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【報告】FFPJオンライン連続講座第11回 コロナ以降の世界の食と農と家族農業、日本の食と農の未来

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FFPJオンライン連続講座第11回「新型コロナ以降の世界の食と農と家族農業、日本の食と農の未来」が2月18日(金)19:30〜21:00まで行われました。講師は、米国カリフォルニア大学で在外研究中の松平尚也さん(FFPJ常務理事&有機農業実践者&農業ジャーナリスト)です。以下は、松平さんの講義部分の文字起こしになります(資料はこちらからダウンロードできます。また、末尾までいくと、YouTubeの動画をご覧いただけます)。

 

今日は連続講座第11回ということで「新型コロナ以降の世界の食と農と家族農業、日本の食と農の未来」ということでお話していきたいと思います。初めに少し自己紹介をさせていただきます。現在この家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの常務理事をさせていただいております。2005年より有機農業に取り組み、その中で農業の現場は一般ニュースで情報発信がされてないなということで、現場から情報発信をするようになって、最近はYahoo等で情報を発信しています。一方で、農業・農村の未来と言いますか、これからを考えて思い悩む中で大学院にも在籍して、農業とか有機農業、食料について研究しています。

それで昨年秋から機会をいただきまして、米国のカリフォルニア大学のサンタクルーズ校の環境学科の在外研究員として現在、日本学術振興会の支援を受けて、こちらで今年の春まで在外研究をしています。私はアメリカの農業の専門家ではない状況もありますので、今日は家族農業や有機農業の経験者の立場から見た現地の報告ということでご理解いただけたらと思います。また参加者の事前質問もいただいていまして、そういった内容から有機農業の産業化とか大規模化についても注目して報告したいと思います。 

カリフォルニア州の概要

サンタクルーズの非常に有名な写真です。海と山が隣接したビーチ町で、山にトレイルに行くこともできたり、あるいは釣りとかビーチで、海で泳ぐのはちょっと厳しいけれども、冬でも温暖な気候で非常に観光スポットとしても有名なところがサンタクルーズ市になっております。

初めに私がいるカリフォルニア州のサンタクルーズを含めたカリフォルニア州の農業の現状の紹介から始めていきたいと思います。アメリカの中の各州の話というのはあまり聞いたこともない方も多いかもしれないですが、カリフォルニア州というのは、日本の面積の1.1倍になっております。人口は3,900万人でアメリカ1位になっていて、非常に興味深いのが、カリフォルニア州は人口の過半数を占める人種、民族はいなくて2014年以降、ラテン系が人種として人口の割合比が高くなっています。2020年でラテン系が39%、白人が35%、ほかにアジア系アメリカ人、日系アメリカ人も非常に多い地域であります。

私は現在、地図の左上の方のサンタクルーズというところに住んでいます。ここはサンフランシスコ湾というものがあって、その下の方に、後ほど少しお話するシリコンバレーというグーグルとか世界的に有名な企業が集まるところからだいたいクルマで40、50分のところです。あとからお話するのが、サンタクルーズ郡の一つ南のモントレー郡でありまして、そこにサリナスとか、大農業地帯というものがあります。

このサリナスには「怒りの葡萄」という本を書いた非常に有名なスタインベックの博物館とかもあって、今に続く資本主義と農業の問題というものを考える上で、非常に分かりやすい、重要な地形になっています。西側に太平洋があって、東側にシエラネバダという大きな山脈があって、地中海性気候に似た温暖な気候で、非常に農業に適しているという地帯ではありますが、一方で最近は水不足に悩んでおりまして、この2、3年が1200年ぶりの長期に続く水不足の状況というニュースも出ています。

