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【報告】FFPJオンライン連続講座第13回 国連『家族農業の10年』の国内行動計画の策定に向けて

· イベント

FFPJオンライン連続講座第13回「国連『家族農業の10年』の国内行動計画の策定に向けて」が4月15日(金)19:30〜21:00に行われました。

講座では前半、FFPJ常務理事の池上甲一さん(近畿大学名誉教授)が各国の国内行動計画の作成状況や、会員・オブザーバーの皆様などからのアンケートに基づいてFFPJが現在作成中の日本の国内行動計画(案)の大枠と論点について説明。後半で4つの小グループにわかれて討論し、それぞれのグループが全体に報告しました。講座ででた意見については日本の行動計画(案)に反映させる努力をしていきます。以下は、前半の池上さんの講義部分の文字起こしになります。(資料はこちらからダウンロードできます。また、末尾までいくと、YouTubeの動画*をご覧いただけます。)。

皆さん、こんばんは。今、ご紹介いただきました池上でございます。時間が限られておりますので、あまり前置きはいたしません。本日は講演というよりも、あとの話し合い、20分くらいで短いですけれども、その話し合いの中で色々議論していただきたいことに向けての準備というふうにお考えいただければと思います。 

■本日の提供話題

本日の話題提供は3つからなっております。1つ目は行動計画についてのおさらいです。2019年に世界の行動計画ができて、そのあと昨年、総会のあとの学習会で少し行動計画についてのお話をいたしました。それから1年近く経っています。というよりも逆に1年近く経ってまだこんなものかというふうに言われそうですが、その点についてはご容赦いただきたいと思います。まず行動計画についての復習を最初にしたいと思います。

2つ目に国内行動計画が世界でどんなふうに進んでいるかということと、それから公表されている、あるいは独自に入手したフィリッピンの国内行動計画について、少し興味深い点について、ご紹介したいと思います。

3つ目が本日の本題でありますけれども、国内行動計画の策定に向けておおよその構成とそこで皆さんがたに議論していただきたい点を述べます。特に、国内行動計画の柱になる大きな目標をどの辺に定めるかということです。それに基づいて、どんな中ぐらいの目標を立て、さらに小さい目標を作っていくということになるかと思います。今日は行動計画に求められているその結果の進展度を計るための指標やそれに必要な目標値、あるいはいつごろまでにそれを実現するのか、それからその点検の仕組みということについてはお示しできません。前段までということでお許しいただきたいと思います。 

■行動計画の復習

*世界行動計画(GAP)の理念

行動計画についての復習に移ります。国連家族農業の10年(UNDFF)は、皆さまがたもご承知のように、2019年に始まりまして、その5月にローマの会議で世界行動計画が承認されました。その特徴は何よりも家族農業者が主体だという点です。家族農業者は働きかけの対象ではなくて、自分たちが計画を作っていく、自分たちが行動していくという、そのことが一番の基本になっています。当然、そのためには色々な関係者、多様な主体と一緒に働いていかなければいけないということが強調されています。

それからボトムアップということで、下から色々な意見を吸い上げて世界行動計画ができています。ですから国内行動計画も同じようにボトムアップの形で進める、参加型で進めるということが望ましいということになります。それからアンダーラインをしましたデータの重要性ですね。色々な計画を立てたり、政策を作ったりするときに、あるいは点検をするときにきちんとしたデータがなければ、適切な政策も適切な評価もできません。ということで、そのデータが非常に重視されています。この点はまた後ほど申し上げたいと思います。

それから実行力を担保するために、政府がきちんと予算を付けるということも重要な指摘です。行動計画を実施していく主体としては、国連家族農業の10年の事務局、正確には事務局ではありませんけれども、事務局的なところに登録されている各国の家族農業支援組織(NCFF)が期待されています。日本では、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)がNCFFとして登録されています。 

