FFPJ第35回オンライン講座は、酪農シリーズ第1弾として、「アグロエコロジーが拓く未来:『酪農危機』の打開に向けて」と題して、北海道大学農学研究院の清水池義治准教授を講師にお迎えして2024年12月20日にお届けしました。
以下は、文字起こしに基づいて作成した講義部分の要旨になります。
皆さんこんばんは。ご紹介いただきました北海道大学の清水池と申します。このような機会をいただきまして、ありがとうございます。今日は酪農がテーマということで、現場のことと言うかですね、酪農を取り巻く全体的な状況や、あるいは政策についてお話したいと思っております。よろしくお願いいたします。
まず自己紹介をさせていただきます。専門は農業経済学です。過去に雪印乳業の研究所で働いていたこともありまして、酪農に関してはだいぶ長いこと研究をしております。最近はですね、酪農にかぎらずですね、養豚や卵、肉牛など、畜産全般のことにも関わっています。
社会活動としましては、今日お越しになっている方のなかにも関心のある方が多いと思いますけれども、アニマルウェルフェア畜産協会の理事もやっております。当協会は、畜産生産者、研究者あるいは消費者などによって構成されておりまして、おもに畜産生産者を対象に、アニマルウェルフェアの認証事業をやっております。ご関心のある方はぜひウェブサイトをご覧ください。
本日のテーマと関わりの深い内容としましては、アグロエコロジーに関する書籍を今年の10月に出版いたしました。と言っても、私はただ一筆者として参加しただけでして、ここの会にも関わっていらっしゃる関根先生らの編集でこのような本を出させていただきました。非常に多岐にわたる内容が含まれておりますので、ぜひご覧いただければと思っております。
私が担当いたしましたのは、酪農に関する内容です。2つ章を担当しておりまして、1つが酪農に関する全体的な状況について論じた章で、今日はその内容の一部をお話することになります。酪農危機、今、どういう状況になっているのかですね。その酪農危機を打開するためには、どのような政策が必要なのか。そのようなことを論じております。
もう1つは北海道の現場のことについて、ご紹介させていただいておりまして、アグロエコロジーへの挑戦という形で、北海道北部の上川地域、中川町では、平成の元年あたりから、町が、新規就農支援制度を持っているんですが、最近ここの制度を使いまして、多くの若者が酪農家として就農している。特に最近は放牧をやりたいという若者が、日本中から集まってきているという状況がありまして、中川町の酪農家も今、だいぶ少なくなってしまったんですけれども、今はその約半分がですね、新規就農の酪農家になっているというような状況です。
あともう1つは、十勝の清水町を事例としまして、酪農家の6次産業化の事例です。アニマルウェルフェアをベースとした6次産業化の事例を取り上げておりまして、非常にサスティナブルなビジネスモデルとして、紹介させていただきました。どちらの事例も非常に興味深いものですので、ぜひご覧いただければと思います。
1.はじめに
はじめにですが、今、令和の酪農危機と言われておりますが、非常に日本の酪農が大変な状況が続いています。1万戸割れという話も最初にございましたけれども、非常に困難な状況が続いています。その一方で地域社会の維持・発展や食料安全保障の確保という観点からますます日本の酪農は重要な役割を担うということになります。
そういう役割を発揮していくためには、どのような酪農政策が必要なのかと、そのためには何をするべきなのかと、いうことについて、お話をさせていただきます。構成としては、このような順番でお話をしていきます。
2.地域社会における酪農・農業の意義
まず、全体的なお話からさせていただきます。
*牛乳・乳製品の自給率は低下傾向
日本の牛乳・乳製品市場の全体的な傾向を見ていきます。このグラフは、日本で1年間にどれくらいの牛乳・乳製品が消費されているのかを示した図になります。すべて生乳に換算しておりまして、積み上げとなっております。これを見ますと、日本で消費されている牛乳・乳製品は1年間で約1,200万トンになっていまして、実はこの数字は90年代からあまり変化していません。ちょっと凸凹ありますけれども、おおむね1,200万トンで推移しています。最近は日本、やや人口が減っておりますので、実は1人当たりで見ると、消費量はわずかではありますが、増えている状況になっています。ただし、その内訳。量は同じでも、内訳は大きく変化しておりまして、この青い部分が飲用牛乳、いわゆる飲む牛乳です。赤い部分が国産の乳製品で、緑の部分が輸入の乳製品になります。
見ていただくと分かりますように、飲む牛乳の消費量は90年代と比べますと、やはり減ってきていると。その一方で、国産の乳製品はあまり消費が変わっていないということで割と堅調。目を引くのはやはり輸入です。輸入に関しては大幅に上昇、増えていまして、後ほど見ますようにほとんどがチーズ。輸入乳製品の7割がチーズになっています。全体的な量が変わらないなかで、輸入が増えていますので、牛乳・乳製品の自給率は残念ながら低下傾向にありまして、1990年の段階では80%くらいありましたが、これは2000年になると70%を切り、そして最近では60%少しの水準まで下がってきています。
