家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)連続講座第26回「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議報告:COP28を見据えて」が2023年11月17日(金)19:30〜21:00に開催されました。講師は、青年環境NGO「Climate Youth Japan」代表のチー新一さんです。年々深刻化する極端な気象現象、干ばつや洪水などの背景にある気候危機の問題を青年の立場から話していただきました。チーさんは11月30日から12月13日までアラブ首長国連邦ドバイで開かれたCOP28にも参加しました。講座の講演部分の概要は以下のとおりです。
ではさっそく公演の方を始めさせていただきたいと思います。先ほどご紹介に預かりました青年環境NGO Climate Youth Japanの代表を務めておりますチー新一と申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます。「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議報告:COP28を見据えて」という題目のもと、さっそく講演を進めて参りたいと思います。
◆自己紹介
まず初めに軽く自己紹介をさせていただければと思います。私、チー新一は生まれも育ちも日本なのですが、日本人の母と中華系マレーシア人の父の間に生まれ、現在、東京農工大学の農学部環境資源科学科に所属しております。大学では環境汚染物の評価、予測、修復やバイオマス資源の利用について学んでおります。8月より青年環境NGO Climate Youth Japanの代表を務めさせていただいております。
これまでの活動としましては、若者のみで国別で行なうCOPであるLCOY Japanに参加、香港Youth団体であるCarbon Care Inno Lab (CCIL)によって開かれたAsia Solar Energy for Climate Change Conferenceの登壇者、そしてCOP28の派遣者でもあります。LCOY Japanでは、日本に滞在する若者とともに、日本の現状の課題を考え、その解決のために提言文書を作成しました。またAsia Solar Energy for Climate Change Conferenceに関しましては、日本の再生可能エネルギー導入の取組の一環として、横浜市における再エネ導入事業について、発表させていただきました。
◆目次
さて、本日はこの通りに進めて参りたいと思います。初めに、私たち青年環境NGO Climate Youth Japanがどのような団体で、どのような活動をするのかについて共有させていただいた後に、気候変動における政府間パネルIPCCについての説明をさせていただきます。IPCCによって公表されているデータをもとに、気候変動によって起きている世界の現状を理解していただき、その対策について、政治的なメッセージを発信する場であるCOPとその母体であるUNFCCCについての説明をいたします。そして昨年開かれたCOP27での主要議題について、1つずつ説明をしていきたいと思います。Mitigation(緩和)、Adaptation(適応)、Loss & Damage(損失と損害)、パリ協定第6条(JCM)の順で説明をしていきたいと思います。また昨年のCOP27におきましても、弊団体からの派遣はございましたので、派遣者の現地での活動を少し紹介させていただければと思っております。最後にCOP28で期待される内容について共有し、この発表を終わらせたいと考えております。
◆青年環境NGO Climate Youth Japan(CYJ)について
それでは青年環境NGO Climate Youth Japanについて。私たちは現在、中学生から大学生、一部、社会人の方もいらっしゃいますが、約50名のユースで活動をしております。ユース自体の年齢の定義というものは曖昧ですので、厳密には何歳までとは決めておらず、基本的に学生が主体となって活動している団体です。もともとの設立の経緯としましては、気候変動枠組条約第15回締約国会議、COP15に参加したユースによって、2010年に設立されました。そのため今年で設立13年目となり、日本で最も長い期間、活動する青年環境団体の一つとなりました。令和2年度には、「気候変動アクション環境大臣表彰」を受賞し、国内外から認められる環境団体となったと思います。私たちのビジョンとしましては、ユースが気候変動問題を解決へと導くことで、衡平で持続可能な社会を実現することにあります。また、私たちの目標は2℃/1.5℃目標の達成、そしてユースが社会の意思決定プロセスに関わるようになることです。CYJ以外に、気候とユース参画をテーマとして活動する団体が少ないため、私たちが活動する意義があると感じております。
