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【報告】FFPJオンライン講座第20回:協同労働という働き方と労働者協同組合法について

· ニュース

FFPJオンライン連続講座第20回は、「協同労働という働き方と労働者協同組合法について」と題して12月20日(火)に行われました。講師は、日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会理事の玉木信博さんです。以下は、玉木さんの講義の概要になります。資料はこちら。文末まで行くと講義の動画をみることができます。

*自己紹介

今ご紹介いただきました私は、ワーカーズコープ連合会、そしてあとでちょっと説明しますが、センター事業団の方に所属をしています。同時に、長野県で本当に小さな一般社団法人ソーシャルファームなかがわという団体を2年前に立ち上げまして、その運営にもかかわっております。

もともと東京出身です。東京出身と言っていいのか分かりませんけれど、東村山市というところで生まれ育っています。大学は東京農業大学というところで農学部でしたので、むしろ今日は家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの皆さんから色々な話を聞いて勉強したいくらいです。

2006年にワーカーズコープに入職をしました。ワーカーズコープは皆で出資して仕事をつくる団体で、もうすでに存在したワーカーズコープという組織に私は入職したわけですけれども、実はワーカーズコープの最初の面接のときに、ぜひこの団体で農業がしたいですというふうに言って、入職したんです。けれども、そのあと高齢者施設や児童施設、若者支援ですとか、生活保護を受けている方、生活困窮者の支援なんかに十数年かかわってきました。とりわけ児童に関するところとか困窮者の支援といった福祉ケアの世界を夢中でやってきて、2022年6月から団体の専務理事をしています。

時期的に重複するんですけれども、2015年の4月に長野県の上伊那郡中川村という小さな村に家族で移住をしました。移住をしたと言っても半々くらいの生活で、ワーカーズコープの仕事を続けられるかなという思いもありました。ですが、もともとワーカーズコープに入ったのも農業がしたいという気持ちがあったので、農業と福祉、地域づくり、そして労働者協同組合というものを掛け合わせて仕事づくりができないかなというふうな思いで、今そこも仲間といっしょにやっているところです。

今日はあまりお話しませんが、色々と市民活動もやっていまして、薬草の研究会を「産直市場グリーンファーム」という伊那にある直売所の会長や信州大学の元先生と一緒に立ち上げて、もう3年くらい。あと養命酒さんからとか色々なレクチャーを受けながら、薬草研究会というのをやったりもしています。この辺は余談ですけれども、今日は協同労働という働き方と労働者協同組合法について、そして自分が移住をして、農村でこの働き方を生かして、仕事をどうつくっていくかというところ。こちらはまだ始まったばっかりの話なので、ちょっと物足りないかもしれないですが、させていただきたいなというふうに思います。 

*ずっと胸の中にある言葉…

ワーカーズコープの話とも重なるんですけれども、私自身はこの内山節さんの言葉がずっとなにか胸の中にあります。これは比較的新しい言葉ですけれども、学生のころから内山さんの本を読んで、すごく好きでした。この「私たちの先祖は『暮らしはつくるもの』『仕事はつくるもの』で生きてきました。ところがとりわけ戦後以降、『仕事は雇われるもの』『暮らしは買うもの』に変わってきました。そのツケが、さまざまな形で私たちを圧迫していて問題も大きくなっています。もういちど、『仕事をつくる』とはなにか、を考えていかなくてはいけないと思います。一人でできることもあるでしょうし、仲間といっしょにすることもある、自然があってできる仕事もあるし、地域があってこそ仕事もあります。」ということで、ここでほとんど今日、お伝えしたいことは言い得ているのかなと思っていますが、説明を続けていきたいと思います。 

*労働者協同組合法の制定

先ほど、司会の市村さんからもお話がありましたとおり、労働者協同組合法が制定されました。2020年の12月4日に可決され、2022年の10月1日に法律が施行していますので、これで広く国民が労働者協同組合法人というものを、どこでも誰でも3人から立ち上げられるということになりました。これは議員立法で成立しましたので、議員の先生方がおっしゃっていることではあるんですけれども、与野党全会派の合意賛同を得て、超党派の議連として法案を衆議院に提出したということです。あとで法律の第1条を読んでいただくと分かるように、地域のことを考えている国会議員の皆さんにとって、衆議院法制局の方々もそうだと思うんですが、非常に熱のこもった法律の第1条になっているなというふうに思っています。 

