FFPJオンライン講座第33回 編著者と語るシリーズ第4弾 「ほんとうのエコシステムってなに?漁業編 日本の漁業と魚の世界を知る」が2024年9月20日に開催されました。パネリストは二平章さん(FFPJ副代表、JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長)、川島卓さん(FFPJ常務理事)、田口さつきさん(農林中金総合研究所主任研究員)です。以下は講座の概要になります。
◯二平さん
はい、皆さん、こんばんは。FFPJの副代表ということの肩書きになっていますけども、私、漁業の世界では、小規模な沿岸漁業者の方々の団体を作って、そこの事務局長もしています。もともとはカツオの資源の研究者なんですが、茨城県の研究機関を退職してから、そういう沿岸漁業者の方々を応援するような活動なんかをしております。
今日は第3巻の本について、ちょっとお話をしたいというふうに思います。対談というような形で書いてありますけども、漁業の世界について本以外のことも含めて、少し知っていただくような形でご説明をしながら、色々な質問に答えていくような形にしたいというふうに思っています。
0. ほんとうのエコシステムってなに?漁業編の狙い
それではですね、編集の狙いとかそういうことはちょっとパワーポイントの方にも書いてありますので、そちらの方から入っていきたいと思います。皆さんにお配りしているやつは、パワーポイントのそのもののやつですので、あとでゆっくり見ていただければというふうに思います。それじゃパワーポイントの方をよろしくお願いします。
本のタイトルは「ほんとうのエコシステムってなに?」ということだったんですけど、このタイトルだけだと、どういう本なのか分かんないような方もおられたのかなと思いますけども、私の方の3巻の方は、漁業の世界と林業の世界ということで、前半が漁業の世界ということで編集をさせていただきました。
それでですね、この漁業編を編集するときに、どういうふうに編集しようかなというふうに最初思ったんですが、おそらく漁業とか海とか魚の世界って、あんまり知られていないのじゃないかなと思って、身近な関心事とか具体的な魚からちょっと近づいていただこうかなということで、編集させていただきました。今日は本ではあんまり十分伝えられなかったことも含めて、少しお話をしたいと思います。ちょっとたくさんあるので、作っていったら、たくさんになっちゃったんですけど、ちょっと急ぎますけど、よろしくお願いします。
1. 地球は水の惑星 海は水循環をつくりだし、地球上の動植物を支えている
前書きのところにちょっと書いたんですが本では。地球は水の惑星で、その海は水循環を作り出していって、海から蒸発した水蒸気が陸地に雨を降らして、その水がまた川や地下水になって、また海に戻っていく。こういう水の循環を作り出していくという、こういう機構が大きな機構としてあるということで、こういう機構の中で、陸上の動植物も支えるという、そういう水の循環が作られているということがあります。それで森とか海というのは、大気中の二酸化炭素を大量に吸収して、地球温暖化防止にも貢献をする、そういう役割も果たしているということを大きな視点では見ておいていただければと思います。
2. 魚のDHAは人間の健康を支えている
それでですね、魚のことでは「魚を食べると頭が良くなる」という、そういうことがあるんですが、このことはですね、イギリスの学者のマイケル・クロフォードという人が、『原動力』という本を書いて、そこのところでの、「日本人の子どもの知能指数が高いというのは、日本人が魚をたくさん食べてきた歴史的な食習慣に起因しているかもしれない」というようなことがその本の中で書かれたのが、非常にセンセーショナルなことで、日本でも特に有名になったんですが、それからDHAの研究が世界的にどんどん始まるということのきっかけになった本です。
で、DHAは人間の健康を支えているということなんだけれども、これは赤ちゃんの知能指数が劣る、低くなるということの効果を表したデータなんですが、やはりDHAをちゃんと妊婦の方は摂った方がいいですよという、こういうデータが出ています。 あと健康の方では、よく言われていますけれども、脳の血管障害の予防になるということが言われているので、ある程度、年齢が高くなった方々は、お魚を食べた方がいいですよということがよく言われていることです。
これも同じですけれども、脳の神経系の神経の突起が伸びて、情報が伝達していくということなんだけれども、DHAが不足すると物忘れになりやすいというような、こういうことも言われていると。ちょっと急ぎましょうね。ガンの抑制にも有効だということはいっぱい論文が出ているので、ガンの抑制にも効きますよということですね。
それでDHAはですね、1日1グラム程度、摂取した方がいいというふうに言われているので、なるべくここに書かれているようなくらい摂られるといいということですね。日本人は全年齢階層で、DHAは不足してますよというのが、このデータなんですが、やはりどの年齢でもですね、もう少しDHAを摂取した方がいいだろうということが言われています。
それで、DHA(ドコサヘキサエン酸)とかEPA(エイコサペンタエン酸)というのは、人体の人の体の中では作りにくくて、野菜や大豆からのα-リノレン酸というものから作ろうとすると、非常に効率が悪いんだけれども、魚にはそのまんま含まれているので、魚を直接食べて、体内に取り込むということの方が非常に能率がいいという、そういうものだということなんですね。ここのところはよく知っておいてほしいなと思います。
どうしてかと言うと、海の中の生態系がここにあるように植物プランクトンを動物プランクトンが食べて、小さい魚がそれを食べるという、こういう食物のピラミッドがあるんですが、α-リノレン酸というのは、植物プランクトンの中に含まれているので、海の中ではそれが、どんどんどんどんDHAに変わって、上の大きな魚に蓄積されている機構がきちんと作られているので、魚の中にはDHAがたくさん含まれているという形になっている。そういう海の生態系はDHAの生産工場になっているという、こういう機構があるということを知っていただければと思います。
3. 日本の海は水産資源の宝庫
それで日本の海は非常に水産資源の宝庫で、200海里内の海洋面積は、世界で第6位と非常に広い200海里水域を持っていて、日本の周りはたくさんの魚が集まっているところだということで、それには海流の影響だとか、複雑な海底地形とか、こういうものが関連をしているということがあります。で、かなりたくさんの多様な魚があって、非常に生物多様性が高い海だということが言われています。世界三大漁場の1つになっているということですね。
4. でも日本人の魚消費量は減少し続けている
でも日本人の魚の消費量は非常に減少し続けていて、昔は魚食の民だというふうに言われていたんですけれども、今は圧倒的に肉類の方をたくさん食べるような、そういう国民になってきてしまっているということですね。
それで魚消費の落ち込み要因としては、色んなことが指摘されていますけれども、やはりライフスタイルが変わって行っているということ。共稼ぎだとか単身世帯だとか、そういう中で、家庭での調理時間が減少していくとか、簡便化みたいなことが進んできて、その中でそこの下にあるような4つの力(食選力、調理力、食事マナー力、伝統・郷土料理の伝承力)がどんどん劣化をしていることが日本の社会では起こっているというふうに言われています。
5. 魚の資源変動にある2つの側面 自然変動と人間活動による乱獲
次はちょっと話が変わりますけれども、魚の資源の変動っていうような、どうやって魚が増えたり減ったりしているのかと言うと、最近よく書かれているのに、なんか漁業者が獲りすぎるから魚が減ったみたいな話が非常に多く言われているんですが、これは2800年間にわたって、マイワシとカタクチイワシというイワシ類ですけれども、どんなふうに変動してきたかということを、海底に積もったウロコの量から解析をしたデータなんですが、人間が漁業活動をやる前から、こんなふうにイワシの資源というのは増えたり減ったり、人間の活動に関係なく増えたり減ったりしているんですね。これはイワシの例ですけれども、そういう意味では自然変動、自然に人間が関与しなくても、魚というのは増えたり減ったりするという、その中に10数年の周期性とか100年規模の周期性がみられたりもするという、こういうことがあるということをちょっと知っていただければと思います。これは、おそらく気候変動、こういうようなスケールで起きる気候変動と関係をして、魚の資源が変動をしているということがあるだろうということが色々な研究で言われています。もちろん、獲りすぎで減るという事例もありますけれども、それだけで魚というのは変動するんじゃないということを、ちょっと知っていただければと思います。
6. 水産資源の持続的利用のために
で、水産資源というのは、農業と違って、種を蒔いて育てて収穫するというような、そういうものじゃなくて、自然に海の中で増えたり減ったりしながら、それを人間が獲って行くということなんだけども、さっき言ったような自然変動のメカニズムを壊さないで、増えたときには獲って、減ったときには少し漁獲を控えるとか、普段からあまり魚をいじめないで、ちゃんと卵を産めるようにしてあげるとか、それからあまり小さな魚を獲りすぎないで、ちゃんと大きく育ててあげるとか、そういうようなことを、やっぱりやって行くということの大切さということが言われて、実際、漁業の中でもこういうことが、色んなルールを決められてやっています。
漁業を管理するやり方には、あんまり聞いたことがないでしょうけれども、入口規制とか、出口規制という言葉があって、船の数を調節したり、船の規模を調節したり、禁漁期間を作って操業期間をコントロールしたり、漁具の大きさを制限したりとか、こういうような形で、獲る前の入口の規制でコントロールするということと、出口規制といって、獲るときにですね、総漁獲量を決定して、それ以上は獲っちゃいけませんということを数字として決めてしまって、コントロールするという出口規制という、最近、日本の中でもやられているのが、総漁獲量規制ということで、TAC制度と言いますけれども、漁獲量を決めて、それ以上は獲っちゃいけないということを前もって決めて、コントロールするという、こういう2つの漁業管理方式があるということです。
7. 小規模家族漁業経営体が9割
日本の漁業というのは、漁業と一概に言っても、小規模な漁業から大規模な資本漁業まで多様で、ありますけど、小規模な漁業者、あとからも触れますけれども、そういう漁業の方が圧倒的に多くて9割。世界でもそうですけども、日本では圧倒的に小さな漁業が多いという、そういう構成になっています。
これがよく見られることもあるかも分かんないんですけども、沿岸漁業ということで、多様な魚を多様な漁法で獲って、親子で乗ったり、兄弟で乗ったり、1人で乗ったりするという中で、色んな小さな船で、10トン未満の船で操業するのが沿岸漁業です。
