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【報告】FFPJオンライン講座第9回 原発処理汚染水を海洋に放出するな!-代替案「大深度地中貯留」の紹介-

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政府は「他に方法はない」として福島第1原発から出る処理汚染水の海洋放出を決定し2023年春には放出しようとしています。そうなれば、農林漁業者をはじめ地域の人たちにさらなる苦難を強いることになります。2021年12月17日に行われた本講座では、中山一夫さん(ジオリサーチ・ナカヤマ)を講師に迎え、代替案として「大深度地中貯留」をご紹介しました。1000m以上深い地下にある貯留層へ薄めた処理水を圧入する方法です。この方法だけに固執するものではありませんが、海洋放出ありきで邁進する政府と東電の計画にストップを掛けたいと考えております。以下は、中山さんのメインの講義部分での発言要旨になります。末尾の動画には、講義部分に加えて、コメント、質疑応答も含まれております。コメントは福島から、中島孝さん(相馬市にある中島ストア会長、福島原発生業訴訟原告団長、海といのちを守る福島ネットワーク呼びかけ人)と佐々木健洋さん(福島県農民連事務局長)に寄せていただきました。講座の資料はこちらから。

ご紹介いただきました中山です。今回は貴重な機会を頂き感謝しています。国は福島第1原発の汚染水の海洋放出を決定しましたが、それによって引き起こされるであろう風評被害が問題となっています。いや、代替となるいい方法があるということを国、経産省、東電に提案したい。そういう立場からの代替案について、詳しくご説明したいと思います。

まず、簡単な自己紹介から。大学では地質学を専攻し、石油会社に勤務し、「石油探鉱」、つまり地質学を駆使してどこを掘れば石油が出るかを提案する部署で働いてきました。在勤中の2013年頃、福島原発事故の汚染水対策として、凍土壁案が出てきたころから、この「大深度地中貯留案」を考えていました。 

今、海洋放出の代替案として求められているもの

 まず、現状はどうか。ご存じのように、福島原発サイトではタンクに汚染水が溜まり続けています。今1000基でまだ増えています。政府は、最近では残るのはトリチウムだけではないことからALPS処理水と呼び変えています。政府はこの処理に困り、この4月13日についに海洋投棄が決定されました。国は、海洋放出は世界各地で認められているとして、海洋投棄を決定しましたが、いくつかの問題点があります。

まず、放出する濃度について基準以下だと言っていますが、世界中の原発で今タンクに溜まっている125万トン、今はもう130万トンという大量のトリチウム水を流すというのは前代未聞のことです。また、トリチウムだから安全と言ってはいるけれど、あれだけ大きな事故を起こした後の汚染水です。ALPS処理したとはいえ、まだセシウムやストロンチウムなども含まれています。濃度を基準以下にして放出と言っていますが、これも前代未聞の試みです。

という状況ですので、とにかく風評被害が起こるのは必然です。それも国内だけでなく、近隣諸国はいまだに海産物の輸入を止めている現状ですから、国際問題に発展することは目に見えています。

これに対して、「とにかく公海に流すのはやめさせたい」と私は思っています。こうした状況にかんがみ、その代替案には、①早急の対応、②既に確立され実証されている技術であること、さらに政府を説得するためには、③海洋放出と比べて遜色のない費用であること、が現実的な条件であると思っています。

この条件を満たす対案が「大深度地中貯留案」で、私は昨年来提案しています。いや、これは私自身が8年くらい前の凍土壁が公募に出たころから温めてきた方法です。 

ALPS処理汚染水の処分には、石油生産の技術が役に立つ!