*協同労働と労働者協同組合

もともと労働者協同組合法の前に、私たち自身も労働者協同組合法をつくろうという運動を20年以上してきました。労働者協同組合というものは、働く人(労働者)が出資をする人ですね、お金を出して経営・運営に参加をしてそこで働く。そして地域に必要な仕事を自分たちでおこしていく。私たちはこのような働き方を協同労働という言い方をして、一般的な雇用労働に対比して使ってきました。この働き方をベースにした法人格というのが労働者協同組合となります。協同労働という働き方は、法律をつくられた国会議員の方々も協同労働という言葉を使っていますが、法的に位置づけられた定義というものはありません。けれども皆さんが使ってくれているということですね。

労働者協同組合については労働者協同組合法で定義づけられました。組合員が出資をし、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする。自分たちの運営する組織体、結社は自分たちの意思によって運営するということが、この労働者協同組合だというふうに理解して良いかなというふうに思います。 

*「労働者協同組合法」 第1条 (目的)

第1条ですね。これはとても珍しいなと私は個人的には思うんですけれども、長い文章ですが一文で出来ています。他の公益法人、あるいはNPO法人とかでも、その第1条が法人格の目的になるわけです。

労働者協同組合法の場合は、第1条の前半部分は、「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲および能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状などを踏まえ」というように、ワークライフバランス、ディーセントワーク(働きがいある人間らしい仕事)、あるいはその人一人ひとりの願いみたいなものが、就労の場にあって、その機会が確保されてないという社会的な現実、現状をここで書いています。

真ん中の部分は先ほど私が説明したとおり、労働者協同組合法の定義になっていますけれども、緑のところ、一番下の段落が、「多様な就労の機会を創出するということ」、そして「多様な事業が多様なニーズに応じた事業が行われること」、そして「持続可能で活力ある地域社会の実現に資すること」を目的とするということですね。ですから出資、意見反映、そして従事という三原則はもちろん、組織の基本原理ではあるんですけれども、この青字と緑の字ですね、最初と最後の目的をしっかり、この法人格を使って、その実現に向けたものを目的としてくださいねということが書かれています。 

*協同組合(cooperative)とは - 定義

そもそも労働者協同組合という協同組合ですけれども、もちろん皆さんは良くご存じかと思います。これは国際協同組合同盟、世界最大のNGOと言われているICA(International Co-operative Alliance)が、「協同組合は、人びとの自治的な組織であって、自発的に手を結んだ人たちが共同で所有し民主的に管理する事業体をつうじて共通の経済的、社会的、文化的ニーズと願いをかなえる」というのが目的です。もちろん日本にも農協、生協、漁協、あと信用金庫さんとか森林組合さんとか、色々な協同組合がそれぞれの協同組合法で位置付けられていますけれども、労働者協同組合もその一つにさせていただくことが出来たということですね。 

*協同組合で働く人びとと組織

ただ私自身もずっと労働者協同組合にかかわるまで、あるいは協同組合のちょっと勉強するまでは、やっぱり日本には大きな協同組合、あるいは生協、生協は70年代からずっと市民運動でつくられてきた経過があります。もう私自身が大人になって、自分が協同組合にかかわるとなると、自分が加入して何らかのサービスを受ける、あるいはそういうサービスに対する運営や事業について意見を反映する、してもらうというような、そういう組織構造というか組織体というイメージがありました。ところがヨーロッパや南米の人たちは特に労働者協同組合、私たち自身がモデルにしたイタリアだったりスペインだったりというところでは、多種多様な協同組合を自分たちでつくる。加入してサービスを受けるというよりかは、もちろんそういう協同組合もたくさんありますけれども、もう一つの選択肢として、先ほどの協同組合とは、というところでもありましたけれども、自分たちでつくるということが一つの選択肢としてあるんだということが個人的にもとっても衝撃的な話でした。

こういう私たちのような協同労働という働き方を目指してきた組織というのは私たち以外にも、ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)という生活クラブ生協の運動の中から、女性たちの社会貢献と事業として出発した組織があります。このワーカーズ・コレクティブネットワークジャパンも法制化運動には非常に力になって、いっしょにやってきました。