一方でそのカリフォルニア州は過去50年間、農業の販売額では1位をずっと続けておる地域でもあります。2019年のデータでは、カリフォルニア州の農地は980万haありまして、平均の経営面積は各農場が140haということで、全米平均180haよりは少ないけれども、売上は非常に大きいという状況が出ています。売上が一番多いのは乳製品73億ドルで、アーモンド66億ドル、ブドウ64億ドル、牛肉加工品30億ドル、イチゴが22億ドルとなっています。アメリカのイチゴは日本にも輸入されていますが、アメリカ全体のたぶん9割がたがこのカリフォルニア州で生産されているという状況です。 

カリフォルニア州の家族農業

その中で今日は家族農業を中心に話していきます。一番上に今のカリフォルニアの農産物、果物等の旬が分かるような写真を持ってきました。上の3つの写真はファーマーズマーケットで売られている写真であります。今一番旬なのが、ブラッセル・スプラウツという、日本語で言うと芽キャベツです。あとブロッコリー、アーティチョークが非常に旬で、このカリフォルニア州はじめアメリカでは毎週のようにいろいろなところでファーマーズマーケットが行われております。主に有機、オーガニックのものが売られていて、そこでの写真を今の旬を分かってもらえるように、この写真を持ってきました。

その中でも非常に日本と違うなと思うのは、農場の名前とか農場のロゴとかに「ファミリーファーム」という言葉が結構な割合で入っていることです。この右が果物農家の方のファーマーズマーケットで、こういうロゴというかノボリを作っておられますが、そこにファミリーファームとしっかり描かれている。一番左もそうですけれども、家族農業ということが明示されている。この左下はカリフォルニア州にある大きな酪農家で、オーガニックのミルクとか、リジェネラティブ、再生型農業の乳製品を作っているところですけれども、ここもファミリーファームって描いてあるんですね。これは日本と非常に異なる特徴かなと思っていまして、米国ではこういった商品ラベルにもファミリーファームと明記されています。それはそれまでだという意見もあるかもしれないですけれども、日本でいろいろな農産品とか乳製品に家族農業と描いてあるのってほとんど見られないですね。そこら辺は商品戦略でもありますが、家族農業というものがどちらかというとそういった資本主義と言いますか、市場の中でもプラスのラベルとして考えらえているということはひとつのポイントかなと思っています。

それで、右下にアメリカの家族農業の割合というのはどれくらいかというのを、農水省が家族農業の10年のサイトで紹介しているので、ちょっと抜き出したんですけれども、割合的には日本、EU、米国とも農業経営体に占める家族経営体の割合というのは現在でも95%を超えているという状況があります。ただ文化的な商品等との関連というのは日米では違いがあるなということ感じています。 

ポストコロナと持続可能な食と農の未来

今日はこういった家族農業の現状をポストコロナ、新型コロナ以降の食料の問題にも引き付けて考えていきたいと思っています。その視点というのは、国連等も報告しているような、新型コロナ以降、世界のフードシステムというものが、非常に脆弱性が顕わになり、そのしわ寄せが中所得国、それから女性とかマイノリティーにいき、2020年の飢餓とか食料不足人口というのが2019年より増えてしまったという状況。その一方で日本のような食料を海外に大量に依存する国のリスクというものも高まっていると感じていることです。さらに今、ウクライナという世界有数の穀物輸出国が戦争に巻き込まれる可能性があり、世界の食料価格が非常に高騰する原因となっていまして、そういった中で、これまで見えてこなかった食料システムとか、あるいはそれを支えてきた、今日お話する移住、低賃金の農業労働者の問題等が新型コロナ以降、考えなければいけない問題だなと思っています。そうした視点からも今日の家族農業の課題等を考えていきます。 