*GAPの全体像

このあと7つの柱ということにたびたび言及します。世界行動計画が7つの柱からできているからです。その7つの柱がどういうものなのかということを一覧の図としてまとめてみました。この4、5、6、7の柱、これらがそれぞれ個別の問題といいますか、個別の領域に焦点を合わせているものです。これら全体にかかわる主体として若者とジェンダー平等、とくに農村女性が非常に大きな位置付けを与えられています。この2から7までの柱、つまり個別の柱4つと、誰がするかという主体の柱2つを総括する、統括するものとして第1の柱があるというふうにご理解いただければいいと思います。

第1の柱は政策環境ですね。第2の柱が今、言いましたように若者、第3の柱がジェンダー平等と農村女性。第4の柱が家族、特に家族農業組織。色々なことが書いてあるので、全部は書き切れませんが一応、第4の柱は特に農業の組織というふうに考えていただければいいと思います。第5の柱はどちらかと言うとコミュニティーですね。コミュニティーの問題です。第6の柱が気候変動です。第7の柱が多面性、多面的な機能ということになります。簡単に第1の柱から第7の柱までを振り返っておきたいと思います。 

*第1の柱と第2の柱

第1の柱は家族農業の多面的な側面に亘って政策を決定したり、点検をしたり、その評価をすること。そのためにタイムリーできちんと信頼できるデータに基づいて作らなければいけないということです。それから政策や制度的な枠組みだけではなくて、財政的な関与、予算的な裏付けをきちんとつける。公共的な関心、認識を高めていくということも第1の柱です。政策環境を強化するというところに重要な位置付けが与えられています。

第2の柱は家族農業の世代的な継続性を進めていくための若者の支援ということになります。特に重要な点は、意思決定における若者の積極的な関与を保障できるような仕組みにしていくということでございます。それからこの世代的継続性ということに関連して、伝統的・地域的な知恵を新しい解決に結び付けるような革新的な実践能力というものも重視されています。 

*第3の柱と第4の柱

3番目はジェンダー平等と農村女性のリーダーシップでして、これも若者と同様に意思決定における農村女性の積極的な関与というものが重要だということになります。そのほか、ジェンダー平等に向けた政治的・社会的・経済的・文化的、これは非常に多様な側面に及んでおりますので、そういうジェンダー平等に向けた色々な側面での変化を達成した成功体験を共有するということも重視されています。

第4の柱は家族農業の農民組織の強化ということで、メンバーやコミュニティーによりよいサービスを提供するということができるように、その統治のあり方とか能力を強化するということになります。ここにまた、景観のための農業的なサービス、景観を維持するための、あるいは景観を作っていくための農業的・非農業的なサービスというものも含まれています。 

*第5の柱と第6の柱

第5の柱はコミュニティーが焦点になっておりまして、社会経済的な包摂、それから強靭さ、ウェルビーイングというものを向上させようということになっています。ここで言っております農業というのは林業や漁業を含めていますし、農村というのも山村や漁村を含めておりますけれども、そういうコミュニティーの脆弱性、一般的に脆弱であるというふうに認識されていて、その脆弱性、もろさをできるだけ減らしていくということになります。

第6の柱は気候変動に強いフードシステムを作っていくということです。農業はもちろん、気候変動の原因になる温暖化ガスの排出源でもありますが、同時に気候変動の影響も受けていますので、その両面から積極的に気候変動の緩和、つまり温暖化ガスを削減する方向に農業のあり方を変えたり、気候変動に対して適応する仕組みを作っていくということが第6の柱です。 

*第7の柱

第7の柱は多面的な機能でございまして、生物多様性、環境、文化を守るといった点が強調されています。家族農業がそれぞれの場所で提供する資源、色々な財やサービスがあるわけですけれども、そういう多面的機能を強化できるような経済的な機会や市場を作っていこうということも強調されています。 

■世界行動計画から国内行動計画へ

一応、7つの柱がどんなものかということの簡単な復習を終えまして、次には国内行動計画をつくることが、次の段階ということになります。この国内行動計画にはここに書いておりますように、色々なことを書き込むわけですが、特に実施したいことを、誰がするのかということが非常に大事かなと思います。それから工程表、いつまでにどんなことをどういうふうにして達成するのか。それをちゃんと評価できるような数字、計るための指標を設定する。それから点検方法をきちんと作るということが国内行動計画の内容になっています。