こちらがClimate Youth Japanの組織図となっております。所属している学生のそれぞれのバックグラウンド、大学や研究機関、NGOなどで得た知識を基に勉強会を実施し、気候変動に関する理解を深めております。こちらは我々がインプットコミュニティと呼んでいるもので、ここで得た知見をこちらのアウトプットコミュニティで生かしていきます。政策提言や意見交換会をメインのフィールドとしており、各分野に分けて活動しています。国内政策、地域政策、企業関連、そして海外政策です。海外政策の中にはCOP28事業部が位置しており、通年で勉強会や意見交換会などを行なっております。具体的な活動につきましては、先ほど申し上げたようなCOP事業部、そして国内で行なわれるユース版のCOPであるLCOY(Local Conference of Youth)、そして政策提言活動、省庁や地方自治体、企業の方々との意見交換会。そして団体、内外での勉強会、最後に海外ユースとの協働プロジェクトです。それではさっそく気候変動に関する説明に移って参りたいと思います。
◆気候変動に関する政府間パネル(IPCC)について
まずは気候変動に関する政府間パネルについて。こちらはIPCC、Intergovernmental Panel Climate Changeと英語では呼ばれています。これは気候変動に関する最新の科学的知見を取りまとめ、評価し、そして各国政府にアドバイスとカウンシルをすることを目的とした政府間機構となります。1998年に世界気象機関、WMOおよび国連環境計画、UNEPによって設立された政府間組織で、195の国と地域が参加しています。特徴としましては、政府間パネルと名乗ってはいるものの、その分科会に世界有数の科学者の参加を求め、科学的な解析を行なうこと。また参加した科学者は新たな研究を行なうのではなく、発表された研究をより広く調査し、評価を行なうということ。そして最後に科学的知見を集約し、政策立案者への助言を行なうことを目的としているため、政策自体の提言は行わないということです。
こちらがIPCCの組織図となっております。IPCCの組織は、全体会議ならびに作業部会から成り、議長団は全体会議および各作業部会の正副議長ならびに各地域代表により構成されます。なお常設事務局というのは、ジュネーブのWMO本部内にWMOとUNEPによって共同設置されております。各国政府を通じて推薦された科学者がIPCCには参加し、5から6年毎にその間の気候変動に関する科学研究から得られた最新の知見を評価し、評価報告書、アセスメントレポートにまとめて公表します。
こちらはIPCC第6次報告書、2021年に公表されたものの一部を抜粋したものになります。現状としましては、人間活動が大気・海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地はないと記されており、世界平均気温、2011年から2022年までの間は工業化前と比べて約1.09℃上昇している。そして今世紀の世界平均変化予測は、工業化前と比べて、+1℃から5.7℃であるという報告がされています。が、影響とリスクに関しましては、約33から36億人が気候変動に対して、非常に脆弱な状況下で生活していること。また適応・緩和・生物多様性・SDGsを意識したレジリエントな開発の必要性が訴えられております。このままでは脆弱な状況下で生活する人々の増加も懸念されており、それによって格差が拡大することも懸念されております。
そして緩和に関しましては、人為的なGHG、温室効果ガスの総排出量は2010年から2019年の間に増加し続けたこと。そして再生可能エネルギーの技術の発展により、電力システムの転換が進むことが予測されております。このような報告書をもとにCOPでは議論が進められて来ます。それではCOPとUNFCCCについての説明に移って参りたいと思います。
◆COP・UNFCCCとは
国連気候変動枠組条約締約国会議と日本語では呼ばれていますが、COP自体はConference Of Partiesの頭文字を取っているため、条約により様々なCOPが存在します。ほかのCOPの例を挙げますと、生物多様性条約であったり、砂漠化対処条約などが挙げられます。そもそも国連気候変動枠組条約とはということですが、こちらは英語でUnited Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCCと呼ばれております。1992年に採択され、1994年に発効しました。198の国と地域が締約しており、目的としましては、大気中の温室効果ガス、CO2やメタン等の濃度を安定化させることです。1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議、COPが開催されます。