*飲用消費の減少の一方でチーズの消費増加(ただ輸入品中心)
総合食料自給率をカロリーベースで見ると、40%という話はよく言われますが、実はこの総合食料自給率、カロリーベースの数字というのは、ここ30年間であまり変わっていないんですけれども、全体的な自給率があまり変わらないなかで、牛乳・乳製品の自給率はかなり下がってきているということで問題だと思います。
1人当たりの消費量ですが、まず左側をご覧ください。1人当たりの消費量を見ますと、2000年とコロナ禍前の2019年を比べますと、牛乳・乳製品の合計で見ますと、1人当たり、年間94キロ、95キロということであまり変わっていません。少し増えているぐらいです。で、大きく2つの用途に分けますと、飲む牛乳と乳製品というふうに分けますと、残念ながら飲む牛乳の1人当たりの消費量は2割くらい落ちていますが、乳製品の方は逆に増えているという状況になっています。
右側が乳製品別に見たものですけれども、これも非常に対照的でして、バターに関しては変わらない。直近で見ると、少しバターの消費量、増えているぐらいです。一方、脱脂粉乳、余っているというので非常に問題になっていますが、脱脂粉乳の消費量は30%ぐらい落ちているということです。対照的にチーズに関しては、この20年間で4割、1人当たりの消費量が増えていて、非常に増加しているという状況です。
今、日本人は1年間で、1人当たりでだいたい平均3キロぐらいのチーズを消費しているということになりますが、ヨーロッパやアメリカといった地域では、年間1人だいたい20キロぐらい消費しておりますので、チーズで日本はまだ3キロぐらいということで、まだもう少し増えていくんじゃないかと言われています。皆さん、スーパーで見かけるベビーチーズという小っちゃい4つのブロックが入ったチーズあると思いますけれども、あれがだいたい50グラムぐらいなんですが、あの50グラムぐらいのチーズを毎日食べますと、1年間の消費量がだいたい20キロぐらいになります。チーズを20キロ食べるというのはだいたいそういう感じになります。
チーズは消費量が増えているんですが、残念なことに先ほど見たように輸入のチーズが大半を占めておりまして、せっかく消費が増えているのに、ほとんどが輸入に食われているという状況です。
*ついにチーズが国内消費の最大用途に
これは、日本全体、輸入と国産のものを全部合わせて、それぞれどういう用途で消費されているのか、というのを見たものですが、最近の状況を見ますと、実は日本国内でも最も消費されている品目はチーズになりました。今までは飲む牛乳の比率が一番高かったんですけれども、飲む牛乳の比率がどんどん下がってきて、チーズの比率が上がってきたので、チーズが最大の消費用途に日本でもなりました。こう見ますと、飲用乳はまだ30%ぐらいありますけれども、脱脂粉乳、バターも2割ぐらいあって、結構、乳製品の占める比率が高いということが分かると思います。
*輸入の74%、国内の5%がチーズ向け
今見た図を、国産と輸入で分けたものがこれになりまして、国産品で見ると半分ぐらいが飲む牛乳になっていて、残り半分が乳製品といった感じです。国産のチーズは非常に少ない。国産のチーズは少なくて、国産品のだいたい5%ぐらいがチーズと。生乳で見た場合に、日本で生産されている生乳の5%ぐらいがチーズになっている状況です。一方、輸入を見ると、非常に特徴的ですけれども、輸入で入ってきている乳製品の実に7割以上がチーズということで、国産と輸入で非常に対照的な状況になっています。チーズの自給率は特に低く、10%ぐらいしかありません。ということで、これはおもに北海道で考えていくことになりますけれども、これからのことを考えると、チーズの国産化というのが非常に大事になってくると考えています。
*酪農家の大きな収益格差
今、酪農、非常に大変な状況にあるわけですけれども、これ、よく言われているのが、酪農経営、全体で見ると厳しいんですけれども、非常に経営の状況の差も大きいというふうに言われています。これは酪農学園大学の吉野先生のデータですけれども、同じくらいの経営規模でも経営の状況にかなり差がある。これは2022年のデータですけれども、まあ同じくらいの規模でもかなり差があると。2022年はすでに餌の値段が非常に上がっている時期なので、すでに経営に多大な影響が出ていますが、例えば経産牛頭数100頭の酪農経営で見ても、これは同じ農協のなかではありますが、赤字が3千万の経営から黒字が3千5百万円の経営までいるというような状況な状況で、相当、収益性の格差が同じ規模であっても大きいということが言われています。
これは単純に餌の問題だけでもありません。要は放牧ベースなのか、購入飼料が多いのかというだけでも説明しきれない問題です。色々下に書いておりますけれども、要は乳牛をどれだけ健康的に飼っているか、これによって経営の状況が結構変わってくるということが言われておりまして、まさにアニマルウェルフェアですね。そういった飼い方ができているかどうかというのが、経営の結果というものに直結するような状況が生まれているということになります。