実際にどれくらい進んでいるのかということを点検するときにレポートを作るわけですが、原則として2年に1遍ということになっていますけれども、その作成にはNCFF、先ほど申し上げた、それぞれの国で国内の家族農業を強化するための組織として、世界の事務局に登録されている組織、日本ではFFPJですが、ここに関与できる余地があるということになるかと思います。 

*世界行動計画の例

世界行動計画はどんな作り方になっているかと言いますと、第1の柱の中の2つだけ例示をしました。1-1には信頼できるデータ、家族農業の多面的機能の成果の評価というような中ぐらいの目標がありまして、その下に1-1-Aとして、データ収集と家族農業の成果の包括的な評価、さらに1-1-1という、より具体的な目標が書き込まれるということになっています。ここで、1-1-2では農業の一番基本的な統計であります農業センサスの実施方法の評価と向上というのが書き込まれているということもちょっと頭に留めておいていただきたいと思います。

それから1-1-3には知識協創的に一緒に作っていく。家族農業とそのほかの関連する主体で作っていく、そういう参加型調査をする、データを提供する。作っていくときには参加型調査をするんだと、そういうものを支援するということが書き込まれています。 

*国内行動計画とは

1-2はこういう財政政策的な強化の問題ということになっています。少しダブりますけれども、国内行動計画は国別の行動計画で、世界の行動計画の枠組みに沿っている7つの柱を各国の事情に合うように変えていく。最終的には、これは政府が責任を持つということになっています。つまり、政府を通じてそれぞれの国にあるFAOあるいはIFADなどの、国に置かれている事務所を通じて提出するということになっております。ですから、政府を中心として、国会議員や国際機関との対話が非常に重要になってきます。だから、国内行動計画は家族農業組織や関係者の意見を伝える手段だというふうに考えることもできます。

この対話を通じて国内行動計画にこういうものを盛り込むべきだ、あるいは私たちがこれから作ろうとしている国内行動計画を持ち込んで、こういうものを実現してほしいというふうに意見を表明していく手段だということになると思います。基本的には政府とそれからNCFFが推奨されておりますけれども、ここに小農や家族農業の見解を反映させることが非常に重要だというふうに考えます。 

*なぜ国別行動計画が必要なのか

なぜ国別の行動計画が必要なのでしょうか。行動計画は、具体的に動くメカニズム、実際に動けるような計画にしていくものです。たとえば、今、非常に問題になっているあらゆる意味でのサスティナブルな食の確保、食料保障ですね。コロナ禍でも明らかになりましたし、ウクライナの紛争もそうですけれども、いかに食料を調達するか、いかに食を確保するかということについて、これまでのあり方は非常にもろい、非常に弱いということが分かってきました。いかに国内で食を確保していくかということが非常に重要になってきている。こういう観点から国内行動計画を作っていくということが必要なのではないかなというふうに思っています。省庁やほかの関係者の間の壁を超えた包括的な政策決定にも役立つし、セクショナリズムを超えていくという仕組みを作ることもできるだろうというふうに考えています。 

*国内行動計画の策定主体と意義

策定主体は先ほど申し上げたように、政府の関与と承認が必要になりますので、ここが特に日本では最大の難関かなというふうに思います。何度も言いますが、日本のNCFFはFFPJです。しかし農水省ないし政府の見解はどうだろうかと言うとちょっとクエスチョンで、やや後ろ向きかと思います。それから国内行動計画はNCFFが積極的に関与することによって、勝手に作ることを防ぐということができるかと思います。我々が作ることによって、それを政府との交渉手段や根拠にすることができるということになるかと思います。もし仮にあまり上手くいかなかったとしても、自分たちが行動するときの指針にすることができるでしょう。こういう行動指針を作るという意味合いで、国内行動計画を作るというふうに考えた方が色々と議論もしやすいかなというふうに思います。 

*国内行動計画の点検の仕組み

点検の仕組みは、皆さんがたもご承知のSDGsのモニタリングに沿うようになっています。自発的国家レビューというのを出すわけですが、それに家族農業の10年の進捗状況も反映させるということになっています。 