2020年以前は京都議定書、COP3で採択された京都議定書にもとづいて、2020年以降はCOP21で採択されたパリ協定にもとづいて議論が進められていきます。ちなみにCOP7では京都議定書で承認された諸制度、共同実施や排出量取引、クリーン開発メカニズムなどをはじめとする、京都メカニズムの運用規則を盛り込んだマラケシュ合意が採択されたり、COP15では産業化以前の水準から世界平均気温の上昇を2℃以下に抑える観点から、温室効果ガス排出量の大幅削減が必要であるという認識を含んだコペンハーゲン合意という政治的な合意が了承されました。COPでは締約国のみならず、国連及び関連組織・機関、そして報道機関・非営利オブザーバー組織の参加が可能で、気候変動の適応と緩和における国際ルールを話し合う場となっております。さらに気候変動枠組条約を詳しく説明していきたいと思います。
*先進国と途上国の取り扱い
原則としましては、「共通に有しているが差異がある責任及び各国の能力」ということで、先進国と途上国の取り扱いを明確化しております。まず附属書締約国と呼ばれる国々は、気候変動枠組条約を批准した国で、西側先進国と旧ソ連や東欧諸国、経済移行の約40カ国と当時まだ、ヨーロッパ共同体であったECが含まれています。その中で附属書Ⅰ国と呼ばれるものは温室効果ガス削減目標に言及のある国々。それ以外の非附属書Ⅰ国と呼ばれるものは、温室効果ガス削減目標に言及のない途上国です。で、附属書Ⅱ国というものがあるのですが、これは非附属書Ⅰ国が条約上の義務を履行するための資金協力を行う義務のある国々を指しており、掲載されている国々としましては、OECD諸国など、発展した国々であります。これらの分類にもとづき、条約では各国に対しての義務が発生していきます。こちらが簡単に、附属書Ⅰ国と非附属書Ⅰ国をまとめた図になっております。
まずOECDを見ていただきますと、ここの青枠で囲まれたところなのですが、ほとんどが附属書Ⅰ国に含まれていることが分かるかと思います。またEU28か国すべて附属書Ⅰ国に含まれており、日本はこちら、アンブレラグループと呼ばれるグループの中に入っています。アンブレラグループについては後ほど、説明させていただきます。
*COPで採択された重要な協定や議定書
ではCOPで採択された重要な協定や議定書についての説明をさせていただきます。まず、皆さんも聞きなじみがあるかとは思いますが、京都議定書についてです。こちらは2020年までの枠組みとして、採択されたものです。1997年の京都におけるCOP3で採択され、2005年に発効しました。附属書B締約国と呼ばれる国々があるのですが、それは京都議定書で削減目標を持つ国々のことで、先ほどの附属書Ⅰ国と非常に似てはいるのですが、西側先進国と旧ソ連、東欧諸国の約38か国とECが含まれております。附属書Ⅰ国に対して、一定期間、これは約束期間と呼ばれますが、におけるGHG排出量の削減義務として、1990年比の削減目標を課しております。ちなみに途上国などを含む非附属書Ⅰ国には削減義務は発生しておりません。
一方で、2015年のパリにおけるCOP21で採択されたパリ協定、こちらは2020年以降の枠組みとなっております。これはUNFCCC全加盟国が対象となっております。画期的であったのは、途上国、先進国の区別はなく、すべての国がGHG排出削減等の気候変動の取り組みに参加するということです。しかしながら罰則はないというのが条件となります。各国は5年毎にNDCと呼ばれる削減目標を見直し、更新する必要があります。COP21では世界の平均気温、上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、そして1.5℃以内に抑える努力をするということが決定されました。なぜ1.5℃かということに関しましては、1.5℃を超えることによって、異常気象などのリスクが大幅に増加するという予測があるからです。
*各国の削減目標
こちらは各国の削減目標、NDCを示したものとなります。まず日本について見ていきたいと思います。日本は2021年10月22日に地球温暖化対策計画が閣議決定され、そこで2021年の4月に2030年度において、温室効果ガス46%削減、これは2013年度比で46%削減を目指すこと。さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。そして2050年までには温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするということを表明しております。
また中国の場合は2030年までの目標はGDPあたりの排出量を基準として、2005年比でCO2の排出量を65%以上削減することを掲げました。