*地域社会と酪農・農業
この辺はある意味では当たり前な話ですけれども、地域の社会のなかで、酪農が果たす役割を図示したものです。真ん中に酪農家がいまして、当然、酪農家は飼料、餌が必要なわけですけれども、自分で餌を作るという場合もありますし、最近は耕種農家と連携して、耕畜連携といった形で飼料米を含めた色々な国産飼料の生産という形で地域農業との結びつきがあります。こういったものを通じて耕作放棄地を活用したり、あるいは酪農家の堆肥が還元されたりする形で非常に強い関係があります。
あと酪農は非常にたくさんの資材を使います。飼料会社をはじめ、様々な資材を供給する会社との関わりがあります。生乳を運ぶ物流事業者、生乳を買って加工する乳業メーカーですね、非常に多くの事業体と関係があり、酪農が存在することによって、こういった関連会社の収入にもなり、雇用も生んでいるということがあります。
あと、見逃せないのが食育という観点ですね。酪農家が地域にいるとですね、食育という観点でも非常に重要な役割を果たしています。酪農に関する食育はですね、乳業メーカーや農協などでも取り組まれていますが、色々なところで聞くのは、やはり酪農家が直接、子どもたちに話すというのが一番、効果があるというふうに言われておりまして、やっぱり酪農家が学校にきて話をするというだけで、学校給食の牛乳の残食率が大幅に下がるといったようなことがよく言われています。
ということで酪農が地域に存在していることによって、地域社会、地域の人口が維持され、税収が確保されて、地域社会が維持・発展していくということで、まさに酪農が元気であれば、地域が元気になると、そういった役割を果たしていると思います。
3.なぜ食料安全保障が重要か
食料安全保障の話に移っていきます。今年の5月に、新しい改定新基本法ができました。
*重要な「食料安全保障の確保」
色々問題はありますけれども、意義もあると思っておりまして、特に新しい基本法で4つの基本理念というものが掲げられています。順番に、食料安全保障の確保、環境と調和した食料システム、生産性の向上、農村振興といったものが挙げられています。その先頭にきているのが食料安全保障の確保という内容です。今まで日本ではですね、食料安全保障というのは、やや狭い意味でとらえられてきました。有事の際、つまり災害発生時や、あるいは国際紛争が発生した際に、食料が安定供給できるかどうか、みたいな話が食料安全保障という意味合いでとらえられていることが多かったわけですけれども、今回の基本法の改正でかなり広い概念になりました。
これは、国際的にはフードセキュリティという概念で論じられていた概念が日本でも使われるようになったということで、それは有事だけではなくて、平常時のときから、やはり食料安全保障というのは考えていかねばならないですし、国全体で考えるだけではなくて、国民市民一人一人がちゃんと食料にアクセスできるかどうか、っていうのが非常に重視されています。実際に基本法の条文を見ますと、食料安全保障の確保とは、というのを見ますと、第二条に書いてありまして、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」というふうに定義されています。良質な食料が合理的な価格、この話はあとでお話しますけれども、これで安定的に供給されて、国民一人一人がこれを入手できるというのが食料安全保障の確保の概念になります。特に国民一人一人がというところが非常に重要だと思っています。つまり国全体で必要量があればいいというだけじゃなくて、一人一人でみても大丈夫かというのがポイントになります。
*これから食料安全保障がますます重要になる理由
これから、食料安保の確保が重要になる理由ですけれども、食料安全保障の確保には、色々なアプローチの仕方がありますが、やはり基本は、国内生産の維持・拡大、自給率の向上になると思います。財政審は輸入も大事だよという話もありますが、やはりこれからの時代を考えますと、輸入だけではなかなか難しい時代になってきていると思います。
色々な観点がありますけれども、ここでは3つほど挙げさせていただきました。まず日本経済の全体の性格というか性質が変わってきているということ。2つ目がちょっと酪農にかぎった話ですけれども、国際的な輸入元であります乳製品市場が、非常に厳しくなってきている。あとですね、北海道は外国ではないんですけれども、日本国内で見ると、北海道が頑張っていれば大丈夫じゃないか、という見方も一部ではあるんですけれども、北海道だけではダメで、都府県の酪農家もちゃんと残っていかないといけない、こういうお話になります。
1 日本の経済構造の変化
まず日本経済のあり方が大きく変化しているという話から行きます。ここに載せておりますのは政府の委員会の資料なんですけれども、ここで出ているのは経常収支というふうに呼ばれているものが、これからどういうふうに変わっていくのか、というものです。経常収支というのは、簡単に言いますと、世界から日本にどれくらいお金が入ってくるか。逆に日本から世界にどれくらいお金が出ていくかという話です。経常収支が黒字という状態は、世界から日本にお金が入ってくる状態。逆に経常収支が赤字というのは、日本から世界にお金が出ていく状態、を表しています。