*国別行動計画とSDGs

2021年に日本で最初の本格的な自発的国家レビューというのを出しています。しかしこの中には、家族農業という用語は1つも出て参りません。家族経営というのはありますが、家族経営はほかの産業の家族経営であって、農業の家族経営というのは出てきません。このレビューで、農業に関して触れているのは、SDGsの第2目標(飢餓の撲滅と「持続可能」な農業)に関連するところで、そこに「みどりの食料システム戦略」が強調されているという形になっています。

このレビューの指標にどんなものが使われているかということをご紹介したかったので、若干取り上げました。1つはFAOが開発した食料不安の蔓延度。食料不安を感じている人の割合ですが、日本では中程度の不安を感じている人の割合が3%前後になっています。日本で3%というのは、結構あるというふうに判断すべきではないかと私は感じています。それから3つ目の指標として、農業志向度というのを取り上げました。これはGDPの農業比率と農業予算の比率を比べたものでして、それぞれが同じ比率だったら1になる。GDPに占める農業の割合が3%で、農業予算の比率も全部の予算の3%であれば、1ということになるわけですね。そういう数字で見てみると、2015年までは一応、2を超えていましたが、2015年以降、2を下回ってきています。ちょっと農業への志向性が低下しているのではないかなというふうに思います。それから第2目標のところで、地域の持続可能性というところに自伐型林業に言及していました。これはちょっと意外でした。 

■世界における国内行動計画の策定状況と内容の特徴

*サブ地域の行動計画

次に急いで世界の状況をお示ししたいと思います。世界の行動計画と国別の行動計画のほかに、行動計画を作ることになっています。地域というのは、アジア・パシフィックとか、近東・北アフリカというようなFAOが決めている地域、それをさらに細かくいくつかに分けたサブ地域です。いずれもまだ完成途上で、ドラフトができている地域は〇〇などです。いわゆる先進国の多い地域はやや優先順位が低そうな感じがあります。 

*国内行動計画の策定状況 [2019年12月末]

それからこれは以前、お示しいたしましたが、2019年の12月末の時点での策定状況でして、この時には4か国だけでした。ドミニカ、ガンビア、インドネシア、ペルー。ガンビアは非常に小さい国なので、地図上には緑の点としてしか出ていませんけれども、まあ4か国です。2024年までに100か国で国内行動計画を作るというのが目標になっていますが、なかなか進みが悪い。もちろんコロナの影響もありましたけれども、進みが遅いので、農⺠・市⺠社会組織(WCC)という組織が2020年に策定を加速するようにという共同宣言を出しました。 

*国内行動計画の策定状況 [2022年3月末]

それを受けて若干の進歩がありました。今年の2月時点で、世界全体で45のNCFFが組織されています。世界51か国がUNDFFのこの枠組みに関与しているということになっている。それで地図上で緑色になっている承認済が10か国、策定中が14か国、水色が進展中ということで、日本も一応、進展中ということになっています。それから色が付いているところは、やはり中南米とアフリカに多い。アジアもインドが入ったので、だいぶ面積的には増えたなという感じになっています。

承認済は6か国が増えて、現在10か国です。それに加えて、家族農業関連の法制化の動きがすでに進んでいる国があります。これも中南米ですが、エルサルバドルでは、家族農業法というのができました。ペルーでは、農村先住民女性のエンパワーメント推進法という形で、すでに承認されている国内行動計画を実質的なものにしていく動きも出てきています。

策定中は14か国でアフリカが多いですね。それから進展が認められる国としてこれだけございまして、グローバルノース、いわゆる先進国ではポルトガル、スペインと、進展が認められるとなっている日本が該当しています。どこが早いかということになるわけですが、あまり順番を競っても仕方がありませんけれども、まだ少数ということです。 

