小農と家族農業
Peasant and Family Farming
国連総会は、2018年12月に「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」(小農権利宣言)(注)を賛成多数で採択しました(日本は棄権)。この宣言は、国際的な小農の農民組合組織である「ビア・カンペシーナ」のリーダーシップによって採択に至りました。小農権利宣言では「ペザント」(peasant)という表現を使っています。ペザントを農民と訳す場合もありますが、ここでは類似の英語表現の中で国連があえてペザントという言葉を採用した意図を尊重して小農としています。
ともあれ、小農権利宣言では、小農を「自給のためもしくは販売のため、またはその両方のため、1人もしくはその他の人びとと共同で、…小さい規模の農的生産を行っている…人、…家族および世帯内の労働力ならびに貨幣を介さないその他の労働力に大幅に依拠し、大地に対して特別な依存状態や結びつきを持つ人を指す」と定めています。
ポイントは家族に依存し、その再生産を目的としていること、大地(=自然)に強く依拠していることにあります。この点で、小農権利宣言は国連「家族農業の10年」と同じく、自然と家族に依拠して農村に暮らす人たちを対象にしています。いわゆる途上国では農業に加えて牧畜、漁業、炭焼きなど多彩な生業に取り組む小農が広範にみられますが、いわゆる先進国でも農業を多様化させ、あるいは農畜産物加工、農家レストランなどを兼営する「六次産業化」を進める動きもあります。つまり、小農は家族農林漁業+αという生業を営むことが多いのです。逆にいうと、家族農業は農業のやり方で、それを実践する人たちはほとんどが小農だということです。小農・家族農業は、利潤を追求する企業的経営とは異なり、農村に暮らし続けるために、自然生態系、環境、社会性をとても大事にします。
日本には水田がたくさんあります。水田は稲作の場であると同時に、フナやナマズやカエルの産卵場所でもあります。小魚やカエルがいると、水鳥が集まってきます。水鳥と湿地帯を守るためのラムサール条約会議で、水田が賢明な利用法と高く評価されているのはこのためです。最近では、こうした水田の役割を強化する「冬水田んぼ」(冬には水を抜くのが普通なのに、わざわざ水を入れて水鳥の採餌場にする取り組み)も進められています。冬に水をはると、春の作業がしにくく、それだけ労働生産性が低下します。またある程度の面積を確保するには、地域内の農家同士の協力が必要です。だから、企業的経営では難しいのが実情です。つまり、冬水田んぼは、利潤や効率性だけを追求しない小農・家族農業だからこそ可能なのです。このような実践を行う小農・家族農業が増えるような仕組みを整えていくことが大切です。
(注)家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの趣意書では「農民(小農)と農村で働く人びとに関する権利国連宣言」(通称:農民(小農)の権利宣言)と表記
参考資料
- 小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)編『よくわかる国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』農山漁村文化協会、2019年
- General Assembly of United Nations, A_RES_73_165, https://undocs.org/en/A/RES/73/165
- 池上甲一「SDGsの成否は小農・家族農業が握っている」『季刊地域』No.41、農山漁村文化協会、2020年Spring号
- Jan Douwe van der Ploeg, The New Peasantries, Struggles for Autonomy and Sustainability in an Era of Empire and Globalization, Earthscan, Abingdon, UK, 2008年
- 日本村落研究学会企画、秋津元輝編『小農の復権』農山漁村文化協会、2019年
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