本題に入る前に石油がどんな状態で地下にあって、それをどのように生産するかのお話をします。皆さん、石油は地下から堀り出すものだということは知っていると思います。石油や天然ガスは地下深くの帽岩という液体を遮断する地層(泥岩)に挟まれた貯留岩(砂岩)中の空隙に水と一緒に何十万年いや何百万年前からこのように溜まっています。この溜まっている石油や天然ガスを細くて頑丈なパイプでつなぎ、地上に持ってくることが出来るのです。これが石油・天然ガスの生産で、この技術を背景に、石油生産の逆をやるのが「大深度地中貯留」です。

例えとして言うと次のように言えます。「まず地下水とは無縁な地下深部に巨大で頑丈な密閉型の箱を作り、地上からそこまで細くて長い頑丈なパイプでつなぎます。そして地上タンクの汚染水を薄めて移送させ、そこで長期間保管しようというものです。」

近年、カーボンニュートラルと呼ばれる環境重視の政策が叫ばれ、CO2を液化して地下に閉じ込める(貯留する)という動きが活発になっていますが、これは石油ガスの生産と逆の工程を実現したもので、世界中のあちこちで一般的になりつつあり、法律的にも緩和されてきました。国内でも実際、国家プロジェクトとして30万トンを既に注入した実績があります。それと同じことをしようというのが、今回の提案です。つまり、技術的にはすべて確立されていることなのです。 

4つの優位点

次からが本題。海洋放出の代替案として、地中に貯める方法をできるだけわかりやすく説明したいと思います。地上のタンクに貯めるのと同じことを地中で行うということで、決して廃棄処分にするわけではないということを、まず理解していただきたい。先に述べたようにトリチウムだけではない汚染された水なので、取り扱いは慎重でなければならないけれど、海洋放出を止めるためには、すぐに取り掛かることのできる既存の実証化された技術でなければならない、という観点から出てきた代替案です。もちろん海に流せるくらいに薄めると言っているので、そういうものであれば地下に入れることができるのではないかという考え方です。

まず、この「大深度地中貯留」という方式ですが、簡単に言えば、今地上タンクに貯めている汚染水を代わりに地下深くに貯めようという提案です。前のスライドで述べた、巨大で頑丈な密閉容器と同じ働きをする地層が(残念ながら石油や天然ガスが入ってはいないのですが)福島原発施設の地下1200mに存在することが分かっているのです。貯めておけば、トリチウムは半減期が12.3年なので、70年後には(1/2の6乗で)1.5%にまで下がります。

飽くまでも、「貯留保存」するのが目的ですから、もし、必要であれば、将来地中からくみ出し、その時点でのトリチウム濃度を測ることも可能です。決して手の届かないところに処分するわけではありません。

この方法を採用した時の優位点を4つ挙げます。

①速い!

現在溜まっている125万トン+を海洋放出する場合、(19年といわれていますが)22兆Bq/年という放出の条件を考慮すると30-40年かかります。大深度地中貯留では3年、長くても5年で全タンクを空にできます。

②確実!

地中に水を圧入するということは、石油鉱業では古くから行われてきました。最近は環境問題上のCO2対策としてCCS(CO2 capture and Storage: CO2の地中貯留)が話題にされていますが、この技術も石油掘削の技術の応用です。日本でも2018-19年北海道苫小牧で実証実験が行われ、30万トンのCO2を地中に圧入した実績があります。その後のモニタリングによっても、そのCO2が地表に漏れてこなかったということも確認されています。

③なんと言っても、風評被害が起きない!

全く地表には浸みだしてこない。既に述べたCO2の地中貯留の研究では、1000年単位で貯留できると言われています。また、国内で処理が完結するので、外国からの風評がおきない、というのも大きな優位点だと思います。

④安い!

