FFPJ連続講座第23回「農業と農業関連分野で活動する女性の取り組みと課題」が、7月31日(月)に行われました。講師は奈良女子大学の青木美紗准教授。5月28日の第6回総会の前に開催されたパネルディスカッションの際にパネリストを務めた青木さんが、今回は農村女性をテーマにお話しされました。講座の概要はこちらです(講座の資料はこちらからダウンロードできます)。
*自己紹介
まず簡単に自己紹介させていただきます。大学では農学部で農業経済学を学びました。途上国開発とか地球環境問題に関心があったことから、途上国を中心にフィールドワーク研究をしておりました。その後、大阪府庁で農学職という専門職で就職いたしまして、環境に配慮した農産物の認証や農薬取締法に関する業務を担当させていただきました。そして研究に戻りたいという気持ちが強くなり、博士課程に戻り、主に日本の農業や食に関する社会科学研究に携わりながら大学教員をさせていただいております。
*研究紹介
研究の専門分野は、ジェンダー学ではなくて食料・農業経済学や協同組合論、それからNPOや市民社会といった社会的連帯経済論です。主に環境や地域、健康、福祉に配慮して生産された農産物や有機農産物および食品の生産・流通・消費、農産物直売所や農協と生協の産直といったことも研究させてもらっています。
女性関連でいきますと、研究対象とはしておりませんのでジェンダー研究は理論などまったくわかりません。しかし業務といたしまして、例えばJAさんのフレッシュミズの作文コンクールの審査委員長を5年ほど勤めさせていただいておりますし、2020年に農林水産省が開催した「女性の農業における活躍推進に向けた検討会」の委員として意見交換会をさせていただきました。加えて、所属先が女子大学ということもあり、ゼミ生が女性と農業という内容で研究もしていますので、私自身も調査研究などを関わらせてもらっております。
これまでネパールやベトナムで伝統的な農業やそれら農産物の観光化について研究していたのですが、その際驚いたことが、NGOだったり、農業だったり、家族のあり方などの点でかなり男女平等というか、平等という言い方が良いのか分からないんですけれども、そういうような印象を受けました。途上国と言われますが、日本の方が途上国なんじゃないの、と思わされるようなことがたくさんありました。その点からも日本の社会的な男女間の差異と言うんですかね、感覚的な差異と言いますか、そのあたりについては、すごく疑問を持っております。
例えばネパールなんかですと、NGOのメンバーに必ず、男女ほぼ半分入れないといけないとか、それから年齢構成比も20代から70代を必ずある程度同じ割合で入れないといけないとか。そういったことについて国連から指導があるらしくて、NGOの活動を見にいっても、本当に老若男女問わず、皆がテーブルを囲って意見を出し合っているというような様子をいくつか拝見いたしました。日本だと会議に行くと男性ばっかりで行きづらいなと感じることが多かったので、この点においては日本は先進国とは言えないような状況になっていると感じて日本に帰ってきました。そういう疑問も持っていますので、完全に専門とはしていませんが、女性と農業について関心は常にもっているところです。
*本日の内容
今日の内容は、まず日本国内で農村における女性が、歴史的及び政策的にどのように捉えられてきたのかということを、表面的なところになってしまいますが紹介をさせていただこうと思います。
次に2016年に私自身がJAの広島の営農生活指導担当者協議会というところから、女性の営農指導員の実態調査のご依頼をいただきまして、その中で農業の関連分野に関わる女性である営農指導員さんの人たちと何回か情報交換会をしました。ちょっと情報が古くなりますが、彼女たちが感じている営農指導員、農業に関われるというところの魅力と、課題というところを整理していますので、その調査結果についてお話したいなと思います。
それから3つ目が女性農業者の実際についてです。これは私自身のゼミ生が修士課程で研究をする上で調査された内容です。実際に女性が家業の後継者になる事例を取り上げ、女性が農業に携わる上での良い面と課題について、2つの事例を比較対象としながら明らかにしてくださりましたので、今日はそれをお借りして紹介したいと思います。
1.農村と女性・農業と女性
*農村と女性
まず日本における農村・農業と女性の概観を説明していきます。第二次世界大戦前は戸主を男性に置く家制度の下で、女性には決定権が与えられていなかったということが言われています。しかし農作業に関してはかなり女性が関わっていたということが言われておりました。しかし、意思決定という側面においては、どうしても男性が主導権を握るような風潮があったと言われております。
