家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)は1月19日、連続講座第27回「サステナブルな社会を創造する人材を育むための、学びの場づくり」を開催しました。講師は、一般社団法人まちやまの塚原宏城代表理事。自然菜園、食農教育、エディブルスクールヤード、コンポストづくりなどを通じたESD(Education for Sustainable Development:サステナブルな社会づくりを担う人材を育成)の実践について紹介しました。講座の講義部分の要旨はこちらです。
皆さん、はじめまして。塚原宏城と申します。一般社団法人まちやまという団体の代表をしております。本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます。オンラインで50分という長い時間、お話するのは慣れていないので、ちょっとお聴きづらいところもあるかもしれませんけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
今日お話する内容ですけれども、最初に簡単に自己紹介をさせていただきまして、そのあと色々やっていることの紹介をどんどんさせていただきたいと思っております。今、市村さんからもお話をいただいたように、環境教育を生業にしておりますので、学びの場づくりと書きましたけれども、そのような視点で事例紹介をさせていただければと思っております。最後、簡単ですけれども、まとめとして今、考えていることをお話して、私の説明としては50分を予定しております。
◆はじめに
*自己紹介
自己紹介ですけれども、新潟で生まれました。地震のお話がありましたけれども、ちょうど元旦の日に実は帰省していて、午前中の新幹線だったので、これが4時間ぐらいズレていたら、新幹線の中にずっと居ることになっていたんですけれども、本当にお正月から、何というか不安な年明けでしたが、幸い、わが家の方は大丈夫でした。
で、新潟でずっと育ちまして、大学から北海道に行き、そのまま札幌の市役所に7年間勤めました。もともと環境に興味はあったんですけれども、土木工学にも魅力というか、まちづくりとかですね、魅力を感じまして、行政としては土木の職員として、7年間、勤めておりました。環境にたまたま関係の深い下水道の仕事に7年間、従事しておりました。
結婚を機に、30ちょっと前に東京に出てきまして、それからはずっと環境教育をやっています。私は環境教育と言ってもまったく素人だったので、教員免許も持っていませんので、老舗のNPOに入りました。自然学校と俗に呼ばれているところに入って6年間、最初の1年間は実習生ということで、OJTをしながら学んでいって、5年間はそこでそのまま就職をして、働いていました。35になって独立をして、一般社団法人まちやまを起ち上げて今、9年目。今度の4月で10年目になります。
*まちやまとは
まちやまというのは2つ意味を持たせてありまして、1つは町田の里山。たまたま町田の地主さんとご縁がありまして、都市近郊に残る里山というのは、すごく貴重だなあと思っているのと、仕事をやる上でも、イベントをやってお客さんに来てもらうのに、あまりにも遠いと大変というところから、都心部の方たちをターゲットにしているというのもあって、町田でやっていますという意味です。あとは“まち”というのが、都市の意味合いがあって、”やま”が自然の意味合い。都市と里山、自然をつなぐという、これが法人の目的というか、そういうことをしたいなと思ったので、その2つの意味を持たせて、まちやまと名付けました。
やっていることは町田の里山で環境教育、ESDと書いていますけれども、Education for Sustainable Development、持続可能な社会づくりの担い手を育む、これはちょっと私の意訳が入っていますけれども、それを事業の核としてやっております。具体的には週末に里山体験イベント、おもに親子ですけれども、町田の地主さんのフィールドを使わせていただいて、イベントをやっています。あとは平日、最初、起ち上げて間もない頃は、平日は本当に仕事がなかったんですけれども、今はおかげさまでお声が掛かって、小学校の非常勤講師と書きましたけれども、先生方のサポートをしたり、時には前に立って、子どもたちの前で話をしたりしております。敷地の中に里山的な空間、緑地があったりするんだけれども、うまく使えていないという課題を小学校が抱えていたので、そこを活用しながら、より効果的な授業が出来ないかということで、先生方といっしょにやらせてもらっています。