これは沖合漁業で、イワシとかサバとか、そういうような魚を網で獲る漁業ですけれども、多獲性大衆魚と言われるような、そういう魚を大きな網で、何十トン、あるときは100トン、200トン規模で網で獲ってくるという、そういう漁業ですね。これは100トンくらいの船が多いですかね。遠洋漁業はもっと大きい船で、1千トン級の船もありますけれども、1か月とか、マグロはえ縄だと1年くらい帰って来ないような船もありますけれども、どちらかというと、マグロとかカツオとかを遠いインド洋とか大西洋とかに行って、獲るようなそういう船です。
それで、規模別、その漁業種別に経営体数を見ると、これはちょっと古い統計なんですけど、最近、また新しい統計が5年ぶりに出たので、少し数字が変わっていますけれども、ちょっと見ていただければ分かるように、10トン未満の小型の漁業、それから海の近くでやる海面の養殖業を含めて、そういう小規模な家族漁業というのが、94%を占めて、圧倒的多数の経営体はこの小規模な沿岸漁業の経営体だと。それで中小漁業とか大規模漁業というのは6%とか0.1%、こういうような構成になっているということをちょっと知っていただければと思います。そして沿岸漁業の方のこの小規模漁業ですと、この25年間で半分以下に経営体数が減っている。急激に、農業も減っていますけど、漁業も非常に減ったという形になっています。
8. 水域環境破壊と水産資源の危機
それで漁業の中では水産資源のことを考えるとですね、ここに書いてあるような埋め立てとか河口堰で汽水域をなくすとか、ダムを作って魚が上流へ上がれなくなるとかですね、あとからちょっとお話しますけれども、海や川や湖がプラスチックで汚染されているとか、こういうようなことが水産資源にとっては、マイナス要因になっているということがあります。
これは具体的な例ですけれども、東京湾の埋め立てがこういう形で進んで、高度成長期から、どんどんどんどん埋め立てられて、それに合わせて、そこにあるアサリ、ハマグリという二枚貝はずーっと減ってしまったということがあります。
これは河口堰で霞ヶ浦、北浦という汽水域だったところが淡水化されて行って、そこの水が行き来しなくなって来るというんですかね、海の水が入らなくなってくるということで遮断をされて、これは利根川の事例で、ほかのところでもありますけれども、汽水域が淡水化されてしまうということがあります。
こういうことで遮断されるとどうなるかと言うと、今、ウナギ、ウナギってやってますけども、こんなにですね、霞ヶ浦、利根川水系のウナギっていうのは非常にたくさん獲れた産地だったんですけども、激減してほとんど今、獲れなくなっているという、こういうことが起こっています。こういうことが漁獲量を減少させているし、漁民を少なくさせてしまっていると、そういうような、シジミなんかも同じような現象があります。
それでプラスチックの問題ですが、本の中にも書いてありますけれども、プラスチックというのは非常に便利な素材なんですけれども、使い終わったあと、どうなっているかと言うと、結局はですね、海に流れ出してきて、そして細かくなって5ミリ以下、もっと小さなマイクロプラスチックになって海を漂うという、こういうような存在になってきて、最近、この問題が国際的にも注目をされてきて、これを減らさなくちゃいけないという議論が起こっていますけれども、なかなか大変な問題になって、魚を含めて、いろんな海洋生物がプラスチックを、pと書いてあるのは、プラスチックのことなんですが、プラスチックを餌と間違えて食べてしまって、そういうことからプラスチックを飲み込むことによって、毒性が体の中に回るみたいなことがあって、生物に悪い影響を与えているというようなことが明らかになってきています。
そこに書いてありますけども、プラスチックには有害な化学物質が含まれているし、プラスチックは海の中に入るとですね、ポリ塩化ビフェニールみたいな、そういうようなものを吸着してくるので、プラスチックそのものだけじゃなくて、プラスチックに吸着をして、それを例えば魚が飲み込んだら、魚でも動物でもそうですけれども、そういうものが体の中に入って、体内に吸収されていくということの汚染をされると。で、最終的にですね、シーフードがそういうことになれば、人間にも害を及ぼす可能性があるということが、次第に明らかになって来ています。そこに図がありますけれども、これは磯辺先生という九州大学の先生の作られた図ですけども、ちょうど日本の東を沖合のあたりが、ここら辺にどんどん漂う収束域みたいなのがあって、これがどんどんどんどん増えていくという、そういう形になるでしょうということが言われます。
9. 漁民が守る海の環境・国境・人のいのち・地域・漁村文化
それで、ここのところはあとで田口さんにお話ししてもらいますけども、漁業者が居るっていうことで、単なる魚を獲ることだけじゃなくって、漁民が居ることによって、様々ないいことって言うんですかね、色んな役割が果たされているという、そういうことがあるんだよということを知っていただければ。あとでまた、田口さんにここのところをお話いただければと思います。
10. 日本の漁業の問題点
で、日本の漁業政策の問題ですけれども、皆さん、あまり聞くことがないかも分かんないんですけれども、戦後の漁業法っていうのが、2018年に改悪をされました。これが安倍政権の下で、新自由主義政策の下でですね、規制改革路線の中で、企業を優先する政策としてやられていくわけです。
企業の障害になるような規制はどんどんなくしていくという、農業でもそういうことでやられましたけども、その中で新しい漁業法が出来て、今ちょうど、その漁業法の中で、どんどん漁業界の中で色々なことが起こっているんですけれども、そこに書いているように、海の議会と言われた、漁業調整委員会の委員が、公選制から知事の任命制に変わるとかですね、養殖とか定置網の漁業権免許が、これまでは地元の漁業者、漁協とか、そういうところが優先的に免許がもらえたんですけれども、これからは知事が県外企業へ直接、免許が可能になるというようなことに変えられてしまって、だんだんと、戦前の不在地主みたいな制度になって来ますから、資本さえあれば、東京の資本がですね、岩手県の免許を持って、岩手で操業して、利益は東京へ持っていくという、そういうようなことが可能になってくるというようなことになりますし、それから沖合漁業では、漁船の規模の制限が今まであったんですが、それを撤廃して、大型化を容認するという、そうするとやっぱり、魚を獲る能力は高くなりますので、乱獲の不安が起きてくるとかですね。それから、先ほどちょっと触れましたけれども、漁獲量規制なんですけども、釣りとか、はえ縄漁業とか、資源に優しいような漁業をやっている小規模の沿岸漁業にまでですね、総漁獲量規制で、年間に何トンまでしか獲っちゃいけませんという規制を掛けるという、そして罰則まで決めてやるということで、具体例としては今、クロマグロなんかでは、小規模漁業者は非常に経営が困難になってくるという、こういうことが起こっています。
詳しいことは今日、皆さんに配布をさせていただいた文献の方にはちょっと難しく書いてありますけれども、そこはあとで読んでいただければと、ここら辺は分かっていただけるかなというふうに思います。
11. 持続可能な漁業をめざす国連の提起
それで、漁業の世界でも持続可能な漁業を末永く続けられるようにするためにということで、SDGsの目標14で、「海の豊かさを守ろう」ということが出されていますけれども、農業の世界でも国連の家族農業の10年のお話があったと思いますけれども、この家族農業のカテゴリーの中には、漁業も含まれていて、国連が言う家族農業というカテゴリーには、漁業のことも書いてあってですね、この経営体の9割、農業もそうですけれども、漁業の中でも小規模な経営体が9割を占めていて、国連は持続可能な社会を作る力になるのは、こういうような小規模な家族農業とか、小規模漁業。こういう経営体をしっかりと支えていくということが、持続可能な社会を作る力になるんだよということを、やはりこの中でも漁業についても言っています。
2022年に国際小規模漁業年というのがありましたけれども、小規模な伝統漁業とか養殖業への、これの発展を支援するということをやらなくちゃいけないということを宣言をして、そういうような運動をしましょうということだったんで、日本では水産庁はまったくこのことは取り組まないし、1つも日本のメディアでもほとんど報道されないまま過ぎてしまったということがあります。
日本の漁業政策を考えるときに、これは1996年にEUを訪問したときがあるんですが、調査団で。そのときにですね、EUの共通農業政策とか漁業政策の中に、この3つがきちんと位置づいていて、ちょっとびっくりしたんですが、日本ではちょっと考えられないなと思ったんですが、食料の安全保障をきちっとする。持続的な発展の保障をする、特に所得保障とか価格保障をしっかりするんだということ。それから環境をきちんと保全するんだと。こういう3つを掲げた政策があるということをEUの方々から聞いて、大変、驚きました。あの時代にこういうことを既に言って、政策に反映させていたと。まったく日本の水産政策の中で欠落していることが、ヨーロッパ社会の中では実際に政策に取り組まれているということがあったので。やはりこういうことをですね、これから日本の漁業政策の中でも位置づけないといけないんじゃないかなということは常日頃思っています。
で、まあ日本漁業はどんどん経営体が減っていますけれども、やはり国連が提唱するような政策って言うんですか、漁業政策っていうものを、きちんと日本の中に位置づけないといかんだろうなというふうに思っています。それでやはり9割を超える小規模漁業の経営安定をするということが、離島だとか交通不便な地域のところで、営んでいるような小規模な漁業をしっかりと支えていく。そして後継者を育成していくというようなことがやはり一番、大事なんじゃないかなというふうに常日頃、思っています。
身近な取り組みとして、私、こんなこともやっています。写真を見ていただければ、何をやっているか分かると思うんですが、調理力が落ちているということなので、一生懸命、地元では魚の料理の先生をしたりしています。
これは漁業者と市民の皆さんが、本当に美味しい魚料理を囲んで、魚の料理の良さとか、漁業を知っていただくような、そういうような活動をずっとやっています。それが基で、魚食普及の市の条例なんかが制定されて、商工会議所さんだとか、市役所さんを含めて、皆で今、活動をしているという、こういうようなことをやる中で、漁業の大切さを知ってもらおうというようなことをやっています。
はい、これで終わりだと思いますね。これは付録なので、質問があればあとでやりますけれども、はい、以上です、ちょっと簡単にやりましたけども。
それじゃ、ここでですね。農文協の出版の編集をやられた阿部さんに少し、お話をしていただきたいと思います。
○阿部さん(農文協)