1947年、終戦後に民法が改正され、家制度は廃止となりましたが、どうしても潜在的に家制度がまだまだ残っています。実際に今、生活していても男性が働いて女性が家に居てというような考え方がまだまだ根に残っているところかなという印象を持っています。農村に行くと、もしかしたらより強くなる傾向にもあるのかもしれませんし、世代や地域など、それぞれの状況によって大きく異なっているのかなと感じます。
1960年代後半からは高度経済成長期という期間に入ったわけですけれども、このときに農村から男性が農外就労を求めて都会に行ったため、地方農村ではお爺ちゃんとお婆ちゃんとお母ちゃんの3人が農業に従事する「三ちゃん農業」と呼ばれる状況になっていました。その結果、女性が農業に主体的に関わらざるを得なくなったということも言われております。
*農業就業人口に占める女性割合
実際に統計データ見てみると、農業就業人口に占める女性の割合におきましては、1960年代は女性の方が高くなっていました。先ほどの三ちゃん農業の時代は、だいたい高度経済成長期とかバブル期と言われる1960年代から80年くらいまでですが、この時期の農業就業人口に占める女性の割合は6割を超えているような時期もあったことがわかります。近年は農業就業人口自体が減ってきておりまして、女性の割合も減ってきているとはいえ、それでも40%は超えています。農業の分野で女性がかなり貢献していることがこのグラフからもわかると思います。
*役職員に占める女性割合
一方で農業分野において意思決定権が女性にあるのかということを見てみると、ほとんど無いということがこのグラフを見るとわかります。青のグラフが農業委員の女性の割合を示し、赤のグラフが農協の女性役員の割合を示しています。1990年にはほぼ女性が居なかったというようなことになっております。近年なるべく3割は女性を入れるようにという声掛けがありまして、徐々に増えてきているとはいえ、まだまだ少ない事態になっています。農業委員でも12%、農協の女性の委員にいたっては8%程度になっておりまして、増加傾向とはいえ、依然少ないというのが現状で、意思決定機関に女性の意見が反映されにくい状態が続いていることがわかります。
実際にJA関連で調査、研究、講演会に行かせてもらうのですが、本当に男性が多くて、私自身もちょっと躊躇してしまうこともあります。フレッシュミズの作文コンクールでも、表彰式とか交流会をしますが、最初の挨拶で中央会の偉い方々が黒いスーツを着て10人ほど来られ、ひと言挨拶をして、その後皆さんご公務のために発表を何一つ聞かずに去って行かれます。フレッシュミズの方々は女性ばっかりですが、役員の方々は男性ばっかりです。そこにすごく違和感を覚えてしまいます。いきなり変えろというのも無理だとは思いますが、そういう状況であるということはしっかりと認識はしておかないといけないのではないかなと思います。
*女性が組織の役職員になると・・・
こんな状況なので農水省の方も何とか農業に関わる女性の人たちの意見を組織に反映していって欲しいというような観点から、このような図を白書にも出してこられました。これが何かと言いますと、女性が組織の役職員になると、経常利益が増加しますよということを表しているものになります。女性が経営の決定権に関与していない組織では、3年間のあいだに経常利益が増加しない、むしろ減少した一方で、女性が経営主、または女性を役員や管理職に登用した場合には、3年間で最初の年度に比べて3年後には120%に経常利益が増加したという結果が掲載されています。
ただ意見交換会とか農水省の検討会とかで出されていた意見としては、女性を登用したことそのものに満足しているというケースも結構あるということです。それもそうだなと感じました。目標値が30%というふうに言われていますので、まずは1人、次は2人という形で女性をメンバーに入れてはいるものの、結局、その女性たちが意思決定機関のところで自分たちの意見を素直に言えているかというと、やっぱりそうではないところがあります。女性が発言すると、「また女が」というような雰囲気もあるということは聞いていますので、すべてではないと思いますが、数字で満足するのは良くないのかなと感じたりしています。
*新規就農理由(男女別)
それから今、農業就業人口がどんどん減っていますし、農業は危機的な状況です。農業だけじゃなくて、日本の食べ物自体が危機的な状況にある中で、新規就農を目指してくれる方が増えてくるというのはすごく良いことではないかと思います。そして新規就農者の就農理由というのが、男女別でかなり差があるということが調査結果から言われています。
女性の場合は子供を育てるには環境が良いとか、食べ物の品質や安全性に興味があるとか、それから家族で一緒に仕事ができるとか、そういったようなことから新規就農を希望される方が多いと言われています。実際に今、私自身が関わっているところでも、食の安全ですね、日本の食べ物が今、極めて安全性に関しても政府が言っていることが本当に正しいのかどうか分からなくなってきている状態の中で、「やっぱりこれってどうなのかな」と疑問を持つのが子育て世代の母親たちが行動し始めています。そういうお母さんたちが集まって集団で農業を始めるようなケースもちらほら見えてきていますから、このアンケート調査結果というのもそんなに外れてはいないんじゃないかなと思ったりします。