各国さまざまな目標を立ててはいるのですが、目標達成度が高い国々を見ますと、それはやはりEUを始めとする欧州です。1990年に比較した2018年のCO2排出量データを見ますと、中国がプラス356%、日本がプラス3%、カナダがプラス38%と並ぶ中、EUの28か国はマイナス22%、ドイツはマイナス26%、イギリスはマイナス36%と高い目標達成度を実現しています。続いて交渉グループについて話していきたいと思います。
*交渉グループ
国連の会議では原則として、多数決ではなく全体一致方式、コンセンサス方式で物事を決めて行きます。大きな国も小さな国も一つの国として、意思が尊重されるわけでありますが、この方法のもとでは一か国の力だけでは主張を通すのは大変です。したがって、利害の似通った国が集まって、交渉グループの主張として通すように協力をして行きます。附属書締約国、非附属書締約国の中、あるいはそれをまたぐ形で立場や主張の傾向が異なる交渉グループが形成されます。
日本は環境と経済成長のバランスを重視するアンブレラグループに属しております。オーストラリアをはじめとして、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、ロシアなどが所属しております。またEUは独立して、1つの交渉グループを形成しており、スイスや韓国、メキシコ、モナコなどをはじめとする国々は環境十全性グループと呼ばれています。近年の気候変動交渉の特徴の一つとして、この交渉グループが非常に増えていることが挙げられます。この原因としましては、現在の交渉では排出削減策だけではなく、後ほど出てきますが、適応策であったり、資金、技術支援等を含めた包括的な気候変動対処の制度のための構築を目指していることから、主に途上国同士の利害関係が複雑化しており、それゆえ交渉グループが増えていると言えます。こちらは主に気候変動の影響を大きく受ける恐れのある島国や途上国同士の交渉グループです。このような交渉グループは先進国から途上国への支援を主張する傾向にあります。次にCOPの組織について少し話していきたいと思います。
*COPの組織について
COPの組織自体は右のような図で表すことができます。まず気候変動枠組条約締約国会議、こちらCOPです。気候変動枠組条約における最高意思決定機関となっており、年に1度、開催されます。そのほかにも、京都議定書締約国会合、CMP、こちらも年1回開催されます。で、パリ協定締約国会合、CMA、こちらも年1回です。これら3つはすべて気候変動枠組条約と同時期に同じ場所で開催されます。その下に付いている補助機関会合というものがあります。こちらはSBと呼ばれております。SBの中には科学上及び技術上の助言に関する補助機関、SBSTA、また実施に関する補助機関SBIが含まれており、年に2度開催されます。
COPの開催国に関しましては、開催を希望する締約国の申し出により決定します。国連の5つの地域、アフリカ、アジア太平洋、中南米・カリブ、中・東欧、西欧・その他、の間で交代して開催していきます。過去10回の開催の傾向を見ますと、アフリカ地域、アジア太平洋、中・東欧、中南米・カリブ、西欧の順番に開催されております。このCOPにおける議長は議長国の気候変動を担当する大臣が務めます。任期としては、COP開会式から次のCOP議長が就任するまでの間となっております。会議におけるアジェンダというのは、事務局が作成し、COP開会式で締約国の全会一致により採択されます。暫定的なアジェンダには常に、条約に既定される事項を前回やCOPでアジェンダに含むことが決定した事項、前回のCOPで合意に至らなかった事項、そして締約国が提案した事項、で予算や会計、財務上の取り決めに関する事項を必ず含みます。先ほども申し上げたように、このような会議は常に全会一致、コンセンサスを以って決定し、決定を行なうためには、締約国の3分の2以上の出席を必要としています。実際にCOP会場内で行なわれることについて話していきます。
*COP会場内で実際に行なわれること
COP会場内では常にGreen ZoneとBlue Zoneに分かれています。Blue Zoneというのは、国連が管理する交渉の場で、入場する参加者はすべてUNFCCC事務局の許可が必要となります。一方で、Green Zoneと呼ばれる場所は、登録した一般市民に開放され、気候変動対策に関する対話、認識、教育、コミットメントを促すための、イベントや展示、ワークショップ、講演などが開かれています。交渉の場は基本的に各国政府の交渉官が出るため、一般の方は参加することができません。一方で、ブース展示やパビリオン、記者会見、あとサイドイベントに関しましては、政府機関、国連機関、そして色々なステークホルダーを含むオブザーバーが見ることができます。イベントではイニシャティブの発表やアナウンス、記者会見では各国、国連機関やNGOが交渉に関する見解を述べる場となっております。それでは、昨年開かれたCOP27の主要議題と成果について話していきたいと思います。