あとは町田市の青少年施設と書いたんですけれども、自然の家みたいなところなんですが、そこで平日に放課後の子どもたちを受け入れる自然菜園クラブをやらせてもらっています。
*環境教育のイメージは
環境教育という言葉について、皆さんがどんなことをイメージされるのか、少し教えていただきたいなと思って、グーグルフォームを用意しました。チャットに今、リンクを送りますので、もしよろしければ、ここにちょっとアクセスしていただいて、投稿をしていただけますでしょうか。質問が大雑把過ぎて、なかなか回答できないかもしれないんですけれども。正解を書いていただく必要はなくて、イメージで結構ですので。
はい、ありがとうございました。ちょっと短い時間で書き切れるような質問じゃないのかもしれないんですけれども、12名の方に今、回答いただいています。
ちゃんと見ていくと、キーワードが色々、浮き上がってきたりするのかなと思うんですけれども。(回答を見ながら)自然体験、人の暮らしを考えること、暮らしのこととか、私もそこから入りたいなと思っているので共感します。人間が地球上で持続可能な形、ありがとうございます。せっかくなので、このデータも後で皆さんと共有できればなと思います。じゃあ、またスライドに戻りますね。
これを機に改めてちょっと調べてみたんですけれども、環境教育促進法という、正式名称はもっと長いんですが、第二条第3項に定義があって、そこで持続可能な社会の構築という言葉は最初に来ていました、目的としてですね。広辞苑の第6版というちょっとこれは古いんですけれども、検索したらたまたまこれも出てきて、自然関係の有限性に注目し、環境破壊を防ぎ、環境問題を解決し、自然との調和に基づく持続可能な社会づくりを目的とする教育ということで、やっぱり持続可能な社会づくりというところが目的として掲げられていました。環境教育って1990年くらいから必要性が言われるようになって来て、最初は環境保全、どちらかと言うと、広辞苑にある環境破壊とか環境問題とか、そっちの方が最初は大きかったと思うんです。けれども、だんだん一部分だけ見ていても解決できないものがいっぱいあるというのに気づいて来て、社会全体を考えていかないといけないんだよねっていう流れの中で、ESD(Education for Sustainable Development)という言葉が教育の分野でも取り上げられるようになって来ました。今たぶん学校の先生方はどうでしょうね。知っている人は知っているんじゃないかなと。先生とか教育に関わる人以外はESDと言って、ピンと来ないかもしれないんですけれども、持続可能な社会づくりのための教育(ESD)はニアリーイコール環境教育なんじゃないかなと私は思っています。
*自然との調和とは
自然との調和に基づくという言葉が広辞苑(の環境教育の解釈の中)にあったので、ここでふと思ったんです。自然と調和している状態ってどういう状態かなって考えたときに、本当にこれって人それぞれ感じ方も違うし、調和の状態を、これを調和って思っている人もいれば、そうじゃない人もいると思うし、本当に感じ方が多様だと思うんです。(調和の)1つの例として、ちょっと今、写真をお見せしているんですけれども、これを見て、これは何ってすぐ分かりますかね。良かったらチャットで送ってください。市村さんどうですか。
市村:何か、動物の糞でしょ。
塚原:糞、何となく、分かりますよね。正解です。じゃあ、何の糞でしょう・・・(チャットを見て)シカ、タヌキ。はい、ありがとうございます。リアクションがあると嬉しいですね。これを現地で私が見たときに、大きさ的にはコーヒー豆みたいな感じだったんです。コーヒー豆がいっぱい落ちているみたいな感じに見えたんです。場所はどこにあったかというと、こんな場所です。これは町田市の青少年施設で、ひなた村というところがあるんですけれども、今時季は落ち葉掻きをしているんで、これは新しい落ち葉がダーって入っていますが、これの下の部分にありました。もう何となく分かったと思うんですけれども、コイツの糞ですね。カブトムシの幼虫ですけれども、これはちょっとサイズがちっちゃいかな。もうちょっとおっきい子も居て、子どもたちとちょうどプログラムをやっているときに糞をしている最中の幼虫を子どもたちが見つけて、見せてくれました。まさにこのコロコロが出て来ている状態で、あっ、すごい瞬間を見たなと思って、見たことある方は居るかもしれないんですけれども、私は初めてそれを見たので、これを見たときに、何か生き物と自分たちがつながったような感覚があってですね、何というかな、ワクワクしたというか、そんな体験がありました。これを調和と言うかどうかは難しいところなんですけれども、1つ、事例として紹介してみました。