このお金の動きというのは、大きく2つの要因で動きます。1つは貿易ですね。輸出・輸入でお金が動くと。もう1つは投資です。日本企業が海外の企業に投資をする、ということでもお金が動きます。投資をすれば当然、リターンがありますので、そういった形でもお金が戻ってきます、というようなものをすべて合わせたものが経常収支になります。この経常収支は基本的にはですね、高度経済成長期以降は、日本の経済というのは、経常収支は黒字でずっと推移してきました。黒字と言うことなんで、世界から日本にお金が入ってくる状態だったということになります。しかし、今後は経常収支が赤字になっていくんではないか、というそういう予測が出ているということです。色んな研究所、民間の研究所の試算が出ていますけれども、一番厳しいのがニッセイの研究所ですが、ニッセイの研究所はですね、10年以内に経常収支が赤字になるという、そういう予想を出しています。赤字になるというわけですから、日本から世界へお金が出ていく経済に変わっていくということになります。
そうなると何が起きるのかと言いますと、円安にますますなっていくということです。円安になると、今がそうであるように、輸入価格がさらに上昇するということになります。なぜ経常収支が赤字になると円安になるかというと、日本から世界へお金が出ていくわけです。ですから、世界に向けてお金を払う場合は、ドルとかユーロじゃないとダメなんですね。ですから日本円を売って、ドルとかユーロに換えて、世界に対して支払いをしなければならないというわけですので、円を売るわけですから円安になっていくということになります。ですから、世界から買っているもの、例えば化石燃料とか食料品の価格がますます高くなっていくということになります。
*貿易赤字の常態化
こちらは、経常収支のなかから、貿易収支だけを出したものです。こちらは単純にモノを売り買いすることによって、どれだけ黒字が出ているか、赤字になっているかというものになります。この貿易収支に関しては、すでにもう15年くらい前から、もう赤字になってきておりまして、稼いでいる部分もあれば赤字で足を引っ張っている部分もあるということで、黒字を稼いでいるのは、おもに3つで、輸送用機器と書いてありますが、要は自動車です。あと電気機器と書いてあるのは半導体ですね。あと一般機械があります。で、20年ぐらい前までは、この3つがバランスよくあったんですけれど、日本の半導体が完全に国際競争力を失ってしまったので、最近はもっぱら自動車頼みという感じになっています。つまり日本が世界に向けて貿易で稼げるのは、もう自動車ぐらいになってしまったということです。
赤字の部分を見ますと、やはり目を引くのはこのピンクの部分で、まあ化石燃料ですね。天然ガスや原油、こういったものが赤字額が非常に大きくなっています。一方で見逃せないのがこの食料品と書いてある緑の部分でして、これがほぼほぼ一定額なんですけども、毎年、コンスタントに赤字を出しています。これを見ますとですね、せっかく一般機械が黒字を稼いでも、食料品の赤字で帳消しにしてしまっているという状態になっております。先ほど、どんどん円安になっていくという話をしましたが、円安にならないようにするためには、なるべく外貨を節約しないといけないわけですけれども、外貨節約の観点からですね、国内生産できるものは、なるべく国内で作っていくということが円安対策としても重要になっていくので、なかなか天然ガスとか原油を国内で作るというのは大変だと思いますので、やっぱり食料に関しては、国内でちゃんと作っていくと。
実はこれ自体が日本経済全体にも寄与するということなので、単に自給率云々の話だけではなくて、日本経済全体の観点から見ても、食料を国内で作っていくことの意義が出てきているという形で時代が変化してきているということです。ですから今後を考えますと、円安で稼ぐ産業というのが一定、出てきます。輸出産業、自動車など輸出産業は円安でますます稼いでいくことになりますし、あと金融ですね、金融取引、投資信託をはじめ、ああいったところもですね、円安になると割と稼ぎ頭になっていくと思うんですけれども、やはりそういったところにちゃんと課税してですね、税収を確保して、そういう税収を円安で苦しむ産業ですね、農業なんかは典型ですけれども、そういったところにちゃんと付け替えていく、利益をちゃんと再分配していくというような発想が重要になっていくと思っています。
2 厳しさを増す国際乳製品市場
あと輸入元である国際市場の動向なんですけれども、世界的な状況を見ると、需要と供給で言えることがあるわけですが、まず需要の観点から言うと、世界全体で乳製品の消費が増えていくというふうに言われています。よく牛肉と比較されるんですけれども、タンパク質ですね、人間が健康に生きていくにはタンパク質をどうやって確保するのかというのが大事ですが、やはり牛肉と比べるとですね、タンパク質源としては、乳製品は安いということと、あと環境負荷が小さいということで、非常に注目が高まっています。そういった形で消費がどんどん伸びていくということですね、世界的に。