◆COP27の主要議題・成果について
COP27は国連気候変動枠組条約第27回締約国会議と呼ばれ、京都議定書第17回締約国会合、CMP17とパリ協定、第4回締約国会合CMA4とか、あと科学上および技術上の助言に関する補助機関、SBSTAおよび実施に関する補助機関、SBIの第57回会合とともに開かれました。開催場所はエジプトのシャルム・エル・シェイクです。開催期間は2022年11月6日から11月20日です。
COP27では気候変動対策の各分野における取組の強化を求める全体決定であるシャルム・エル・シェイク実施計画、そして2030年までに野心や実施を強化するための緩和作業計画が採択されました。そして、ロス&ダメージ基金の設置も決定されました。で、シャルム・エル・シェイク実施計画は2021年COP26のグラスゴー気候合意の内容を踏襲しつつ、緩和や適応、Loss & Damage、そして気候資金等の分野で締約国の気候変動対応の強化を求める内容が含まれております。こちらシャルム・エル・シェイク実施計画に記載されている内容の一部を取り上げたもので、赤く記した部分が重要な項目となっております。それに関して、1つずつ説明をしていきたいと思います。
*Mitigation(緩和)
まずMitigation、緩和について。2021年11月にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26の成果文書であるグラスゴー気候合意の内容を引き継ぎました。パリ協定1.5℃目標に基づく取り組みの重要性の確認、2023年までに整合的なNDC、温室効果ガス排出削減目標の再検討と強化。そして排出削減対策の講じられていない石炭火力発電の逓減と化石燃料補助金からの脱却について話し合われました。先ほどから何度か出ているこちらのNDCですが、これは国が決定する貢献ということで、パリ協定ですべての国が温室効果ガスの排出削減目標を5年毎に提出、更新する義務があります。日本は2015年に国が「決定する貢献案」、これはINDCとして2030年度に2013年度比マイナス26%の水準にすることを表明、そして2021年、2050年にカーボンニュートラルを達成するためにNDCを更新し、2030年度に2013年度比マイナス46%削減を掲げました。
COP27では「緩和の野心および実施の規模を緊急に拡大するための作業計画」、MWPが策定されました。緩和作業計画には進捗の確認、すべてのセクターや横断的事項を対象とすること。対話の機会と閣僚級ラウンドテーブルでの議論などが盛り込まれております。1.5℃目標の達成に向けて非常に重要な期間とされる2030年までの決定的な10年の中で、グラスゴー気候合意にて成立が明記され、そしてパリ協定第4回締約国会合、CMA4で採択された内容になります。MWP策定の経緯について説明します。2100年までの気温上昇を50%の確率で1.5℃に抑制するためには、2030年までに世界全体の温室効果ガスを2019年比で43%削減する必要があるとIPCC第6次評価報告書には記載されています。
しかしながら各国のNDCが現在、すべて達成されたとしても、削減率は2019年比0.3%に過ぎず、NDCが自国決定方式である以上、保守的な水準となってしまうことが問題視されていました。そこで何とか野心を引き上げようということで緩和作業計画が策定されました。こちらのMWP、緩和作業計画の運用方法としましては、すべてのセクターや分野横断的事項を対象とすること。最低、年に2回のワークショップ、対話の開催と報告を実施すること。各国および非国家ステークホルダーからの意見提出に基づいた議論を行なうこと。具体的には公正な移行に伴う産業や雇用、化石燃料の段階的廃止、そして森林減少の抑制などです。計画期間は2026年まででありますが、2026年に期間延長の要否を検討するとのことです。続いてAdaptation、適応について話していきたいと思います。
*Adaptation(適応)
そもそも気候変動における適応というのは、緩和を最大限に実施しても避けられない気候変動の影響に対して、その被害を軽減し、より良い生活を希求することです。1.5℃目標の希求と並行して、現実的に行なわなければいけない行動とされています。適応に関しましては、Global Goal on Adaptation(GGA)、世界全体の適応に関する目標がパリ協定7条1項に記されています。そこには「気候変動への適応に関する能力の向上並びに気候変動に対する強靭性の評価及び脆弱性の減少という適応に関する世界全体目標を定める」と記されています。COP26でGGAについてさらに議論していく必要性が確認されました。