうというような取り組みになります。できれば人の確保、それから畑の再生の取り組みもこの事業系の方たちと力を合わせてやっていきたいなということで行政の方ともお話をしたりしているところです。(特定地域づくり事業協同組合、最適土地利用対策交付金)

バラバラになった流域の関係。川下統合と言われたりします。この一次産業の上流から綺麗な水を、資源とか価値を流して、源流の一滴から大きな流れを海へ、つくっていきたい、そして「みんなが生きていける地域、共に生きる地域をめざしていきたい」。まだまだ始まったばかりですけれども、ここ1年、2年の間で具体化し、進めていきたいと思っています。時間を少しだけオーバーしました。以上で私のお話は終わらせていただきます。

ありがとうございました。