一方で男性側に関しては、自分の裁量で事業ができる、自らの経営の采配を振れるからという回答率が高かったり、農業はやり方次第で儲かるからという回答が女性より圧倒的に多くなっていますので、この辺りは女性と男性の大きな差であるかもしれません。
*農村女性に関する政策の流れ
農水省をはじめ、政策的には女性を農業の意思決定機関に入れようという形で進められてきました。政策的な流れを見ましても、内閣府の方が1999年に男女共同参画社会基本法というものを一般的に導入するよりも前に、農林水産省の方は女性に関する中長期ビジョンを報告書として発表しています。一般的な世間に比べて農山村の方が、ある意味では一歩進んでいますが、逆に言うと、一般的な社会よりも危機的であるということだと思います。
2010年以降に関しましては、その女性活躍推進について事務次官通知というものが出され、そのあと農業女子プロジェクトというものが立ち上がりまして、ネットワーク強化もされています。
*女性のセンスを農業や食品加工に
農業女子プロジェクトもそうですけれども、女性のセンスを農業や食品加工、それから地域振興に生かしていくのが良いのではないかという発想が込められています。6次産業化もこの一つかなと思いますが、食の安全や自然との調和を重視する傾向が男性よりは女性農業者にあるので、それを活用してビジネス化するという発想が見受けられます。
マーケティング的にも、パッケージデザインとか、商品を作る上でのストーリーとか、一般的に言われる女性らしさ、可愛いらしさとか、を発揮できる場合が女性は多いというふうに言われておりまして、かつ食べ物の買い手の多くが女性であることから、共感をもたらすような商品開発も女性が手掛けることができるんじゃないかと考えられております。
それから、これまでの大量生産、大量消費志向ではない、少量でもいいから良い物、生産者を応援できる物とか、そのようなセンスというんですかね、これを活かせば新たなマーケット開拓になるんじゃないかとも言われております。
これらを見ていきますと、なんだか最後はビジネスやマーケット開発に繋げておりますので、私からすると男性的かなと思ってしまうんです。もちろん経営を安定させることも大事ではありますが、何となくお金儲けのために女性が利用されるという方向に走っていかないかなというような懸念もあります。農業女子プロジェクトでも、実際に参加されている方々からの意見でもあったのですが、農水省がお金を出すんだったらもっと子どもを見守ってくれるような場所や仕組みを作るとか、ネットワークを特定の目立つところ以外にも広げてほしいというような意見が出ていました。
実際に農水省のホームページを見ていると、農機具メーカーとか、農業用の軽トラを売っているような企業とかが、女性農業者向けのピンクの軽トラを販売していたり、女性向けの可愛い作業着を販売していますといった内容が多くなっています。おそらくスポンサーになっているんだと思うんですけれども、税金を使ってやるべきはそこなのかという疑問をすごく持ってしまい、いつもモヤモヤしながら見ているところです。
女性のセンスを生かすとかいうのはもちろん大事だし、良い面もたくさんあるし、私もそういうのがすごく好きなので、買わせてもらうんですけれども、でもそれを男性視点でビジネスに取り込んでいこうというのがチラチラ見受けられるので、違和感を覚えてしまいます。この根本的な違和感を抜け出して行かないと、本当の意味で女性が活躍できるということにはならないじゃないかなと感じております。
2.女性営農指導員の調査結果-2016年広島県-
実際に現場の方々がどういうような形で取り組んでおられて、どういうような感覚を持たれているのかということを、2つ具体例を見ながら紹介をしていきたいと思います。1つはJAの女性営農指導員の事例です。農業者というよりかは、どちらかと言うと農業関係の組織が女性を雇うときの参考になるかなと思います。
*情報交換会の概要
JA広島営農指導・生活指導担当者協議会の営農部会さんからのご依頼で、広島県内の女性の営農指導員の方との情報交換会を2016年の9月から3回ほどさせてもらいました。
*情報交換会の背景・目的
この情報交換会では、女性農業者は農業者の約半分で、女性で農業に関わる人が増加しているにもかかわらず、女性の営農指導員の成り手がいないため、女性の指導員が現場で女性の農業者に貢献しているのか、働く上でどのような課題を感じているのかを明らかにすることを目的にしました。
*女性営農指導員の活動