農文協の阿部と申します。貴重な時間をいただき、ありがとうございます。実はこのシリーズの第3回まで毎回お時間をいただいてまして、毎回、出席してる方は、またかと思われるかもしれません。第3巻の漁業分野は二平先生が中心になって、農文協では田口均が編集を担当しておりまして、彼が本来、話すべきところなんですけれども、ちょっと今、体調を崩しておりまして、私が代役を務めさせていただきます。
「テーマで探究」シリーズ全体に対する農文協の思いについては、3回までで大体お話しましたので、今回は3巻の中の漁業の部分にだけ絞って、お話したいと思います。農文協は「農山漁村文化協会」というのが正式名称なんですが、そう言いながら、「漁村」の部分は非常に弱くて、ほとんど本を出してなかったというのが実情です。という話をこの前、この研究会の打ち合わせで話しましたら、ゲストの川島さんから、「いや、農文協はいい本を出してたよ」と教えていただきました。たしかに『魚よなぜ高い』という本を1979年に出しておりまして、その前に『魚の高値のしくみ』というタイトルで映画も作っていまして、これを単行本化したものです。
農文協はこの頃、肉とか野菜とか魚の流通にかかわる自主製作映画を立て続けに出して、無料で貸していました。『魚の高値のしくみ』は、魚の市場がマグロを中心とした高級魚にどんどん傾斜していく中で、サンマとかサバとかイワシとか、そういう大衆魚は迂回生産の道具すなわち餌にされたりとか、それから買い叩かれたりとか、そういうことを卸売市場の関係者の方や、漁業関係者の方への取材を基に作った映画です。それを単行本化した『魚よなぜ高い』を読み返してみると、価格だけでなく資源や環境を含めて、今に通じる問題を指摘していたかと思います。
ただそのあとは、魚食の本とか、そういうのはポツポツ出していたんですけれども、漁業からずっと遠ざかっていまして、もう一度、地域と漁業の関係を思い出させていただいたきっかけというのは、やはり2011年の東日本大震災ですね。『季刊地域』という雑誌がありまして、私もその一員として、2011年の4月末くらいから、フリーライターの方と手分けをしながら取材に入ったんですが、一番、印象的だったのは岩手県の宮古市の重茂地区というところです。地図で見ますと、本州の一番東端に雫というかダイアモンドみたいな形で半島が飛び出しているところ。この地区は人口1700人くらいですが、12も漁港があって、それぞれに重茂漁協の支部がある。そこがまた、震災のあと1週間くらい外からモノが入ってこなかったけれども、自分たちのところは食べるに困らなかったよっておっしゃったんですね。つまり、米はそれぞれの家にストックがあり、それを分け合っていたと。それと冷食工場がありまして、そこにサケとかサンマとかメカブとかがたっぷり貯蔵してあったので、それを分けてしのいだということです。そのあとの復興も早かったんです。
三陸を取材してみると、実に漁業集落っていうのはたくさんあり、またそれぞれの集落に生きている方々の底力を感じました。先ほどの二平先生のスライドの中でも、日本では5キロに1つ、漁業集落がある。田口さつきさんの文章の中にもあったかと思うんですけども、漁港は9キロに1つくらいある。そういうところにそれぞれの暮らしがあって、民俗研究家の結城登美雄さんは「年金船」なんて言い方をしていますが、年金をもらいながら、小さな船で沖に出てって、そこで得られたものをプラスアルファの収入にしている。そういう形の小さな漁家がたくさんいらっしゃるということを改めて実感したところです。
そういう中で、震災直後に宮城県知事が水産復興特区というショックドクトリン的な構想をぶち上げたりして、それが先ほど二平先生がおっしゃっていた、漁業法の改悪にその後つながっていったのではないかと思うんですが、『季刊地域』では、そういう小さな漁業をつぶす動きに対して声をあげなければならないと考え、漁師さんたち、小さな漁協の方とかそういう方たちといっしょに記事を作っていったという経緯があります。そんなことがありまして、今回、「テーマで探究」シリーズの中に漁業がしっかりと位置づき、その企画に参加させていただいたことは、われわれにとっても本当に良かったと思っています。
ここまでの研究会の中では、自分たちの暮らしがいかに農業とか林業とか漁業と遠くなっているかということが指摘されてきたと思います。たしかに今でも目の前に食べ物はあるんですけれども、それと背後にある農業生産・漁業生産というのが切れている。そういう話が、何回か出されてきたと思います。前回の研究会の終わりでも、川島さんが蒲鉾の話でしたたかね、原料が何か分からないという話をしておられましたけれども、きな粉だってそうですよね。それは、さっき二平先生がおっしゃった「劣化した4つの力」とかかわっている。調理から離れるということは、それを通して背後にある生産を見る力も弱める。実はそういう「切り身の生活」というか、物事の全体像が見えない生活が私たちのあらゆる分野にわたっているのではないかとに思っております。やっぱり「生身の体験」がまずあって、それと同時に、本当に自分事として、生活とつなげて物事を深く問うていくということは、子どもたちもだけでなく我々大人にとっても大事なことかなと思っております。その意味で、今回の「テーマで探究」シリーズ、この第3巻の漁業分野も非常に反響があるんですけれども、本当にそういう仕事に携わらせていただいて、ありがたかったなと思ってます。以上です。ありがとうございました。
○二平さん
それじゃあですね、川島さんに、まったく僕は触れなかった流通の話を中心とした話をちょっとお願いしたいと思います。
○川島さん
川島と申します。よろしくお願いします。本の執筆にあたってですね、二平さんの方から「海から食卓へ 変わる水産物の流通」というテーマをいただきました。そこで変わらない例として卸売市場について、それから変わる例として回転寿司の仕組みについて書きました。期せずして、どちらの話題も2巻の「サスティナビリティ―ってなに」の中で、著名な先生も取り上げられておられましたので、そちらの内容も紹介しながら話を進めて行きたいと思います。よろしくお願いいたします。
*市場流通の仕組み
まず、水産物の一般的な流通を説明します、おさらいになるかと思うんですけども。日本近海で水揚げされた魚の多くは、まず産地市場で取引されます。魚を買い取った産地市場の仲卸業者は、消費地市場、例えば東京で言えば豊洲市場に向けて出荷します。豊洲市場などで取引の終わった魚は仲卸業者の店頭とか配送センターへ運ばれて、魚屋さんやスーパー、料理店などに販売される、これが日本国内の魚の大まかな流れになります。ところで下の図の青果物の流通と比較して、何で水産物だけ産地市場を介して流通するのかという疑問を持たれるかもしれません。それは水産物の場合、色々な種類が、色々なサイズ、色々な状態で、しかもそれが混ざって獲れるという特性があるからです。
*生鮮消費向けに出荷される割合
産地市場で魚を買い取った業者は、いったん自社の加工場なんかに持ち帰り、形の大小や鮮度の良し悪しなどから選別します。それで消費地へは鮮魚消費に向いた魚だけが送られることになります。これは農水省が最近発表した32の漁港の19品目を合計した用途別の出荷割合です。そのまま鮮魚消費向けに出荷される割合は、このオレンジの部分ですけれども4分の1くらいしかありません。いかに産地市場が一次仕分けを行なう上で重要な役割を果たしているかが分かると思います。実際には色々な流通のパターンがあって、例えば大間のマグロなんかは産地では価格を決めないで、消費地の市場のセリに掛けて価格を決めたりしますし、あるいは青果物でも青森のリンゴの多くは水産物のように産地市場を介して流通しています。
*中央卸売市場ができた経緯
次になぜ、こういった卸売市場制度が出来たのかという話をします。よく、先ほども出ていましたけれども、産地と消費地が遠くなったとか見えづらくなったというお話を聞きます。でも実は昔はもっと見えなかったと思います。中央卸売市場ができたのは昭和2年の京都市場が最初ですけども、当時は農村から都市への人口移動というのが非常に起きていて、膨れかえる都市住民に食料をどう供給するかというインフラ整備が非常に遅れていました。当時の流通と言えば、買い占めや売り惜しみ、また産地に対してはタダ同然で仕切っておきながら、消費地では高く売りつけるという行為が横行していたと言われています。
明治の終わり頃にそれはちょっと是正しようという動きが幾度かありました。中でも大正元年に政府諮問機関である生産調査会というのがあるんですが、渋沢栄一が副会長をやっていて、そこが答申した「魚市場法案」というのがあります。社会政策上の見地から、荷を一か所に集めて、監督された下で取引するという、今の卸売市場制度の根幹をなすようなものです。ですが、このときは上程されることなく葬られてしまいます。
ところが、大正7年に富山県の魚津で米騒動が起こって、これが全国に波及して当時の内閣が総辞職に追い込まれるとか、その前年にはロシア革命が起きるといった緊迫した社会情勢の中で、紆余曲折があって、やがて魚市場法案を骨子にして、青果物も加えた形で中央卸売市場法っていうのが成立します。それが大正12年で、その後、何度か改訂されて、今の卸売市場制度につながっています。ちなみにこの制度は日本独自のものですけども、以前、日本が統治していた韓国や台湾にも同じような制度が残っています。
*回転寿司のネタはどこからやってくる
話題を回転寿司に移します。回転寿司が誕生したのは昭和33年。当時は旋回式食事台と言うんですけども、そういう提供方法に始まり、そのあと色々と皆さんがご存じのようなイノベーションを起こして寿司の大衆化を実現しました。これは、第2巻で岩佐和幸先生がご執筆の中で使用された図で、大変な図なんですけども、回転寿司大手4社のネタの原産地を示しています。大手4社とはスシロー、くら、かっぱ、はま寿司のことを言いますけども、岩佐先生はここで、「ネタは世界の隅々から集められていて、日本以外の49の国・地域に上り、寿司は和食でありながら、グローバルな食べ物の一つに変わってきた」とおっしゃっています。
*従来の寿司店と大手回転寿司の調達方法の違い
問題は回転寿司が繁栄する裏側で、そのネタになれる魚となれない魚とが分かれて来たことです。回転寿司の定番と言えば、サーモン、マグロを筆頭にブリ、イカ、アジ、タイ、ホタテ貝という感じで、どれも大量に漁獲、あるいは大量に養殖、あるいは冷凍するなどして、品質が安定していて、急激な注文の増加にも耐えられる種類です。この図は従来の寿司店と大手回転寿司のネタの調達経路の違いを示しています。従来の寿司店は左側の方なんですけども、卸売市場経由がほとんどですけども、回転寿司の場合、この黄色い方で、加工工程を一括して行ない、店での作業の簡素化、平準化を図ることで、全国至るところで同じ味を提供することを可能にしました。反面、この経路だと、量的にまとまらない魚、規格が揃わない魚、処理に職人の技を要するような、いわゆる沿岸の地魚は、利用されなくなります。
*最も効率的・合理的な流通経路はどれでしょう?