カリフォルニア大学・サンタクルーズ校(UCSC)について

私がもう一つ紹介しておきたいのが、私が在外研究しているカリフォルニア大学のサンタクルーズ校についてです。このカリフォルニア大学にはいろいろな校舎と言いますか、いろいろな大学がありますが、その中のサンタクルーズ校は比較的新しい大学でして、1960年代にできた大学です。ここでは有機農業とか持続的な農業を考える上でアメリカでも世界的に見ても非常に重要なアグロエコロジーの提唱と実践が行われてきたり、さらに後ほど紹介する、有機農業の産業化と慣行化をいち早く指摘したJulie Guthmanという方が、右下にある「アグラリアン・ドリームズ(Agrarian Dreams)」というのを書いた人ですけれども、そういった農業の工業化の問題、大規模化の問題、そして有機農業の大規模化の問題をいち早く批判的に研究してきた人々がいる大学でありまして、そういったこともあって、この大学に在外研究をさせていただいているということがあります。 

現代米国における家族農業の考え方

いくつかフィールドワークとか調査もしていますが、今日は家族農林漁業プラットフォームでの学習会なので、私が非常に興味深いな、面白いなと思った、現代米国における家族農業の考え方というものを紹介します。

もともとアメリカでは家族農業というものが、国連の家族農業の定義にあるような家族の労働を主体とした定義で行われてきましたが、最近は非常に大きく変わっていまして、雇用していても大規模でも、家族が主体として家族経営の会社となっていれば家族経営農場ということで定義がされています。何故そんなことを言うかというと、アメリカでは家族経営の農場の大規模化というものが非常に顕著に起こっているからです。

次に家族経営の農家というものはどういった規模が多いのかということを少し紹介します。アメリカでは超大規模家族経営農場とか大規模家族経営農場、そして小規模家族経営農場というカテゴリーがありまして、超大規模家族経営農場というのが売上高50万ドル以上、大規模家族経営農場が25万ドル以上50万ドル未満というような枠組みになっています。日本円に換算すると6千万円以上売り上げている農家というものがいっぱいある。その割合というのをグラフで示したのが右であります。ちょっと見にくいですが、言いたかったのは超大規模家族経営農場に比べて、割合的には小規模な家族経営農場というのが多いんですけれども、売上は一番下のグラフで書いていますけれども、大規模と超大規模の家族経営の農場が全部の販売額の63%以上を占めているという状況です。一方で割合的には多い小規模の家族経営農場、小規模といっても25万ドル未満なので2千5百万円、日本円ではあるのが小規模家族経営農場です。そういった農場数というのが全体に占める割合というのが大体この一番下のグラフでいうと89%で多いのですが、これが売上の占める割合、生産量の占める割合というのは非常に少ないというような状況になっています。

つまりアメリカでは家族農業の定義というものが、雇用していても、会社経営になっていても、大規模化していても家族農場という定義になっているという矛盾があるので、こういう状態になっているということがあります。ただ一方でアメリカの家族農業の考え方が非常に面白いな、あるいは日本の家族農業の今後を考える上でも重要な考え方、あるいは政策があるなということを感じています。そうした面白い考え方についていくつか紹介します。

もともとこれは諸説ありますが、アメリカでは小規模な家族農業、ヨーマンと言われた独立自営農民というのがアメリカ建国の基礎を作ったと、ジェファーソンという大統領がそうした思想を持っていて、現代にあってもアメリカ国民の象徴的な存在と言う人もいます。ただそういった記憶とか歴史は非常に風化している現状もあって、家族農場とアメリカの歴史は最近ではそこまで繫げて考えられていないというのが、アメリカの市民社会の状況としてあるという話も聞いています。

アメリカでも第二次世界大戦後、大規模経営偏重の農政、あるいは農産物輸出に援助を推進する中で、農業の大規模化というものが起こってきました。それで家族農業が大きな影響を受けたと聞いております。その中でアメリカが面白いのは、1998年にアメリカの農務省が小規模農場に関する委員会というのを作って、そこで「行動の時」と題するレポートを作って、小規模農業と共に家族農業というのを再評価したということがありました。全体としては勿論、大規模偏重の政策が今でも続いていますが、一方でそういった小規模農業、家族農業の再評価というものが政策として起こっているということがあります。その中でイェーガーという人が、家族農業の運命、あるいは今後を考える中で、アメリカ各地で大規模農業とか工業的農業に抵抗する運動が起きてきて、その代表的な事例が有機農業とかCSA、ファーマーズマーケット、あるいは農業助成ネットワークだということを言っています。今日の報告ではそういった家族農業の実践的な部分がどういった形で展開しているのかについて、見聞も交えて考えていきたいと思います。 