実際に女性の営農指導員の具体的な業務内容としては、実際に営農指導という形で組合員の生産者の人たちに作物の指導をしたりということもあるんですけれども、それ以外にも、営農指導員の方々は割と裁量がありますので、それぞれがやりたいと思ったことに取り組まれたりしています。特徴的なこととしましては、組合員が参加できるツアーを企画したりとか、教育機関と連携して自食農教育をしてみたりとか、農業塾というのを開いて地域の人達の交流の場を提供したりという活動をされていました。
また、農産物直売所で、買いに来るのは女性が多いですので、その女性視点に立った商品の見せ方とか、店のアレンジもされていたりしました。情報発信においては、組合員がなるべく農協を好きになってくれるように工夫したりされていました。
*コミュニケーションによる信頼構築
具体的にそれぞれどういう意見があったのか、紹介をしていきたいと思います。例えば、相手が何を聞きたいのかとか、何を言って欲しいのかをうまく聞き出すために、相手の立場に立って、話を聞くようにしているということで、そのようなことがコミュニケーションを図るために大事だという意見が出ていました。
それから会話を盛り上げるという意味で、家族のことや親しみやすいネタで会話を弾ませたり、FAXにひと言メッセージを書いたり、お礼の手紙やひとことを手書きで書くとか、きめ細かな気配りを大事にして組合員との信頼関係を構築する努力をしているとのことでした。組合員の様子を観察して、直接、「何が欲しいんですか」と聞くんじゃなくて、コミュニケーションの中から今、この人はこれを求めているんだなということをキャッチするというようなことがされていたり、ひと手間掛けて、信頼関係を構築していくという、そのきめ細やかさみたいなのもみられました。
*組合員のニーズを汲み取り企画
組合員向けの視察ツアーを企画する際には、組合員のニーズをうまく汲み取り、女性組合員が行きたいと思うような昼食場所などを検索して旅行に組み込んでみるというようなこともされていました。男性職員からは、「何でそんな面倒くさいことをするの?」と言われるけれど、自分が組んだツアーが参加者にはとても好評で、「また参加したい」「またツアーを組んで欲しい」というようなことが言ってもらえるのが嬉しいとのことでした。
どうせ行くなら参加者に楽しんでもらいたいし、思い出を作ってもらいたいという気持ちで取り組んでいるということから、ツアー企画は自分自身にとっては全く面倒なことだとは思っていないのに、なぜか周りの男性職員からは、「何でこんなに面倒くさいことをしているの?」と言われてしまうという声もありました。
周囲に不思議な目で見られつつも、組合員のニーズをうまく企画に反映させたい気配りによって、組合員の参加をより増やすようなきっかけも作られているということがわかりました。
*組合員の参加モチベーションアップ
組合員の参加のモチベーションをアップするために実際に取り組まれたこととして次のようなことがありました。青年部の会議担当になられたことがある女性営農指導員の方が、前任の男性職員が担当をしていたときは、メンバーがぜんぜん来てくれなくて、すごく困っていたそうなんですけれども、せっかくの会議なのに人が集まらないと会議じゃないよね、ということから積極的にメンバーの方々にメールをして、丁寧に会議に来てくださいねと促したり、ちょっと会ったときに声掛けをするようにしたところ、会議に来てくれるようなことがあったそうです。
加えて、会議の資料も前任から引き継いだものではなくて、その場に来る方に合わせて、オリジナルで作成したり、会議の活動の様子を広報誌で取り上げるとか、そういう細かいフォローアップをすることで、メンバーが付いてくれるようになったということもあったそうです。この営農指導員の方は女性ですけれども、その会議に参加してくれる方々は男性ですので、丁寧なコミュニケーションを図ることで、男性の組合員でも参加してくれるようになったというようなことを言われていました。
*組合員の農協利用促進
農協の事業の利用促進を組合員に促すために以下のような工夫をされていました。家庭菜園の講座を生かしてJAの購買に繋がるように、こんな資材を使ったら良いですよというふうに宣伝もしながら、その期間には紹介した資材を営農センターの方に置いてもらうように連携をするというようなことです。また農業塾というのを年間通して開催したりするんですけれども、その実習で、営農センターで販売している資材を使って、それを営農センターの方に置いてもらって、その塾が終わったあとに家庭菜園とかでされるときに使ってもらえるようにするなどによって、自分たちの事業の利用促進にもつなげていくということをされています。講座から購買につなげていく工夫として、信頼できる人からの口コミが何よりも強いので、このあたりにコミュニケーション力を発揮していくという考え方をもっておられました。
*食農教育