さて、この図は第2巻で矢野泉先生が使用した青果物の流通経路の図です。Aは消費者への直売、Bはスーパーなどが行なう産直、Cは農協が出荷する市場流通です。「最も効率的・合理的な流通経路はどれでしょう?」の問いに対して、矢野先生はずばりケースバイケースだとおっしゃっています。せっかくなので、この図をお借りして少しお話します。
まずA。住まいの近くに農家さんがいれば、Aに優る経路はありません。街なかでも都市農業が盛んなところなら顔が見える関係が出来て、価格も両者の合意で決めることができます。けれどもAの経路だけで食材すべて揃えることは出来ないと思います。
次にBの産直。流通革命と言われて、これが一番だと信じている人が割合多いと思うんですけども、じゃあ、例えば産直がお家芸のイメージがある生活協同組合。その生協の取り扱いの内、産直の割合はどれくらいあるかというのを産直比率と言いますけども、今年の2月、全国の生協を束ねる日本生協連は、水産品の産直比率が今までの調査の中で最高になったと発表しました。どれくらいの比率だと思いますか、過去最高って。答えは一桁台、わずか9.2%です。ちなみに青果物は少し多くて31.8%で、どちらも生鮮食品の調達方法としては主流ではありません。ただし生協の産直の場合には、作り手が分かるとか、作り方が分かるとか、交流できるという点に意義を見出しているので、単に直接買えばいいということではないのかなというふうに思います。
いずれにしても生協もスーパーも、特に国内産の青果物とか水産物の多くをCのような流通経路に依存しています。ではなぜBの産直に向かって行かないのかという話をします。
*卸売市場による商・物流の合理化
これは、マーガレット・ホールの「取引総数極小化の原理」と書いてあるとおりなんですが、その原理と呼ばれるものに卸売市場を当てはめてみたものです。産地を3か所、小売を4者想定したとき、左側のように産地と小売が直接取引する場合、取引回数、または運送回数は全部で12回必要になります。この線の本数がその回数です。1つの産地から見れば線が4本で4回、1つの小売から見れば線が3本で3回必要になります。
次に右の方を見てください。ここに卸売市場が介在すると、取引回数、あるいは運送回数は全部で7回になります。さらに1つの産地から見ても小売から見ても、卸売市場一箇所にアクセスすれば事が足ります。運送回数が減るということは、トラック1台当たりの積載効率が上がる、たくさん積めるわけですね。走行距離の合計も減少するということで、昨今課題となっているドライバー不足や長時間労働、CO2排出量など、諸課題が緩和されるという利点も生まれます。1つの取引だけを見ていると、直接やった方がいいように思えますが、生鮮食料品は全国津々浦々から集める必要があります。全体最適という点からは中間拠点を設けた方がはるかに効率的かつ合理的で、トータルの費用も下がることを説明した理論です。
ただ、結論っぽいことを言うと、矢野先生がケースバイケースと仰っているように、どれか1つではなくて、色々な流通パターンがあって切磋琢磨し、補完したりするのが健全な姿だというふうに思います。
*決定方法に伴う価格変動の大小
最後に、適正価格とは何かという話をします。今、農水省では農産物の「適正な価格形成に関する協議会」を設置して、議論が続けられています。実は価格の決め方というのは色々あって、ここに挙げた以外にもまだあります。代表的な取引方法として、上からまずセリ・入札取引。ヤフオクなどもあるので馴染みがあると思います。セリというのは価格を拠り所にして、同時に買い手を決めるという特徴を持っています。価格の変動幅は大きいです。次に相対取引は、いわゆる一般の商売で、売り手と買い手が対峙して交渉する方法です。卸売市場でも今は相対が中心になっています。一段飛ばして、費用加算。最近行われている議論の中心はこれです。掛かった費用を積み上げて価格を決めるので、これが一番適正だという気もするんですけど、これだと価格が固定化されるという問題が出てきます。
どういうことかと言うと、青果物も水産物も、注文を受けて、必要な量だけ生産しているのならいいんですけど、あくまで見込み生産なので、供給量と需要量がピッタリ合うことはまずありません。で、供給量が多すぎるとどうするかというと、卸売市場のようなマーケットでは、価格を下げて需要を拡大させて、売りさばくということをします。そうすることで売れ残りをなくす、言い換えれば食品ロスを防いでいるとも言えます。反対に足りなくなりそうなときはどうするか。価格を上げて、需要を縮小させて、高くても欲しいという人だけに売ります。もし価格が固定化されると、世間の相場が2倍、3倍に上がっていても、自分のところだけは上がらないという問題も出てきます。
つまり供給量に応じて、即座に価格を上下させて、需給をマッチングさせるのがマーケットの仕組みです。不確実性が高く備蓄できない生鮮食品には柔軟性がある仕組みが必要だと私は思います。このことはよく例に出されるフランスのように、ごく少数の大手が流通を独占していて、マーケットが機能していない状態。そこで取引の契約を厳格化しようと言うのとはちょっと話が違うかなと思いますが、どうでしょうか。それでは生産者の生活が安定しないよということであれば、それは価格の問題と切り離して考えた方がいいんじゃないかなというのが私の意見です。
以上、駆け足でお話しましたが、流通の問題というのは答えが1つではないので、皆さまが考えるときにヒントにしていただけば幸いと思います。ありがとうございました。
○二平さん
ありがとうございました。もしご質問がある方は、あとの全部終わってから、また質問をしていただければと思います。それじゃですね、続いて、田口さんに、漁業の色々な、多面的な効用って言うんですかね、そういう部分について、少しお話をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○田口さん
皆さん、こんばんは。田口と申します。どうぞよろしくお願いします。
「漁民が守る海、環境」ということで、お話させていただきたいと思います。まず最初に、漁業全体について、紹介させていただきます。
*幅広い年代で魚介類の摂取量が減少
二平先生も先ほどお話されましたけれども、皆さんが漁業と言うときに、一番、身近なのはやはり食卓だと思うんですね。魚介類ですが、どんどん馴染みのない食べ物になって来ているというのを、この表で表しました。どの年代の方でも、魚介類の摂取量が、減少しております。その一方で、肉類の摂取量が増加しているような状況になっています。
*漁業といってもいろいろ
さらに皆さんにとって遠いのが、水産現場だというふうに思います。漁業は色々ということなんですけど、2つの漁業をちょっと挙げてみました。1つが巻き網漁業と言われる大規模な漁業なんですけれども、これは絵で表しているんですが、たぶん上空から見ないと、何をやっているか分からない漁業だと思います。魚群がいて、その周りを船で網をぐるっと囲んでですね、獲るというような漁業となっていて、とても大規模な漁業で、私自身、実際には見たことがありません。
その一方、右側なんですけれども、こちらはヒジキ漁になっています。このようにですね、山菜採りにも見えるかもしれませんけど、大潮および大潮の前後の日の、潮の引いたときに、皆さんが海に出て、それでヒジキを刈っている状況になっています。このときに地面というか、そもそもは海水が引いた場所ですから、海藻が生えていて、とてもツルツルしています。それで岩場にもなっていますので、ここでですね、ヒジキを運ぶ際にカゴに背負って歩くんですけれども、転びそうになって、本当に大変な漁業です。それで潮がまた満ちてくる前に終わらなければいけないということで、時間との闘いでもあります。年に3月と4月の時期、限られた日を使ってやります。
*埋立、治水工事などにより、沿岸環境は大きく変化
そして、生産現場を支える生産環境なんですけれども、先ほども二平先生がおっしゃったように、埋立だったり、治水工事だったりということで、大きく変化しました。コンクリートが直立護岸としてそびえ立つみたいな状況になってきて、どんどんですね、沿岸が変わってきています。そしてその中でも、細々ですけれども、漁業というのはつながっています。
写真で見ておりますのは、淀川の河口域で、シジミ漁をやっている漁業者です。この漁業者も潮が引いたときに、鋤簾(じょれん)という漁具を使って、その鋤簾を川底に立てて、それで後ろに歩いてシジミを採捕している、そんな写真になっています。
*宝の海を守り続け、次世代へ譲り渡そう
次に行きたいと思います。残された水域というのを漁業者は大事に守っています。左の写真ですけれども、これは滋賀県の瀬田川、セタシジミの産地として有名な場所だったんです。この写真は、外来の水草を刈って、環境を整えようとして努力されている姿です。
それから右なんですけれども、長良川の河口堰で大きな議論が沸いた場所に、赤須賀漁協さんという漁協があります。そこが桑名のハマグリで有名な場所ですから、それを次世代に残したいという思いで、漁協の組合長をはじめ、皆さんがハマグリの稚貝を自分たちで育て、それをまた人工で作った干潟に蒔いていくという地道な取り組みをして、ハマグリを次世代に残していく。もちろんハマグリが育つ環境というのも大事にしている。そういうお話があります。
*漁民についての言葉
ちょっと話は変わりますけれども、漁業者についての言葉がありますので、いくつか紹介させていただきます。「板子一枚下は地獄」という言葉あります。この板子というのはですね、昔の船の底のことを言います。そして底の下というのは海ですから、この海に流されたらもう生きていけないという、海で働くことの厳しさを表しています。
次に江戸時代から言われているのが「磯は地付、沖は入会」ということで、磯といいますと、陸地に続く海面、浅場みたいなところは、その漁村で資源管理など、自分たちで取り決めをして守ってくださいというような考え方です。この考え方が漁業法の根幹にあるというふうに私は思っています。
それから漁業者が、各地の漁業者が言っている言葉なんですけれども、「海のおこぼれを頂戴する」。これは海の中のほんの一部をいただく感謝の気持ちというのも、表されているように私は思っています。
