2022年2月25日、表題のセミナーが開催されました。
コロナ禍の影響で食料供給が後退し、飢餓人口が8億人を超えて増加傾向にある中、昨年9月に「国連食料システムサミット」、12月には「東京栄養サミット2021」が開催されました。そして今年は「国際小規模漁業年」に定められています。これは小規模伝統漁業や養殖業の認知度を高め、食料安全保障や栄養促進、貧困削減、また天然資源の持続的な利用の貢献を支援し、さらに小規模漁業の持続可能性を促進することを目的とするものです。
講演を行なった国連食糧農業機関(FAO)の水産部部長のマヌエル・バランジュ氏によれば、海の生産力を利用した食料増産は、陸上で行なうのに比べてはるかに環境に優しく、与えた飼料が生産物に変換する効率が高いという利点を持っています。そこで陸上に頼る生産を減らし、海での生産へシフトするために今年、ブルー・トランスフォーメーション(以下BX)をスタートさせました。
BXでは3つの目標すなわち、①世界の需要を満たすために水産食品の持続可能な拡大と強化、②より良い管理による水産業の改革、③魚のバリューチェーンの効率、実行可能性、包括性の向上を掲げています。これは言わば、SDGsの枠組みに沿って、持続可能な食料を生産し、公平に分配するために転換すべき方向性を示すもので、水産業の生態的および社会的な持続性を同時に達成するための指針と言えます。
FAOはこのBXを可能な限り実施することで、魚介類の世界1人当たり年間消費量が1961年に9キログラム、2018年に20.5キログラムだったのを、2050年までに25.6キログラムまで増加させることが可能としており、逆に実施しなかった場合には18.5キログラムまで減少すると推測しています。またBXの達成は、人々の生計の改善や不平等の解消、さらに女性の権利の確立や新たなセクターへの参加も期待できるとしています。
講演に対するコメントとして、JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長(当プラットフォーム副代表)の二平氏は、日本の小規模漁業の実態や課題について触れ、その中でJCFUが発足した経緯や活動を紹介しました。さらに資源管理や養殖の発展を強化する際には、小規模な沿岸漁業者が安心して生活でき、後継者ができる政策が実行されるよう要望しました。
また、愛知学院大学准教授の関根氏(当プラットフォーム常務理事)がゲノム編集技術に対するマヌエル氏の見解を質問したところ、「従来の品種改良技術やローカルな品種の活用など、ゲノム編集技術を使う前に出来ることがたくさんある」と回答。FAOは公式にはゲノム編集技術に対して「中立の立場」としていますが、組織内でも賛否があることが伺われました。
今回のセミナーに参加し、「国際小規模漁業年」は世界の漁業従事者の9割以上を占める小規模漁業者の生活の向上や権利の擁護にとどまらず、世界人口が100億人に達すると見込まれる2050年に向かい、飢餓と貧困を撲滅していく壮大な食料戦略をスタートさせる機会と位置づけられていることを知りました。
(川島卓 記)