約100億円。なんと凍土壁建設(600億円)の1/5のコスト。海洋投棄は34億円で安いと言われていますが、トンネルを掘ったり、漁業関係者はじめ地元への補償費。このあいだ風評対策に300億円という予算が付いたというニュースがありましたけれども、それらを考えたら、地中貯留の方がよっぽど安い。 

「大深度地中貯留」法とは

では、「大深度地中貯留」法とは、具体的にどういうものかから説明します。石油・天然ガスが産出するのは、1000m以深、最近では3-5000mが普通です。国内でも、最も深い坑井は6000mです。この石油開発の技術を使って汚染水を隔離・貯蔵しようというものです。

普通、土木工事とかで地下を掘る場合せいぜい深度は30m、リニア新幹線工事のトンネルでも100m程度。高レベル放射能廃棄物の永久貯蔵を目指す地層処分でも国内では300m程度、この処分で有名なフィンランドのオンカロでも400mです。これに対し、石油鉱業では、深い地質状況を扱って来ました。そして、地下から石油を取り出すだけでなく、入れることも行って来ました。

石油の生産時には、必ず地層水が付随して出てきます(随伴水と呼びます)。石油開発の現場では、この随伴水を1000m程度の水層に圧入してきました。また、油層中に取り切れずに地下深くに残っている石油(通常5割は残っている)を同じ層にCO2を入れることで粘性度を下げ、増産する工法(石油増産回収法)が5,60年前から行われていました。ですから、石油業界では、水やCO2を地下深くの地層に圧入することは古くから日常茶飯事として行われてきました。 

石油井の掘削と生産

ここで、まず石油井はどうやって掘られるのか、もう少し詳しく説明をします。石油井は、まず高さ約40mの掘削装置(リグ)を地面に立て、そこから掘削を開始します。掘削は、ロータリー式といわれ(図示)、鉄管の先にビットと呼ぶ、地層を細かく砕く機器を付け、管内を通じて押し込んだ水(泥水と呼びますが、人工的な泥の水です)を押し入れ、その先につけたビットを回転させて地層を粉々に砕き、粉々になったが岩石片は鉄管と外壁との空間を通じて泥水とともに押し上げられます。この泥水は、地上で岩石片を回収し、再度鉄管中に押し込まれます。このようにして、掘った穴はケーシングと呼ばれる鋼管で途中の地層を遮断しながら連続的に掘進します。

石油層があれば、ケーシングに穴をあけ、そこだけ管内と導通する様にして、外周を遮断して(掘る時と逆に)鉄管内を石油が上昇する様にして生産を開始します。石油は、必ず(随伴水と呼ばれる)地層水が混ざった状態で汲み上げられるので、石油を分離した後で、この随伴水は近くに別の坑井を掘って、1000m程度の水層に圧入しています。ですから、石油現場では、1000m程度の貯留層に水を圧入することは日常茶飯事なのです。

もう1点、ここで注目していただきたいのは、この地層水です。地下深くに存在する石油とともに生産される地層水は、必ずしょっぱい塩水です。油層となっている地層は、堆積岩で海底に運ばれた砂や泥が堆積したものであり、その時の海水が残っているのです。もし、地表水が深部まで浸透して地下水として循環しているなら、薄まって淡水になっているはずです。このように何十万年も前の海水が残っていることが、地下深くでは水が循環していないことの証拠です。 

水平堀り(石油掘削の新技術)

さて、効率よく石油を生産するための最新の技術が、「水平堀り」で、苫小牧におけるCO2の圧入サイトでも使われた手法です。地表では垂直に井戸を掘っていきますが、徐々に曲げていって、地下では水平に掘進しているということが出来るのです。最近2000年頃から普及してきました。これは、鉄管の伸縮性が非常に強いことから可能となった技術です。

このようにして掘られた坑井では、常に途中の地層と断絶した形で掘っていくので、対象深度から生産される石油が途中の地層に入り込むことはないし、逆にCCSのように地表からCO2を圧入する場合でも、途中の層準にCO2が入っていくことはありません。この図では、強調されていますが、掘削の先端ビットの孔径はわずか20cmです。 

圧入水はどうなるの?