その次が、「梅の木漁師に楠商人」ということで、漁業者というのは、獲れたときは水揚げなんかが活気があって賑わうんですけれども、ちょっと獲れないときは、やはり活気がなくなってしまう。変動の大きい生活で、その中でやりくりしなければいけない。一方、楠商人というのは、華やかさはないけれども、着実に生活の基盤を整えているということで、この言葉を積極的に受け止めた千葉県の漁協の職員さんが、組合員の生活改善のために、色々、海を牧場として考えようみたいな努力をされて来ました。
それからもう1つ、「森は海の恋人」という言葉があるんですけれども、こちらはですね、畠山さんという漁業者の方が、森を作ることで海の豊かさを守るというようなスローガンとして、よく言っている言葉です。
*漁業者間のネットワーク
漁業者に関してですが、皆さんが話し合って、自分たちの鮮度管理だったり、あるいは資源管理だったりというようなことを研究するんですが、その研究成果を発表する機会があります。そして漁業者間でこのようなですね、交流をすることを過去の水産行政は積極的に推進して来ました。現在はそこら辺がちょっと弱くなっているなというふうに私は感じています。その中でもですね、漁業者は自分たちでじゃあ自主的に勉強をしようというような動きもあります。右の写真の例は、淀川の河口域に関して、淀川の上流の京都側の漁業者と、それから河口域の大阪市漁協さんが年に1回、ヤマトシジミであったり、冬のアユの仔稚魚の状況なんかを話す勉強会があります。
最後に、漁村の文化ということで、お祭りであったり、食文化というようなことも大事で、たくさん紹介されています。ただ、その根幹には何があるのか、ということなんですけれども、やはり日常の助け合いというのがあるかと思います。先ほどのヒジキ漁なんですけれども、こちらのカゴにたくさんヒジキがあるんですが、それをですね、背負って立ち上がるのが大変なので、ほかの人が手助けしています。あるいは隣の船で獲れたお魚を産地市場に持っていくときに、近隣の人が助けるとか、漁村の女性がほかの人の代わりに荷を運んであげるとか、そのようなことがですね、本当に日常的に行われていて、それが漁村の結束だったり、漁村の祭りとかで見られるというふうに思っています。人命救助とかもそうなんですけれども、本当に日々の助け合いというのが、そもそもの根幹にあるというふうに私は思っています。
以上です。ありがとうございました。
○二平さん
はい、ありがとうございました。色々な具体的な事例が写真で紹介されました。また、それについて質問があれば、あとでお伺いしたいと思います。
はい、それじゃですね、少し残された時間で、色々質問にお答えするような形を取りたいと思います。あとからまた、また自由に質問をいただきたいんですけども、先に質問いただいていることがちょっと4点ほど来ていますので、それについて、ちょっとお答えになるかどうか分からないんですけども、少しお話しておきたいと思います。
大阪パルコープの松尾さんからですね、クジラも日本の文化として大切にしたいということなんですが、まあ、国際的にWTOですか、きちんと日本の文化としてクジラを食べるんだということを理解してもらって、クジラをちゃんと確保して食べていくことが大切なんじゃないんですかというようなご意見なんですが、もうその通りだと思います。
クジラももちろん、減っていれば、資源として保護しなくちゃいけないということがありますけれども、やはりちゃんとクジラ資源がどういう水準になっているのかということを、きちっとした科学的な調査に基づいて、やはり人間が捕っても、けっして枯渇させるような水準でなければ、やはり食べ物として、捕って食べるということは当然、していいというふうに思いますし、日本の文化としてもありますから、その通りだと思います。まあなかなか国際的には色々な国と国との関係の中では難しい点もあるんでしょうけれども、日本人は昔からクジラを食べて来たということもありますので、そこのところは、やはり冷静にクジラ資源の水準をきちっと議論しながら、捕れる、漁獲をできるという、先ほどちょっと魚で話しましたけども、たくさん増えれば獲るというようなことの話をしましたけれども、クジラだって同じことなんじゃないかとは思っています。
それから中原さん。農文協の理事の中原さんからの質問って言うんですかね、ご意見というのかありましたけど、海水温が高くなるなど地球環境が厳しくなる中で、我が国の水産業が何とか生き残る途を見出していくため、色々たいへんだなあというふうに思うということなので、皆さまのご奮闘を期待しますという、激励の言葉でもあるんですが。
海の環境はずいぶんこの10年間、日本近海でも変わってきて、今日はちょっとお話する時間はないので、皆さんに資料としては付けておきましたけれども、海の水温が上がってきている、温暖化するというようなことが日本近海の中では非常に起こっているので、その資料を付けておきましたので、あとで見ていただければ分かるんですが、減っている魚もありますけれども、地域によっては増えている魚もあるんですね。だから、そういうふうに海の環境そのものはなかなか大きなダイナミックな動きなので、人間がそれを簡単にコントロールすることはできないんだけども、やはりそういう中で変わってくる魚の獲れ方というんですかね、魚種組成だとか、量だとか、そういう変動がありますけれども、そういうようなものに合わせて、漁業も変わらなくちゃいけないし、また、消費者の方も魚の調理、料理というようなことも変化をさせていかないといけないんじゃないのかなっていう、そういう中で、また先ほどちょっとお話しましたけれども、気候変動の関係の中で、また魚が元に戻るというようなことも、先の将来、ある魚もあるので、決して一方的に何か魚が減っていってしまうということではないということだけ、ちょっと見ていただければと思います。北海道でも、ニシンなんかはかなりずっと増えてきていますので、昔、見なかったニシンがスーパーでずいぶん並ぶようになっていると思うんですよね。今まで食べなかったでしょうけれども、やはりニシンなんかは増えてますから、ニシン料理を色々研究していただけるといいなあと。1つの事例ですけれども、そう思います。
それから、小松さんからはですね、ちょっと本のタイトルで、ほんとうのエコシステムってなに、というのが本のタイトルなんですけど、エコシステムに本当とか本当でないとか、そんなものがあるの? っていうような意見がありますけども、ちょっと私もですね、このタイトルについては、私もどうかなって思った面もあるんですね。ただ1巻、2巻、3巻のシリーズの中で付けていくタイトルということでもあったんでしょうから、それはいいんですけど、ちょっと分かりづらい面があるのかなと私も思います。やはり小松さんもエコシステムをどのように利用していくのかとか、それをどういうふうに壊さないようにしていくのかっていうようなことで使っているんでしょうねということで言ってますので、その通りで、そういうエコシステムの中である一次産業の漁業ということなので、やはり先ほどちょっとお話しましたけれども、特に漁業の場合は海という環境をきちっと保全しながら、魚の産まれたり育ったりするという、そういうことを保守をしながら、その一部を漁業として漁獲して、食料にしていくという産業なので、海そのもののエコシステムが狂ってしまったりすると、もともと成り立たないことなので、本当に自然に依存した産業だということなので、そういうことはきちっととらえていただきたいなというふうに思いますね。
それから、水産物の自給率についてですけれども、水産庁からも発表されていますけれども、食用魚介類で56%程度、食べない魚も含めると全体で54%。それで海藻類については64%というのが一応、自給率となっているということで発表になっていますけれども、農業でも同じですけれども、これは単純にみた数字ですけれども、だけど、いわゆる船の燃油なんかどこから来ているのって言えば、それは外国から来ていますから、そういう意味では、そういうものに依存するような国の自給ということで考えれば、そういうものがストップすれば、自給はできなくなるということなので、そういうような関係の中で漁業もあるという、まあ農業の中でも色々な肥料の問題だとか、酪農では餌の問題だとか言われてますけど、それと同じにやはり漁業も国際的な関係の中で存在するものなので、そういうところも見ていかなくちゃいけないんじゃないかなということが言われています。質問の中にありましたけど、その通りだというふうに思います。
それからジャーナリストの門目さんからは、マイクロプラスチックが漁業に与える影響、実害があるのかという質問がありましたけど、ちょっとだけ先ほど、示しましたけれども、これが実際の実害というのがどんどん出ててですね、東京湾のカタクチイワシの8割からマイクロプラスチックが胃の中から出ているというデータも出てきましたし、色々なやっぱり魚とか海産動物とかがプラスチックを飲み込んでたりするということがあって、そういう中で色々な、例えば子どもを再生産していくっていうようなところで、マイナス影響が出てるっていうデータも色々な本で出てるので、実際にマイナスの面がどんどん出てきているよと。それがだんだんと人間の方にも問題とされるんじゃないかなというので、私は心配をしているのは、消費者の皆さんが、そういうマイクロプラスチックが魚の中に取り込まれていて、それでそれが魚肉の中まで影響していくとなると、魚を食べると怖いんじゃないかって、そういうふうに、まだ今のところは大丈夫ですけど、そういうような状況になってきた場合は、これはもう大変な問題で、漁業そのものが成り立たないということになっていくので、そういう点では、この問題はやはり軽視できない問題で、きちっとこれから監視をしなければいけないし、プラスチックを減らさなくちゃいけないという、そういうことが大きな課題になってくるんじゃないかなっていうにふう思います。
一応、4つの事前に出されていた質問については以上ですけども、それぞれの皆さん、ご質問された方々は、そういうようなことでよろしいでしょうか。何かもう少し、補足して質問したいということがあれば、今の4名の方。
○川島さん
川島です。クジラのお話が出ていたので、私もクジラの活動をしていて、クジラを食べるという伝統文化を無くしてはいけないという強い思いがあるので、ちょっとクジラの話をしたいと思います。
ご指摘のところにありましたけど、まさしくクジラというのは栄養的にもスーパーフードだと思います。今日ご参加の方々にも、おそらくクジラで育った世代の方々がいらっしゃるのではないかと思います。クジラには二平さんが先ほど説明した魚と同じような健康成分があるんですね。それにプラスして、疲労回復効果がある成分が含まれるとか、つい最近聞いた話では、鯨の油に市販の育毛剤をしのぐほどの育毛効果があるということが分かってきて、だから髪の毛で悩んでいる人には朗報かと思います。まだまだ知られていないクジラの有益成分というのがあるのかなというふうに思います。