*インドネシアの国内行動計画

インドネシアはインドネシア語で作成されています。野川さんの仮訳の力を借りました。構成はこんなふうになっています。このインドネシアの場合の特徴は、対象となる家族農業は非常に幅が広いということですね。ここにありますpalawijaというのは、稲作後の野菜間作ですから、たぶん小規模なちょっとした農業ということで、農業を専門にやっているというイメージではないようなものも家族農業として対象に含めています。詳細はちょっと時間がないので割愛します。 

*フィリピンの国内行動計画の構成

フィリピンの国内行動計画は、だいぶ参考になるかなと思います。背景、行動計画、時間の枠組、附属資料という構成になっています。この行動計画の中で、理論的な根拠として採用している「変化の理論」(これはよく分かりませんが)、を使って理論的な後付けをしています。3つのコンポーネント、SDGs関係、それから3つの分野に重点を置く、さらに細かい7つの重点領域というものを設定するという構成になっています。 

*フィリピンの行動計画の示唆

フィリピンの行動計画は、現状の問題分析にかなり力点を置いています。一番大きな課題は脆弱な家族農家の包括的発展が阻害されているということで、こういう問題を生み出しているのが3つのギャップ、あるいは3つの課題だというふうに分析しています。

第1は政策と事業をめぐるガバナンスが弱い、それから第2は農協、市民社会を含めた組織が弱い、第3はパートナーシップが弱いという認識です。そこから、家族農業に焦点を当てた政策がない、政策の一貫性の欠如、縄張り主義、お役所仕事、正確なデータと調査が不足している、社会的排除とジェンダー問題、高齢化といった諸問題が生まれている。こういうところをみると、どこの国の話かという、日本にもかなり共通している問題領域があるように思います。

フィリピンでも、家族農業の対象はかなり広く取っておりまして、経済・環境・社会・文化の各機能と結び付いていて、家族と農業が共に進んでいくというふうに考えています。だから、生産と生活を分離できない、農業と農村は一体だという捉え方をしています。産業として捉えていないということですね。ただし、目指している8つのパラダイムはかなりフィリピンの現状を反映して、経済発展、農業発展、産業的な農業発展を目指すというふうになっています。 

*4か国の国内行動計画の外見的特徴

先ほど申し上げ忘れましたが、公表されているというか、資料がネット上で取れるのは4か国、最初に承認された4か国だけで、あとの6か国の分はまだアップロードされていないので見ることができません。4か国だけで特徴を見ると、母国語で提出している、構成はかなり自由で、国によって色々な状況に組み換えている、情勢分析、どこに問題があるかというところにかなりのページを割いているといったあたりにあります。つまり、あまり形式にこだわらなくてもいいんだろうということですね。 

■日本の国内行動計画策定に向けて~アンケートを踏まえて~

*おおまかな構成案

日本の国内行動計画の策定に向けて、簡単な論点だけご紹介したいと思います。一応、構成案として、ここに書いているようなものを考えています。現状と政策分析、それから行動計画の総論的なもので、基本的などんな経緯でこの行動計画を作ったのか、基本的な考え方、その考え方の中に、どんなふうな枠組みでこの計画を作っていくのかということを示す。その基本になるのが、大きな目標をどこに定めるかということかと思います。

一応、検討するための素材として5つの大目標を書いてみました。一番目が農業と農村の担い手を維持し、将来に向けてつないでいく仕組みをきちんと作っていく。二番目は、誰もが生き生き暮らせる農山漁村にしていく。三番目が経済的・環境的・社会的なサスティナビリティを確保する。四番目が農法・技術の話ですが、家族農業に合う農法・技術を一緒に作っていく。この4つを総合的・統合的に政策として推進していくのが五番目で、全体にまたがる柱ということになります。

各論として、皆さまがたにご協力いただいたアンケート調査を踏まえて、色々な具体的な案を作っていきたいと思っております。ここでは世界行動計画の7つの柱に対応する形でアンケート調査を実施いたしましたので、その7つに即して書いてみました。また追加的な柱として技術や農法、食品安全性についても聞きましたので、これを入れていくということになります。そして最後に工程表・指標とか目標数値とかを書き込むということになるかと思います。 