 ここで、圧入水が地下ではどのように入っていくか、拡がるのかを見ていきます。貯留層と呼ばれるのは、地下で上下を粒子が細かい泥岩層で遮蔽された砂層です。砂は泥よりも粒子が大きく、粒子間に泥岩よりはるかに大きい孔隙を持っています。ですから、貯留層内の浸透性は高く、泥岩は非常に浸透性が低いのです。したがって、地下の貯留層に入れた水は、上下方向にはほとんど侵入していきません。

もし、貯留層の分布が限られていて、横方向も泥岩で囲まれていれば、内部の圧力はどんどん高くなっていきます。深度1200mにある砂岩は120気圧(12MPa)でその岩石破壊圧は190気圧(19MPa)とされています。ですから、その差の70気圧(7Mpa)の圧力上昇を与えなければ砂岩はひびも入らず持ちこたえます。

また、図中の粗粒砂岩では特有の岩石圧縮率(10気圧につき0.1%)を持っており、20気圧 (2MPa)程度の圧力上昇であれば、125万トンは貯留層の厚さを100mとすると、面積5km2(2.2kmx2.2km)程度あれば吸収されます。10倍に希釈して貯留する場合でも、面積50km2(7kmx7km)の地下に吸収されます。このように、地中に水を注入した場合、そこにあった滞留水に飲み込まれる形で留まります。厳密にいうと徐々に上昇圧力が下がっていくので、滞留水はわずかに地層内を側方に広がりますが、圧入水はほぼ圧入地点にとどまります。

なお、CO2圧入の場合も、CO2を超臨界状態という液状で圧入するので、この水の場合とほぼ同じと考えられています。 

CO2圧入による石油増産とCO2地中貯留の歴史

 もう一つ、「大深度地中貯留方式」の優位点は、最近の温暖化対策の有力対策としてCO2の地中圧入が促進され、技術的にも法律的にも可能になってきたことです。実は、CO2の地中圧入という技術は、石油を増産する目的で、アメリカでは1960年代から行われていました。1990年代には、ノルウェーで初めて、石油増産を目的としない環境のためのCO2の圧入が試験的に始められ、100万トン/年を達成しています。また、2000年には、カナダで石炭層にCO2を圧入してメタンガスを生産することも行われています。この時には、300万トン/年というレートでCO2を圧入した実績があります。

このように、CO2の地層圧入は、歴史的に実証された技術と言えます。 

苫小牧沖CCS実証試験

日本では、2018-19年にかけてCO2地中貯留を目的に試験的に苫小牧沖で30万トンを圧入した実績があります。海岸から沖へ向けて、かなり急傾斜に坑井を掘り、深度1200mの貯留層(孔隙の高い地層=砂岩層)に圧縮して液状にしたCO2を圧入したものです。

貯留層は、浸透性の低い帽岩(遮蔽層=泥岩層)に囲まれているため、圧入した液状のCO2は上下方向には拡がらず貯留層内にとどまります。前のスライドで説明した世界の例をみても、苫小牧の例でも漏洩問題を起こしていないことから、この技術はほぼ完成されたものと言っていいでしょう。 

溜まっている125万トンを3年で処分

ここまでの話を纏めると、ここで提案する「タンクの替わりに地下深く貯める方法で、早ければ3年で現在のタンク全量を空にできる。すなわち、タンクが撤去でき、デブリ等の処置に必要な空間が生み出されます。しかし、国側が提案している「海洋放出」では、22兆Bq/年という海洋放出の基準を守ると19年もかかることになります。或いは、もう一つの選択、「陸上に貯蔵を続ける」と全くタンクは減らない、ことになります。しかし、この予想には、これから増えるであろう汚染水の量が勘案されていません。トリチウムの半減期を考慮しても、もっと長くなります。 

「地上へ漏れない」から風評被害は極小 

「大深度地中貯留」は、石油増産法やCCSの実績から、「地上に漏れなかった」という実績があります。それに加えて、地上にも漏れないどころか、1000年オーダーで閉じ込められるのであれば、地上タンクに保存して置くよりも安全ですから、風評被害は最小に抑えられると言えます。特に、国内領域内に貯留しますから、韓国や中国など近隣諸国からの苦情も来ません。 