現代米国の家族農業の課題

続いて、現代米国の家族農業の課題ということでお話します。アメリカに来て、ご存じのように新型コロナの影響で、現地調査とかいろいろな対面でのミーティングとかは難しいですが、オンラインで研究会に参加したり、人数がそんなに集まらない現地調査等には参加しています。このカリフォルニア州はアメリカでも一番、有機農産物、オーガニック製品の生産が多い地域であって、その小規模の有機農家が集まるフォーラムとか、大きな大会とかが毎年のように開かれています。そういったものも中止になっている現状もあって、多くの農家と一気に交流する機会というのは非常に限られています。ただ一方で、私は家族農業で有機農業をずっと営んできたということから、非常に身につまされるアメリカの家族農業の課題をこちらに来て知ることになりました。その1つの記事が右下の写真にあります、新規就農したアメリカの家族農業の課題でありました。

この一番右下の記事、これはConversationといって、日本語でいうと会話ということで、研究者とか市民社会、あるいは市民活動家がいろいろな切り口でウェブに投稿しているところで見つけた記事です。この記事によると最近、農業者の中で女性農業者、女性で農業をする人が増えているというようなデータが出ています。ただ一方でそういう人らにどういう課題があるかというのが、この右下の写真等で紹介している内容です。一番大きな課題として健康保険と育児の負担というものが非常に大きいという記事内容になっています。

ご存じのとおり、アメリカには日本にあるような国民健康保険というものがなくて、すべて民間の保険という状況になっていまして、それが非常に高い。さらに育児。子どもがずっと作業の現場に来ているわけにはいかないので、やはり学校から帰ってきたときに、子どもの世話を頼まなければいけない。それでないと農場が回らないというような現状があるとその記事では述べられていまして、そういったお金を払って子どもの世話をしてもらうのが非常に負担になるということが書かれていました。

それでは、アメリカに新規就農者の支援等はあるのかというのを、私も新規就農をした経験があるので少し調べたのですが、私が調べた限りでは新規就農者に特定したような支援というのは、2017年ぐらいまではなかったということは聞いております。ただローン、お金を借りるときにちょっと安くするとか、そういったちょっと割引みたいなものがあるんですけれども、日本のように新規就農者だけに向けた政策というのはないというような状況は聞いています。さらに、アメリカでは日本ほどではないのですが、農業者の高齢化というのが進行していて、若い人の農業者が非常に少ないという中で、新規就農者というものが非常に求められています。それでは、そういった人にどういったことが課題になっているかというと、農地価格が非常に高いということ。あと資金調達。お金を調達するのが難しいと。そういう背景に新規就農者向けの政策の不在があるということが言われています。 

有機農業市場における大規模農場への集中

次に有機農業に関連した話をしていきます。私が何でこの分野を話すかというと、私も有機農業にずっと関わってきているので、アメリカで一番、有機農業が盛んなカリフォルニアでいったいどういう状況になっているのかというのを今回、ちょっと新しいデータで調べてみました。アメリカというのは世界最大のオーガニック市場と言われています。ただそのオーガニック市場の形成と言いますか、作られ方というのは欧米では異なっていまして、ヨーロッパは政策を主導にオーガニック市場が形成されているのに対して、アメリカは市場誘導型と言われています。