それに対して供給はどうかと言いますと、乳製品の輸出国は実はそんなに多くありません。挙げますとまずEUですね、そしてアメリカ、そしてニュージーランドやオーストラリアなどオセアニア地域ですね。実はこういう4つの国と地域でですね、国際市場に出回る乳製品の供給量の半分以上が占められているということで、非常に少ない国と地域が乳製品を輸出していると。で、そこで今、起きていること、皆さんもご存じだと思いますけども、環境保全や気候変動対策の観点で、畜産の生産を抑えようという話が特にEUでは出てきています。ちょっと最近は極右が選挙で勝ったりして、ちょっと停滞する可能性はありますけれども、大きな流れは変わらないと思います。要はヨーロッパで自給するために畜産物を作るのはいいんだけれども、ヨーロッパ以外の国に乳製品を輸出するために、気候変動や環境のリスクを負わなくてもいいのではないか、こういったことが言われています。それ以外の地域でもですね、アメリカやオセアニアでは、実際に気候変動の影響が出てきていて、こういう生乳生産が非常に不安定化しています。つまり、世界的に見ると、消費はどんどん増えていくにもかかわらず、それに伴って輸出が伸びていかないのではないか、こういったことが懸念されています。
*チーズと脱脂粉乳の輸入量が今後10年間で世界的に拡大
これは、国連のFAOとOECDが毎年、10年後にどれぐらい生産と消費が変化するかという予測を出していますが、乳製品の輸入がそれぞれの品目でどれぐらい増えるかというものを見ています。これを見ますと、これから先、この10年間で伸びていくのは、中国はもうあまり伸びていかないと言われていまして、伸びていくのはやはり中近東ですね、中近東や北アフリカや日本の近くで言うと、東南アジアで消費が増えていくと言われています。で、10年間で増える消費の量がですね、世界全体でチーズでプラス60万トン、脱脂粉乳で50万トンというふうに今、言われており、非常に大きな量です。
ちょっとピンとこないかもしれませんけれども、日本のチーズの国内生産はだいたい4万トンぐらいなので、それと比べると非常に大きな消費拡大が見込まれていますし、脱脂粉乳が余って大変で、在庫削減をやっていますけれども、日本が一生懸命、お金を掛けて在庫で減らした脱脂粉乳の量って、たぶんこの4年間でたしか5万トンぐらいだと思うので、実はその頑張って減らした量の10倍ぐらいの量の消費が、今後10年間で増えていくということが言われています。特に東南アジアは経済発展に伴って、消費拡大が著しくてですね、今後10年間で、東南アジアで増える乳製品の消費を賄うためには、生乳が1,600万トン要るというふうに言われています。日本の生乳生産量が700万トンぐらいですから、日本の2倍以上の生乳が新たに増産されないと、東南アジアでの消費が満たされないと、そういうことが言われています。
*乳製品名目価格は上昇傾向
供給に対して消費、需要が伸びていくということですので、今後10年間の価格の動きはですね、やはりどの品目も上昇傾向にあるということで、日本のように円安、為替安の国であったり、世界の国と比べるとそんなにインフレでないような日本のような国はなかなか大変だなあということが予想されています。
3. 北海道には頼れない(都府県酪農の奮起が必要)
あとですね、日本国内の視点で見ますと、北海道に頼っていればいいじゃないか、ということがよく言われがちなんですけれども、そうではないですよ、ということを言いたいと思います。先ほども言いましたように、日本国内での消費量は1,200万トンありますが、日本国内で作れている量は7百数十万トンしかありません。ですから、国内生産だけでは、国内消費を満たせないので、輸入を400万トンもしなきゃならないという状況です。北海道は頑張ってもたぶん4百数十万トンしか作れませんので、都府県でちゃんと生乳を作らないと、ぜんぜん足りないという話になります。
北海道酪農の経営規模は非常に大きくて、最近はもう100頭に近づいていますが、ヨーロッパの酪農大国であるフランスやドイツを上回る水準にまで拡大してきていますけれども、最近、懸念されているのが、購入飼料、特に輸入飼料への依存度が高まっているということがあります。要は規模が拡大していくんだけれども、それに伴って農地が増えていかない。あるいは労働力が足りないので、餌を作るところに労力を回せないので、買ってきて済ますというタイプの大規模経営が増えてきておりまして、その結果、何が起きているかと言うと、大規模経営だからと言って、必ずしも生産費が安くない。むしろ、これは都府県も北海道もそうですけれども、中規模の酪農経営が一番、コストが低くて、大規模経営になると、むしろコストが上がるというような、逆転したような状態になっています。ですから、買い餌に依存しておりますので、今回のような資材高騰が起きると、非常に打撃を受けるということになるので、規模は大きくなっているけれども、むしろ脆弱になっているのではないかということも言われています。