一方、クジラを捕るという面では、1982年にIWCと言うんですけども、国際捕鯨委員会という会議で、資源が回復するまで捕ってはいけないということが決まったんです。でも実はその後も、日本は調査研究という口実で、南極の方まで行って、かなりの頭数を捕っていたので、これは国際的には批判を浴びていました。よく日本の捕鯨船に環境団体の船が体当たりしてきたというのはこれが理由です。
ところが半世紀近く経って、クジラの種類によっては資源が十分回復したにもかかわらず、捕鯨の再開が認められないということで、日本はIWCを脱退して、今は日本の200海里内だけで捕っています。しばらく捕ってなかったんで生息数はかなりあるようで、その中で100年捕り続けても絶対に減らない量というのを算出して捕っています。今年から新たにナガスクジラも捕るということで、だから450頭くらいは捕ると、そういうことになります。ただこれは200海里以内でやっていることなので、これは国際的にはそれほど批判を受けていないように見受けられます。
残念なのは、ここ30年くらい間に、クジラを取り扱うこと自体がすごくネガティブにとらえられて、特に首都圏なんかだと、クジラを買おうとしても、なかなか売っている店がないという状態になってしまったことです。依然として、クジラを捕って良いか悪いかという議論は続いているんですけども、この問題にはそれぞれに、強い正義感のようなものがあるので、おそらく未来永劫に平行線なんだろうと私は思っています。
ただ捕鯨にこだわるのは、捕鯨というのは自然の恵みを持続可能な形で利用していくという漁業の象徴とも言える行為なので、可哀想だから殺生はダメだということだと、ほかの漁業もすべて否定されてしまうことにもなりかねないということですね。そういう意味で、捕鯨の正当性を主張することは大事かなと思っています。色々異論もあるかと思いますけど、クジラの食文化をなくさない活動というのをやっています。以上です、はい。
○ 二平さん
はい、ありがとうございます。私も小さい頃はクジラで育ちました。最近はなかなか食べる機会がないですけれどもね。美味しかったなという思い出がありますね、はい。
それじゃですね、ほかに今日、このオンラインの講座に参加した方で、どんな質問でもいいです。どなたに対する質問でもいいですし、何かあれば、どうぞ言っていただいて、構わないと思います。
○池上さん
二平さん、チャットに。漁協の人々は海の資源を守るために、ほかには何をしているのでしょうか。これは田口さんかな。
○田口さん
はい、お答えさせていただきたいと思います。例えばなんですけども、資源管理でいきますと、千葉県のキンメダイを獲っている漁業者の方たちは、標識放流という形で、資源がどういうふうな動きをして、また、どれくらいその地域にいるかとかっていうのを一生懸命調べて、資源管理の科学的なデータを積み重ねることによって、自分たちはこういうふうに獲っていこうというような規則を作る前提にしたんですね。あるいは例えば、今だと、磯焼けがウニの食害であるとか、ほかのイスズミとかいうようなお魚の食害であったら、その食害魚を取り除いたり、その食害魚が来ないように、ブロックするっていうような形で、皆さん、一生懸命、海を守ろうとしています。また海底耕運という形で、海の下にですね、溜まってしまった有機物が漁場を汚染しないように、皆さんが耕すということをやったりします。またゴミでも日にちを決めたり、あるいは自分たちが網をそこで曳いたときに溜まったゴミは持ち帰るとか、そういうようなことをやって海を守っています。
○二平さん
はい、よろしいでしょうか、質問の方。はい、それじゃ、チャットの方にある池上先生からの、資源管理の認証制度、MSCなどは割愛されましたが、日本の実情を教えてください。また沿岸漁業者には敷居が高い理由を教えてくださいっていう質問がありますけど。
私もちょっと別の認証の方の審査員もやっているので、よく知っているんですが、1つはですね、実際にMSCとかMELとかっていう認証制度が走っています。最近、少しだけイオン系にはMSCのラベルが貼った商品なんかが並ぶようになってますけど、1つはですね、なかなかこれが広まっていかないって言うんですけども、認知されていかないというところに、これを取って認証を受けたとしても、その商品がほかの取らない商品に比べて、魚に比べてですね、高く売られていれば、認証を取る価値はあるんですけれども、なかなか日本の市場ではですね、そういう認証制度を受けたMSCだとか、MELだとかのような商品は、仮にですよ、2割高くてもそちらを買うわっていうような、そういうふうな、まだまだ日本の消費者の中ではなっていないので、生産をする方も、それだけの魅力を感じないという、そういう面があります。今、割と生産者認証と言って、魚を獲る方の認証を取っている人たちは、輸出する業界、例えばマグロをアメリカに輸出するとか、ヨーロッパにホタテを輸出するとか、そういう場合は、外国の方は、そういうような認証を受けている魚とか魚介類じゃないとダメだよっていうようなことを言われたりもするので、それに合わせて取っているという事例はかなりあります。
それから問題点としては、MSCなんかは取る場合に非常にコストが高いんですね。それを取ろうとすると。1千万円くらい取られるんじゃないですかね。日本のところでも100万とか、掛かるので、じゃあ、それだけお金を掛けて、先ほど言ったように、認証を取ったとしても、それに見合うだけの商品の値段が上がって利潤が上がるかというと、なかなかそうはならないという、そういう面があるので、なかなか日本ではまだまだ定着が遅れていると言うんですかね、そういう部分があります。特に沿岸漁業の中は、そんなに規模が大きくないので、それだけのコストを掛けるということについては、抵抗があるというのはありますね。はい、よろしいですか、池上先生。
○池上さん
ちょっとよろしいでしょうか。だいたいのところはいいんですけども、そもそもこういう制度を入れてくるのが、大規模経営でないと、企業的な経営でないと出来ないような制度設計になっていること。それから今のように輸出するという、要するに相手国の、輸出国の条件に合わせなければいけないということなので、そういう制度を導入するということが、例えば政策的にそれを推進しようというふうに、資源管理のためにね、いい漁場を残しましょうと言って、それを政策的に推進しましょうというようなことになると、逆にきちんと漁場を守っている沿岸漁民が排除されるんじゃないかという危惧を持っているので、こういう制度はできるだけなくした方がいい。認証なんていうのはやめた方がいいんじゃないか。認証業者を太らせるだけだというふうに私は思っているんですが、いかがでしょうかね。
○二平さん
まあ、何て言うんですかね、必ずしもそういう機関で認証をしなくても、例えば日本の場合は、しっかりとした漁協なんかにきちんと入って生産をやるとか、共同して資源管理をするとかという制度があるので、そんなお金を掛けなくても、例えばですよ、カツオの一本釣りの業界だったら、カツオの一本釣りの協会だとか団体が、ちゃんとした一本釣りで生産された魚ですよっていう、ラベルを作って、流通させればいいだけの話なので、必ずしもそんなに必要ないんじゃないかなというふうには思うんですね。だから別にその団体が認証しなくても、色々な資源を大切して獲っている漁業だということを消費者に知らせる手段というのはあるので、私も必ずしもそういう枠でですね、締め付けるというようなことは必要ないと思うんですね。ただそういう輸出をするという魚に関しては、海外の方がそういうような認証を必要とするという今、制度で、ヨーロッパだとかアメリカの社会の中では、業界の中でそういうことがあるので、それでそういうふうにしていくという形になっていると。それは割と大きな漁業ですね、マグロの業界だとか、そういうところはそういうふうになっていると思います。よろしいですか。
○ 池上さん
はい、結構です。
○二平さん
いいですか。浦辺さんですか、化石燃料や養殖による環境破壊から脱却しないと漁業はサスティナブルにならないと思いますが、何か方策はありますか、ということですけども、大変難しいですね、ここはね。例えば船のあれですか、燃料を油に依存しないでとかっていうことになるのかな、化石燃料で。それから養殖による環境破壊っていうのは、あれですかね。どういうことを言ったらいいのかな。餌の問題ですかね、そういうものから脱却しないといけないというようなことを言っておられるんですかね。ちょっと浦辺さん、もう少し説明いただけますか。
○浦辺さん
すみません、浦辺です。ちょっと説明不足で申しわけないです。化石燃料についてはそうです。おっしゃる通りです。
○二平さん
エンジンの燃料ですね。
○浦辺さん
はい、そうですね。
○二平さん
養殖による環境破壊というのはどういうことを指しますか。
○浦辺さん
1つは先ほど言われた、餌を大量に投入するというのもありますけども、抗生物質とかそういう薬剤的なものを入れてしまうとか、あるいはそもそもその地域にはなかったものをそこで育てることで、これは日本国内もそうですけども、東南アジアとかそういうところでも、そのところに無理やり養殖してしまうことで、その環境が悪化してしまうことを。
○二平さん
たしかにね、自動車と同じように、そういう燃油で今、船は走ってますから、そこの部分はですね、そこの部分は、陸上の自動車が電気自動車化するとかですね、どんどん今、技術開発がされていますけれども、まだまだ漁業の世界ではですね、そこのところは、実際のところは技術開発というのは進んではいませんね。やっぱり油を焚いて走るというような、今の段階では漁船漁業としては、そういう形になっていますね。ここのところは、なかなか難しいかも分かんない。ただ燃油があまり消費しないようなエンジンに換えるとか、そういうところは、燃油も高くなっているので、なるべく大量に消費しないような、操業の仕方とか、そういうことは実際、色々検討はされてはいます。