2019年の有機、オーガニックの調査では、全国でオーガニックを認証されている農業の戸数というのは1万6千戸。面積は222万haということであります。ただ先ほども家族農業の経営体が、大規模が非常に多いと言いましたが、実は有機農業の経営体も同様のことが起こっていまして、全体の農場数としては少ないけれども、大規模農場が売上の過半を占めているという状況が見えてきました。具体的に言うと、農産物の総販売額が50万ドル以上の有機農場は、全体の農場数の17%を占めるに過ぎないのですが、その全体の売上の84%を占めていると。で、25万ドル以上、だいたい100を掛けてもらったらいいので、2千5百万円以上売り上げているところも含めて、50万ドル以上、25万ドル以上の2つを合わせると、全体の売上の91%を占めてしまうという状況になっています。

カリフォルニア州はこういった大規模な農場の寡占というものがもっと進んでいまして、カリフォルニア州の有機認証農産物が50万ドル以上の売上の有機農場は、農場数としては全体の25%で、これも全国に比べると多い。いわゆる大規模化がカリフォルニア州では有機農業の分野でも展開しているということを意味します。それが全体の売上の93%も占めている。さらに25万ドル以上で計算すると全体の96.4%を占めるということです。計算しながら私は絶望していたんですけれども、本当に有機農業でも大規模で雇用をいっぱいして、それも後ほどお話する移住、農業労働者をいっぱい雇用してこういった有機農産物市場が成立しているということがデータとして分かります。 

有機農業の課題

有機農業の売上と経営体の寡占と言いますか、大規模への集中という点を見てきましたが、ほかにもいろいろな大きな課題があると言われています。まず有機農業の定義というものが、もともとアメリカでは持続的農業、持続可能な農業という中には、社会的な側面も検討されてきましたが、政策としての有機農業の基準には、そういった社会的な視点が入ってこなかったというような歴史があると聞いています。さらに最近の大きな問題は、認証基準の問題でありまして、先ほど、アメリカのオーガニック、有機農業市場というものが市場主導型と言いましたが、その中身というのはあまりきれいな話ではなくて、巨大食品企業とか大規模な小売店等が有機農業に参入していまして、その政策への影響力を強めているということを聞いています。

そこでは効率的な大量生産を求めるだけではなくて、例えばオーガニックの基準を緩めて、いわゆる循環的な有機農業でなくてもOKするような内容になってきているという課題があると言われています。そこでやはり問題となってくるのが、有機農業の産業化と慣行化の問題でありまして、アメリカでも有機農業というのは民間主導、有機農業に取り組む農家が様々な知恵を絞って展開してきたのですが、それが産業化と慣行化が進んでしまって、思想的なものとか社会的な課題というのはそこへぜんぜん取り上げられないようになっているという状況が言われています。 

農場労働者の実態

基準とか文字の話ばかりしたので、昨年11月に農場労働者の視察ツアーに参加した体験記を少しお話します。この視察は、農場労働者の現状を知る、真実を知るツアーといった内容でありまして、主催団体は農場労働者の家族を支援するセンターが主催したものであります。この右上の写真が何の作物かよく分からないですけれども、センターが呼びかけのときに使っている写真で、1日のツアーでしたが、その内容を掻い摘んでお話します。

まずアメリカの農業を支える農場労働者というのは、多くは中南米から渡ってきた人々で、不法滞在の人々も非常に多いという現状があります。ツアーで、命懸けでメキシコから国境を渡ってきた農場労働者の経験を聞きました。砂漠地帯をまず歩いて命からがら渡ってきて、そのあとバスでこのサンタクルーズまで来たということでした。その20、30人が一気に中間業者と言うような、国境を渡る際に中間業者にお金を払ってきているんですけれども、一緒に国境を渡った人のなかには1人か2人、亡くなったというような話もされていました。

カリフォルニア州というのは全米の農場労働者の3分の1が集中する地域でもあります。アメリカ全体でこういった農場労働者、中南米からの農場労働者が50万人から80万人いると言われております。で問題なのが、その8割以上が非正規雇用でありまして、さらに農薬の問題等にも非常に晒されているということであります。このセンター(Center For Farmworker Families)が行政と一緒に、この農薬の中毒の調査をしたところ、非常に多くの人々が農薬の中毒に晒されておりまして、農場労働者の平均寿命がわずか49歳であるという調査結果が出ているということです。