食農教育の分野では、幼稚園で作物についてどう説明して良いか分からないといったときに、絵を描いて、段ボールでもみ殻を作ったりとかして、説明をしていたそうで、歓声が上がったことがすごく嬉しかったとか、先生たちにその絵をくださいと言ってもらえて、そのあとも使ってもらえているのが嬉しかったというようなことも言われていました。
それから農業塾を担当した女性の指導員の方は、カリキュラムは参加者の様子を見ながら毎年、オリジナルで企画をしているということで、その前に担当をされていた男性の方がずっと同じメニューをされていたそうですけれども、そうじゃなくて参加者に合わせてニーズを汲み取りながら取り組むことで、参加者からも好評なんですということもおっしゃっておられました。
*農産物直売所
次が農産物直売所の運営についてです。農業塾と農産物直売所の方を同時に担当していた指導員さんがいらっしゃいました。その方は農業塾で栽培する作物をこのJAの直売所で販売するように何とか制度を変えていったり、農業塾に参加する人に直売所で売れるように新しい品種の珍しい野菜を育てるようにお願いしていたり、直売所に来る生産者や組合員にも野菜について知ってもらうなど、より直売所に来てもらえるような工夫を農業塾と直売所を連動させながらやっておられました。
それから直売所で売る花も、その営農指導員が直接、朝の市場に行って、この花を置いておいたら直売所も綺麗になるし、買ってもらえるんじゃないかなと感じるお花を置くようにしているそうです。またJAのマスコットキャラクターを画用紙などで手作りしてお店に貼り付けたり、地域の人がお店作りに参加できるように心掛けているというようなこともおっしゃっておられました。直売所に買いに来る保育士さんの方がちょっと飾るのに良いかなということで気味で作った野菜の置物を持ってきてくださったそうです。そういうような形で買いに来る人も、それから売りに来る人も皆が店を作れるように来るもの拒まずというか、これを置いて欲しいなと言われたら置くようにしているということもおっしゃっていました。
ここの直売所のパートをしている女性2人がいらっしゃって、その方にもお話を聞くと、男性女性ではないけれども、やっぱり気配りができて、皆で作っていこうというふうに思ってくれている女性の方が運営担当になってくださると自分も意見が言いやすいし、意見を聞いてくれるのがすごく嬉しいということをおっしゃっていて、そのあたりはもしかしたら女性の方が得意な人が多いのかなと感じました。
*情報発信の工夫
情報発信の工夫ということでは、組合員向けの講習会で組合員の方と話をしていると、トウ立ちや結球についての疑問が多いということが分かったので、その原因について伝えたいと思って、オリジナルの資料を作成して組合員に配布したそうです。マニュアルに従うのではなくて、潜在的ニーズに合わせていろいろ資料を作ったり、編集を担当している機関紙にイラストなどを加えてより多くの人に手に取ってもらえるように工夫をして、読み手の立場とか相手の立場に立って、資料や機関紙作りを作成しているという話も出てきました。
女性、男性というふうに分けてしまうのは良くないとは思うんですけれども、とちゃんと話を聞いて、これだったら一緒にできるよねというようなことを一緒に取り組んでいったりとか、こういうようなことを求めているというような方がいらっしゃったら、それに合わせて資料を作っていくとか、そういうきめ細やかさが調査させていただいた女性営農指導員の方々からすごく見えてきたなという印象を持ちました。ただ男性の営農指導員の方に調査しているわけではないので、完全に比較ということができないんですけれども、コミュニケーションが長けているとか、手作りで何か作っていくとか、そのあたりは女性の特徴としてあると感じました。
*女性営農指導員から出された課題
一方でどういうことが問題ですかとお伺いしたところ、次のようなことが出てきました。まず営農指導という仕事で自立するまでが大変だということです。このあたりはJAの組織の問題というか、営農指導員という特質かもしれないんですけれども、マニュアル通りにはいかないような仕事なので、自分でどういうふうに仕事を進めていけばいいのか、アイデアがないと非常に難しいというようなことをおっしゃっていました。自分から進んで組合員や職員にアプローチしたりしないとできないので、そのあたりの感覚がつかめないとすごく難しいし、教えてくれる人がいないというようなことも難しさとしてあるようです。共済・信用とまったく仕事の質が違うから戸惑いもあるとか、人事異動でどうしても短期間の担当となってしまった場合に、せっかく構築した信頼関係が水の泡になってしまったりということもあるので、このあたりは組織としてもっと考えて欲しいという声も出ていました。