養殖に関しては、日本の場合、養殖も色んな養殖があって、小規模な業者さんが、実際のところは経営体としては多いんですけども、そういうようなところでは、地元に根付いたような形での産業としてやっています。それから、先ほどもちょっと認証制度の話も出ましたけども、養殖に関しても、昔、色々議論になったような、例えば抗生物質で薬剤を使うとか、そういうようなことっていうのは、決まりとしては一応、規制があってですね。何て言うんですかね、漁協の中で養殖漁業をやって、例えばブリとかマダイとか、トラフグとかですね、そういうようなことをやっている。例えば瀬戸内海の養殖業とか、そういうものの中では、やはり漁協の中できちっと、そういう組合員として管理をしているって言うんですかね、やってますので、何か健康に害が及ぼすような、そういうような魚の生産みたいなことは、今はほとんどないというふうに考えてもいいと思います。
ただ、養殖漁業そのものが、育てる魚の10倍以上の餌を供給をしなくちゃいけないので、そういう点では、ある面では無駄な面があるんじゃないのかっていうのは、昔からの議論としてはあります。ただ先ほど、川島さんの話にもあったように、養殖される魚というのは、タイにしてもブリにしてもマグロにしても、非常に安定した魚質を持った魚を今、生産できるような技術になってきているので、昔は養殖の魚って、ブリなんか美味しくないと思っていたんですが、必ずしもそうじゃなくって、養殖の魚の方が美味しいねっていうような、それだけ品質が向上して来てますし、安定的供給という面もあるので、一概に全部ダメだというふうにはならないかなと思います。
ただ昔、海外でよくエビの養殖なんかでは、マングローブのところを破壊して養殖場を作るとかですね、よく東南アジアでありましたけど、そういう面というのはもちろん、直さなくちゃいけないというか、脱却しなくちゃいけないと思いますけども、日本の中では、そういうような面というのは、あんまりないんじゃないかなというふうに思います。ただ今、問題になって来ているのは、養殖でも資本が入った大規模な陸上養殖施設です。サーモンの養殖場だとか、そういうのが陸上で建設されて養殖が始まっているということがありますけれども、そういうような、ものすごく電気を食ったりですね、しますので、必ずしもそれが、持続可能な産業になっているかということについては、色々問題を持っているんじゃないかなというふうには思いますね。そんなことでよろしいでしょうか。
○浦辺さん
はい、ありがとうございます。
○二平さん
でも本当に養殖で沿岸の漁家の方が、そんなに大規模ではないですけど、しっかりとしたトラフグを生産して、美味しい魚を提供しているという漁家の皆さんはいっぱい瀬戸内海なんかにもあるので、そういうところはですね、応援をして行けばいいんじゃないかなというふうに思います。瀬戸内海は天然の魚が今、どんどんどんどん減ってきているので、養殖業で生産を維持するという部分も大きな価値があるんじゃないかなというふうには思いますけどね、はい。
○村上さん(事務局)
アグリライフの藤原さんから事務局の方に今、質問が届いたのでちょっと読みますね。
小規模な漁業や漁師が海の環境を守っているという指摘がありましたが、地球温暖化防止など、漁業者によるブルーカーボンの取り組みについて、どう思われますか、ということです。
○二平さん
そうですね、ブルーカーボンに関しては色々な、まあ田口さんの方が知っているかな。僕よりはそういう部分を歩いていますか。田口さん、いかがですか。
○田口さん
私は漁業のことを勉強し始めたとき、「東日本大震災後に、アサリが獲れなくなった」と漁業者さんが困っていたことを知り、アサリが獲れる漁業をどういうふうに復活したらいいのかなってずっと思っていました。それでその中で、アマモ場を守っている方々の話なんかも聞きに行きました。日生漁協という岡山県の漁協さんは、組合長の方が、アマモ場というのは、魚にとって重要な場所だから、ちゃんと残したいというふうなお考えで、消えていくアマモをですね、種から育てていくっていうようなことを地元の水産試験場の普及員さんと二人三脚で頑張って研究を重ねて、少しずつ増やしていったという歴史があります。皆さんは地球環境というよりは、自分たちの海を守りたいとか、魚が増える海のゆりかごですね、それを戻したいというふうなのが先に動機としてあって、そのあとに、実はアマモはとか、あるいは海藻は光合成によって、CO2を吸収して、酸素を供給してっていうのが最近になって分かってきて、逆に自分たちのやっていることっていうのは、間違いでなかったんだっていうふうに見つめ直しているんだと思います。
○ 二平さん
いかがですか、よろしいですか。そういう取り組みって、昔からそういうね、アマモ場だとか海藻っていうのは、それは魚の生育場にとっても大切だからっていうことで、漁民の皆さんはそういうものを大切にしようという活動というのは、色んなところでやっているんですよね。それが今、ブルーカーボンとの結びつきで価値が言われてきているということはあると思うんですよね。よろしいですか。
○二平さん
ほかに何かございますか。何でもいいですよ。なかなか漁業の世界って知らない方もあると思うんですが。
○高松さん(漁業者)
二平先生、高松です。ちょっと漁業者の立場からお話していいですか。
○ 二平さん
どうぞどうぞ。北海道の焼尻の島で漁業を営んでいる高松さんです。
○高松さん
皆さん、こんばんは。環境問題、実は僕らの場合、20年くらい前から危惧していたことなんですけども、やはり僕の住んでいる北の島でも、海水温が上がってしまって今、大変な状況なんですよね。今、ブルーカーボンの話も出ましたけど、やはり海藻がぜんぜん育たなくなったんです。それで僕らというのは今まではいい細目昆布を食べさせた良質なウニを生産していたんですけれども、ここ4,5年、そのやっぱり餌が不足してぜんぜん身が入らない状態なんですよね。
ウニも海藻もそうなんですけど、ウニ自体も変わってきているんですよね。変わってきているのというのは、1つ例に挙げると、殻が柔らかくなってきているという、これはやっぱり海洋の酸性化が進んできている状態じゃないかなと思っているんですよね。これは30年くらい前からホタテの養殖をやってる方がですね、稚貝が柔らかく、昔は足で踏んでもなかなか割れなかったのが、今は指でも簡単につぶれると。もうそれだけ海も変わってきているんですよね。たしかに酸性度が進んでいると科学的に証明されているんで、それと高水温による磯焼けですね、海藻が育たないというのは。北海道では今、僕らの方は1年昆布なんですけど、太平洋側の2年昆布はほとんど根腐れしてダメだというんですよね。だから、天然の昆布を採取している漁師さんは、ここ1、2年でいなくなるだろうって道南の友達が言ってました。
噴火湾はですね、去年、イセエビの稚エビが獲れたんですよ。養殖の施設に付いて。そしたら今年は成体が取れ出したんです。イセエビですよ、北海道で。このあいだカツオの話もしましたけれども、カツオも獲れる、カジキも獲れる、イセエビまで獲れてきたとなれば、本当にね、そういう新しい魚種を獲ればいいんじゃないかと言うけど、簡単に漁業を替えていくことは不可能なので。いやこれは日本海側でも進んできた、太平洋側は前から進み方が激しいんですけど、これ、恐ろしい時代に突入したなと思っているんですよね。本当にひどい状態になってきました。
○二平さん
本当にね、イセエビなんかは茨城でも前はほとんど獲れなかったのが、最近は主要なイセエビ漁になって、今、イセエビの「常陸いせ海老」なんてブランド化してですね、小さな銭湯で食べましょうとか売りましょうとかということが言われるくらいな、もちろん福島も獲れ出していますし、宮城も獲れ出して、岩手も獲れ出して、北海道でそういうような状況だというのは初めて聞きましたけれども、たしかに海の水温がどんどん上がって、黒潮の水が噴火湾の方まで行ってますから、今ね、黒潮系の水がね、そういう状況になって来てるなっていうのは、よく分かりますね、はい、それだけ変化しているということですね。
ほかに、あっ、ここにありますね。松尾さんからですか。消費者として、魚を食べる機会が減っていると思います。やはりそうですかね。若い女性、妊婦さんなど魚の栄養素が不足すると、子どもの精神の発達や脳の発達に影響します。切り身の魚を見ても、食べたいと思えない28歳になる娘をデパ地下の生鮮売り場に連れて行き、マグロの解体などを見ると、その威勢の良さを体感することで食べたい気持ちが生まれます。漁業関係者の皆さんがこれほどまでにご苦労されていること、環境の変化に直面されていることも、あまり関心がないので、ぜひ皆で日本の食を守る取り組みが必要だと感じます。
はい、ありがとうございます。僕もちょっとお話しましたけれども、やっぱり何で僕は、魚を食べるということにどういう価値っていうか、いいことがあるのかっていうことを、いっぱい並べてですね、こんなにいいですよっていう話をしたかというと、やっぱり消費者の皆さんが、魚を食べることは体にも脳にもいいことなんだということを認識していただいて、魚を買って料理をして、食べていただかないことには、生産をしている漁師の皆さん、そういう点でやはり、食べていただくことっていうのをやっぱり呼びかけないといけないなっていうふうには思って、そういうことでちょっと最後に見せましたけれども、小さな取り組みですけども、地元のところでは、調理力を付けていただくために講座を開いたりして、小出刃包丁の使い方からですね、三枚おろし、ヒラメ・カレイの五枚おろしとか、イカの刺身の作り方とかですね、そういうのを皆さんに、若い方とか高齢の方も含めて、教えるような講座なんかもやっているんですが、やはりね、本当に調理をしなくなったという方が本当に多いですね。家の台所で丸の魚を三枚におろすということの経験は持っておられないという、若い人ばっかりじゃなくて、高齢の方も、そういうことをずっとやってこなかったっていう、そうような方々がものすごく増えている。ああこれでは魚はなかなか売れないかもしれないねって。だけど自分でやって食べてみると美味しいですね。やっぱり丸の魚を調理して、新鮮な魚を食べてみると、あっ、やっぱり美味しいですねってことで、魚食のファンになってくれるということがですね、本当にあるので、やっぱり大事なんだなと。そういう点ではですね、そこのところがどんどんどんどん、肉を食べることも別に悪いとは言いませんけども、肉食、肉食というふうではなくて、せっかく日本の周りには素晴らしい魚がたくさん居て、そういうものが生産されている、漁師さんが新鮮な魚を届けてくれるという、そうような国なので、ぜひですね、消費をされる方に調理力をつけていただいて、魚をたくさん食べていただいて、健康になっていただきたいなというのが思いとしてあります。