あとは最近よく言われます物流の問題。北海道は非常に深刻です。北海道の大きさというのは、これはよく言われますけれども、北海道の南北東西の大きさというのは、東京と大阪の距離ぐらいありますので、非常に広いです。ですので、北海道で作られた生乳や、牛乳・乳製品を都府県に持ってくるのが非常に大変になってきていると。船の方はあんまり問題ではないんですけれども、問題なのは北海道内の陸送の方でして、ミルクローリーのドライバーが確保できないという話が聞こえてきます。ですから、北海道でたくさん作ったとしても、都府県まで持って来れないという事態が一部ではもう、起き始めているんですけれども、これがより大規模なスケールで、起きる可能性もあります。ですから、都府県でもしっかり酪農が残っていかないといけないと。そうでないと安定供給ができないということになります。
4.目指すべき酪農政策
政策の話に移って行きます。
*生産資材および生乳・牛販売価格の価格指数
この図はまた後から使いますけれども、まず見ていただきたいのが、牛乳の小売価格の推移です。これは2008年から、ひと月おきの牛乳1リットルパックの小売価格を示したものですが、特に最近ですね、皆さんも実感されていると思いますけれども、牛乳の価格が非常に高くなってきています。2022年段階と比べると、1リットルパックで50円ぐらいは値上がりしていて、高くなったなあというふうに思われている方も多いんではないかと思います。
なぜこんなことが起きているかと言いますと、すでにちょっと触れておりますが、資材の高騰ですね、生乳を作るための色々な材料が高くなっているということがあります。特に見ていただきたいのは、配合飼料のところですね。これを見ていただきますと、2020年の価格を100とすると、配合飼料の価格が2022年の後半にかけて、急激に上昇して、だいたい150ぐらい、1.5倍の水準で高止まりしているということで、これが非常に酪農のコストを引き上げている大きな要因になっています。ほかの資材もですね、非常に大きく上昇していることが分かります。
酪農にとっては、踏んだり蹴ったりなんですけれども、酪農の副収入になる子牛の価格がですね、大幅に下落しています。これは餌の値段が上昇していることと関わるんですけれども、子牛を買って肥育する畜産農家からすると、餌の値段が高過ぎて割に合わないということで、子牛の仕入を抑制しているので、非常に価格が下がっているということで、こういった資材価格の上昇は、世界的なインフレと、日本で言えば、円安も非常に効いているということになっていて、歴史的に非常に高い価格が、もうかれこれ2年以上続いているという状態になっているわけです。
*生産費に占める流通飼料費(購入飼料費)の比率が高い
餌の値段は非常に酪農のコストのなかで大きな割合を占めています。この流通飼料費というのが、いわゆる買ってくる餌の値段、コストなんですけれども、都府県だと半分近く、北海道でも3割ぐらい占めておりまして、この部分が1.5倍とかになるわけですから、非常にコスト上昇としてはきついということが分かると思います。
*酪農所得の急減少
それによってですね、酪農家の所得というのが、2022年ぐらいから急激に減少しています。コストは上がったんだけれども、それに見合って、生乳の販売価格ですね、乳価と言われますけれども、コストが上がった割には乳価があんまり上がらないので、差し引きで、所得が半分以下になっているという状態で、これが非常に経営が苦しい大きな理由になっています。
*「合理的な価格」とは
今、新基本法のなかでも謳われておりますが、結構今、農林水産省は価格の問題に非常に注目しています。そのなかで、合理的な価格というものがよく言われているんですけれども、農林水産省が言っている合理的な価格とは何かと言いますと、需要に応じた生産を前提としたコストベースの価格ということを意味していまして、需要に応じた生産というのは、要は生産調整ということなんですけれども、生産調整をした上で、コストベースで価格が形成されると、それが合理的な価格ですというふうに言っているわけですが、特に酪農に関して言いますと、需要に応じた生産は、酪農は難しいわけですね。だからこそ苦労しているわけなんですけれども。だからまあ、需要に応じた生産というのを簡単に言ってほしくないなというふうには国には思うわけですが、そういったことを言っていると。ある意味、農林水産省から見ますと、コストに見合った価格が形成されれば、国がお金を1円も出さなくても、農家経営が維持されるということなので、これを重視しているのは分かるんですけれども、それだけで上手くいかないから大変なのではないかなというふうに思います。
この合理的な価格形成というのは、いくつかの要素に分かれていまして、おもに3つあると思っています。まず1つ目が農産物の生産コストをカバーするような農産物価格がちゃんと形成されるか、というのがありまして、これが1つ目。2つ目としては、そういったコストベースの農産物価格がちゃんと小売価格まで転嫁されていくかどうかということですね。これが2点目。で最後、これが一番、大事なんですけれども、コストに見合った農産物価格ができて、その農産物価格に見合った小売価格が付くわけですけれども、その小売価格で消費者が買えるかどうか、ということですね。要はこの3つが揃わないと合理的な価格にならないわけです。これが非常に重要なポイントだと思います。
*消費者購入可能?