胆振東部地震の影響

地震にも強い。これは、胆振東部地震(2018年9月6日、マグニチュード6.7)の震源地と苫小牧CCS実証坑井の位置関係です。たった30㎞離れたところで、震度6強の胆振東部地震が起き、このサイトでも震度5が観測され、一旦圧入は中止されましたが、漏洩は全くなく、ほどなく作業を開始しています。砂層中に圧入したCO2を封入している遮蔽層(帽岩=泥岩)が、柔らかい(流動性が高い)ので、振動はしますがなかなか割れなかったため、漏れることもありませんでした。地震に対しては、柔らかい堆積岩の方が割れず、火成岩などの硬い岩の方がかえって割れ易いのです。 

地中貯留時のモニタリングシステム

これは、苫小牧沖の実証試験でなされたモニタリングの状況です。貯留層は、分布が分かっていて、圧入水の動きは地層内に限られているので、シミュレーションの精度も高い。加えて、トリチウムは12.3年毎に濃度が半減していくので、1000年と言わず70年後には、1.5%以下になってしまう。 

海洋放出案では、貯留タンクは増え続ける

ここで、トリチウム汚染水の問題に戻ります。先ほど示した汚染水の減り方は、これから増える量を考慮していません。これを考えると、グラフがこのように変わります。

つまり、政府の発表した22兆Bq/年という基準では、タンクはなくなるどころか増えるのです。これでは、タンクをなくして地表を空けたいという目的が達成されません。国は、徐々に放出量を増やそうとしているのではないか、と勘繰りたくなります。 

大深度地中貯留に対する国側評価に対する反論

これまで述べてきたことを纏めると、結論はこの表のようになります。地層注入に関して、国側評価が評価していますが、それへの反論を述べます。

A.期間:国は注入に7年(+調査回数)、監視に76年としていますが、我々の提案によると、実質注入に3年、監視に25年(6万Bq /Lに希釈して注入するので、それが1500Bq/Lに下がるまで)となります。

B.コスト:国は180億円+、としていますが、我々の評価では、約100億円で可能です。

C.技術的成立性:国はモニタリング手法が確立されていないと言っていますが、すでに述べたように、海洋放出に比べれば、地層内の動きなので特定範囲が狭められ、むしろ効率的なモニタリングが可能です。苫小牧CCS実験にて、モニタリング方法も実証済みで、地震があっても漏れなかったことが確かめられています。

D.規制成立性(法律上):新たな基準設定が必要との指摘には、CCSにより、地下圧入規制が緩和されており、地下貯蔵も成り立つはず。

E.風評被害:地中で貯留することの安定性は、CCSで実証済み。苫小牧では地元も歓迎している。前に述べたように、この試験注入で、日本でも地表に漏れなかったと実証済みです。

そしてなんといっても、日本国内に貯留するので、海外にも安全をアピールできます。

このように、同じ方式に対して、国の評価は違っています。これは、この小委員会の中に地下深くの石油地質に詳しい専門家がいなかったためと考えています。この小委員会にCCS担当の後輩が呼ばれてプレゼンをしましたが、その時の条件は、沖合数キロメートルにプラットフォームを建てて、そこから掘削し海底下の地層に注入した場合のコストは?というものだったと後になって聞きました。4000億円と答えたそうですが、それ以来小委員会では、地中注入はコスト高とレッテルを張ったようです。 

海洋放出に対する国側評価に対する反論

次に、海洋放出に関して、国側評価の評価と、それへの反論を述べます。

A.期間:国は放出に91ヶ月(7年半)としていますが、増え続ける汚染水量を考えていない。

我々の計算では、現在タンクにある量(125万㌧)だけでも19年。増え続ける汚染水量を考慮すると増え続ける。そして、魚介類への放射能濃縮監視を考えれば期間はもっと延長する。

