• 家族農業の10年とは

    United Nations Decade of Family Farming

  •  2017年12月20日、今後の世界の農業の方向性を大きく左右する出来事がありました。国連総会の本会議で、2019-28年を「家族農業の10年」とする議案が全会一致で可決成立したのです。コスタリカが代表となり、日本を含む104カ国が共同提案国となりました。これは、2014年の国際家族農業年を10年間延長し、家族農業を国連加盟国の農業政策の中心に位置づけることを求める国連の啓発活動です。

     

     国連は家族農業を「労働力の過半を家族労働力でまかなう農林漁業」と定義しています。これは国連が定義する小規模農林漁業と同義です。国連食糧農業機関(FAO)によると、家族農業は世界の農業経営の9割を占め、世界の食料供給の8割を生産しています。経営規模でみると、1ha未満の経営体が73%、2ha未満の経営体が85%を占めています。

     

     これまで、先進国・途上国を問わず、小規模・家族農業の役割は過小評価され、十分な政策的支援が行われてきませんでした。「時代遅れ」「非効率」「儲からない」と評価され、政策的に支援すべきは「効率的」で「儲かる」「近代的企業農業」とされてきましたが、ここにきて農業の効率性を測る尺度自体が変化しています。農業の効率性は、労働生産性のみで測れるものではありません。土地生産性は大規模経営よりも小規模経営で高いことが知られています。また今、重要視されているのがエネルギー効率性です。化石燃料等の農場外部の資源への依存度が低い小規模・家族農業の隠れた効率性が注目されているのです。

     

     また、経済・社会・環境的に持続可能な農業として推進されている「アグロエコロジー」の実践においても、もっとも優位性を発揮するのが小規模・家族農業だと評価されています。そのため、国連の持続可能な開発目標(SDGs)(2016-30年)の実現において、小規模・家族農業は中心的役割を果たすことが期待されています。FAO事務局長は2013年に「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在はない」「国や地域の開発において、家族農業を中心とした計画を実行する必要がある」と述べました。このように、小規模・家族農業の活性化なくして食料の安定供給、貧困・飢餓の撲滅、農村地域の資源管理や持続可能な社会の構築は不可能だということを、遅ればせながら国際社会が認識するようになり、政策の舵をいま大きく切っています。日本においても、政策の方向性を再検討するときです。