そこでGGAに関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画の発足がありました。こちらGlaSSと呼ばれますが、GlaSSの主な議論対象はGGAを後ほど出てきますGlobal Stocktake(GST)に落とし込むための進捗評価方法、つまりは定性的に抽象的なGGAを具体化し、そして世界共通の目標を明確にすることを目指すということです。COP26から2年かけて計8回の議論を通し、COP28に向けて適応策を練っていくことがCOP26で決まりました。そして昨年のCOP27ではGGAの作業進捗の確認や優先テーマ、横断的課題等を含むフレームワークの設置に向けた議論が開始されました。COP27での気候変動に関する具体的な発表を取り上げていきたいと思います。
まず日本政府が出した発表としましては、「日本政府の気候変動の悪影響に伴う損失及び損害支援パッケージ」です。こちらはアジア太平洋地域における早期警戒システム導入イニシャティブがその一つに含まれます。早期警戒システムとは気象レーダーなどの観測機器の整備やデータの分析・予測、そして災害発生のリスクを伝えるためのネットワーク構築などの技術を海外に導入することによって、国内企業の技術向上や市場拡大にもつながるという、そのような目的を持って行なっております。次に途上国における気候変動に耐性のある都市づくり、「SUBARUイニシャティブ」を日本政府は発表しました。
こちらは気候変動に脆弱な国、特に途上国においては人材や情報、技術や制度等、持続的なビジネスモデルを構築していく上で、限りがあることが多いため、適応分野で日本が企業が貢献していくためには、それらを補う支援が不可欠であるため、多様なパートナーシップの構築等を目指して、42か国のアジア太平洋地域の都市における適応分野の課題解決に向けて、日本企業の貢献を促進していくイニシャティブになっております。
そしてCOP27が開催されたエジプトのあるアフリカ大陸というのは、気候変動にもっとも脆弱な国、そして地域の一つでもあります。サハラ以南の労働人口の55から62%は農業従事者と言われており、気温上昇、干ばつ、そして自然災害により、農作物の収量と質の低下が懸念されております。またそれに伴って、貧困、栄養失調、経済成長の低下なども懸念されております。そのような影響を大きく受ける一方で、先進国やほかの発展している国々に比べ、温室効果ガスの排出は少ないというのが現状です。そのため食の安全保障ということが非常に注目されました。そこで実際にCOP27では、フードシステム・パビリオンとうのが初めて開催されました。またCOP議長国が主催する初の農業デーというものが1日設けられたり、COP27の最終文書に食料と農業が登場するなど、このような食に関する内容も多く盛り込まれたのがCOP27であります。今年度もフードシステム・パビリオンや農業デーというものが開催される予定です。さて、続いてLoss & Damage、損失と損害について話していきたいと思います。
*Loss & Damage(損失と損害)
損失と損害という言葉自体に厳密な定義は存在していません。適応によっても回避できない被害が損失と損害と呼ばれることもあります。気候変動における影響の大きさというのは、緩和策によって下げた気候外力と適応策によって上げた抵抗力の差である脆弱性によって決まると言われています。気候災害が起こった際に、脆弱性が高い地域というものは多くの影響を受けてしまいます。これを適応によっても軽減できない被害、損失と損害として、途上国が主張したのが始まりです。パリ協定、COP21で採択されたパリ協定におきましては、Loss & Damageとして8条に含まれたのですが、その代わりに先進国の「責任と補償」の根拠はないということで合意がなされました。
COP25スペイン・マドリードで開かれたCOP25ではサンティアゴ・ネットワークというものが設置されました。気候変動の悪影響に脆弱な途上国に対して、関連組織、団体、ネットワーク、そして専門家による技術支援を促進すること。またCOP27ではサンティアゴ・ネットワークの完全運用化に向けて、その構造、諮問委員会・事務局の責任と役割等の制度的取り決めを決定しました。
COP27ではこのような対立が見られました。まず途上国からすれば、新たな追加的資金への早急な設置が必要であるということ。そして先進国が言うように、Loss & Damageが緊急性があるものであるならば、今すぐ行動しないのは矛盾しているということ。一方で先進国としましては、既存の基金に損失と損害に特化した窓口を設置すれば良いのではないか。そして解決策の提示に向けたプロセスに留めたいという考えがありました。そうこうして議論をしているうちに、最終的に気候変動の悪影響に対して、「特に脆弱な開発途上国」という文言付きで、初めて損失と損害に対する具体的資金的約束がなされました。これに関しましては具体的な内容はまったく決まっておらず、COP28以降で決定する予定です。何をCOP28以降で決定するのかというのは、新興国、例えば中国などが途上国に対して支援をする側に回るのかどうかや、特に脆弱なというこの「脆弱」の定義などについて話し合う予定です。もともと途上国としては、特に脆弱な開発途上国ではなく広く途上国対象という文言を入れたかったのですが、先進国の反発があり、このような文言が付きました。