*日本の農林漁業政策の評価

日本の農林漁業政策の評価については、ここではあまり議論をする時間がありませんので省きますけれども、FFPJとしてそれぞれの場面において、色々な意見やそれからパブリックコメントを出してきておりますので、そういうものをベースにして書いていきたいと思います。日本の農業政策は今回できた「みどりの食料システム戦略」でもそうですが、輸出志向が相変わらず強いという特徴をもっています。そのために、これまでも色々なプロジェクトがありましたが、今は農林水産・加工品の輸出プロジェクトというのでGFP(Global Farmers / Fishermen / Foresters / Food Manufacturers Project)というのが推進されています。それからデジタル化とかスマート化とかが中心に据えられることになりますね。 

*行動計画の総論

行動計画の総論ですが、計画策定の基本的な考え方としては、大目標を世界行動計画の7つの柱と日本の状況に合わせた問題分析を踏まえて設定していきたい。大目標として、先ほど申し上げた5つを設定したらどうかというように考えています。この辺りについて率直な感想やご意見を後の議論で、話し合っていただけたらというふうに考えています。その大目標が決まれば、それをブレークダウンしていく。中ぐらいの目標は中期的な目標ということになるかと思います。それからもう少し具体的な目標として、短期的なものも入れ込んでいくということになるでしょう。 

*大目標の提案

大目標のもう少し具体的な中身ですが、一番目の農業と農村の担い手というところでは、多様な農の従事形態というものを重視したいと思っております。この中では若者、女性や半農半X、もちろん中核農家はありますけれども、中核農家のほかに過疎の地域の核になるような、これは徳野先生という方の表現ですけれども、中核兼業農家というような存在とか、それから、よく言われている兼業農家ではなくて、複業として農を選び取るというような兼農というようなあり方というのも強調していいのかなというように思います。

そういう意味では、統計的な意味での農家の基準というのを見直す必要があるでしょうし、それから農地法上で認められている農地の取得の下限面積についてもふれる必要があります。これも自治体でそれぞれ設定することができるようになっておりますので、そこの下限面積をより取得しやすいように変えていくということも必要かなというふうに思っています。

それから経営継承で今までは、家を単位として継承して参りましたが、それがどうしても厳しくなってきているということを考えると、第三者に継承するという仕組みも考えていかなければいけないのではないかというように思います。

誰もが生き生き暮らせる農山漁村というところでは、災害とか鳥獣害に強いことも重要な要因です。どんなふうにすれば、そういうことが可能なのか。流行りの言葉で言うとレジリエンス(柔軟性、復元力、強靭さ)ということになります。レジリエンスという言葉に拒否感を感じる方もおられるようですが、いい表現がなかなかないので、とりあえずレジリエンスにしています。それから農村の組織や協同組合のあり方もきちんと変えていく必要があるでしょう。特に若者や女性や障がい者も気兼ねなく運営に参加し、意見を出していける、意思決定に参加できるというような運営の仕組みを確保する、保障していくということが重要かなというふうに思います。

3番目の色々な面でのサスティナビリティですけれども、ここでは気候変動が1つの柱になりますが、環境的な多様性だけではなくて、社会的な多様性や経済的多様性を強化するということも大事かなと思います。

4番目は家族農業に合う農法・技術を一緒に作っていく。かつての農法・技術は結構、農機メーカーと農民が一緒に意見を闘わせて、新しい機械や道具を作っていくということが行なわれて参りましたけれども、もうそういう関係が薄くなっている。特にスマート技術とかバイテクとかになりますと、完全にブラックボックスになってしまっています。そういうところにいかに家族農業に合うような農法・技術の確立に向けて、一緒に議論できる仕組みを作っていくかということが大事かもしれません。

今日はアンケートの結果はあまりお示しできませんけれども、スマート技術をめぐっては意見が分かれております。これは使い方によってはかなり家族農業にとってもプラスになる面があるということで、身の丈に合ったスマート技術ということが大事なのかなというふうに感じました。それからスマート農業に関連しては、データをどういうふうに取り扱うかということも新しい問題として議論しておかなければいけないし、やはり国内行動計画にきちんとこれは書き込むべきではないかなというふうに思います。特に情報主権というような考え方ですね。