農場労働者は基本、健康保険がなくて、住宅関係も非常に悪いというような状況が生まれていて、さらに大きな問題が、この農場労働者のためのキャンプという、行政が安く貸している住宅があり、右下の写真ですけれども、夜に訪問してきました。まずこのキャンプ自体、農場労働者の1.5%しか住めないというもので、あまり多くあるわけではありません。それでもアメリカは今、不動産価格が非常に高いので、こういった低料金の農場労働者用のキャンプというものは、いつも高い競争率の状況になっているということです。ただ問題がこのキャンプ。平屋が繋がっている住宅ですが、これが7か月間しか住めないんですね。ほかの5か月間は空いているけれども、行政としてはあくまでも、農繁期のためだけに作っているキャンプということで、それ以外は追い出されるというような状況になっています。

さらに問題がありまして、1回キャンプを出るときには、このキャンプから50マイル離れたところに行かなければいけないという非常に酷い、50マイルというと1.6倍なので80㎞くらい離れたところに住みなさいというような、規定があって、それにより農場労働者の子どもの教育が非常に大きな問題となってきました。この問題が農場労働者の子どもが高校までいく進学率というのが約1割に過ぎないというような教育格差というものを引き起こしてきたということも聞きました。ただこの50マイル規定はこのツアーをオーガナイズしている団体が行政に「おかしいじゃないか」というようなことを言って撤回させたということです。 

アグロエコロジーの啓発と実践

そういった様々な矛盾がある中で、その解決策も含んだ持続可能な農業・農村を考えるアグロエコロジーという思想がUCSC、カリフォルニア・サンタクルーズ校では歴史的に行なわれてきました。このアグロエコロジーという思想は下の方に書いてありますが、「農業における生態系の概念とか原理を持続可能なフードシステムのデザインと管理に応用する学問」「農民への知恵とか知識を重要視して、実践的で参加型、文脈重視の農業研究」と言われています。この思想が実はアメリカの有機農業とか持続的な農業を考える上で非常に重要な土台となってきていまして、その考え方で実際に行なってきたのがUCSCであります。

UCSC(カリフォルニア大学サンタクルーズ校の略)は、1980年からアグロエコロジープログラムというものを開設して実践してきました。90年代からはCASFS(アグロエコロジー持続的フードシステムセンター、2021年はCenter for Agroecology(アグロエコロジー・センターに改名、以下CfA)を作ってさらに活動を拡大し、徒弟制度という形で、有機農場、アグロエコロジー農場に研修生を受け入れて、アメリカにとどまらず世界中から有機農業を実践したい人々を集め、人を育ててきたということがあります。

さらにUCSCのアグロエコロジーがすごいのは、農家との参加型研究というのをしてきただけでなく、オルタナティブフードネットワークとされるCSA(地域支援型農業:日本では生産者と消費者が提携と呼ばれる)、オルタナティブなもう一つの工業的な大規模ではない食べもののネットワーク、あるいは農場労働者の労働運動も、アグロエコロジー、持続可能な農業の思想の中に取り込んで展開してきたという点が重要なポイントかなと思っています。実際、私が参加した農場労働者のプログラムは、UCSCのCfA出身の人が開いたものでありました。 

アグテックの功罪を考える

あと2つだけお話したいのですが、UCSCのこのCfAで、1月に非常に面白い取り組みが行われました。その内容は、アグテックというのは有機農業に本当に役に立つのかということを政治経済的に考えるという催しで、非常に面白い内容でありました。

先ほど紹介したようにグーグルとかマイクロソフトがシリコンバレーにありますけれども、最近こうした大企業が農業分野に大規模に参入してきて、アグテックを推進しています。日本も同じような状況でありまして、有機農業とか持続可能な農業において、このテクノロジーとかスマート農業でいろいろな課題を解決していこうというような状況になっていて、ここでの議論というのが、その先行きを考える上で非常に重要かなと思っています。