GDPに占める損失と損害の対策に必要な資金というのは途上国の方が先進国に比べて大きく、それゆえに持続可能な発展が妨げられる恐れが大いにあると言われており、それが適応資金ギャップと言われる問題に繋がっていきます。先ほど資金に関する説明をいたしましたので、このままClimate Finance、気候資金についての説明に移って参りたいと思います。
*Climate Finance(気候資金)
クライメイト・ファイナンスは日本語では気候資金と呼ばれているもので、途上国の強い要求によって設立されてきました。年間1千億ドル資金目標というものがOECDには課せられています。2009年にコペンハーゲンで開催されたCOP15において先進国は2020年までに途上国の気候変動対策に年間1,000億ドルを動員するという共同目標を約束しています。それはCOP16で正式に決定し、COP21で2025年まで延長はされました。しかしながらその目標は2020年までは未達成のままでした。
こちらの図はOECDが公表している資金提供の額なのですが、2020年まで上昇傾向ではあるものの830億円程度の提供で止まっています。このような資金の受益国はアジアが最も多く、平均で42%、次いでアフリカ、南北アメリカと続いていきます。2020年の気候変動資金の大半は気候変動の緩和策に向けられたのですが、適応策に提供される資金は引き続き増加して、全体の3分の1を占めるようになりました。緩和資金は主にエネルギーと輸送関連活動、そして適応資金は水の供給と衛生、農業、林業、漁業活動に重点が置かれました。2020年以降はどうなったかと言いますと、こちらの表は2021年にOECDが出した予測であり、2023年には1,000億ドルを超えるという予測が立てられていました。実際には、2022年に目標は達成し、COP27ではこのような不透明性の問題があるということで、途上国からの声により、隔年で進捗報告を作成することとなりました。適応支援の重要性が提起され、先進国全体で2025年までに適応資金を2019年の水準から倍増を求める旨の文言が決定文書にも記載されました。ほかにもCOP27では以下の内容が話し合われました。
2025年以降の新規気候資金合同数値目標ということで、2025年までに1,000億ドルを今度は下限とする新目標、そして特別作業プログラム、技術的専門家対話を設置することが決定しました。資金に関する常設委員会に関する事項、そして資金メカニズムに関する事項が話し合われました。そして最後にパリ協定第6条について話していきたいと思います。
*パリ協定第6条(JCM)
COP26にてパリ協定第6条のルールブックが採択されました。パリ協定第6条には主として、こちらに記した内容が記されています。6条2項に関しましては、協力的アプローチと言って、国際的に移転した排出量クレジットを排出削減目標に活用するものです。ここに後ほど出てきますJCM等の二国間制度の話も含まれております。続いて6.4、6条4項については国連管理メカニズムと呼ばれており、従来の京都議定書の12条にあったCDMですね、クリーン開発メカニズムをパリ協定に委嘱するための条項となっております。CDMについても後ほど説明させていただきます。最後に6条8項、これは非市場アプローチと呼ばれていますが、削減成果の移転を含まない国際協力の枠組みを規定しております。COP27ではCOP26で決定した実施指針に基づき、以下を決定しました。
排出削減・吸収量の国際的な取引を報告する様式や記録システムの仕様、専門家による審査の手続き、国連が管理する市場メカニズムの運用細則。京都議定書下の市場メカニズム、ここは先ほど申し上げたCDMになっておりまして、それの活動、そして排出量クレジットのパリ協定への移管の詳細ルールです。CDMというのは、京都議定書の中に含まれる排出量取引に関するプロジェクトの一環です。CDMとはこちらの図に記したように附属書Ⅰ国、先進国が投資国として関与し、温室効果ガス排出量の上限が設定されていない非附属書Ⅰ国、途上国において、排出削減プロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量に基づいて、排出量クレジットが発行される仕組みとなっております。こちらのクレジットが移転されることで、投資国は総排出枠が増えることとなります。なので先進国が出してもいい、温室効果ガスの量が増えるということです。一方で途上国側としては、事業の投資や技術移転等のメリットがあります。