あと障がいがある人と共に働くという就労創出をかかげる組織、ここで書かれている「浦河ぺてるの家」はワーカーズコープ連合会にも準加盟している組織です。それと「共同連」さんもそうですね。あと私自身は直接、かかわりはないですけれども、農村女性起業として、農村の女性たちが自分たちで出資をし、運営をし、そして経営も自分たちでやっていくという組織がかなり多く日本社会にはあるということで、2016年まで農水省が調べていましたけれども、1万団体弱あるということが分かっています。

この協同で仕事をおこす、あるいは協同労働というあり方そのものは、古くは江戸時代からあって、今の形としてしっかりあるのは、例えば沖縄の「協同(共同)売店」ですね。住民出資、これは沖縄の北部と離島に今も多く残っていますけれども、地域に必要な日用品とか食材なんかを自分たちで仕入れて、住民の中からそこで働く人やそこでの運営方針を決めていくという協同売店があります。最近は色々な大きなショッピングモールみたいなのがたくさん出来ていく中で、なかなか運営が難しいというお話も聞いています。実態として、こういった就労があったり組織があったりというのが、もちろん私たちだけではなくて、労働者協同組合法の根拠となる社会的存在ということで、法律が作られたという経過があります。 

*日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会概要

私が所属している連合会ですけれども、34団体で構成されていまして、その中の6、7割くらいの組合員数がいるセンター事業団というのが、私が所属する単協となります。ワーカーズコープは、もともと労協連(日本労働者協同組合連合会)という組織で、戦後の失業対策事業、インフラ整備だとか雇用対策で国が直接、失業者を雇用するというような形で、失業対策事業が始まるんですけれども、だんだん高度経済成長で失業問題も戦後よりも改善されたということで、失業対策事業が廃止される中で、私の大先輩がたが失業者で、自分たちが単に雇われる存在ではなくて、自分たちでお金も労働も出し合って運営もして、そういった組織を目指していこうということで出来ました。

ここの右に書いてあるとおり、公園清掃とか緑化の事業、あるいは病院の掃除とかゴミの回収。今でもこの右にあるそういった仕事は、私のいるセンター事業団でも全てやっていますけれども、そういった仕事が私たちの原点でもあります。この辺の詳細は今日は時間がないので飛ばしますが。 

*ワーカーズコープの農的な活動

今日は家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンさんということで、私自身もワーカーズコープで農業をというふうに言いましたが、まだまだ本格的に農業を事業の柱としてやっている事業所というのは少ないです。

この霧島市(鹿児島県)の事業所なんかは、子どもたちで学童保育の事業所、あと障がいのある子どもたち、あと若者で生きづらさを抱える若者たちのサポート支援なんかをしている事業所ですが、自分たちで米を作り、ニワトリを飼い、ニワトリは最後、自分たちでさばいて調理して食べています。そういったこれは食農教育的な取り組みです。

あるいはこれはワーカーズコープ山口で、もちろん労働としての対価の給料はありますけれども、一人ひとりの約150人の組合員に対して、今年は1俵ずつ、60キロですね、60キロのお米をこの10月に分配をしているワーカーズコープです。皆で作る自産自消みたいなことをしています。

ここは高齢者のデイサービスで、高齢者の農福連携はあまり話題にはならないんですが、福島から避難してきた人たちといっしょに埼玉県ふじみ野市で立ち上げた事業所です。そこのメンバーで今、デイサービスでかなりの農的な活動をしているところで、菜の花から油を採ったりしています。

これは埼玉の北部ですね。今、二町歩くらい、うちが運営している豆腐工房の大豆を育てています。あと農事組合法人も1つ持って、大崎市(宮城県)で農業をして、引きこもりの若者とか色々課題を抱えている若者なんかも含めていっしょに仕事をしています。コンポストの取り組みとか。

あと林業も少しずつ始まっています。今、豊岡市(兵庫県)、女川町(宮城県)、あと登米市(宮城県)と広島ですね。4カ所で自伐型というか本当に小さな林業を始めて、ここは林業から「森のようちえん」に入っていっているような感じですね。こういった農福連携、林福連携もしています。全国に今、センター事業団という団体だけで、450くらい事業所があるので、本当に色々なことをやっています。