一つの結論を言うと、アグテックでは、例えばドローンやAIを駆使して地球温暖化に良くて、有機農業の課題を解決すると主張しているのですが、その内容は、限定的で、その多くは機械の開発とかのコストばかり考えられていて、農家のコストが考えられていないというような指摘がありました。さらに農場管理ソフトとかAIとかがメインであって、本当に農家にとって必要な技術なのかと疑問が呈されました。 

アグテックが家族農業を破壊する

そういった中で、アメリカでは世界最大穀物メジャーのカーギルとかは、ゲノム編集の推進、これもアグテックと言えると思いますが、そういうものが推進されないと世界の食料生産に影響をきたすと言っています。マイクロソフトも最近、大規模農業に参入してきていて、マイクロソフトが提供するようなデジタル農業プラットフォームというのが、農業のイノベーションの加速と民主化に向けて最も効果的と発言したり、あるいはアメリカの農薬連合、クロップライフアメリカというところですけれども、ここもやっぱりゲノム編集などを世界で展開していかなければいけないというような、世界で規制を緩和して、そういったテクノロジーを推進していこうと言っています。

その一方で、現場に近いような研究機関では、農家が農業に携われなくなる、農場で人は何のためにいるのかというような深刻な問題、問いが出てきている指摘されています。

さらに面白いと思うのは、アグテックとかいろいろなテクノロジーがトップダウンで行われ、お金、利潤が回る方へ向いてしまい、大資本が入ってくるといった問題に対して、ボトムアップの社会的な方法として、現場に近い参加型で、農家の知恵を基本にしたアグロエコロジーが提唱されているのが、非常に重要な点ではないかなと思っています。 

米国が直面する課題から考えていきたい日本の状況

結論として、こういった課題から考えていきたい日本の状況というのを最後にお話して私の話を終わりたいと思います。まず、家族農業を多面的に考える必要があるということです。そこでは現在の家族農業が抱えている課題を中心として、今日の話とのつながりで言うとアメリカの女性農業者とか移民農場労働者の家族の方も含めて、家族農業というものを考えていく必要があるのではないかということであります。

もう1つが、持続可能な農業を温暖化の問題も含めて、「みどりの食料システム戦略」というものの中身の課題であります。これは2021年の5月にできて、去年の秋から施行されていますけれども、2050年までに有機農業の面積を全体25%まで増やす、あるいは農薬のリスクを2050年までに5割減らすというような戦略に対して議論が沸き起こっています。それは内容がいままでの有機農業とか、有機農家の実践からかけ離れたところで展開している部分が多いという点であります。みどり戦略はこの2月に法制化が決定しましたが、実はそこで有機農業の団地化というものも盛り込まれています。これはこれまでの農薬化学肥料を使う慣行栽培の産地化という発想で、こういったものがどんどん進むと、有機農業の産業化と慣行化というのが日本でも大きな問題になってくるのではないかと考えています。

実際にアメリカの国内でも有機農業の大規模化はやはり問題という声もあります。例えばカリフォルニアというのは年中、いろいろな野菜ができるんですが、ワシントン等の東部の雪が多い気候的に寒いようなところでは、カリフォルニアの安い有機農産物が出回っておりまして、価格の競争ができないというような声が出ています。そういったことが日本でも起こってくるのかなということをここへ来て感じていまして、どういうことかというと、例えば1つの農協で大規模な有機農業をやる。そうしたら価格が非常に安い形で流れていく。それによって、これまでやってきた有機農家が価格面で太刀打ちできなくなるというようなことも起こってくるのかなということが、このアメリカの事例から感じました。それに対抗するため、そういったことが起きないように有機農産物も地産地消と言いますか、地域での自給をいまから考えていかなければいけないというようなことをアメリカの課題から見えてきた問いということで共有させていただきます。

とりあえず、いったん私の話は終わります。ご清聴ありがとうございました。