ほかにございますか。漁師の皆さんで今日、参加されている方も居ますよね。千葉の鈴木さんは参加しているんですか。参加してないかな。
○鈴木さん(漁業者)
参加してますよ。
○二平さん
何かどうですか、せっかくですから。漁師さんから直接、お話を聞くっていうのは、なかなか皆さん、あるようでないと思うので、せっかくだから、ぜひ、高松さんがお話してくれたから、鈴木さんもぜひ、千葉の皆さんのキンメダイの取り組みなんかをぜひ、ご紹介したらいかがですか。どうぞ、ちょっと顔が映ってない。徳丸さんと2人で。
○鈴木さん
3人で魚の話してたんですけど、1本の場合に、例えば料理したときに、頭があったり骨があったり、その処分というのが結構、たいへんだよね、夏はって話をしていたんですよ。やっぱり、それをちょっと置いとけば臭いも出ちゃうしっていうところで、やっぱりそういうことがあると、1本が扱いづらいんじゃないかなっという話をちょっとしました。
キンメダイの資源管理のことなんですけど、こういう今みたいになるとは思わなかったんですよ。今、JICAの人たちがモルディブの方から来たりとか、アフリカのフランス語圏の人が来たりと。今度、24日にまたアフリカの英語圏の人が聞きに来るわけですよね。これって、こうなるとは思わなかったけど、やっぱり目の前のって、あまり獲っちゃまずいよねと。やっぱり獲れる量を考えながら皆で相談するっていうことで、こうなったんですよね。だから、本当に資源を大事にするということの積み重ねが、それも皆で話し合ってやってきたのがここに来たというのが本当に、さっき、やっぱりやってて良かったなと。そういう積み重ねが今あるんだなというふうに感じますね。
○二平さん
ちょっと聞いていて、皆さん、分からなかったかも分かんないんですが、千葉の外房の方々というのは、16地区の漁業者の方、300人くらい居るのかな。その人たちが、決して国から言われてやるんじゃなくって、もともと漁師さんたちの協同組合としての集まりとして、その中でいっぱい話し合いをしながら、共同の力でキンメの資源を大切に守りながら、持続可能な漁業としてのキンメ漁を作り上げてきたという、非常に素晴らしい取り組みをしているんですね。そのことについて、今、国際的に色んな国からですね、視察が入って来て、その勝浦に事務所があるんですが、その事務所に研修にアフリカの方が来たり、色んな国の方々が来てですね、鈴木さんたちが進めている資源管理の取り組みを、漁業者の力で作っていった取り組みを聞いて、皆さん関心して、国にまた帰っていく、というそういうことをずっとやっておられるところで、日本の中でも非常にモデル的な取り組みをされているという、そういう地区ですね。そういう非常にいい事例を作っている。
だから決して何か上から押し付けるんじゃなくって、生産をしてる皆さんが、本当に浜で、共同の力で皆でよく話し合いをしながら、そして皆が全員一致制で物事を決めてとかですね、そういうことをやりながら、ちゃんと自分たちで決めたルールは皆で守るというようなことをやっているという漁業があるので、こういうことを全国でやっぱり、色んな地区でモデルにしながらやっていかなきゃいけないですねっていうことで、私たちの団体でもよくお話をしているところです。何か機会があったら、ぜひお話を聞きに行ってあげてください。よろしいですか。
○鈴木さん
いいですか。結局、自分たちは片田舎で、自分たちの前しか分からないことを、過去からやってきて、国連でSDGsという言葉が出てきたときに、何だと、これって、俺たちのやっていることだなあっていうこと。自分たちがやっていることが、そのまま国連が言っているからさ。だから自分たちは先取りしてたんだと思って。
例えば決め方にしても、国際会議のときは、マグロなんかで今度、分かったんですけども、来てる参加している国の全員一致。皆がいいよって言わなければ決められないシステムだって聞いたら、何、俺たち自分たちの組合のやっていることと国際会議と同じだなと。自分たちも1つでも反対したら、もうその人が分かりましたって言うまで決めないっていうルールでやってます。だから、よその世界は分からなかったけど、自分たちの世界でやっていることが、国際的にやっている考え方、やり方が同じだというのは、すごいびっくりしますね。
○二平さん
ありがとうございます。国際社会よりも進んだことをやってたということですね。そうだと思いますよ。素晴らしいと思いますよ、本当にね。
ほかに何かございますか。特に参加された方で、何かありますか。よろしいですか。
ちょっと時間が超過しましたけれども、まあ北海道の漁師さん、千葉の漁師さんも発言をしていただいて、こういう機会が持てて、とても良かったかなと思います。聞いていただいた皆さんには、漁業の世界、魚の世界というものを少し分かっていただけたら何よりだなあというふうに思います。なかなか漁業の世界の中の色んな仕組みとか取り決めというのは大変難しい面もあると思うんですが、やはり海の世界というのは、海は1つなので、つながってるので、そこで自分の畑を持っているわけじゃないんですね、農業みたいに。自分の畑で自分が好きなように有機農業をやればいいんだという、こういうことは海の世界では通用しないので、やっぱり共同、生産をする人たちが皆で共同で共通のルールを今、鈴木さんが言ったように、皆で話し合って決めて、決めたことは皆で守って、そして魚の資源を持続的に利用するために、皆で努力すると。これがやっぱり浜の共同の力なんですよね。これがもともと、基盤がそういうようなものなので、浜の中にはもともとそういう共同化する社会の素地というのがベースとしてあるので、やはり日本の漁村の社会の中で、培われてきた、そういうような伝統的な共同する精神、共同する力というようなものをやはり壊すことなく、次の時代に伝えていくということがやはり、大切なんじゃないかなというように思います。
ところが今の日本の漁業政策、新しい新漁業法による世界というのは、上の方が漁獲割当量を決めて、それに従わない者は今、罰を加えるみたいな、上から何でも決めてくるというやり方なので、そこのところで、今まである日本の漁村社会の共同体としての良さを上から壊してくるような、そういうようなことが今の新しい漁業法の中にあるので、それはやっぱり良くないのではないか。やっぱり私たちは日本の漁村社会が持って来た、そういう共同の精神というか、共同して物事を作り上げていく、そういうものを大切にしながら、漁村社会を作っていく、沿岸の漁業を再生していくという、そういうことをやっていく必要があるんじゃないかなということがいつも思っていることなので、そういう面でですね、これからも漁業をやっている方々と一緒になって、活動できればいいかなあと思っています。
はい、一応、そういうことで、今日はですね、私の方からのお話はまとめたいと思います。それじゃ最後にですね、池上先生、よろしいですか。よろしくお願いします。
○池上さん
二平さん、田口さん、川島さん、ありがとうございました。時間を忘れるような面白い議論ができまして、しかもあまり馴染みのない漁業の世界だったので、大変楽しい学びをさせていただきました。ありがとうございました。で、ちょっと時間ももう押しているので、次回の案内だけということにしたいんですが、やっぱり私も2点ほどお話を聞いていて、少しだけ時間をください。
1つ目はですね、今、二平さんも少し触れられましたが、漁業法の改悪も絡んでくるんですけれども、漁業はこれまでやってきた農業、林業と比べても、やっぱり一番自然と近い生業だろうというふうに思います。林業の場合にはもちろん、時間軸が非常に長いっていう特徴があるわけなんですけれども、それとは違った意味で自然の影響を一番強く受けるという意味で、自然と一番近い生業。だから漁業というのはそもそも大量生産には馴染まないだろうというふうに思います。新しい漁業法というのは、儲かるものだけ獲ればいいという考え方だと思うんですよね、端的に言ってしまえば。そういう人間の都合に合わせるような仕組みとか、それから施設の改変、河口堰を作ったりする、埋立をやっていくっていうようなやり方はそもそも漁業の仕組みと合わないんじゃないかというふうに思っています。で、河口堰を作って、ウナギの産卵場が減った。だからウナギの養殖のための研究にお金をいっぱいつぎ込むんだというのは、本末転倒のような気がしてなりません。
そのときに気をつけなければいけないのは、人間の都合に合わせる改変というものと、自然と共生産していく。一緒にものを作っていくという点ですね。つまり、自然のままのエコシステムでいいのかって言うと、そうではないと。人間がきちんと維持管理しながら、そこに何らかの攪乱を起こしつつ、それを再生産させて来たというのが日本の歴史だと思っていますので、そういう点で先ほど言われた共同の力でキンメの資源基盤を守って来たというふうな取り組みというのがやはりエコシステムとして持続させて行くことなんだろうというふうに思いました。
で、この本の第3巻の本のタイトルをそれほど真剣に検討したわけでは、ちょっと時間があまり足りなかったんですけど本当のところは足りなかったんですが、後付けになりますけれど、今日、鈴木さんやら高松さんたちが言われたような内容のことがまさにこの本の狙い、エコシステムということを考えていくと。そのきっかけになればいいなという意味で当たっていたのかなという気もしないではないと思っています。
それから2点目ですけど、実際に獲れている魚の生鮮として食べているのは、たった4分の1しかない。加工入れて、ようやく半分。であとは餌、養殖用の餌が4分の1で、それから魚油・飼肥を取るというのが結構、5分の1くらいあって、これは何なんだろうなと思ったんですけども、その大量の市場流通しか乗らないような魚しか対象にされていないというところですね。最近は結構、B級グルメみたいなもので、地元でしか食べられないものが、それなりに脚光を浴びたりしていますけれども、それはあくまで瞬間的なもので、なかなかきちんとツーリズムと結びついてくるとかいうふうにはなっていない。それこそもったいないなという気がしています。
はい、今日は田口さんがおっしゃりませんでしたけど、漁民は海難事故の場合には真っ先にね、保安庁とともに駆り出されますし、そういう点では儲けにならないタダの仕事というのもきちんとやっているということも、しっかり認識しておくべきだろうなというふうに思います。