*環境教育とは
これは環境教育の定義とまでは言えませんが、私なりに、大きく3つに分けているんです。
まずは自然の仕組みとか命のつながり(を感じる、知るということ)。自然の仕組みの中に、命がつながっているということがあると思うんです。命のつながりというものをもうちょっと砕くと、今、この瞬間に空間的にその生態系に色々なものがつながっているというところと、あと時間軸で循環していく、そういうところがあるのかなと思うんですけれども、そういった仕組みを感じる、知るというところ。ピンクで書いたのが自分なりに大事にしたいところなんですけれども、(自然の仕組みが生み出す)持続可能な状態の原体験、なかなか今の現代、自然と触れ合うことが少なくなっているので、原体験を得ることも少なくなっているのかなと思いますので、そこをまずは得てもらう。
二つ目はどっちかと言うと、ちょっと机上の勉強が多いかもしれないですけれども、人間の影響ということをしっかり把握する。(三つ目に)最終的に環境教育は実践をすごく大事にしているので、こういう問題があるよね、じゃあそれに対して、どういうふうに何が出来るだろうかというのを考える。で、実際にやってみる。
ちょっと大げさに言うと、環境教育って、どう生きるかという生き方を学ぶみたいなところまでいくのかなと思っているんですけれども、私なりには環境教育をこういうふうに整理しています。
◆事例紹介 ~学びの場づくり~
*里山暮らし体験「まちやまひろば」
ここから事例紹介になりますけれども、今までちょっと文字ばっかりだったので、少し写真で紹介させていただければと思いますが、まずは主催のイベントで、週末に行なっている親子の体験なんですけれども、「まちやまひろば」という名前を付けています。2015年の起ち上げからずっとやっている里山暮らし体験で、原体験を提供したいという先ほどお話した想いを大事にしながらやっています。
これは3月かな。ヨモギを積んで、ヨモギ団子をつくっているところですね。春になるとだんだん植物が活発になって来るので、色々なことをやりながら、4月になるとタケノコ。地主さんの敷地に竹林がありますので、タケノコを掘って、皆で食べるということをやっています。このまちやまひろばというのは、年間のプログラムで月1回、だいたい開催しているものです。
田んぼもありまして、田植えを5月の終わりくらいかな、やっています。夏は流しそうめんで、竹林で竹を切り出して来て、節を皆で取ってという、樋をつくるところからですね。あとはこの写真で分かると思うんですけれども、カップをつくったり、箸をつくったりという、自然のものの竹を使ってけっこう色んなことが出来るよという体験をしてもらいたくて、こんなイベントをやっています。樋を支えている台も竹で全部やっています。
秋になると実りの秋ということで、稲刈りをしたり、あとはお芋を掘ったりとか、体験としてはそんなに特段珍しいものではないんですけれども、特にお米づくりなんかは、やっぱり日本人は1回は米をつくりたいというニーズがあるみたいで、毎年、たくさん参加していただいています。もち米をつくっていまして、冬はお餅つきをして、左上の写真はしめ飾りですね。藁を使ってしめ飾り。右下は鏡餅ですけれども、藁を使ったりして、お米づくりは本当にゴミが出ないよということを言っていまして、畑に藁だとか色々使うことも出来ますし、最終的に使えなければ全部田んぼに返せばいいので、土に返してまた次の命につながっていくというところを伝えています。
年明けてから、コナラの木とかが地主さんの敷地にけっこうありますので、それで落ち葉掻きをして、これはこの中には人は入っていないかもしれないですけれども、よく私は埋められます。落ち葉の中にいつも埋まっています。暖かいんですよね。体験ある方はいらっしゃるかと思うんですけれども、羽毛布団に入っている、羽毛布団より下手したら暖かいんじゃないのみたいな、たくさんかけられると本当に暖かいです。2月になるとお味噌をつくって、1年分をイベントで使ったり、あとは参加者の方に持って帰ってもらったりしているんですけれども、1年分のお味噌を2月に仕込んでいます。
*自然菜園体験「まちやまファーム」