これは生活困窮者支援の中で、水福連携ということで、水産業と福祉の連携で、八頭町(鳥取県)で田んぼの休耕田を使ってホンモロコ(ワカサギに似たコイ科の淡水魚)の養殖なんかをしています。この辺は飛ばします。

先ほどの林業の事業所は斎藤幸平さんが見学をして、今回の新しい本にもこの事業所のことが書いてあります。

この豆腐工房なんかは、自分たちで豆腐作りもやっているんですが、もともと廃業する豆腐工房をそのまま私たちで引き継いで、働いていた障がいのある方とかも含めて、いっしょになって、事業承継というんですか、継業をしたという形になっています。 

*「労働者協同組合法」のポイント

ちょっともう一回、労働者協同組合法の少し中に入っていきたいと思います。労働者協同組合法のポイントということで、出資・意見反映・事業従事(労働)というのを基本原理とするという、先ほどの話ですね。でも代表者を一応、決めなければいけないので、この労働者の中から一人、代表者を決めます。その方が雇用をするという形は他の企業と変わりませんが、労働者の中から代表者も決めなければいけないということになっています。非労働者ではないということですね。

それで、準則主義と言ってですね、協同組合法は戦後、古くから出来たということもあって、認可主義というのが取られていますけれども、例えばNPOだったら認証主義ですね。準則主義というのは、条件を満たせば、いつでも誰でもどこでも、定款がしっかりつくられていれば、届け出だけで設立できる。そういう意味では一般社団法人とかともいっしょになっています。事業には業種と地域の制限がないということです。

ただし労働者派遣業は、派遣労働者自身がその帰属という意味では、派遣元になりますので、そういう意味では組織の構造と合わないだろうということで、労働者派遣事業は出来ないということになっています。ただそれ以外の事業には業種、例えば農協ですとか生協のように事業・業種の制限があるということはありません。

非営利組織、組合は営利を目的とした事業を行ってはならないっていうふうな、この非営利というのは特に誤解されやすいんですけれども、配当を第一義にしないということですね。NPOもそうですけれども、一般的な収益事業はもちろん出来ますし、確定給与として、所得として労働者がそれを受け取ることも出来ます。ただ配当はできないということですね。剰余金に関しても、それに伴って、配当を一義としないということのために剰余金の割り当てが決まっています。

もう一つ、企業組合とかNPO法人で今やっている組織も労働者協同組合法人に移行できる、3年以内だったら移行できるということですね。

じゃあ、労働者協同組合で働く人たちは全員が組合員でなければならないのか、全員が働かなければいけないのか、ということですね。これも5分の5じゃなくて良いということです。5分の4以上が組合の行う事業に従事をするということ。だから働いていない人が5分の1以内だったら良いですよと。それと組合の行う事業に従事する方の4分の3以上は組合員でなければならないという規定があります。労働者が組合員、組合員は労働者であるということで言うと、こういう規定があるということですね。

この表はちょっと細かいですけれども、NPOと労働者協同組合法、あるいは一般社団法人、中小企業協同組合法との違いになります。細かいところは色々あるんですが、まず非営利であるということではNPOとか一般社団といっしょですけれども、一番違うのは、構成員が働く人、労働者であるということですね。NPO法人の場合には、いわゆる正社員、正会員ですね、社員と呼ばれるのは正会員ですけれども、働いている必要はないです。労働に関する規定はない。一般社団法人も同じですね。労働者協同組合の場合には、構成員は組合員と書いてありますが、これは基本的に労働者であるということになります。

ちょっとこれは余談ですけれども、非営利は非営利ですが、さらに高い形での非営利の労働者協同組合を特定労働者協同組合というふうに位置づけることが、施行前の6月に、異例も異例ですけれども、2022年の6月に一部改正がされて、特定労働者協同組合法人というのが出来ました。 

*労協法制定後の国や自治体の動向

先ほど市村さんからもお話がありましたけれども、農村でこれが使えるんじゃないかということです。こういう皆でお金を持ち寄って仕事をするというあり方そのものは、協同労働や労働者協同組合という言葉が出来る前から、農村では道普請とか結とかって言われるものが存在していました。新しい法律という形になったり、協同労働という働き方で表現されてはいるけれども、農山村との親和性が高いんじゃないかなと言って、農水省でもこの法人格がなにかしらの形で使えるんじゃないかと言っています。