一方で、パリ協定に記されているJCMに関しましては、二国間クレジット制度と呼ばれております。二国間クレジット制度では優れた脱炭素技術・製品・システム・サービス・インフラを途上国に提供します。で、途上国の温室効果ガスの削減など、持続可能な開発に貢献し、成果を二国間で分けます。大きな違いとしては2国間で分けるということで、パリ協定では途上国に対しても削減目標が課されているので、途上国に対してもクレジットが与えられるという話になっています。この表は簡単にCDMとJCMの比較をしたものであります。京都議定書のもとで運用されていたCDMは比較的硬い構造となっていて、一方でパリ協定、より多くの国々が参加するパリ協定はより柔軟な対応をする必要があるため、JCM自体の取組みがすごくルーズなものとなっております。では現地でのCYJ、Climate Youth Japanの活動について少しお話をさせていただければと思います。
◆現地でのCYJの活動について
Climate Youth JapanはCOP現地で、Climate Justice Pavilion、Japan Pavilion、Children & Youth Pavilion、Korea Pavilionで登壇をしたり、また各国、各種パビリオンで見学、そしてセミナーへの参加、会議の聴講、そして意見交換などを行ないました。これは実際に現地で行なった活動になるのですが、事前準備として、参加枠を取得したり、各パビリオンへの応募、そして毎週勉強会を実施していました。また派遣後につきましては、報告書の作成、報告会の実施、そして現地で得た知見をもとにした意見交換会を行ないました。ほかにも海外ユースとの交流やインタビューを受けることも多々ありました。
今年度のCOP28においても、Japan Pavilionの登壇やサイドイベントへの参加をする予定です。未来世代の気候変動対策として、昨年のCOP27では初のChildren & Youth Pavilionというものが開かれました。IPCC第6次報告書第2作業部会のレポートを見ますと、これまで政府との結びつきの弱かったステークホルダーの一環として、ユースが含まれており、今後さらに協力していくことが必要であると記されております。そのためCOPでも子どもやユースの声に耳を傾けるという傾向が現われているのではないかと考えます。
◆COP28で期待されること
そして最後にCOP28で期待されることについて。COP28はSB59とCMA5と同時に開催されます。開催国、議長国はアラブ首長国連邦、UAEのドバイで開かれます。時期としては、2023年の11月30日から12月12日です。注目すべきテーマとしましては、第1回グローバル・ストックテイク(GST)、そしてグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画(GlaSS)における適応のモニタリング手法の確立、途上国のためのロスダメ基金の設立の進展についてです。
グローバル・ストックテイクというのは、パリ協定の掲げる目標、1.5℃目標に対して世界全体での取り組み状況をレビューし、目的や長期目標達成に向けた進捗を5年毎に評価するシステムのことです。GSTの成果は次期NDC、排出削減目標の更新のための情報提供をすることになります。現在、グローバル・ストックテイクというのは、情報収集・準備を終え、そして技術的評価も終えた中で、COP28、2023年11月の成果物の検討という段階に来ております。ここでグローバル・ストックテイクの中で今後、どのようにNDCを決定していくかというのが決まっていきます。
そして最後に。ここ数十年で気候変動をはじめとする環境問題は深刻化するとともに、その重要性が広く浸透してきました。私たちは今、気候変動対策における大きな転換点を迎えていると思います。まずは、気候変動対策に関するグローバルな議論の場であるCOPについての理解を深め、私たちが今、考えなければいけないこと、行動すべきことを想像してみてはいかがでしょうか。大変恐縮ではありますが、このようなメッセージを残させていただきます。
また私は、「若者」である期間というのが、利害関係を持たずに感性を尊重して行動することのできる社会のステークホルダーであると思っている非常に貴重なものだと感じています。若者という立場では、知識量・想像力・社会的責任・権力など様々な違いがある方々と、気候変動の議論というプラットフォームに立って話すことができます。気候変動問題解決という同じゴールに向かって、私たちユースと人生の先輩である大人の方々との未来を築いていきたいと考えております。以上、発表を終わりたいと考えております。ご清聴、ありがとうございました。