今のが里山暮らし体験「まちやまひろば」というもので、続いて今度は「まちやまファーム」といって、ひろばで来てくださった方たちがステップアップとして、もうちょっと主体的に関わりたいなっていう方たち向けの里山暮らしの実践編を2021年からスタートさせました。自然菜園体験「まちやまファーム」ということで、自然栽培って色んなやり方があるとは思うんですけれども、無農薬無化学肥料で、自然栽培に近いやり方でやっています。
(写真を見ながら)2015年の9月って、私が独立して間もないときですけれども、地主さん所有の案内されたときに、こういうところだったんですが、ここ拓いたら使っていいよと言われました。農地は色々、法律的にもあると思うんですけれども、基本的に放棄地の状態というのは良くないと思うので、表向き援農の形で、ここを拓いて私が使うということは援農になるかなと思って、15年の9月からちょっとずつですが、ここを開墾することに決めて、やり始めました。
今、クズがすごい見えますが、奥にはササも見えると思うんですけれども、こんな状態でした。竹林ではないでササでしたけれども荒れている、まったく手が入っていない、20年くらい放棄されていたと言っていましたね。開墾はし始めたんですけれども、まだそのときはイベントをやるつもりもなくて、目標が定まってなかったので、ちょっとずつ、ちょっとずつという感じで、2017年の2月、1年半経っても、まだそこまで開墾は出来てなくて、少し広がったという感じですね。周りのたまたま近くの方で、重機を持っている人が居て、じゃあもう拓いてやろうかとも言われたんですけれども、開墾の体験って実はすごく貴重じゃないかなって思って、そう言われたときに思いまして、私の仕事は体験がある意味、商品みたいなものなので、ここで重機を入れられたら、私の商品がなくなると思いまして、まずは自分で少しずつ拓いてってということを続けていきました。
2020年の1月、少し畝が出来て、ちょっと何を播いているか忘れちゃいましたけど、ネギかな、あと奥の方に葉物があるような感じ。で、右側に黒い塊があると思うんですけれども、これは穴を掘って、ササをどんどん燃やして出来た最後の炭ですね。今、バイオ炭が見直されているかと思うんですけれども。2020年にやっとここまで拓けてきたという感じですね。これでもたぶん面積的には3畝とか、そのくらいしかまだ拓けてないんじゃないかな、全体では1反ちょっとあるというふうに言われています。
で、2020年の4月にコロナ、4月よりもうちょっと早かったですけれども、4月になって緊急事態宣言の一番最初のが来ました。まちやまとしては、イベントが打てないという状態になったので、もう本当に鬱になりかけたというか、半分、鬱だったんですけれども、子どもが保育園に通っていましたので、一人保育士みたいな感じで2カ月くらいかな、そういう時期がありました。自分も煮詰まっちゃって、どうしようもなくて、今、戸建ての賃貸に住んでいるんですけれども、賃貸だからと言って、ちょっと遠慮していたんですが、もう庭に畑をつくっちゃえと思って、まあ、割と広めのスペースがあったので、そこに枠をつくって、何て言うんですかね、高畝って言うんですかね、そこを畑にしました。
子どもといっしょに色々、やっていたら気持ちも晴れてですね、自分も体験いいよって言っていたんですけれども、すごい近くにあるって、すごいいいことなんだなと、このとき本当に実感しまして、日常的に触れられるというのが本当にいいことなんだなというのを感じました。子どもといっしょに喜びを共有でき、これはいいなと思いまして、じゃあこれを体験のイベントにして、この体験に来てくれた人がおうちでも、プランターでもいいから、ちょっとでも家でつくるようなことにつながるようなことができないかなと思って、まちやまファームというのを起ち上げました。実際は1m×4mのマイ畝というのを用意して、家族ごとに市民農園と貸し農園とイベントの間くらいのことをやっているという感じですけれども、体験していただいて、実際におうちで応用してもらうみたいなそんなイベントで、月1回、やっています。
開墾も含めて、参加者の方といっしょに開墾していって、少しずつ広げているっていう感じなんですけれども、先ほど言ったように、開墾するということ自体もなかなか貴重な体験だなと言うのが参加者の方からも感想として聞けていまして、こんなところでもやれば出来るんだね、つくれるんだね、という何か人間のキャパシティを広げてくれるような色々な体験が出来ているのかなと自分でも思っています。現状は、これは2021年ですけれども、ジャガイモがけっこうそれなりに穫れるようになって来て、2022年、これは去年ですけれども、皆でマイ畝で作業をしている様子で、こんな感じで、最初は耕作放棄地だったんですが、少しずつ集まって、こうやってイベントが出来るようになってきました。夏野菜でピザをつくったりとか、こんなこともやっています。