それと個別に国とか自治体でもこの働き方を通じて、元気だけれども定年を迎えられて仕事がない人たちとか、働きたくてもなかなか働く場所がないとか、あるいは私たちが若者サポートステーションとかでかかわっている若者たちはやっぱり、一般の労働市場ですごく傷を負っている若者たちも多いですけれども、そういう若者たちが協同して働くという場として、自治体が注目しているということがあります。

広島市ではそういう設立支援にいち早く取り組み、元気高齢者、65歳以上の方ですけれども、プラットフォーム事業として、こういった形が始まっているということですね。

厚労省も今、ホームページでQ&Aを立ち上げています。労協法人を立ち上げたいという人にとっては今、私が説明した以上に専門的で分かりやすい説明が厚労省のホームページに出ていますので、見ていただければと思います。で、ちょっと飛ばしますね。 

*イチから協同の小さな仕事づくり-私が暮らす地域での取り組みから

市村さんから、労協法の説明のあとにこのお話をということだったので、少しさせていただきます。今説明したとおり、法律をつくる運動で20年、そして私が所属するセンター事業団という労働者協同組合ワーカーズコープは約35年ということです。

私がいるセンター事業団は、出資金というのが一口5万円ですね。出資金というのは協同組合なので、退職する、あるいは脱退という表現をしますが、脱退するときには返還をされるものです。そうやって事業も出資も私が入る前からやってきてくれていた先輩たちや仲間がいて、そして今、450ほどの事業所で7千人が働いているという形になっています。

私自身は、この法律がきっと出来ることになる、あるいは法律がもし万が一出来なくても、協同で仕事を自分の足元からつくっていくという取り組みを、実際にどういうふうにおこせるだろうかというところも考えていました。もっと言うと、ほとんど見ず知らずの農村に入っていって、そこで仲間を作って仕事をおこせるだろうかということも考えて、移住をしました。中川村は長野県の南の方ですね。隣が大鹿村、大鹿歌舞伎の大鹿村であったり、もうちょっと行くと飯田市だったりする、人口5千人弱の村です。 

*東京から移住して感じてきたこと

6年前に東京から移住をして、ずっと福祉にかかわる仕事だったり、そこのサポートだったりというのをしてきました。村に住みながら率直に感じたのは、都市では多くの支援機関とか選択できる居場所があったりするんですけれども、農山村で色々な生きづらさを抱えて共同体から疎遠になってしまう方、例えば病気になったり高齢になったりとか、あるいは障がいがあるとかですね、そういう方の中には行き場がなくて生きづらいというような印象を受ける方もいらっしゃるなということです。ただ村は小さな社会であるからこそ、見えない問題ではないというんですかね。農山村ではこういう生きづらさみたいなことも、固有名詞の世界で直面しているということですね。 

*ステップ① 「まずは、地域で求められていることと、自分にできること、自分たちのしたいこととの重なりを模索していた」

私は農業も好きですけれど、ずっとこの15年くらいは福祉に関わる仕事をしてきて、地域で求められていることと出来ること、あるいは仲間をつくって、仲間たちが私も含めてですけれど、自分でどういうことをしたいのかということの重なりというのを模索してきました。これは協同労働、あるいは労働者協同組合を一からつくるというときには、やっぱりとっても重要なテーマかなというふうに思っています。持続可能な地域づくりということもそうだし、ディーセントワークということなんかもそうですけれども、まずは話し合いだとか自分たちの出来ること、あるいはニーズというのをしっかり話をしていく、まとめていくということだと思うんですね。

たまたまですけれども、中川村は当時、障がい福祉サービスがなくってですね、これ村の中でどうしているんだろうっていうふうに思いました。高齢者のデイサービスとかグループホームとか、そういった実践は多くあるんですけれども、障がいがある人たちの行き場所、あるいは働く場、暮らす場っていうものがないというのが分かってきました。村から外れて、村から出て行って、別の地域で暮らすということももちろん、選択として大事ですけれども、生まれ育った地域で暮らし続けるということも、しっかり一つの選択としてなければいけないというふうに皆で話をしていました。