これ、先ほど見た図なんですけれども、基本的には酪農の場合は、ある程度、生産費に見合った乳価が形成されていて、それでも十分じゃないんですけれども、されていると。で、乳価が上がった分だけ、小売価格にも転嫁されていますということなんですが、高くなった小売価格で何が起きているかと言うと、消費が今、減っています。この赤い部分が牛乳の小売価格です。この青い部分がですね、牛乳の製造量なんですけれども、飲む牛乳、牛乳パックの製造量なんですけれども、これはですね、前の年の同じ月と比べて、増えてますか、減ってますかというのを示していまして、下に突き出していると、要は製造量が落ちている、つまり消費が減っているということを意味していまして、上に飛び出していると、逆に製造量が増えている、つまり消費が増えているということになります。
やはり最近見ますと、非常に小売価格が上昇しておりますので、やはり消費が落ち込んでいるという状況になっているのが大きな問題です。ですから、酪農経営のことを考えると、乳価をもっと引き上げたいんだけれども、乳価を引き上げると小売価格が高くなって、その結果、消費が減るということが起きています。ですから、非常に酪農、乳業にとっては、困った状態になっているわけです。
*日本でも所得支持方式の検討を
今、申し上げたことですね。コストに見合った価格になっていたとしても、その値段で消費者が買えなければ意味がないということになりまして、要はこれは、基本法の食料安全保障の確保が満たされていないという状態です。つまり、国民一人一人が食料を入手できる状態になっていることが食料安保の確保ですけれども、高い値段になった結果、買えなくなっているということは、食料安全保障が確保されている状態になっていないというふうに言えると思います。要は今の状況というのは、特に経済格差が日本でも進行していくなかで、農産物とか食料のコストをすべて小売価格という形で消費者に負担してもらうことが難しくなってきているということを意味していると思います。日本の農業政策は、今までは基本的にはですね、食料、農産物のコストをすべて小売価格に転嫁して、消費者に負担してもらうという考え方できていましたが、もうそれでは限界にきていると思います。
ですから、EUのような所得保障、最近は所得支持という言い方をしますけれども、農家に直接、お金を払う、政府からお金を払うことを通じて、農産物、食料のコストを部分的に国が負担するということを考えなければいけない時期に日本もきていると思います。所得支持というのは単に農家を支えるだけではなくて、それを通じて消費者の負担も軽くすると、そういった政策が日本でも必要になってきているというふうに考えています。
*酪農家が希望を持てる政策を
これは、酪農家が希望を持てる政策という観点にもつながってきます。これが最初に話題になりました酪農家戸数が1万戸を割れたということで、中央酪農会議が記者会見をやっているニュースですけれども、要は酪農家が経営を継続できると思えるような政策とは何なのかっていうのを考えた場合に、結構、日本の農業政策というのは、補正予算にもとづく緊急対策っていうのが非常に多いです。で、補正予算なので、来年もあるかどうか分からないんですね。毎年毎年、補正予算で組んで対応していく、そういう対策は結構な金額になっているんですけれども、実はこれがずっと続いていくという保証がないので、酪農家にかぎらず農家からすると、なかなか安心できないわけです。ですから、こういう補正予算にもとづく緊急対策というのは、法律にもとづかない対策ですので、やはりちゃんと法律にもとづいた経営安定対策というものを、ちゃんと作っていく必要があって、特に今、所得支持という形での経営対策が必要だと思います。
私自身は家族経営といわゆる大規模経営というのは、どちらも必要だと思っていまして、やはり家族経営は農村社会を維持する役割があるので、所得支持をする場合でもヨーロッパのように上乗せで払うというような発想もあっていいと思います。一方でメガファームのような大規模経営は、やはり地域の生産量を支えるという役割がありますので、今、やっているような金融面、なかなか資金繰りが大変になっている経営が多いので、金融面での支援も継続する必要があるということで、地域における酪農経営の多様性の確保という視点が非常に重要だと思います。
*グリーン・ミルク・ペイメント(GMP)
最近、私がお話しているのが、酪農を対象にした所得支持政策で、何と名前を呼んでもいいんですけれども、グリーン・ミルク・ペイメントと、とりあえず名前を付けていますが、そういったものが必要だというふうに思っています。特に補正予算による緊急対策は酪農家の手上げ方式で、これをやった人にお金をあげますよという政策が多いんですけれども、そういうものだとですね、一部の酪農家にしか、やはりお金が渡りませんので、やはり一律に支払うという、そういう所得支持的な政策が必要だと思います。目的としては、食料安全保障の確保と酪農経営の多様性確保というのを非常に重視した政策です。
ヨーロッパのように農地面積当たり、という考え方もあるんですが、そうしますと、やはり北海道と比べると都府県の酪農っていうのは、なかなか農地面積が確保しづらいところもありますので、酪農の場合は、乳牛1頭当たりで交付金を払うという仕組みになると思います。基礎単価をどれぐらいにするかというのは色々、どれくらいの財源があるかっていうことにも関わりますけれども、基礎単価を決めた上で、用途によって上乗せしたり、例えば一定以上の乳質、乳質がいいところには上乗せする、家族経営であれば上乗せする、自給飼料を作っていれば上乗せする。環境保全・気候変動対策、放牧・有機などの生産をしている、アニマルウェルフェアに配慮している、食育の機能を果たしている、6次産業化をしている。そういった加算要件を加えることによって、よりアグロエコロジーの観点に近づくような酪農経営に誘導していくという方法があるのではないかと思っております。
*農業政策をどう変えるか?