*主催イベントのまとめ
主催のイベントで毎月、2本を走らせているイメージなんですけれども、ちょっとここで簡単にまとめると、原体験というのはもちろん、それぞれ違って、それは違ってもいいと思います。原体験も違うし、人それぞれ違うから、こういうふうな状態がいいよねという、理想像というか、好ましい姿というのももちろん違う。僕なんかは、AIとかやっぱりちょっと怖いなと思いますけれども、今の小学生とか全然きっと僕とは違う感覚を持っているんだろうなというのが、普段、接していても感じているところで、それは何か絶対的に正解なものなんかないので、(AIに対する捉え方も)多様でいいんだろうなと。
下の枠に囲ったところは、私自身の一個人の考えではありますけれども、いつになってもやっぱり大事にしてほしいなと思うのは、人間が自然の一部であるということは、人として忘れないでほしいなって、すごく強く思っています。なので、そういうようなことを感じられるような体験が出来るといいかなと。食べるということは生きることと本当に直結していますけれども、やっぱり育てて食べるというそういう行為を通して、自分も自然の一部であるということを感じてもらいやすいかなというふうに考えて、まちやまファームなんかもやっています。
*学校菜園(エディブル・スクールヤード)
あと20分くらいですかね、20分弱ですけれども、ちょっと駆け足で、進めていきます。これは学校菜園ということで、主催のイベントで自分が地主さんのフィールドを使って色々やらせていただいていたんですけれども、そういう経験を何年かやっている間に、小学校からお声が掛かりまして、今は学校菜園の活動を力を入れてやっています。エディブル・スクールヤードというのは聞きなれない単語かなと思うんですけれども、アメリカで発祥した学校菜園の取り組みです。(学校が)荒れていた1990年くらいかな、何で色んな問題が出て来ているのかなと考えたときに、ジャンクフードとか色々今でもあるとは思うんですけれども、食が原因じゃないかと、を考えたのがアリス・ウォータースさん。オーガニックのレストランのオーナーだったり、色々と有名な方なんですけれども、その方が、食を変えることで何か学校が変わるんじゃないかという思いで、エディブル・スクールヤード(ESY)というプロジェクトを起ち上げました。
エディブルというのは、食べられるという英語の意味なんですけれども、(エディブル教育とは、)食を中心に据えた全人教育ということで、学校でやっている教科(教育)、あとは栄養の教育、あとはもうちょっと広く人間、道徳的なところとか、情感的なところとか、を扱う人間形成と、この3つ(の教育)を、食を中心に(することで)効果的に出来るんじゃないかということで、アメリカのバークレーで始まった教育になります。菜園やキッチンを(活用)しながら教科教育をより効果的に行うと。授業の内容は、これは私も実体験がすごくあるんですけれども、学校で習ったことが実際に暮らしにつながっているということが分かったときに、すごく学びに対する意欲が高まったことが自分も実体験としてありますので、エディブル・エデュケーションはまさにそこを狙っているということです。
日本では一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン(以後、ESYJ)という団体がありまして、(エディブル教育の)普及に努めているんですけれども、そのジャパンの代表の堀口さんという方が、アメリカの事例を紹介した「食育菜園」という本がありまして、岐阜で私の大学の知り合いが新規就農してやっているんですけれども、彼の家に遊びに行ったときに、たまたまこの本がありました。パラパラ見ていくと、エコロジーを理解する知性、自然界と結びつく情感的な絆、この両方を育むことで地球市民への成長を目指す、と書いてあって、これは私がやりたいことといっしょだなと思って、何かやりたいなと思ったら、たまたま町田の北隣りの多摩市(愛和小学校)で実践していたということで、それから2017年から私も(ESYJと連携して)この学校に直接関わって活動しています。もともとは畑があんまり活用されてなかったんですけれども、そこが今、こんな感じで、これは少し前の写真ですけれども、こんな感じで活用されていまして、実際、ここで授業をやっています。3年生の国語で「すがたを変える大豆」という単元があるんですけれども、それを実際に植えて、植える間隔なんか、算数と連携させたりとか、数を数えて何個の鞘があったとか、理科の根っこ、茎、葉みたいな植物の体の観察。で、総合学習の時間に実際に豆腐をつくってみる。で、そこでつくって食べて、おいしいって感動したところで、じゃあ、どういうつくりかたをしますといった説明文を書くというのは、今度は国語の単元でありまして、この感動から表現につなげるみたいな、こんなことをやっています。