皆でというふうに言いましたけれども、私は1人、中川村には知り合いがいましたが、ほとんど知り合いがいない状態で来ました。なので、仲間づくりから、人と出会うところからと言うんですかね、ずっと自主上映会とか映画会が好きだったので、福祉とかケアに関わる映画の上映会をずっと公民館で2年間くらい続けていました。そこで1人加わり、2人加わりという形で、本当に仲間に恵まれて11人くらいの仲間になったときに、組織をつくっていこうというふうに決めました。 

ステップ② 「地域の必要や地域の課題において、『こうあったらいいな』を小さな形にしていく作業」

障がいがある方の行き場所がないなあというふうに思う一方で、地域の人に聞いてみると、あるいは地域を歩いてみると、障がい者だけじゃなくて、自宅に引きこもっている若者とか引きこもらざるをえない若者、あるいは高齢者だとか色々な依存症だとかそういった方々もいるんですね。農山村は支え合いが生きているからこういった人たちは少ないだろうということではなくって、同様に別の形で深刻な状況にもなっているというふうに私自身は思っています。なので、これは都市だけじゃなくて農山村も同じ課題に直面しているということですね。 

*「ソーシャルファームなかがわ」準備会を法人組織に(2009年8月)

映画会を続けていく中で、障がい福祉サービス、障がい者の制度事業みたいなのはないと言いましたけれども、実は35年くらい前に中川村に移住した半澤さんという方が、制度をまったく利用せず、普通にご自宅に、ご自宅と言っても隣の家で3人といっしょに共同生活をしていることが分かりました。グループホームとかというのは、障がい者総合支援法の中で、共同生活援助というような形で制度があるんですけれども、そういった制度を一切使わず、毎日、地域の会社に働きに行ってという実践をされているということでした。

半澤さんは70歳に近づいてきていて、居住している方々は40代後半から50代前半の方3人ということで、この暮らしがどうしたら続けられるかというところで、半澤さんとじゃあということで、先ほどの11人のメンバーがいっしょになって、「ソーシャルファームなかがわ」という団体を作りました。私は労協で協同組合が好きなので、労協法人として立ち上げたいと思いましたけれども、実はまだこの時点では、法律が制定もされていない状態でした。それで一般社団法人を作りました。このメンバーが設立メンバーで、今はもっと事業も増えているんですけれども、最初この11人で立ち上げました。 

*一般社団法人ソーシャルファームなかがわの理念、定款第3条

一般社団法人ソーシャルファームなかがわの目的はこんな感じですね。協同組合を大事にしたいというのと協同労働というのも大事にしたいっていうことが設立趣旨の中に書いてあります。なので、出資という形で、もちろん退職するときとかに返還をするということですが、一口3万円で、皆からも地域からも、実は住んでいる利用者の方もお金を出し合ってくれて、400万円ほどの法人資本で立ち上げました。ですが一口でも十口でも発言権は変わらないということにしています。これは協同労働といっしょですね。それと出資金は、皆の中で1人が多く出し過ぎると、その人が退職したときとか大変なので、出資金を1人50万円までという形にしました。 

*村立の地域活動支援センターの設置に向けて(2019年~2020年)

 先ほど、制度事業が村にはないと言いましたけれども、村もずっと課題意識は抱えていて、担い手がいればということで、地域活動支援センターの設置をずっと検討し、村の福祉計画、総合計画の中にもしっかり入れていました。それとちょっと細かい話ですが、地域活動支援センターは市町村事業と言ってですね、市町村がその利用の対象者を少し広げてみることができるんですね。例えば障がい者の手帳や医療機関の診断がなくても、通いたいというふうな思いがあれば、通えるような施設になっています。

設立に向けてということで、そうは言ってもどんな人が来るんだろうということが、村の中にもあって、私たちも当事者とはお付き合いがありましたけれども、村の中の一部の当事者ということもあるので、訪問相談に入ったりしました。それが去年の2月とか4月くらいですかね。訪問相談も村の紹介で入るわけですけれども、10年引きこもっている方でも、喜んで会ってくださる方もいれば、やっぱりお会いできない方もいます。今でも支援に入っているけれども、ご家族には会えるけど、本人にはなかなか会えないという方もいます。 

*2021年5月オープン、中川村地域活動支援センター(村立)“くらしごと”運営委託開始、それから1年

“くらしごと”という名前で中川村の地域活動支援センターがオープンして私たちが運営させていただくことになりました。地域活動支援センターは基本的には居場所ですけれども、そこで仕事をしても良いことになっています。ただゆっくりしたい人も来るし、仕事をしたい人も来るので、なかなかそういう意味では就労とか働くということに特化した施設ではないんです。