B.コスト:国は34億円、としていますが、新たに追加された放水路のトンネル工事と風評対策費を考慮すれば100億円を超える。

C.技術的成立性:国は世界的に事例ありと言うが、125万㌧というような大量放出は事例なし。事例としてもフランスのラ・アークのような海流が早い地域例が多いし、福島とは違う。モニタリングにも課題が多い。

D.規制成立性(法律上):現状で規制・基準ありとは言うが、国によって基準値が異なっていて、共通の値なし。

E.風評被害:あることは前提で対策を指示しているように、漁場あり航行船舶ありで風評被害は必須。かつ、近隣諸国でも風評が起こる。  

まとめ

まとめとして言いたいことは、単に地表タンクに貯めていたトリチウム汚染水を地下で保存した方が、すべてにわたって合理的でしょ!ということ。地下は、広大な貯留槽になりうるのです。

この地中貯留は、長く石油業界で使われている手法で、近年のCO2の地中圧入実験を通じても、何十万トンも入り、漏れないことが確かめられている。そして、なんと云っても、国域内処理ということで外国からの風評にも耐えうるという長所があります。海へ流さない方法があることを、声を大にして伝えたいのです。国には是非この代替案を再考していただきたい。

少し時間がありますので、仮想の質問で細かいところを補足します。 

仮想Q&A

Q1. トンネルと呼ばずに坑井と呼ぶのは? 溜まった堀くずはどこに捨てるの?

A.井戸を掘るというと、人が入れるような大きさの穴を掘っていくというイメージですが、石油は液体(汚染水も液体!)なので、せいぜい20cm程度の穴をあければいいわけで、石油現場では坑井と呼びます。ですから、人が入れるような大きな穴ではないので、掘削によって出てくる堀くずはそれほど多くありません。

5000mの深い井戸を掘る場合、まず直径36インチ(90cm)の穴を30mくらい掘ります。そこにケーシングと呼ばれる鋼管(30インチ径=75cm)を入れ、周囲の地層との境界をセメントで埋めて固めます。 

次に、堀管(鉄管)の先に17 1/2インチ(44cm)径のビットをつけて、このケーシングの中を1500mくらいまで堀り、13 3/8インチ(35cm)の2次ケーシングを入れ、50m以深の地層とのドーナツ状の空間をセメントで埋めます。次に12 1/4インチ(30cm)で3000mまで掘って、9 5/8インチ(24cm)のケーシングを入れます。このように順次ビット径を小さくして掘っていき、最終的に5000mの深度までは、8.5インチ(20cm)で掘って7インチ(18cm)のケーシングを入れます。

鋼管と鋼管の間は、セメントする必要はありません。順次鋼管径は小さくなりますが、周囲が地層と接している部分だけセメントされます。大きい口径の外側からセメントされますが、1200mの深度では500m程度までその上位鋼管が入っているので、700m区間のみセメントすればいいことになります。 

Q2.地下水とは半永久的に隔離されますか?

A.貯留層は、上下を孔隙の極小さい泥岩層で挟まれているため、圧入した水は上下方向へは行かず、砂層内を横方向に流れようとします。しかし、地層自体に圧力が上昇しても粒子の配置が換わるなどして孔隙を大きくして吸収する性質があります。これは圧縮率と呼ばれ、通常の地層では10気圧あたり約0.1%程度と言われています。これをもとに計算すると、20気圧 (2MPa)程度の圧力上昇であれば、125万トンは貯留層の体積が5km2x100m程度あれば吸収されます。

また、この深度の貯留層から出てくる水はしょっぱい塩水、つまり堆積されたころの海水です。このことからもこの深度の地層水が半永久的に隔離されていることが分かります。ここで「半永久的」としたのは、我々の生活感覚からの話で、この図で示されるように地質学的(何百万年)にはわずかに動いています。 

Q3.農林業への風評被害の懸念は?海への汚染水の放出が海産物への風評被害を引き起こすように、深い地下と言っても陸での「注入」ですから農業・林業への風評被害が生じるのではないですか?