*コンポスト
あとコンポストというのは、4年生の社会科でゴミの授業をやるんですけれども、そこからちょっと派生して、コンポスト、生ゴミをコンポストにするというのを、リサイクルですね、ゴミだったものが資源になるということで、リサイクルの実践をしてみようということで、こんなこともやっています。多摩市でキットがあるんで、それを使って、実際に生ゴミをおうちから持ってきてもらってということをやっています。
あとは生ゴミじゃなくて、落ち葉も公園なんかでは捨てられているんですけれども、これも溜めて置いておけば腐葉土になるよねということで、これは愛和小学校ではなくて、別の私立の小学校ですが、竹林があるので竹を切り出して、枠を自分たちでつくるみたいなこともやっています。
*バークレーでの体験
エディブル・エデュケーションに関しては、(ESYJの支援をいただいて)2019年にバークレーへ行かせていただく機会がありました。ざっと紹介すると、実際に中学生がコンポストを理解するために共同作業で切り返しをしている、そういう授業があるんですけれども、それを実体験させてもらったりだとか、ふるいに掛けて、実際に出来た堆肥を、匂いを嗅いだり触ったり、そんなことをやらせてもらいました。4日間あったので、もう本当にたくさんの内容だったんですけれども、私は個人的にはここにダーっと書きましたけれども、一方向ではなくて双方向だったりとか、共同作業がやっぱりいいよねとか、エディブル・スクールヤードが大事にしていることをすごく、直接学ぶことが出来て、いい機会だったなと思っています。
現地の先生なんですけれども、teachって、教えるということではよりも、facilitation、皆といっしょに同じ立場で考えたりとか、そういうことがすごく徹底されていたので、私もどちらかというと、自然学校の時代からそういうことを大事にしていたので、やっぱり今まで自分がやっていたことは間違ってなかったのかなと。それによって、子どもたちの主体的な学びを引き出すことが出来るのかなと思っています。今、自分でやっている主催のイベントでもそれはすごく参考になっています。
*花の菜園
あとはちょっと余談的ですけれども、花が向こうの菜園は多くて、あんまり自分の中では飾るとか、そういうことがセンスとしてなかったんですけれども。これは愛和小学校の例なんですが、バークレーを参考にして、飾るということをESYJのスタッフは大事にしています。Beauty is language of loveというがあって、場を綺麗にしてあげることで子どもたちを迎え入れるとかですね、場の設えで言葉ではないけど愛を伝えるみたいな、あなたはここに居てもいいよ、歓迎していますよ、ということを伝えるという、そういうことがすごくアメリカでは徹底されていて、自分にはまったくなかった感覚だったので、これは新鮮でした。
*体験菜園&コミュニティガーデン
事例のこれが最後になりますけれども、体験菜園&コミュニティガーデンということで、2021年にコロナのあと始めた活動になります。町田市の青少年施設で、月2回、子ども向けにやっています。ここもまちやまファームといっしょで耕作放棄地的な感じで、当初はただ草刈りだけがされている場所でした。でも南向きの斜面がありまして、もったいないなと思って、施設の人に2020年から、「何かここでやれたら、地域の人たちと共同共働して、たぶんいい活動できますよ」って、ずっと言っていたんです。なかなか1年くらい進まなかったんですが、21年にコロナの中でも、野外のイベントはけっこう出来るようになってきたので、じゃあ(菜園の活動を)やりましょうかという感じで、大人の人たちと開墾し始めて、2021年からは子ども向けの活動をスタートすることができました。2020年の10月か、だから2020年の秋からやりましょうとなったんですね。