それから女性の営農指導員が、広島でも各農協に1人居るか居ないかという具合に、どうしても少ないので、そういう人たちと雑談できる情報交換会というのが欲しいとおっしゃっていました。今回の情報交換会で初めて県内の女性営農指導員13人が集まったので、皆でLINE交換をして、この情報交換会のあとも交流を続けているとお伺いしております。
そして一番大きい問題だと思ったのは、「女性だから」という固定観念にすごく振り回されることがすごくあるとおっしゃっておられていたことです。力仕事とかどうしてもできないところに関しては、やっぱりお願いしないといけないところがあるんだけれども、これは私でもできますよというようなことを取られてしまうというか、申しわけなく思ったりするようです。それからJAさんの場合は「女性は事務職員、男性は渉外」みたいな、そういうような役割規範がすごくあるので、それが職員だけじゃなくて、組合員にもあるから、営農指導員として現場に出て行ったときに、変な目で見られるのがすごく嫌なんですということもおっしゃっておられました。なので、この固定観念というか、役割規範みたいものをどういうふうに崩していくかが、女性が現場で活躍していける環境を作る上でも非常に重要になってくると思います。
それからワーク・ライフ・バランスの難しさです。農水省の女性の農業者の活動推進みたいなところでも話が出てきたんですけれども、子育てや家事をしながら、仕事をしないといけない、農業をしないといけないという難しさがすごくあるということです。このあたりも組織全体とか地域全体でどうやって環境を作っていくか、基盤を作っていくかということについて重要になってくるのかなと思いました。
*情報交換会のまとめ
以上から、女性の営農指導員に関しましては、その組合員とか地域の人々の立場に立って、地域農業の発展に貢献するために高い潜在力を秘めているということが言えると思いますし、農業においては組合員に一番近い存在ですので、その人たちが頑張ってくれることが、その地域の農業の推進にも繋がっていくと思います。
ですので、そういう人材を大事にして、その人たちがどういうふうにすれば働きやすいのかについても考えないといけないと思いました。もちろんそれは女性、男性に限ったことではなくて、やっぱり一人ひとりの個性を大事にして、それぞれが得意なことを見つけて、それを適材適所で配置していくとか、ちょっと困ってそうだなと思ったら声を掛け合えるとか、そういう職場環境、農業者同士、職員同士の助け合いとかなどの環境が大事だろうと捉えております。
3.女性農業者の実際-就農経緯と継承者となる過程に影響を及ぼす社会規範-
次が実際に農業に関わっていらっしゃる方で、その中でもお父さんから姉妹が農業を引き継ぐというパターンの事例を紹介したいと思います。昨今はご子息がいないということで、ご息女が農業なり家業を継ぐというケースも農業以外の分野でもちょこちょこ出てきていると思います。これも広く許容していかないと、農業従事者がますますいなくなってしまいますので、女性の経営者と言いますか、継承者をどういうふうに確保していくかという上でもすごく大事な視点であると感じております。
私のゼミ生が大学院生だったときに取り組んでくださった調査になりますがが、調査対象としては奈良県吉野郡大淀町のK農園さんと言う、茶を作ってらっしゃるところです。もう1つが和歌山県のかつらぎ町のS農園さんと言うところになります。この2つが非常に対照的だったので、その点をお話したいと思います。
*調査対象① K農園
K農園さんはお茶の生産加工販売をされていて、30代から40代の三姉妹が後継者として関与されておられます。長女の方が現場責任者、次女が運営責任者で、三女の方が補佐役とか事務作業という役割分担をされておられます。70歳代のお父さんが代表を務めてらっしゃるんですけれども、将来的には娘さんたちに引き継ぐということで今、話を進めておられます。
今の社長さんには、息子さんがいないので、もう廃業をしないといけないかなというふうに考えておられたそうですが、三姉妹の方々がそれぞれ出産を終えて子育てする中で、自分のところの実家がやっているお茶屋がすごく良い生産をしていて残していかないといけないものなんじゃないかと、そういう価値に目覚めたそうで、何とか三姉妹で力を合わせて継業することはできないかということで、三姉妹が受け継ぐ姿勢を持たれたといいます。
三姉妹が引き継ぐということになってからは、パッケージのデザインを変えたりとか、パンフレットをすごくお洒落なものに変えたりとか、ホームページも新しくリニューアルされたりしています。
*調査対象② S農園
もう一つの調査対象地域が和歌山県伊都郡かつらぎ町のS農園さんです。こちらは果樹の生産加工販売をされていて、こちらもご子息がいらっしゃらなかったので、姉妹が後継者として関与していくということで今、動いています。長女の方がイベントの企画、営業販売をされていて、次女の方が専務である父親と栽培を担当されています。お母さんの方は代表取締役として取引先のバイヤーとの交渉や商品のPRをされているということで、このお母さんが、この当時としては珍しく代表取締役になられて、その地域の中でも男性に混じりながら交渉をしていったりとか、地域の農業のいろいろなことに関わったりとかということをされていたという背景がありまして、これが先ほどのK農園さんとは大きく違うところになっています。