それで、1から4までのものをカバーする政策。この面ではアグロエコロジーがポイントかと思います。アグロエコロジーは、農業の実践・技術、それから色々な領域の科学と運動、政策化という3つの領域を統合するものというふうに捉えられています。こういう意味で、アグロエコロジーを政策理念の基盤に据えるということも必要だろうと思います。 

*大目標・中目標・小目標の例:相互関係

先ほどの世界行動計画に倣って言えば、一番左に大きな目標を書いて、その隣に1-1-Aというものがあって、さらに細かい1-1-1があるというふうな形で作っていくということになるかと思います。例えばサスティナビリティの強化を大目標とすると、次に経済的な多様性と環境的な多様性、それに社会的な多様性というのが中目標にあって、さらにそれを具体化するために、ここに書いてあるような投入財の見直しから始まって、色々な複合経営であるとか、地産地消とか生き物指標というのを作ったり、導入したりするというようなことを考えていく。あるいは、担い手の捉え方の変更、事業継承とか、農山漁村への移住とかこういうものを小目標として入れていく。問題は相互に関連し合っていますので、ある個所で出てきたものが、別のところにも出てくるというようなことになるかなというふうに思います。 

*目標にしたい希望の農業・農村像

一番最初に、目指したい希望の農業・農村像というのを書いていったらどうかなというふうに思っています。10代~20代の「憧れの仕事」として認識されることを目指す。これはFFPJの常務理事でもあります斎藤博嗣さんが非常に強調しておられる表現でございます。時間がなくなりましたので、この辺りはパワーポイントのスライドを後ほど資料としてお目通しいただければありがたいと思います。

駆け足で参りますけれども、若者、特に農業を楽しんでいる親の姿を示す。農業の明るいイメージを積極的に発信しましょう。アグロエコロジー学校みたいなものを整備しましょう。それから女性については家族農業だからこそ、ジェンダー平等が実現できるということを示す。まだなかなか色々な困難な状況や課題がたくさんありますけれども、それを何とか乗り越えていくということを実際の姿として見せることが出来るのではないかというふうにも思います。次に、農業組織については本当に役に立つ改革をするとか、幅広い関係者との対話のためのプラットフォームを作る。関係人口を増やすということが大事かと思います。それから農村のコミュニティーについては、多就業とか、住み続けられる地域にするための生活基盤の整備ということがかなり重要です。生活基盤として大切な小学校や病院を安易に統廃合しないような努力を書き込みたいと思います。それから気候変動対応につきましては、山(林業)、里(農業)、川・海(漁業)の有機的な連携というようなことが大事になってくるでしょう。多面的機能とか多就業とかについて、アンケートで出てきた意見にあった「むやみに補助事業を作ればいいというものではない」ということも大事でしょう。

一番重要なことはやはり、小規模で分散型の食料システムを作っていくということではないかと思います。JAはあまり論点に挙がってきませんけれども、やはり無視できない存在だから国内行動計画にちゃんと盛り込んでおかなければいけない。特に協力するための可能性とか、働きかけの糸口というのを探す必要があるかなと思います。

あとは、この辺りは省略したいと思いますが、もう一度だけ強調したいのは、農業統計の理念の転換です。一番基本的な統計の農業センサスでは、農家という捉え方ではなくて、経営体という捉え方になっています。この辺りも含めて、きちんとした村の実態が分かるような統計に組み換えていくということを要求していく必要があるかと思いますし、そうでない場合には自分たちで、そういう地域レベルの統計を作っていくということも大事になるかもしれない。データを作っていくということが必要になるかもしれません。 

*その他の論点

もう1つその他の論点として、地方自治体レベルで農家の行動計画を作っていく。市町村の行動計画を作っていくということも重要な働きかけになるのではないかなというふうに思っております。

時間をだいぶ超過してしまいました。申し訳ありません。皆さんの声が行動計画の基本だということで活発な議論を期待したいと思います。以上で本日の話題提供を終わりにいたします。ありがとうございました。