A.これは、皆さんが最も気にされている点かと思います。これまでも説明したように、地下深部は地上生活圏とは半永久的に隔離された状況です。大きな点は、この手法で掘る坑井は原発敷地内なので、まず周辺の生活圏(農業・林業)にも影響はないと言えます。その理由は、汚染水を貯えるのに適切な地層が福島原発の敷地の真下深度約1200mにあることが判っているからです。これまでにも説明したように、圧入した貯留層は半永久的に隔離されるので、地表へ漏れることは皆無です。

それでも心配ならば、原発敷地内から海底に向かって坑井を掘ればよいとも言えます。いずれにせよ、人々の生活圏に流してしまう海洋放出とは異なり、陸上の農林業に対しても風評被害を容易に抑え込めます。 

Q4.大地震があっても大丈夫? CCSプロジェクトでは、震度5に実際に耐えましたが、もっと大きい場合は? また、地層に生じた亀裂、活断層のズレ、注入用の坑井の破損、などを通じて汚染水が漏れたり噴出したりしませんか。

A.ここで述べるように、スポンジの穴同様周囲の地層とほぼ同じ水圧なので噴出することはまずありません。しかし、深度5には耐えた地層も、深度8では一瞬破壊圧を超え、地上まで噴出するような大断層が起こるかもしれません。

が、この時の噴出は差圧が10気圧なので、ほんの少量噴出したところで止まります。もし、福島の原発至近距離で震度8が起きたらどうなるでしょうか? まず、原発建屋そのものが破壊され、もし放射能廃棄物を貯蔵していれば、そこが真っ先に壊れ、被害は甚大でしょう。これに比べれば、地中貯留していた水の一部が漏れることがあっても、地表でのダメージに比べればはるかに小さいのでは? 

Q5.苫小牧のCCSプロジェクトで実績を積んだといっても、圧入した炭酸ガス量は30万トンに過ぎません。一方、今溜まっている125万トンの汚染水は放出の際に希釈すると、およそ1300万トンとなります。こんなに大量の水を圧入できる適当な貯留層はあるのでしょうか?

A.国側の「地中注入」(ここでいう地中貯留にあたる)に対する評価では、適する地層の存在が不明、として取り上げられなかった理由の一つになっています。しかし、中山は10数年前に国からの委託のCCS適地調査で、福島原発周辺にもその存在を確認しています。

また、世界的に見ても地下地層の貯留可能量は、桁はずれに大きく、現在タンクに溜まっている125万トンのトリチウム、いやALPS処理汚染水を貯蔵することは、とても簡単です。 

Q6.トリチウム水とALPS 処理水の違いは?

A.これまでトリチウム水と呼んでいたタンク内の汚染水ですが、海洋放出が決定されると、ALPS処理水と改められました。国、東電はALPS処理水と言っていますが、2018年8月、「トリチウム水をどうするか」の公聴会の直前、トリチウム水に基準を超えるストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性核種が含まれていることが発覚し、大きな問題になりました。トリチウム以外の放射性物質が含まれている懸念も依然として指摘する声があります。

これを受けて、海洋放出の際には、タンク貯蔵水は再度ALPS処理を行い、かつ希釈してすべての放射性核種の濃度を基準以下にしてから、放出するとしています。国、東電は、再度ALPS処理をしても、トリチウム以外の放射性核種が残ることから、トリチウム水とは呼べず、名称変更したと思われます。

つまり、ALPS処理水には、トリチウム以外のも放射性物質が含まれている。ただし、すべてを基準以下にする、ということです。しかし、後述するように、いろいろな核種の安全基準は、各国で違いがあり、絶対的な安全基準があるわけではありません。「これ以外の汚染水を対象とすることはあってはならない」ことを、政府・東電との交渉において明示することが肝要と考えています。

ご清聴有難うございました。