S農園さんのところは果樹を中心に生産をされているますが、家族経営でありながら、お母さんが社長をされているということで、これが非常に特徴的なところです。息子さんがおらず、廃業も検討されていたんですけれども、娘さん2人が継業をすることが決まっています。お姉さんの方は販売・広報を担当して、妹さんの方は生産を担当するということで、果樹を使った加工品の商品開発もされていて、商品数も今すごく増やされているということです。こういうジャバラ(柑橘)を使った加工品なんかも開発されています。
*経営に携わるようになった経緯
この両者におきまして、各姉妹が経営に関わろうと思うようになった経緯というのも少し違いがあります。K農園さんの場合は次女の方が偶発的に、家業を守っていかないといけないよねというようなことを長女に相談して、三女もたまたまご主人の転勤が京都になったということで、奈良に住めるという環境が整ったので、三姉妹皆で伝統を守りたいということから、引き継ごうよという話になったそうです。
一方でS農園さんの方は、技術を継ぎたいと自発的に思うような意思があったそうで、そこから姉妹2人で何とかできないかということで、始められているということでした。
*抱える緊張関係
女性が経営者になっていくという意味で、緊張関係も見られるということが調査結果からわかりました。その緊張関係が見られたのがK農園さんの方です。お父様が主導権を握ってきたということもありますし、自信を持って受け継いできた伝統技術ということもありますので、どうしても家とか村の規範を引き継いでしまっていて、「女性が引き継ぐなんて」というところがあったそうなんです。例えば「男が前で女は後ろで補助すべき」だとか、「経営に関しては男が経営者となるべきだ」ということで、娘さんの配偶者の方に引き継いで欲しいという思いもあったそうですけれども、その配偶者の方々はちょっと荷が重すぎるということでお断りされたそうで、このあたりが後継するという意味で足かせになったという話を聞きました。
それから取引先さんとの交渉の場面でも女性が行くと、「何や女が来たんかい。話にならんから帰れ」みたいなことを言われたことが何回もあったそうです。そのたびにかなりガッカリして帰ることになり、せっかくやりたいと思っているのに、なかなか周りが許してくれない、そういうような環境がすごく辛かったということでした。とりあえず三姉妹で3人居たから何とか乗り越えられたけれども、これが1人だったら挫折してやめていただろうというふうなこともおっしゃっておられました。
一方でS農園さんの方は、お母様が、「嫁が旦那の後ろで黙って仕事をして男性だけが物を言う姿に違和感を持った」というような経験をされている方で、1996年に法人化されたときに、S農園の代表取締役にお母様の方がなって、ご主人が専務理事になったということから、一応、肩書き上はお母様が上というか、上下ってあまりないんですけれども、そういうような関係性になったそうなんです。そうすると必然的にこのお母さんの方が意思決定に関わるということになりますので、その光景をずっと見てきた娘さんたちにとっては、女性が経営に関わることは特に違和感がなかったそうです。
お母様は女性経営者として、農水省で表彰された経験もお持ちで、地域の中でも認められていることもあり、そこに至るまではおそらく、すごい多大なご苦労をされたんじゃないかなと思うんですけれども、引き継ごうと思っている姉妹からしてみると、その環境があるので、商談とかでも特に何も男女間での問題はほぼ感じたことがないという結果でした。
*女性が後継者となることに関連する社会環境要因と過程に影響を及ぼす社会規範
これらの2つの事例からなので、事例数は少ないですが、社会環境要因として、姉妹が居たから何とか助け合えてやっていけるとか、経営基盤が安定しているので引き継ぐことができるとか、それからどちらも男性後継者が居ないので「自分たちがやるしかないよね」となったとも言えるんじゃないかということです。
女性が継承者となる過程に影響を及ぼす社会的な規範としては、継承者となることを推し進める社会規範である、男女平等規範と環境というのが重要です。これがないとしんどいというか、「女やからどうのこうの」とか言われてしまって、やっぱり女性だったら継いだらダメなのかなとか、そういうふうに思わされてしまうということが結果からは分かりました。
*その他・・・