長野県の人は知っているんですけれど、ここはマレットゴルフ場の管理棟だったところなので、この周辺はマレットゴルフ場の山になっているんです、山林ですね。なので、そこの管理もずっと任されていて、管理の手伝いをここに通ってきている障がいのある人にやってもらったり、利用者の方にやってもらったり、薪づくりをやったり、あるいは今、山林から「クロモジ」という薬木、薬草ですね、この木を採ってきて、お茶にして製品化をしたりしていますけれども、そういう活動のベースが出来ました。非常に綺麗でもともとスケルトンだったところですが、ここに全部、無垢の板を張ってもらって、利用者の方は今、19名登録しています。冬のあいだは日々の利用者はそんなに多くないんですが、ここで色々な作業をしたり、ゆっくりしたりということをして、ここから障がい者の就労現場だったり他市町村の現場だったり、色々な企業だったり、農家、有機農業をやっているところで受け入れてもらったりだとか、そういう地域との連携もしています。 

*中川村における「ソーシャルファーム的」仕事つくり (目標)

2019年に設立してからですね、あれよあれよと色々と事業はやっています。公園の管理委託を受けていたりですね、先ほど半澤さんの話をしましたが、「対岳寮」という共同住宅、共生住宅。これは完全に自前の事業で制度を使っていないですが、障がいがある人たちの住まいの管理ですとか地域活動支援センター、あとは生活困窮相談だとか訪問相談なんかもやっています。

ただ私たち自身はもちろん、この仕事もとっても重要ですけれども、最初に言った協同の仕事づくりというのは、あくまでも支援の仕事をつくるということにだけにとどまらずに、やっぱりこの障がいのある人たちや生きづらさを抱える人たちが年齢を問わず、または移住者だとか、そういう色々な方の仕事をつくる、地域に合った仕事をつくるというのが大きな私たちのミッションですので、ここから色々な仕事づくりをしていきたいというふうに思っています。少しずつ着手しているものもあれば、まだまだこの中には着手できていないものもたくさんあります。

先ほど薬草と言いましたけれども、今、ワハッカとトウキとベニバナの苗と種をひたすら増やしています。これ、どうするんだろうという感じもあるんですが、よくよくは、加工したり、販売につなげていきたいということで、その3種類の試験栽培をしています。クロモジのお茶というのはもう、製品化して、地域で本当にローカルで販売をしています。もうちょっとで終わりにしますけれども、こういう働き方とか、仕事づくりに関心のある人がいらっしゃったら、こういう本も出ています。(一般社団法人協同操業研究所「協同ではたらくガイドブック-実践編-」、「岩波ブックレット〈必要〉から始める仕事おこし-『協同労働』の可能性」) 

*「ネクスト・シェア」-ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム

ここはちょっとだけ説明します。最近、労働者協同組合だけではなくて、労働者協同組合にも近い形ですが、世界中でプラットフォーム協同組合主義、GAFAに代表されるプラットフォーム資本主義に対抗するような小さなローカルのプラットフォームをつくるということ。若者たちがかなり多いですけれども、例えば、ウーバーに換わるようなローカルシステムをつくったり、それをしかも協同組合的に運営していたり、あるいはタクシー運転手の人たちが労働者協同組合を作って、対抗していたり、それはライドシェアシステムとかっていうふうになります。あるいはエアビーアンドビー(Airbnb)に対抗するようなローカルのフェアなB&B、フェアBとかっていうふうに言われているものが出来たりとか、色々な形で協同組合的にしかもプラットフォームを自分のローカルプラットフォームに取り戻す運動が世界的に広まっています。

このあたりも労働者協同組合法人が出来たり、あと色々な若い人たちにこの協同組合というものに関心を持っていただいたりする中で、日本でもこれから広まっていくんじゃないかなというふうに思っています。このあたりは斎藤幸平さんなんかも、非常にそういう意味ではコモンをどういうふうに協同化するのかということで、関心を持っていただいて、ワーカーズコープにも非常に関心を持っていただいています。ちょうど時間になりましたので、以上で私の話はこれで終わりにしますね。何か質問がありましたらお願いします。