これは草刈りをしている状態ですけれども、隣りの奥の方には、別の地主さんが綺麗に耕うん機で耕してやっている綺麗な畑があるんですが、こっちは耕うん機は入れずにやっています。刈払機は入れますけれども、耕うん機は掛けて(回して)いないので、いつも草ぼうぼうだったりするんですが、お隣の農家さんも、もうそれは見慣れたみたいで、あんまり文句は言われません、最近は。2020年の11月最初、空いている土地にまず、一畝と思ってつくり始めたのがこんな感じです。
ちょっと写真が粗くて申しわけないんですが、最初は何もなかった状態からですけれど、土づくり、畝づくり、植えたりというのも子どもたちといっしょに進めています、体験の場なのでね。これは今、麦が育っているところの後ろは草ぼうぼうなんですけれども、農家の農地ではないので、子どもたちが(写真の中で)やっているのは、たぶん農作業ではなくて、本当に遊んでいる、虫を探しているっていう感じです。目的が生産だけではないということで、あえて草を残したりとか、スペースを畝と畝の間をちょっと広く取ったりとか、そういうのをあえて、余白をデザインと書いていますけれども、そういうことも意識して場をつくっています。これは先ほどお見せした写真ですけれども、敷地内にすごく広い雑木林があるので、ここで本当に循環の姿を見せることが出来ています。ここで出来た腐葉土を畑に入れて、少しずつ出来がよくなっていくというのは、リピーターの子たちなんかは実体験出来ています。
*地域サポーターとの連携
あとは大人の力を本当に借りていまして、子どもたちだけの活動ではなかなか場が出来ていかないので、地域のサポーターの皆さん、具体的には団地に住んでいる市民の方たちで、土いじりしたいんだけれども、ベランダしかないという方たちだとか、あとは放課後のクラブに参加している子どもたちのお母さんたちなんかが、平日の午前中に月2回ですけれども来てくれて、皆で作業をしています。今、別に見返りを求めて来ている方はほとんどいないんですけれども、やっぱりお土産があると嬉しいということで、色々間引いたりとか、子どもの活動の日からだいぶ間がしばらくないときなんかは野菜の収穫をして、お土産に持って帰ってもらったりしています。
*体験菜園がコミュニティガーデンに
最初は特に意識せずに始めたんですけれども、やっているうちに、やっぱりいっしょに場所をつくっていっているので、個々としては場に愛着がわいてきます。場というのは、菜園だけじゃなくて、そこに集まる人も含めて場なんだなという感じですけれども、来ることがすごく楽しみっていうふうに言ってくれている方がたくさんいます。子どものための体験なんですけれども、サポーターの皆さん方も、毎回来るたびに色々な気づきがあったりとか、ただ作業をしているだけじゃなくて、私がサポーターの会でも講師的な立場で入っているということもあるんですけれども、大人の方たちもすごくたくさんの学びを得ているし、私自身も学びをすごく、さっきの腐葉土もそうですけれども、得て来ているなと。
そんなことをやっていると、自然とコミュニティが出来て、草ぼうぼうだけど、ここが大好きって、60過ぎの女性の方から1年前くらいに言われたんです。何かそれがすごく嬉しくって、大好きという言葉はすごく強いなと思って、60の方が目をキラキラさせて、ここが大好きって言ってくれたときは、やっていて良かったなとすごく思いました。その方は最初から来てくれていて、もう3年目になるんですけれども、今でも同じような目をして来てくださっています。
◆まとめ、将来展望
*サステナブルな状態とは
事例を紹介して来ましたけれども、ここから少し、最後の3分くらい、まとめになります。サステナブルな状態って、さっきの調和という話といっしょですけれども、本当にこれは人それぞれたぶん違うとは思います。自分なりに、まちやまを起ち上げてから、最近すごく強く思うのが、やっぱり土が大事だなということで、土がなければ、都心でコンクリートだけのところだと、本当に物を循環させることが難しいなというのを、すごく強く思っています。自分が町田の里山に今、ありがたいことに場所を得て、土とともにこうやって(活動して)いて、そこで実感したんですけれども、たまに都心に行くと、そことの違いで、やっぱり土がないと駄目だなあというのをすごく強く感じます。これは農作業をしていて降りて来たんですけれども「大地讃頌」(の歌詞)ですね。まさに小学校の頃に、自分が歌っていたのが30年ぶりくらいに降りて来たんですけれども、本当にこういう気持ちになったときがありまして、今ちょっと出してみました。本当に土って大事だなというのを、歳を追うごとに感じています。