その他としましては、これは私自身が今日紹介した調査、それからそれ以外の農業の検討委員会、農業の女性活躍推進検討委員会とか、それからフレッシュミズの作文コンクールとか、作文とか読んでいて感じていることですけれども、出産とか育児がどうしてもあって、どうしても動けない時期もあるので、子供の預け先の確保が重要だと感じています。保育園でも農家となると優先順位が低いので、子供の預け先が無くて、作業ができないということもあるそうです。したがいまして農協でも良いですし、行政が取り組んでいるファミリーサポートシステムみたいなものや、それよりももうちょっと臨機応変に動けるような助け合いの仕組みみたいなものを創っていくことが必要なのではないかと感じています。それから家事・育児の負担がどうしても多いので、家の中で男性女性関係なく家事・育児の分担というのができると負担が減ってくるのかなとも思うんですけれども、どうしても難しい部分があるということも言われていました。
農業女子プロジェクトなど、農業女子を応援しようなんてふうに言われているんだけれども、結局、企業のマーケットとしか女性が見られていないとか、ビジネスの対象としか捉えられてないと言うことも感じているということもおっしゃっていました。求めている支援としては、ネットワーク構築とか、子供の預け先を作るとか、男性に対してもっと社会的規範をなくせというのは無理にしても、もっと女性側の意見をちゃんと聞いて欲しいとか、そういうようなことも声として挙がっています。女性同士が悩みを共有し、情報交換ができるネットワークがあればいいのにと思っている方々もいらっしゃいますので、利害関係とかビジネス関係とかではなくって、生活者としての情報交換ができる場みたいなものが必要であるということになります。
*女性の農業における活躍推進に向けた検討会
2020年に開催された農水省の、女性の農業における活躍推進に向けた検討会の結論としましては、取り組むべき課題として、「家事・育児・介護の負担軽減」、「固定的な役割分担意識をもうちょっと軽減していくということ」、それから「ワーク・ライフ・バランスを改善していけるようにしましょうということ」が挙げられました。家族協定とかも出ていたんですけれども、これはちょっと形式的過ぎるので、そうじゃなくって潜在意識の部分で、「女性は男性は」というのを無くしていく方がいいんじゃないかということも意見として出ていて、私自身もまったくその通りだなと思いながら聞いていたところがあります。
それから地域をリードする女性農業者の育成、地域農業の方策策定への女性の参画ということで、S農園さんが良い事例かなと思うんですけれども、先に立って輝いている女性が居ると、だんだんそれが当たり前になってくるし、その周りの男性たちも女性が居て当たり前というか、一緒に取り組むことに違和感がなくなるというか、そういうふうになってくると思います。無理に女性を入れようとするのではなく、自然と女性が入れるような環境というか、そのような感覚が必要なのではないかなと感じます。これは農業に限らず、研究業界でも同じことを感じていて、「ジェンダー平等を言われているから女性の研究者を登壇者に入れんとあかんよね」、みたいなことを年配の男性教員や事務スタッフが言われたりすることもあるのですが、でもその考え方がすでにジェンダーギャップなんだけれどもな、と思うんですけれども、この感覚が伝わらないんですよね。そうじゃなくて、自然と選んだら女性が多かったでも良いし、この分野だから男性が多かったとか、それはそれで構わないなと思っています。女性だから、男性だから排除するような社会ではやっぱりうまく行かないと感じています。良いモデルケースがあって、それが増えてきて当たり前になってくるとまで、やはり時間も必要かなと感じるところがあります。
4.本日のまとめ
今日の内容を次のように、まとめておきたいと思います。
農業や農業関連事業に従事する女性割合は高いにもかかわらず、まだまだ意思決定機関に関われていないというケースが多いのが実情です。家事・育児で会議に参加できないとか、「男性はこう、女性はこう」とか、「女性だから相手にならん」とか、「女は会議に来るな」とか、そういう社会規範が潜在的にまだまだ残っているので、女性がせっかく活動しようと思っているのに、意欲を妨げる要因というのは取り除いていかないといけないということになると思います。それは男性女性関係なく、男性でもそういった被害を受ける方がいらっしゃるかもしれないので、個性とか特技を見極めて、「一人の人間として」、皆が対応できるようになっていく必要があるのかなと思います。性別役割規範が和らぐような環境がいったん整えば、これは性別に関わらず、年齢とかもそうでしょうし、あと障害者かそうじゃないかといったことも言えると思うんですけれども、ちゃんと「一人の人間として」、皆がお互いに分かり合いながら築き上げていくという環境になるでしょうし女性も意思決定機関に関わって行きやすくなり、意見も言いやすくなってくるんじゃないかというふうに感じております。