1945年10月16日に国連食糧農業機関(FAO)が設立されたことにちなんで、毎年10月16日は世界食料デーとなっています。コロナ禍の影響で、昨年に続いてオンライン開催となりましたが、今年もFAO主催の世界食料デーのイベントが開催されました(FAOのイベント紹介サイトはこちら)。プログラムは第一部と第二部の構成で、第二部ではFFPJ会員団体の全国沿岸漁民連絡協議会(JCFU)の共同代表であり漁師の鈴木正男さんが登壇しました。以下は、このイベントの参加報告です。
第一部では、フランス料理のシェフの中村勝宏さん(FAO日本担当親善大使)が基調講演をし、持続可能な日本の食に必要な3要素として、(1)日本の食文化、(2)地産地消、(3)食育をあげ、その3要素の中心に「もったいない」という精神を位置付けることが、食品ロスの削減等において重要であることを訴えました。続くパネルディスカッションでは、FAOの三次啓都シニアアドバイザーが司会を務め、FAO駐日連絡事務所の日比絵里子所長、WFP日本事務所の焼家直絵代表、IFADのロン・ハートマン部長が加わり、コロナ禍の世界と日本の食料問題について議論しました。特に、日比所長は、以前から脆弱な立場にあった小規模農家が、コロナ禍で特に大きな影響・被害を受けていることを指摘しました。また、気候危機と農業・食料産業の相互関係にも言及し、「農業と気候は一蓮托生(いちれんたくしょう)」であると述べ、農業・食料産業から排出される温室効果ガスを削減する必要性を強調しました。
第二部では、国谷裕子さん(FAO親善大使)が司会を務め、農林水産省女性活躍推進室の渡邉桃代室長、セカンドハーベスト・ジャパンの芝田雄司さん(政策提言担当マネージャー)、千葉沿岸小型漁船漁業協同組合の鈴木正男さん(組合長)、SIGMAXYZの岡田亜希子さん(Research/Insight Specialist)がパネルディスカッションを行いました。
鈴木組合長は、千葉県で小規模・家族漁業を営む漁師が長年キンメの資源管理を行っており、それが資源・漁獲の維持につながっていること、近年の漁業テクノロジーの急速な進化と競争の激化によって資源管理が困難になってきていること等を丁寧に説明しました。また、海の状況や変化をつぶさに観察して知っているのは小さな漁船で働く漁師であること、そうした漁師たちの小さな声を集めて発信する努力をJCFUとして行っており、政府や関係者はそうした声にもっと耳を傾け、支援してほしいと訴えました。国谷さんは、国連「家族農業の10年」(2019~2028年)に言及し、近年、日本の消費者の魚食離れが起きていることや輸入水産物の増加等により国内の漁業は厳しい状況にあるものの、小規模漁業が地域社会の活力を生み出していること、(短期的な経済的)効率性を優先する農林水産業のあり方が限界に来ており、方向転換する必要があることを指摘しました。これを受けて、農水省の渡邉さんは、コロナ禍でグローバルなサプライチェーンが寸断される中で、食料安全保障における小規模・家族農業の重要性が再確認されたと述べました。また、今後は持続可能な経営に挑戦する小規模・家族農業を農水省として積極的に支援する方針であることを説明し、具体例として熊本県阿蘇市の女性農家が取り組む合鴨農法や堆肥による土づくり、トラクターにバイオ燃料を導入する取り組み、牡蠣殻を砕いて水田に蒔く取り組み、子どもの農業体験の取り組み等を紹介しました。
最後に、国谷さんが参加者からの質問を一つ読み上げました。その質問は、「先月、国連は工業的農業やそれに対する補助金を見直すべきだとする報告書を発表しました。他方で、国連食料システムサミットで提案された解決策の多くは工業的農業につながるという市民社会団体の指摘があります。市民社会団体や科学者は国連食料システムサミットを組織的にボイコットしましたが、こうした批判をどのように受け止めていらっしゃいますか。」(愛知学院大学・関根佳恵さん)というものでした。日比所長は、自身も食料システムサミットをボイコットした市民社会団体の主張に目を通しているとした上で、様々な批判があり、批判への批判もあること、そうした意見を含めて幅広い議論をする場として食料システムサミットが開催された意義は重要であり、今後も参加型の議論・対話を通して新たな対策を立てる必要があると回答しました。最後に、国谷さんは今までの効率優先の食と農のあり方が限界に来ており、自然生態系等と調和した持続可能なあり方に転換する必要があるとまとめました。日本では食料システムサミットに対する批判の声がほとんど報道されていませんが、世界食料デーのイベントの中でこうした議論ができたことは、大きな成果だったように思います。
世界食料デー2021のイベント
開催日:2021年10月15日
言語:日本語・英語(同時通訳付)
会場:ウェビナー(Zoom)
主催:国連食糧農業機関(FAO)
協力:国連世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)
後援:日本政府 (外務省・農林水産省)