*動的平衡
あとは、サステナブルというのでいくと、自分なりの気づきで、もう皆さんには常識かもしれないですけれども、サステナブルって聞くと、変わらないというようなイメージを自分はすごく強く思っていたんです。けれども、それは逆に不自然だなというところに、5年前くらいから何か色々考えていて、気づきがあって、そこで自分の中でパラダイムシフトというか、これを得てから見方が変わったんですね。ただ変えないで守るとここに書いたんですけれども、自然環境保全というのを、変えないで守るということではないんだろうなっていうふうに最近は思っています。間違いなく、変わっているので、表面上は変わってなくても、間違いなく動いてはいるので、その辺のイメージが昔に比べたら出来て来たかなと思うんです。
あとは時代に合わせてもちろん、変わっていっていいと思うし、自分が事業を通して、活用すること、使うことで、昔の里山もそうだと思うんですけれども、使うことでより良い環境になっていくということもきっとあるんだと思います。よく環境をやる人は人間が悪みないなことを思う人もいるんですけれども、そうじゃなくて、調和、共生を意識しながら上手く活用することできっと、人間も自然も両方幸せになるようなことってあるんだろうと思います。
*農の力、場の大切さ
まとめ、将来展望ということで、未来の子どもたちが今後も地球上で幸せに生き続けられるために大切なことは何だろうっていう、この問いはやっぱり5年くらい前から自分にけっこう投げ掛けていて、何が出来るかなと考えているんです。やっぱり農の持つ力、今回ご参加いただいているのは農だけじゃないと思うんですけれども、私は、農以外はあんまり関われていないので、ちょっと書かせてもらったんですが、すごく可能性は大きいなと本当に思います。
一方で環境に与える影響が大きいというのも、皆さんご存じかと思うんですけれども、自分が大事にしたいというか、自分の役割としては環境教育、良質な原体験、環境教育の場(を提供すること)、そこで自分がやれることがあるかなと思っています。(環境教育は)ただ教えるだけじゃなくて、実践をし続けることが大事で、実践できる場、自分だけじゃなくて、色んな人が実践できる場というのが必要なんだろうなと思っています。場がないと、やっぱり学びの気づきの機会がないと思うので、じゃあそのためにどんなこと出来るかなと。
自然共生・循環型の社会づくりに向けて、例えばですけれども、学校の屋上、学校だけじゃなくてもいいんです。ビルの屋上に菜園があるとかですね。都市の中でも何か土さえあれば、里山的な空間って出来ると思っていて、土があれば、そこで育てることも出来るし、物を育てないにしても、生ゴミをそこで堆肥をつくるとか、そうしたらやっぱり生産までやりたいですね。何か大きく広い農地でやろうと思うとなかなかできないけども、ちっちゃいけれども、何か資源がグルグル回っているような空間をたくさんつくっていきたいなと考えています。
学校、公園、自治体、企業所有の未利用地とか色々、例で書きましたけれども、ほかにも色々あると思います。そうやって場があることで、関われる人が増えて来れば、普通なかなか都心だと、都市に住んでいると、一消費者になってしまって、生産者になかなかなることは出来ないと思いますけれども、プチ生産者と書いてあるんですが、ちょっと関わるだけで、全然見方が変わってくると思うんですね。そこで学びや気づきもたくさんあると思うし、アクションも変わってくると思うので、最後に下に書いたんですけれども、日々の暮らしや楽しみと上手につなげながら土に触れる場、機会を増やしていきたいと。その小さな里山空間を、極端に言えばプランターでも小さな里山空間だと思っていまして、そこはただ毎回培養土を買って来て植えるんじゃなくて、上手にやればきっと(プランターの土も)循環はできると思うんで、そういうのを皆さんに知ってほしいなと、自分なりの環境教育としては、そういうところを力を入れてやっていきたいなと考えています。これで終わりかな。はい、時間は大丈夫でしたでしょうか。あまり意識をしないで、ちょっと伸びちゃいましたね。
*市村:はい、大丈夫です。
*塚原さん:以上でございます。ありがとうございました。
資料協力:一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン
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