あと5分ぐらいですが、この場合ですね、農業政策をどう変えていくのかっていうのがやはり非常に大きな問題になります。所得支持にしても大きな政策転換になりますので、どういうふうに変えていくのかということがポイントになりますが、実は農業政策は、結構、詳しい人ほど、問題があるって皆、分かっているんだけれども、その割にはなかなか大きく変わっていかないという問題があります。このあいだも国政選挙がありましたけれども、なかなか国政選挙では農業政策というのは焦点になりづらい政策であると思います。
よく言われる財源問題、いわゆる財務省の問題もあるんですけれども、実はですね、酪農の補正予算の額を見ると、結構な額が実は出ているんですが、それが非常に細かい要件が求められる、細かい細かい事業に分かれていて、あれぐらい額が出るんだったら、もうそのお金を全部、1頭当たりいくらで払った方が、ずっとマシだと私は思っているんですけれども、お金の金額の問題もあるんですが、お金の使い方にもかなり問題があると思います、そういう観点で言いますと。
その場合に、国民の考えを政策に直接的に反映させる制度がないという点も問題の一つだろうと思っています。そういった観点で、これから大事になってくると思いますのが、この食の民主主義という考え方でして、関根先生もよくこのことをおっしゃっていると思いますけれども、食の民主主義、フードデモクラシーですが、これは何かと言いますと、すべての市民が自らの選択にもとづき、健康的で人間らしく持続可能な食生活を実現していくことで、すべての市民が世界レベル、国家レベル、地域レベル、個人のレベルで、農業と食のあり方を決定する力を持つこと。つまり食に関する自己決定権ですね、こういう食の民主主義という観点が非常に大事であるというふうに思います。やはり今の農業政策というのは、非常に狭いプレイヤーのなかで形成されていて、農林水産省と与党のいわゆる農林族と呼ばれている国会議員と農協などの農業団体のなかでの色んな調整、折衝のなかで農業政策が実際のところ作られているわけですけれども、これだと非常に狭い人たちのなかでの話になってしまっていて、ある意味、農林水産省というのは分かります。これが本当に国民の声を反映しているのかと言われると、よく分からないという話になるわけですね。
*「くじ引き民主主義」という政治イノベーション
そういった観点で今、ちょっと私が注目しているのが、くじ引き民主主義という、こういう一種の直接民主主義の手法なんですけれども、これは、実は欧米諸国を中心に、ヨーロッパでは国レベルでも導入されていますし、アメリカなどでも地方自治体レベルで採用されていると。既存の政治システム、例えば議会制だったり大統領制などで、大きな変革を行ないにくい分野で取り組み、採用が進んでいます。
例えばヨーロッパでは気候変動対策です。ヨーロッパの気候変動対策は結構、急進的なものが多いですけれども、これがいったいどういうふうに、何であそこまで急進的な政策が採用されているかと言うと、このくじ引き民主主義という方法を採っている点も大きいと思っています。つまり、議会とか大統領制の場合だとですね、要は気候変動というのは特定の産業に結構なダメージを与える政策を含みますから、選挙がありますので、議員とか大統領というのは結構、急進的な政策をやりにくいんですよね。でも、くじ引き民主主義というのは、そういう手法で決まるのではありませんと。
どういうふうに決めるかと言うと、実は日本にも似たような制度がありまして、裁判員裁判ですね、一般の市民がくじ引きで選ばれた、無作為抽出で選ばれた市民が裁判官の代わりをするという制度がありますけれども、これの立法機関版だと思ってください。くじ引きによる無作為抽出で選出された市民、当然ですけども、国レベルの場合は、一般的な国民の属性になるように調整されますけれども、これで市民会議を組織して、ファシリテーターのもと、専門家のレクチャー、当然ですけれども、普通の市民ですから専門知識がないので、専門家のレクチャーを受けながら、勉強しながら双方でじっくり議論をしていくんですね。熟慮というのが非常に重視されていまして、お互い話し合いながら、一定の合意を目指していくということです。まあ数か月から1年単位、時間をかけて、じっくり議論をしていくということです。で、最終的にこの市民会議で一定決まった政策が議会や大統領によって採用されることで、丸呑みしたり、あるいは部分的に採用したりということもあるみたいですけれども、国の政策に採用されていくということになるわけです。
ですから、産業の利害関係とか、そういったものにあまり影響を受けずに、本当に今の社会、あるいは次世代のことも踏まえて必要な対策というのを考えることができるということで、特に、これは日本もアメリカ、ヨーロッパもそうですけれども、最近はイデオロギーの対立が非常に激化していて、異なる意見の人たちのあいだでも、ののしり合いのような状況になっていて、まともに議論できない。これは議会レベルでもそうですけれども、そういうのが頻発しているなかで、熟慮の仕組みというものをこういった形で導入するということですね。こういった形で国民が政策決定に直接的に関与するような手法が導入されることによって、食というのは非常に身近な話題でありながら、農業政策というものに関しては、非常に国民から遠いところで決まっているわけですけれども、身近なものをですね、日常的に考える、当事者意識を持たせるという意味でも、こういうやり方というのが一つあるのではないかなというふうに思っております。
5.おわりに
ちょっとオーバーしてしまいましたが結論になります。日本の酪農をより持続的に発展して次世代に継承していくためには、最後に申し上げたような国民の意思を直接的に農業政策に反映できるような仕組みが必要なのではないかなというふうに考えております。以上で私からの話は終わります。ありがとうございました。